リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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同じ

魔導の世界では『ランク』という物が存在する

色々とあるが一番有名なのは『魔力値』と『魔導師ランク』

前者は単純な魔力量を、後者は純粋な戦闘力を

当然、魔力値だけに慢心し素人丸出しの戦いをしていれば魔導師ランクは下がる。魔力値で強さを決めるのは浅はかだ

しかし、魔力値が高い程つよくなれるのも事実、ランクは上から順にSSS、SS++、SS+〜D、Eと決められているのだがその中でも最高のSSSに到達した者は今のところ発見されていない

ならば何故そんなランクが存在するのか、理由は単純、『不可能ではないから』である

どんな人間でも魔力持ちの人間は生まれながらにしてその体内に『リンカーコア』という魔力生成機を持ち、そこから魔力を作り出している

当然、その時点でその人間がどれだけの魔力を作り出せるかは決まっており、成長するごとに最大魔力値も上昇する

それによって、『この赤子は成長すればSSSになるだろう』と大体予測出来てしまうのだ。

ならば何故、今までSSSがいないのか、簡単だ、そう予測された存在は『生まれる前にすべて死んでいる』から

生命機能さえも出来上がっていない状態でのその魔力、当然制御出来る物ではないので垂れ流し

そうするとどうだろう、子宮内で溜まった魔力は密度を増し、子供の生体機能に多大なダメージを与え、母体にも想像を超えた負担が強いられる

帝王切開でも駄目だ、ただでさえ負担がかかっている体にメスを入れれば母体は直ぐに死に至る、それに腹の中の赤子はまだ外で生きていく為の機能が出来ていない、生物学的に無理だ

結局は赤子が死んで中絶、そう、不可能では無いが『生まれて来ていない』だけ

更にそういった存在が数年に一人という低い割合からでもある、いかに研究と進めようとしても活用性がない物を好き好んで研究する人間も少ない

 

だが、今ここにいる少年は『特別』だ

 

多大なる魔力を持ちながらもそれを『特典』によって封印し、今その封印が弾けた事で溜まりに溜まった魔力を放出している

 

本当は死ぬ筈だった生命、いる筈の無い存在、それが『ケント・コルテット』

 

放たれる一発の魔力弾、それをケントは『魔力の放出』のみで消失させる

そこに今までの『テクニック』や『技術』など微塵もない

 

「………成る程、確かに、いくら『一枚上手』となれても魔力はまた別物ですからね、このスキルも所詮魔力で構成されています。スキルを保つ魔力を使って『SSS』相当の魔力を作り出すなど不可能ですから」

 

「俺がお前より『上手』となれるのはこれしかなさそうだよ」

 

「まぁ、それでも……」

 

鮫島が持つ銃型のデバイスが変形する……斧?

 

「所詮は魔力に自信があるだけの素人、レベル1の勇者が最強の武器を持っても使いこなせないのと同じです……武器と術者は一心同体、どちらかでもかけていれば崩す事など容易いことです。

そういえば、セイバー容姿で魔力SSSなど、丸っ切り踏み台転生者ですね、今のケント様」

 

「言ってろ、どうせどれだけレベルを上げてもお前はそれより上をいくんだ、なんにせよ変わらねぇだろ

てかそのデバイスなんだ?今のからして武器だったら大体の形状になれる、とかじゃねぇだろうな」

 

「後察しがいいですね、チートや何やら思ってるかもしれませんがこの世界には生憎それを可能にする技術もありますので」

 

「ちゃんと言ってやるよ、このチート野郎が」

 

デュランダルを構える、先ずは……

 

「様子見っと」

 

「っ!?」

 

俺がデュランダルを下から上へと振り上げる

放たれる黄金の『斬撃』

鮫島が難なくかわすが……これは今までのケントからすれば『あり得ない』事でもある

率直に言おう、今のを一言で表すならば『砲撃』

デュランダルに魔力を集め、それを斬撃の形を保ったまま放出する、例えていうのならばBLE○CHの『月牙天衝 』をイメージしてもらえればいい

ただそんな事はどうでもいいのだ、問題は今、ケントが『砲撃』を使った事実

 

「………砲撃適正が無かったのは特典に組み込まれた一種の『バグ』とでも言うのでしょうか?」

 

「さぁな、何時の間にか出来る様になってたんだよ、使わないのは損だろ?」

 

「そうですね、まぁ……」

 

斧を肩に担ぐ鮫島

劇場は今の攻撃によって一部が破壊されている、恐らく、いや、絶対にこの戦闘が終わったら跡形もなく消滅している未来が脳裏に浮かぶ

 

「私が有利な事には変わりませんが」

 

冷たい汗がたらりと流れる

俺がSSS、砲撃が使える

だからどうした、鮫島ならば『それを踏まえた上で』俺より上手をいくだろう

本当に勝てるのだろうか、

今になっていいよらぬ恐怖が襲いかかる

 

……勝たないといけない

 

理由は色々とあるが、やはり一番にあるのは『死にたくない』という願望

 

もっとみんなと一緒にいたい

 

もっとこの世界にいたい

 

もっと魔法に触れていたい

 

もっと……彼女と一緒にいたい

 

 

雨の中、俺を抱きしめてくれた彼女

今思えばもっと昔から意識していたじゃないかと再認識する

なんだか照れ臭い、好きな人がいる彼女に対する、叶わない恋だなぁと思いながら心の中で苦笑する

 

彼女が思いを寄せる、見知らぬ男に軽く嫉妬する

 

……鮫島はどうだったのだろうか?

原作を知りながらも関われない、力がありながらも隣に立てない

いつも笑っているのは他の転生者、苦しみを癒してもらうのも他の転生者

 

……ああ、嫉妬する

 

俺と鮫島は同じなんだ、生まれがどうだったか、それだけ

 

俺が鮫島だったら、幸せを奪う力がこの手にあったのなら間違いなく俺はあいつになっていた

 

策を巡らし、願望を求め、年月が経つ

 

更なる欲望を求め、幸せになるために……

 

俺もあいつを叱る事なんて出来ないかもしれない、立場を逆転して考えるだけでこんなにも違う

 

それでも、他人を殺してまで幸せを得る事は間違いでもある

 

どちらも考えにも辿り着く、結局は同じ

 

だからって、俺は死ぬ事は出来ない

 

俺にも願望があるから、『生きたい』と、『守りたい』という願望が

 

その願望を、『願い』を守るために剣を取る

 

目を見開く、飛翔

 

お互いにシューターが展開され、放たれる

 

吹き荒れる爆風の中で、お互いの斬撃が、ぶつかり合った

 




転生したのに介入出来ない
憧れたキャラクターの隣にいるのは見知らぬ転生者
前世で特別違ったわけでもない、生まれの境遇、それだけ
そんな日を、ただ『見る』だけの毎日、自分が望んだ場所に他人がいるのを、何年も何年も繰り返し見続ける人生
自分に、もう一人の転生者を殺せば、憧れた幸せを手に入れる力があるとするならば

貴方はどうしますか?



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