リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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一枚上手

 

光輝く大舞台、今にも大歓声が聞こえてきそうなその場所にいるのはたったの二人

 

一人は目の前の男を睨みつけ、もう一人はただただ薄ら笑いを浮かべている

 

大きく一歩ケントがその場を踏み出す……そして……

 

「はぁ!!」

 

「……フム」

 

一瞬だった、目にも留まらぬ早さと言う物はこういう物を言うのだろう

その一瞬にして降りかぶられた不可視の剣は鮫島が持つ刀型デバイスによって防がれる、そこからまた目にも留まらぬ剣撃の乱舞、風が吹き狂い、火花が耐えず散る

まさに一流さえ超えた世界、黄金劇場の効果は絶大だった

しかし……驚きなのはその全てを防ぎ切る鮫島の実力、あり得ないのだ

黄金劇場は自らのステータスアップと相手のステータスを下げる役割を持つ、一流のその先、神業にまで匹敵するケントの猛襲をステータスが下がった状態で軽々と防ぐ鮫島、一体誰が想像するだろうか

黄金劇場が上手くはたらいていない?いや、それは絶対にない、黄金劇場によるパスはちゅんと繋がっている

ならばなんだ?もしこれが鮫島本人の実力はならば現実世界の彼は一体どれほどの実力者なんだ…………

 

(それに………)

 

絶えず猛襲を加えながらチラッと鮫島が持つデバイスを持つ

普通だ、逆に普通過ぎるデバイス、こんなデバイスがデュランダルの、尚且つ神業にまで達したレベルの剣撃に耐えられる筈がないのだ、絶対すぐデバイスが耐えきれなくなって破損する

だが、それがない……理由は直ぐに分かる、鮫島の手からデバイスに伸びている黒と赤の線、一見したら『汚染』されているように見えるデバイスの形状……ここから分かることは……

 

「騎士は徒手にて死せず(ナイト・オブ・オーナー)か……またマイナーな能力を……」

 

「そうですかね、案外使えますよ?これ」

 

確かに、『武器と認識した物を自身の宝具に変える』という能力はこれ以上ないくらいに強力だ、コルテットの技獣の結晶であるデュランダルでもただのデバイス……聖剣と平気で渡り合える宝具とでは格が違う

だがそれでも『王の財宝』や『無限の剣製』と比べると見劣りしてしまうような能力をなぜ……それにそれだけでは今の俺と真っ向から斬り合う事なんて出来ない、あれはどこまでいっても『武器』であって『技術』を上昇させるスキルではない

 

(……決めるか?)

 

黄金劇場内でこれだけの力を発揮している鮫島、神業に達する剣撃を平気な顔で受け流している姿でよく分かる

このまま剣撃を続けても拉致があかない、相手があともう一つ、どんなスキルを持っているか分からない以上早期の決着が望ましい

このまま打ち続けてもデュランダルが先に限界に達する、そうなれば苦戦する事は必須だ。

 

刹那、肩を入れて鮫島を押し出す、右足を前に蹴り出して即座に相手との距離を開く

その時間一秒足らず、まさに高速の早さで行われた出来事

デュランダルから右手を離し、そのまま前に、範囲固定、対象固定、右に避けても、左に避けても逃げられない

そして、俺は目を見開く

 

「中々よい手です」

 

「なっ!?」

 

彼の動きも一瞬だった

崩された体制を体を捻る事で瞬時に直し、更には踏み込んだ右足で俺との距離を一気に詰める

俺がした行動よりも早い、デュランダルは片手になっている為に無防備、右手をブラブラと前に出しているだけ、鮫島は右腕を腰の位置まで戻し、そして……

 

「ガハッ!!?」

 

「………フゥ」

 

腹に強い衝撃、口から血を噴き出す

人間とは思えないスピードで吹っ飛ぶ

壁には当たる事なくそのまま地面に何度かバウンドした後ゴロゴロとまた数十メートルの長さで転がる、デュランダルはもう手にはなくバウンドしている時に離してしまったのだろう。

ガッ、と音が響いて地面に突き刺さる音……クソッ、遠い!!

 

痛みを堪えながら立ち上がる、体は思いっきり吹っ飛んだ割には比較的軽傷、あいつは俺の体を欲しがっている、使い物にならない様にする事はないだろう

それにしても………

 

(どういう……事だよ)

 

先程の剣撃と今回の打撃、何らかのスキルを使っているにしても皇帝特権によって作られた『黄金劇場』の前ではスキル自体も弱体化してしまう筈

なのに……俺の底上げされた技術さえも上回るあの力……意味が分からない

 

「確かに、『破壊(クラッシュ)』を真っ正面から喰らえばいくら私でも即死でしょう、ならば使わせなければいいことです」

 

「ああそうかよ、だったらこの距離で」

 

右手を再度前に出す、鮫島との距離は十分、いくらなんでもこの距離を一瞬でよけるなんて不可の……っ!?

 

「ぐっ!?」

 

「隙だらけですよ」

 

叫ぼうとした瞬間に飛来するデュランダル

何とか躱すが距離また一瞬にして詰められる……舐めんな!!

 

(主張、クラス『アサシン』、所得スキル………)

 

横薙ぎに降りかぶられる鮫島のデバイス……遅いんだよ!!

 

「八極拳に……」

 

刹那、腰の位置まで下げた拳を一気に開放する

Fateシリーズにおけるチート武術……

 

「二の打ち要らず!!」

 

瞬間、鮫島を中心に広がる凄まじい衝撃波

振りかぶったのは胸の部分、普通の人間ならば肋骨が全て陥没し、内臓が破裂する程の衝撃……普通なら………

 

「なん……だよ……」

 

「これも中々です」

 

俺が込めた一撃は、鮫島の左手一本によって防がれる

『化け物』、その言葉を一身に感じる、黄金劇場内においては俺が中心に世界が回る、俺以外の敵はヒーローに倒される悪役でしかない

だが……どうだ?

倒す筈の化け物にヒーローの拳は届かず、威勢が良かったのは最初だけ

わけがわからない、これが『人』の手で行われているのであれば鮫島は神様だって殺す事が出来る………

 

「さて、私は男と手を繋ぐ事で興奮する様な趣味は持ち合わせておりませんので……」

 

「っ!?」

 

「離しましょう……か!!」

 

腕を弾かれ中央が無防備となる

目の前には宝具と化したデバイスに魔力を溜める鮫島……くそぅ………

 

「終わりですよ」

 

瞬間、真っ赤な魔力の本流が俺を包み込む

何とか意識を保つために精神を総動員する、非殺傷設定値での砲撃なので外傷こそないが……痛覚は普通に感じる

体中が焼ける程痛い、意識が遠のく

だけど………まだ………

 

 

 

 

 

 

 

 

「……随分としぶといですね」

 

目の前で疲労困憊になっている青年を見ながらポツリと呟く

黄金に光り輝いていた劇場は崩れ落ち、彼の魔力がいかに狡猾しているかが見てとれる

そもそも彼の魔力はS−、自分の魔力はS、砲撃の中で意識を保つために魔力を総動員したのだろう……

非殺傷設定なので完全には仕留められなかったがまあいい、あの体を使えなくしてしまうと自分の計画が台無しだ、何としても原作キャラと親密であり、若いあの体を奪わないといけない………

 

「いい事を教えてあげましょう」

 

どうせ最後なのだ、自分の最後のスキルを教えてあげてもよいだろう

 

「わたしの三つ目のスキル、それは『従は師より天高く』、簡単に言うとそうですね……『相手より一枚上手となるスキル』です」

 

聞こえているのかはわからないが……確かに立っている、倒れるまで話し続けるのもいいだろう

 

「そうですね、さっきの戦いを例にあげると……剣技では私はケント様より『一枚上手だった』、私はケント様がスキルを発動するよりも早く発動を防いだ、私が『一枚上手だった』、八極拳、ケント様が拳を私に当てるよりも早く筋力を上げて防いだ、『一枚上手だった』、そうですね……黄金劇場による弱体化を期待していた様ですが私のスキルはその程度では弱体化しない、『一枚上手だった』、さっとこんな感じです」

 

相手より『一枚上手』となるスキル、それはケントが持つ『皇帝特権』のアンチとなる

いくら『皇帝特権』によって技術上げても鮫島はその上をゆく、なんせ『一枚上手』なのだから

それに加え持つ武器が全て宝具となるオマケ付きである

 

「まぁ、相手一人を尊重して発動するので大勢対一、などでは弱いのですが……他にもこれも『魔力』で維持しているので相手の魔力が私よりも多い場合一枚上手となる事は出来ませんがね、少ない魔力を使って多くの魔力でを作るなんて不可能ですから」

 

やれやれ、と頭に手を置いて溜息をつく鮫島

今回の場合も鮫島の魔力はケントの魔力よりも高い、結果的に意味は無かったのだが……

 

「で、まだこんな状況にもなって諦めていないと」

 

鮫島がケントを見てまたやれやれと溜息をつく

ケントの手には再びデュランダルが握られ、その刀身には少しづつ溜まる魔力

ケントの魔力は狡猾しており、鮫島とケントの武器の差は歴然

それでも、彼は最後の一刀に全てを託した

 

「私はこんな少年漫画的なイベントは好きではないのですが……こういうのって大体善が勝って悪が負けるじゃないですか………私はまだ主人公ではないので悪ですが……まぁ直ぐに変わりますが……」

 

一気に力を抜く鮫島

魔力など集めていない、ただの自然な構え、だがそれだけでも、彼がいる事でまた違ったものになる

 

「まぁ、漫画なら勝てたんじゃないですか?」

 

「エクス………」

 

ボロボロの体に鞭を打ってケントが一気に飛び出す

降りかぶられるのは黄金の剣、約束されし勝利を誓う剣

 

 

 

しかし……その剣は鮫島に届く事はなかった

ケントの胸には鮫島の腕、そしてそこからは青い炎

 

瞬間、ケントの元に集まっていた魔力が拡散する、もとより『出来なかった』ように

 

 

 

「漫画ならね……」

 

鮫島の冷たい声が赤く燃える世界で響く

 

そしてケントはこの瞬間

 

 

 

 

全ての特典を失った

 

 

 


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