うぉぉぉぉっ?!
また、またか!
視点がいきなり変わった。
転んで、起き上がる前に喉に熱を感じて、息ができないと思った直後、俺は立ち上がっていた。
いや、おそらく、きっと、立ったまま現れたのだろう。
だって、足元に転んでいる。
俺が倒れている。
また、生き返ったのか。
また、死んだのか。
うつ伏せになった俺の顔は見えない。
でも、撥ね飛ばされたナイフが、俺の首を半ばまで断っているのが分かる。
血が、あふれている。
また、俺は俺の血溜まりの側にいる。
遠巻きに離れた、でもまだこちらを見ている連中のどよめきが聞こえる。
ちくしょう。
俺は見せ物じゃないぞ。
ヴィランの言っていた、歪んだ社会って言葉が頭に浮かぶ。
でも、でも、今は。
俺は歩き出す。
ダンシング・バロンの体から引き抜いた凶器を両手に持ったままのヴィランのもとに。
もう、怖くはなかった。
なぁ?
わかるかい?
『死ぬほど怖い』っていうだろう?
じゃあさぁ。
死んじまったらさぁ、何が怖いんだ?
血染めのヴィラン。
俺が来るのを待っていてくれたのか?
聞きたいのかもな。
自分が殺したガキの言葉を。
『それが……お前の個性か?』
『あぁ。どうも俺は、死んだらその場で新しい体が創られるらしい。』
ヴィランの狂気が少しだけ和らいでいる?
興味をしめしているのか?
それとも。
ダンシング・バロンは……ピクリともしない。
呼吸、してないな。
そりゃそーだ。
普通は、殺されたら死ぬもんだからな。
『あんた、〝ヒーロー殺し〟か?』
ネットで騒がれるヴィランの異名。
ヒーローの在り方を暴力と殺意で問いただす男。
ヴィランに対しても粛正を行っているらしいが、そんなことはどうでもいい。
こいつは、この男は、
『……そうだ。俺は偽物のヒーローを粛正する。』
『俺は、ヒーローじゃないぜ。ただのガキだ。将来の夢だって一般職だしな。それを、あんたは殺した。』
目元が歪んだ?
包帯を巻いているせいで表情がわかりにくいが。
『……ハァ。偽物のヒーローが巷にあふれ、そいつらのせいで社会は歪んでいる。正義を成せぬ者の過ちが……』
『誤魔化すなよっ!確かに刃物が飛んできたのはダンシング・バロンの最期の個性!それを防げなかったのは!避けれなかッたのは!俺がもたもたしていたから!誰かが俺を突き飛ばしたから!……だが!俺を殺したのはお前のナイフだ!お前がここに来たからだ!』
『……そうだな。それで、お前は俺に何が言いたい。』
『てめぇの信念なんて知らねえ。そのイカレタ主張でどれだけのヒーローを殺すつもりなのか、どれだけのヴィランを殺していくのか。だがなぁ!忘れんな!お前は!俺を殺した!ヒーローでも!ヴィランでもない!ちっぽけなガキの俺をだ!』
俺は、倒れている俺を指差す。
そうだ。
俺にはこいつを止める力なんてない。
でも、でも、てめぇの理想に狂ったヴィランに、こうなったのも社会の歪みがどーとか、これも増えすぎたヒーローがなんだとか、そんな理屈で終わらせられてたまるかっ!
『てめぇの理屈で、てめぇが殺していいって決めた中に、俺を、俺を勝手に入れるなよっ!忘れるなっ!てめぇは、俺を殺したんだ。ヒーローに捕まろうが、ヴィランに殺されようが、それでも、それでも最後まで忘れんなっ!てめぇは、ただのガキ殺しだっ!!!』
さらに表情が歪んだ?
怒りか、それとも、後悔か。
『ハァ~、小僧。名前は?』
『
『……ステイン。そう、呼ばれている。お前の事は、覚えておく。』
ヴィラン……いや、ステインはそう答えると、路地へと駆け出した。ビルの壁から壁への跳躍で、見る間に上へと駆けていく。
サイレンの、音。
そうか、パトカーが来たんだ。
きっと、近くのヒーローも来るよな。
終わった。
終わったんだ。
ダンシング・バロンが殺されて……俺も殺されて。
ちくしょう。
なんでだよ。
死にたくない。もう、死にたくない。
自分の、自分の亡骸の傍で生き返る?
やり直せるからそれでいい?
違う。違う。
だって、俺は俺だけど、だったらあそこで倒れてる俺は誰なんだよ!
ヴィランとMt.レディが戦ったそばで瓦礫に潰されて。
ステインの持っていたナイフが首に刺さって。
俺は、何度も終わってるんだ。
個性が、コンティニューしてくれてるだけなんだよ。
『あ、あの……』
プリズムレディ?
『い、今、救急車が、来ますから。念のため病院に。』
優しいなぁ。ダンシング・バロンが殺されたのに。
青ざめた顔で、泣きそうな顔で、でも俺の事を心配してくれるのか。
『あと、それから、あの……』
ん?
『何か、着た方が……。』
あ。
俺。
全裸。
終わったぁぁぁっ!!!!
誰かーっ!誰か俺を殺してくれーっ!!!
あぁっ!ダメだ!そしたら全裸の俺の死体の側に、全裸の俺が立つだけだーっ!!!
……はい。数日たちました。
自宅です。
あの後パニックになりながら俺の死体から服を脱がそうとして、駆けつけた警官とヒーローに止められたり、救急車で運ばれた病院……連絡が回っていたのか、俺の精密検査を二回に渡って行ってくれた病院で、再々検査を行ったりしました。
うん、健康体だった。
知ってた。
でも、こうも言われた。
『個性因子』が増えている、って。
量の多い少ないは、単純には個性の優劣に結び付かないらしい。
でも、個性の成長と因子の増大は密接な関係にあるらしく、又、異形型の個性は他に比べて因子が多いのも確からしい。
つまり……。
『君の個性が成長している可能性がある。』
って、言われてもなー。つまり、あー、そーゆーこと?
警察とヒーロー協会の人からはステインの事をいろいろ聞かれたけど、ヤツが個性を使っているところは見なかったから、正直に答えておいた。
立ち去るときの動き、半端無かったからなー。
増強型かな?
あと、俺が殺された原因として、俺の側にいた大学生のこともしっかりと話しておいた。
〝俺が殺された〟ってフレーズで、刑事さん顔がひきつっていたけどな。
……動画投稿サイトにはやっぱりアップされてやんの。
〝不死身の全裸クンとヒーロー殺し〟
アぁっ!!!
削除しろ削除ぉーっ!
訴えて勝つぞゴラァーっ!!!
で、俺は今、父さんと母さんに相談しているところなんだな。
俺の進路について。
『ヒーロー科に進路を変更したいって、どうしてなの?』
母さんが心配そうな顔で聞いてくる。
可愛いよな。相変わらず。
ん?真面目な話じゃないのかって?
だって、俺の母さんは見た目中学生だし?
メイクもろくにしないし、髪型もファッションもティーンズ系なんだぜ。
父さん……ロリコンじゃねーよな?
と、いけないいけない。真面目な話でしたね。
『俺、悔しかった。ボケッとヴィランとMt.レディの戦い見てたせいで事故死して、ステイン……ヒーロー殺しのテロの時も逃げ損ねて殺されちまった。』
『それは、貴方のせいじゃないわ。』
違うんだよ、母さん。
『そうじゃないんだ。俺、たぶん……死が寄ってくる運命と、死んでもやり直す体が、セットの個性なんだと思う。』
なんとなく、だけどな。
なんとなくだけど、分かるんだ。
死んでも健康な体が生み出される。
検査してみれば、個性因子は増えている。
じゃあ、それを成すエネルギーはどこから来る?
きっと、俺は死を呼び寄せて、
『なっ……。そ、そんな。』
母さんが言葉を詰まらせる。
『
さすが父さん。
『だが、その個性に頼らず進むなら、お前は実質的に無個性の身でヒーローを目指すことになるぞ?』
大丈夫。
俺は、一人じゃないんだ。
『見てて、父さん、母さん。』
俺はポケットから10円玉を取り出す。
親指と人差し指で挟み、力を込める。
……ハッ!!!
グニャリ。折り畳まれる10円玉。
『なっ?!』
『生き返る度に、俺は強くなっているんだ。……死んでしまった俺の力を、新しい俺が受け継ぐことで。』
これは、少しだけ嘘だ。
きっと、これも死のエネルギー。
破壊と、暴力の力が、少しずつ俺に溜まっていくから。
さぁ、いくぞ雄英ヒーロー科!
……実技試験て、受験生が死ぬような内容じゃないよね?
ステータスアップ!
……さて、それだけでしょうか?
藤宮君の自覚が真実を確実に捉えているとも限りませんし?