リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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「ホントに久しぶりだな……ここに来るのは」

 

煌びやかに彩られた劇場の中心でポツリとつぶやく

照明は全て落とされており、人は誰もいない、今頃はアースラ内で俺とネリアがいなくなっていることがバレて騒ぎになってるだろうな……まぁ、部隊長室に置き書きしておいたから暫くすると収まると思うが……

向こうは向こう、こちらはこちら、それぞれの戦いがある

この戦いは、俺一人で十分だ

ネリアは迷惑をかけてしまうが無理言ってカリムに頼んだ、少なくともこれから戦場に向かうあちらよりは安全で、尚且つ六課メンバーの負担にもならないだろう

 

電灯が一つずつ、確実に照らされていく

それと共に露わになる大劇場、その先に立つのは初老の男

手には見た事の無いような杖型のデバイスを持ち、その両隣と後ろには数十体のガジェットが控えている

 

心は……穏やかだ、怖いくらいに

 

俺の体に光が纏う、バリアジャケットが構築される

白を基準としたそのスーツは、どちらかというと『セイバーリリィ』を連想させる

俺の変化に気づいたのだろう、向こう側も一瞬軽く笑った後こちらに話しかけて来る

 

「気分一新、色々と工夫して来ましたか?諦めが悪いというか、無謀と言うか……」

 

「案外そんな事もないのかもしれないぜ?追い詰められた人間ほど、何してくるか分からないしな」

 

少しだけ、重たくなったデュランダルを腰から引き抜く

 

「まぁ、精々足掻いて下さいね、それはそうと知ってますか?この劇場はケント様の母君が生きている時に計画して、出来た場所なんですよ?」

 

鮫島が宙を仰ぐように上を見る

 

ここに初めて来た時、そういえば聞いた気がする

あの脳味噌がこんな物を作るとは考えにくい、だとすると提案したのは俺の本当の母親……

だったら、どうしたというんだ

 

「非常に楽しみにしてましたよ、家族でここへ来るのを、ケント様が将来、何かを発表する様な事があればここを使おうと」

 

「………」

 

「魔法だってそう、ご両親はどちらも随一の魔導師でしたからね、自らの手で教える事が楽しみだったでしょう。」

 

「………」

 

「良かったではありませんか、最後の最後にこうして、貴方はご両親と同じ末路を、この煌びやかな場所で辿るのです。

ご両親も息子の晴れ舞台を見れてさぞお喜びでしょう」

 

「……ひとつ、いいか?」

 

口を開く

 

「お前はこの世界の主人公になりたいと言った、この世界の主人公を殺す事で、本当の意味で自分は主人公になれると言った」

 

「それがどうしました?」

 

「俺からしたらお前は、『人生』というお前自身のストーリーから目を背け、一つの概念に囚われている愚かな人間でしかないんだけどな、好い加減気づけよ」

 

「そんな物は綺麗事です」

 

俺の言葉を真っ正面から否定する鮫島……ったく

 

「よく言います、『一人一人が主人公』、ふざけないで下さいよ?恵まれるのは一握りの人間だけ、世界に愛されるのはほんの一部、それ以外の人間など主人公を引き立てる脇役でしかない、私はそんなちっぽけな存在じゃない、そんな物では止まらない」

 

「……世の中の今を懸命に生きる人間に向けて、発する言葉じゃないな」

 

「どうせモブです、まぁ、お話もそろそろ終わりましょう。

あまりグダグダど話していても前に一行に進みませんし……ですが一つ、言わせて下さい」

 

「なんだよ」

 

 

「勝者こそが正義です」

 

 

目を細める、狂気に歪んだその顔に、俺が知る鮫島の面影はない

 

「どんな歴史だってそう、勝者が正義の概念を塗り替え、敗者が悪となる……大昔からの呪い、いくら愛と慈悲に混じれた言葉を重ねようとも、結局それが正しいかを決めるのは勝者です」

 

鮫島の言っている事は、驚くくらいに正論だ

源平合戦、源氏も平氏もそれぞれ自らの『正義』があり、それを守り通そうと戦い、片方が勝利し片方が敗北した

後に続く鎌倉時代、その時代の中で一体だれが『平氏が正しく源氏が悪だ』というのだろうか?

西南戦争、西郷軍は自らの思想の為に、政府軍は新たな未来の為に戦った

そして、また片方が敗れ片方が勝利する

その後の時代のどこで、武士が表立って出てきた時代があっただろうか?

武士時代の思想を悪とし、新たな体制が正義だと『決めた』のは勝利した政府である

 

歴史は、それを証明している

 

双方にそれぞれの正義があった、それぞれの価値観があった、それが叶うのは一方のみ、即ち、勝者こそ正義

 

こんな所で二次創作や漫画やアニメにありそうな綺麗事をいくら並べても意味はない

 

あいつを止めたいのなら、救いたいのなら……勝利して、無理矢理言い聞かせる!!

 

「非殺傷……ですか、また甘い考えを」

 

「なに、俺は人殺しなんてしたくはないんでな、ここは局員らしく、お前を逮捕して更生する方向で行かせてもらうわ」

 

ニヤリと笑う

所詮俺はその程度の人間、人殺しなんてする気もない、それがどんなに憎んでいる相手であっても……だ

今回は前回みたいに取り乱していない……負ける気はない

 

「特典が無い状態で勝つ気でいる、その姿勢は私も見習いたいものです、よっ!!」

 

腕を前に出した瞬間、大型のガジェットが二機、俺に向かって襲いかかる

どちらも並の魔導師なら苦戦するであろうである大きさ、特典がない状態ならばこれで十分だと思ったのだろう

 

デュランダルに魔力を貯める

今までよりも高密度な、バカ魔力を

目に見える程の魔力を見て鮫島が目を見開く、そして………

 

 

「ガラクタ飛ばしてんじゃねーよ」

 

 

一振り、たったのそれだけ、魔力によって生み出された『余波』でガジェット二機は粉々に粉砕される

これが……『俺本来』の力

 

「ずっと疑問に思ってた、ネリアの魔力量SS+、意図的に魔力を増やして生み出さない限りはそんな数値になる事はない、いや、SS+なんて人工的に作り出すのは不可能だ、今、お前に転生者としての魂を封印されてやっと分かったよ……その謎が」

 

デュランダルを下ろす

何故俺がこの体に生まれて来たのかも、これでようやく分かった

 

「お前なら知ってるだろ?コルテット家長男は、一瞬だが母親の腹の中で一度『息を引き取ってる』こと」

 

「…………」

 

「原因は胎児が持つ魔力量、生命機能さえも不完全な赤子が持っていた魔力量はおよそSS、当然ながらコントロールなんて出来ないその力の塊は胎児、母体両方に多大な影響を起こし、治療も間に合わず息を引き取った」

 

「……覚えてますよ、私もその場にいましたから」

 

一度ゆっくり目を閉じる

 

「だが奇跡が起きた、息を引き取ったその数秒後、赤子は生き返った、魔力も抑えられ、健康そのものの状態で」

 

「そう、でしたね」

 

「ここまでくれば簡単だ、後からその体に宿ったのは俺、そして……死んだ胎児にいたのはこれと全く同じ形の魂を持つ誰か……この意味、分かるか?」

 

鮫島が奥歯を噛み締めるのが分かる、ああ、そうだ

 

 

 

 

「単刀直入に言ってやろう、今の俺の魔力量は……これらの問題で存在さえ否定された『SSS』だ」

 

 

これが、あいつを倒す唯一の希望

 

 




一気に飛びましたが今の時間軸は丁度ゆりかごが飛び立ち、なのは達がゆりかご内に潜入している時です

ケントの本当の魔力値はSSS、まぁ封印が解けたらまたS−に戻るので一時的な物ですが
優勢に見えますが鮫島はそんなケントの『力づく』な戦いさえも『一枚上手』となるので優勢と言われてもそうではありません、技術面では劣ってますからね
まぁ、それでも今までの話の中で一度述べたように魔力値だけはどうにもなりませんから五分五分といった感じです。

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