リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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限界突破

 

「相変わらず……無駄に固いなお前は!!」

 

「ふるぁ!!」

 

振るわれた拳をカードリッジを使った防御魔法で受け流す

凄まじい風圧が襲う、自身の体が思いっきり飛ばされそうになるのを必死で堪える

………重たい

 

「む!?」

 

「ぐっ!!」

 

レバ剣が鞭のようになって筋肉ダルマの腕を拘束する

一つ一つが剣なので普通はクソ痛い筈なんだが……動じてないってなんだよ

 

「軽いわぁ!!」

 

「ぐあっ!?」

 

腕を大きく振るう事で逆に大きく吹き飛ばされるシグナム

………こっちかよ!?

 

「うおっ!?」

 

「うっ」

 

俺がシグナムを受け止める形で大きく後ろに飛ぶ

レバ剣は何とか外れたけど……シグナムが邪魔で!!

 

「ふんっ!!」

 

一直線に俺たちに向かうその拳……ぐっ

 

「設置型……バインド!!」

 

「ぬっ!?」

 

飛ばされる直前に設置したバインドによって拘束される拳

ほんの数秒も持たないが……十分!!

 

「シグナム!!」

 

「分かっている!!」

 

同時に斬りかかる

改めて聞く金属音、剣撃がたやすく『肉体』によって弾き返される

下まで振り下ろす事など不可能、それでも……ロストロギア自体にダメージは通っている!!

 

「転移!!」

 

「ふんがぁっ!!」

 

シグナムを巻き込みすかさず転移魔法を使う

距離はほんの数十メートル、それでも……遅れていたら一瞬でバッドエンド

軽く背筋が凍る、粉砕された地面

あんなに強度はないっつーの、俺の体は

 

「攻め、られないな」

 

「ラチがあかん、このままでは」

 

肩で息をする

シグナムは平気みたいだ、流石は歴戦の勇士と言ったところか

 

戦闘を始めて数十分、個人対個人の戦闘でここまで長引くのは中々ない

それでも俺達は、まだ全然攻め切れていない

簡単に言うと改めて敵がチート過ぎる、スキというものが存在しない

いや、元々そんなものはない、剣撃が本体自体に効かない、敵が仰け反らない以上は連撃は難しい

だからこそ二人での戦闘に挑んだのだが……お互いの事はある程度知っていてもそれは己自身程じゃない

息が完璧にまだ合わない、ぶっつけ本番は無理があったようだ

それにどちらかといえば向こうのペース、まだ一撃も食らってはいないが全て紙一重、直感がなければ初っ端からミンチになっていた自信がある

それに比べてこちらはコンマ数秒の時間にそれぞれ一撃入れるだけ、これではロストロギアを破壊する前に殺られる

 

「しぶといの」

 

「さっきのバインド、一応カードリッジ一個消費したんだぜ?それを力任せに、何も無いように引きちぎるなよ」

 

拳を止めれたのはたった一瞬だけ、普通の魔導師や騎士相手なら恐らくあれで決着はつけられる筈なんだがな、こいつに『常識』の二文字通用しないのかもしれない

 

「言ったであろう、どんな小細工も、どんな技術も儂には通用せぬと」

 

「それでも小細工や技術に頼らなかったら勝てないのが俺なんだよ」

 

大体の人間はそうだしな、こいつが例外なだけ

そもそも、あんなガタイになるのなら俺は今のままがいい

 

「ふぅ、手応えはあるがここまで剣撃が入らない敵というのは……長く生きて来たが始めてかもしれん」

 

「今までいたらビックリだよ、てか一応古代ベルカのロストロギアだから可能性としてはあるのか?」

 

闇の書によって記憶が曖昧なだけで実際には会ってるかもしれないな、守護騎士は

 

「そんなヌルい攻撃ではいつまでたっても届かんぞ?」

 

「お前からしたらどんな攻撃もヌルいんだろうよ、レベルが高すぎる」

 

魔力SSSでの攻撃なら効くかもしれんがするつもりはない

分が悪いのは承知の上、なんとかして通すしかない、一つ覚えのヌルい攻撃を

 

「………転移魔法は、残りどれだけ使えそうだ」

 

「数十メートルの距離なら残り数回、そうなれば完全に魔力切れだ」

 

元々転移魔導師じゃないのに無理矢理使っているんだ、消費魔力は半端じゃない

それでも、使わないと避けられない

 

「中々うまくいかないものだな、それでどうするんだ、このままだと……負けるぞ?」

 

「わかってる」

 

ジリ貧になれば恐らく魔力切れでこちらが負ける、いや、絶対に負ける

少々危ない橋を渡らなければ、あれには届かない

 

………考えているのはある、ただ……それに俺の『体』が耐えられるのかどうか

 

「悩む事はない、やらずに負けるよりも危なくてもやる方がいい、私の事は気にするな」

 

「…………うん」

 

実際に使った事はない、あくまでも『知識だけ』

それにそうなれば当初の予定とは離れてしまう、シグナムを庇えない

それに……シグナムがついて来れるかどうかわからない

 

「どうした、動かぬならこちらから行くが?」

 

筋肉ダルマが構える

………よし

 

「シグナム」

 

「なんだ」

 

レバ剣を構えながら目だけこちらを向いてくるシグナム……ああ

 

「お前、二倍の速さで動けるか?」

 

「また突拍子に、お前こそ、私に置いていかれるなよ?」

 

それはないと思うが

………さて、『二倍で体を動かして、俺はどこまで耐えられるか』

時間との勝負、死ぬ程苦しいかもしれないが……やってみる価値はある

狙うは、唯一の弱点でもある『背中』

 

固有時制御(タイムアルター )

 

固有、とまではいかないが結界を作る

場所は、己の心臓

全身の血管がブチ切れて肉の塊にならないように祈ろう、一応身体強化をかけたからそうはならないと思うが……

 

「ふんっ!!」

 

一瞬で距離を詰めた筋肉ダルマの拳が襲う、シグナムが避けると信じ、俺は……己の役割を果たすだけ

 

 二倍速(ダブルアクセル )!!」

 

全身の血が暴走するのを感じる

皇帝特権でのあくまでも『イメージ』

無理矢理術式を組んだ欠陥魔法、それでも……使えないわけでもない!!

 

「なっ!?」

 

始めて筋肉ダルマが驚く声が聞こえる

目の前には巨大な背中、いける!!

 

「はあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

五連撃、始めて筋肉ダルマの苦痛の声

だけど、そんな事に構っている余裕なんてない!!

 

「うあああああぁぁぁ!!」

 

十連撃

 

皇帝特権によって『一流』にまで引き上げられた剣撃が二倍の速さで、確実に人体の急所を狙い暴走する

 

口からは血反吐を吐きそうだ、汗が滴り落ちるのを感じる……まだ………

 

「紫電」

 

「ぬっ!?」

 

「一閃!!」

 

戦いを求めるシグナムそのものの本能が、借り物である猫の本能に優ったのか

半分無意識に振り下ろされた炎の剣線、それが俺に振り返った筋肉ダルマの背中に直撃する

まだ………

 

「ぐああああああああ!!」

 

二十連撃

 

真っ正面から目にも止まらぬ速さで斬りかかる……まだ、足りない!!

 

「小細工を!!」

 

振り下ろされる拳

避けて、転移

これ以上の速さに俺の体はついていけない、皇帝特権によって速さを最大にまで上げ、それを二倍にしている……人体の限界などとっくに超えてる!!

 

「シグナム!!」

 

「分かっている!!」

 

背中に向かっての連撃

シグナムと俺、二つの剣撃が走る

 

 

三十連撃

 

 

「いっけぇぇぇぇぇ!!」

 

「はあぁぁ!!」

 

二色の線がいくつも走る

もう自分が今どんな状態なのかま分からない、目の前が霞む

筋肉ダルマが俺達を振り払うためにその腕を動かす

 

 

四十連撃

 

 

「飛竜」

 

シグナムがレバ剣を大きく引き戻す、カードリッジが大量に排出される……ったく、涙目になるくらい火はダメなんじゃなかったのかよ!!

 

「一閃!!」

 

至近距離から放たれた大技は筋肉ダルマの腕に当たり、爆発した

手は、止めない

 

 

四十五連撃

 

 

煙の中から飛び出してきた腕が裏拳によってシグナムを殴り飛ばす

風圧で煙が全て晴れる、放たれるもう片方の拳、これが……

 

「エクス」

 

 

四十九連撃

 

 

「カリバァァァァァ!!」

 

 

ラスト!!

 

 

五十連撃

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

縦一閃、手応えはこれ以上ない程によい

時が止まった感じがした、指先一つ動かせない、魔力切れに身体的な疲労……デュランダルを手に握れているのは体が硬直しているから

血は驚く程静まっている、逆にそれが恐ろしいほどに

 

自然と膝が地面につく、立っているだけでもしんどい、いや、立っている事などとうに出来ない

切嗣とは違い、練習も無しでのぶっつけ本番二倍速、体が言う事を聞いただけでもよしとするべきだろう

 

てかEXランクの宝具があったからってこれで四倍速を実現した切嗣は素直に凄いと思う、考えただけでも恐ろしい

てか四倍速なんてしたら内臓が破裂して再生して破裂して再生しての繰り返しだろ?体に来る激痛は想像を絶するだろう

 

パキン、と、何かが割れた音がした

 

目の前には粉々になったカチューシャ、自分に生えていた耳が消えていくのが分かる

気付けば筋肉ダルマも膝をついていた、体が縮む………ったく、ロストロギア無しでもボディービルダーみたいな体してんじゃねーかよ

 

「終わり、だな」

 

「そうじゃの」

 

体が、徐々に落ち着きを取り戻して来る

まぁ動かせるのは口ぐらいだが、手やら足は疲労で動かない

 

「色々と勉強になったよ、お前を真似たいとは思わないけど」

 

「残念じゃの、お前ならば一流の筋肉王になれると思のじゃが」

 

何が筋肉王だ何が

 

ゾロゾロと湧いて来る局員、素早く相手の身柄を拘束する

 

………悪い奴じゃ無かったよな、根は……いい事思いついた

まぁ、それも罪を償ってからだけど

 

「ふぅ、立てるか」

 

「結構ピンピンしてんなシグナム」

 

「そんな事はない、一瞬意識を失いかけた」

 

流石は守護騎士、腕を抑えているがどこか楽しそうだ

 

「あー、悪い、コルテットに連絡しておいてくれねぇか?ちょっと、寝たい」

 

「分かった、取り敢えずはお疲れ様……か?」

 

クシャクシャと頭を掻き回された後、俺の意識は闇に沈んだ

 

 

 


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