リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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私にとって

 

 

逃げる

 

たったそれだけ、全力で、振り切る為に、己の全てを使って

 

それでも駄目、次は何処に飛べばいい、何処に隠れればいい

 

数の暴力、権力という壁

 

こんなにも奉仕した俺を局は見殺しにした、守ってくれるものなどない

 

逃げる

 

相手は魔導師じゃない、それでも

 

何度も転移する、何度も転移するのに睨まれている恐怖

 

逃げる

 

着いた場所は荒地、クラナガンからは大分離れた

 

管理局などもう見えない、そもそもここはミッドの何処なのかも分からない

 

魔力はまだ余裕がある、残った魔力を使って、別世界に転移すれば………

 

と、その時だ

 

 

 

「見ぃつけた」

 

 

後ろに悪魔が降り立った

 

 

 

 

 

 

 

 

散々転移した挙句、彼が降り立ったのはミッド自然保護公園………の片隅

首都のクラナガンからはかなり離れている。まぁAAの魔力、それを余計な事に使わず転移のみならば容易く来る事が出来るだろう

ただ……いくら飛ぼうが衛星で追跡出来る。

後は相手が安心したところを狙ってこちらは機械で移動すればいいだけだ、魔力消費などないし一発で飛べる

 

最初私を見た時驚いた顔をしていたが今は強きの姿勢、まぁゴツイスーツ男じゃなくて降り立ったのが女の子一人なら拍子抜けだね

 

「ハッ、なんだと思えば当主さん自らがお出ましとは……それほどの事したかねぇ?」

 

薄ら笑いをしながら真っ正面に立つ彼

……映像で見たとおりかなりのイケメン、テレビに出てくるダンスグループやアイドルでもやっていた方が局員していたよりも儲かるのに

 

「で、あの男共は呼ばなくていいのか?まさかあんたが相手するなんて言わないだろ?」

 

「そのまさかだよ、援軍を呼ぶ必要なんてないし呼ぶつもりもない、私が始末するって言って来ちゃったし」

 

ポカンとする彼

 

………妥当かな、何だかんだで私は局員じゃないしボンボンのお嬢様が現役バリバリの局員を相手にするだなんて冗談が過ぎる

魔力についても認知度は殆どないだろう

 

「ハハッ、そりゃいいな、俺としてはお前の兄貴が来ると思ってたから運が良かった、あんたを交渉材料に立ち回れば死ぬ心配も無さそうだ」

 

「で?取り合えず弁解だけ聞いてあげるよ……なんでお姉様にあんなことしたの?」

 

向こうは変に気分が高揚しているようだし一応弁解だけ聞いておく

まぁ、要するに理由だ

 

「何でってそりゃあ決まってんだろ」

 

 

 

 

「好きだからだよ」

 

 

あっさりと男は自らの気持ちを告白する

まぁここまではどうでもいい、他人を好きになる事を私は否定しないし結果的に幸せになってくれるのならお兄様もお姉様も別段くっつく必要もないのだ

金目当てやら何やらじゃなかっただけまだマシである

 

「俺の憧れでもあったんだ、年下だろうと関係ない、俺は彼女に憧れて、彼女の隣にいれる人間になろうと必死に努力した。砲撃適性がないから補助魔法を一流にまで上げ、漸く佐官に任命されたんだ……エリートだよ、自分で顔も悪くないと思っている。彼女の隣にいれるほどの男になったんだよ!!」

 

男が叫ぶ、まぁ三十前で佐官はエリートだという事を否定する気もない、魔力SSで守護騎士持ちのはやてと同じ位、血のにじむ努力、又は才能がない限り不可能だ

 

「無理言って職場まで近いところにして貰った、何度か食事を一緒にした事もある。太陽だった、輝いていた。沢山の女性から告白された。全て断った。俺には彼女しかいなかったから、そして等々告白した。友人にも力を貸してもらった。最高のシチュエーション、彼女の為なら命も惜しくない、全てを捧げるつもりだったのに」

 

まぁそれだけ一途だったと言うわけか、どうでもいいが

 

「帰って来たのは『ごめんなさい』、『好きな人がいます』」

 

そりゃそうだ、お前が一途な様にお姉様も一途なんだから

 

「ふざけるな、好きな人?俺より優れた人間なんて何処にいる。彼女に見合った男なんて何処にいる……ああいたよ、調べてみたらすぐ分かった」

 

「…………………」

 

「自室でずっと一人の男の写真を見つめる、連絡を取り合う時は俺に見せた事のない顔で話すんだよ、俺よりも強く、俺よりもイケメンで、生まれついての権力者のな」

 

だろうね、お前よりも遥かにカッコ良くて、お前よりも遥かに強くて、お前よりも遥かに高い権力者だよ

てかフられた直後からアレつけたんだね、いつ告ったかは知らないけど、これには少しムカついた

 

「お前の顔でもムシャクシャする、ぶっ潰したくなるよ、殺したくなる……俺の今までの努力はなんだった?どうやってあいつに勝てばいい、どうやったら彼女を俺のだけの物に出来るんだよ!!」

 

知らん、私の知ったこっちゃない

それにお姉様はお前の『物』じゃない

 

「考えたよ、考えたさ、彼女を振り向かせる為にどうしたらいいか!!だけど出てこなかった。『ケント・コルテット』なんて化け物、どうやったって超える事なんて出来ないんだよ!!」

 

まぁ、お兄様とあんたじゃ月とすっぽん、天と地の差がある。

比べる対象として間違ってる

 

「分けわかんねぇよ、彼女が生まれついてのお坊っちゃまの物になる?ふざけんなよ、彼女が俺以外の所へ行くんなら、太陽が俺以外を照らすんだったら」

 

 

 

「もう力ずくだよ」

 

 

「……………」

 

歪んじゃったね

 

「本当の所、弱って寝ちまった所をバインドで取り押さえて無理矢理犯そうとかも思ったけど想像以上にしぶとくてな、三日間全部徹夜なんだよ、まいっちまうよな、ホント」

 

三日間徹夜、本当にしんどくて、怖かったに違いない

頼れる人間だっていないし、何処で見られているかもわからない、いつ映像を流されるのかもわからない

 

「そんでもって最後はご本人登場と来た、どうやったのか知らないけどどうしてあそこからこっちの機能全停止なんて出来るんだよ、もう笑うしかねぇよ、どこまで世界は俺の事嫌ってるんだよ」

 

ハハハと笑い出す男

 

………今の話で全部みたいだね、まぁ予想した通り、お兄様に対する嫉妬というわけだ

 

「でもまぁ、悪い事ばかりじゃなかったかもな」

 

ジロリとこちらを見つめてくる……気色悪い

 

「何のつもりか知らねぇが送り込んで来たのがボンボンのお嬢様一人とか、とうとう頭イったか?こんなの好きな様に犯して下さいと言ってるもんじゃねーか」

 

…………………。

 

「どれだけ自信があるかは知らないが、恨むんだったら自分の兄貴を恨んでくれよっ!!」

 

男が駆け出す……話は終わったんだね、じゃあ

 

 

 

 

「終わり」

 

 

 

月/星空

 

 

金の空が光輝く、男の足が止まった

 

ワナワナと震えている、当たり前か

 

「どうして、こんな」

 

まるで数分前から収束でもしていたかの様な巨大な球体が三つ、その全てがスターライトブレイカー並み

それを取り囲むのは万を超えるスフィア、こんなのが一瞬で出て来たらそれはもう絶望でしかないのかもしれない

 

「第五世代って知ってる?」

 

空に向けられていた眼がこちらにゆっくりと動かされる

まぁ、知ってる筈がないか

 

「『魔力無効状況でも魔法が使用でき、魔力有効状況なら更なる強化が得られる』なんてコンセプトを立ててコルテットや他の企業、管理局との合同開発で作られているデバイスでね、まだ完成していない試作段階、そして私のデバイスが、その実験機」

 

これだけじゃあ説明にならないよね

 

「いきなり登場させたこれ、全部私の魔力、今持ってる分だけじゃないんだけどね……第五世代の特徴の一つ、『機体に魔力を溜められる』そして魔力を放出する蛇口は無いに等しい」

 

つまり言うと

 

「私は自分の魔力を溜め続けて来たんだ、この身は戦いとはほど遠いから一日に凄い量が溜まる。それを放出させただけ……今私の中に流れてる魔力を放出すると………」

 

杖を上空に向ける

 

集まる魔力………巨大な球体が、もう一つ増える

 

四つのSLBに空を覆い尽くす程のスフィア

 

「あっ、あっ……」

 

「人を好きになる事はいい事だよ?でもお姉様はあなたの『お人形』じゃない、お姉様が苦しむ理由にはならない」

 

男が尻餅をつく

逃げる?何処に?

逃げ場なんてない、運命は決まっている

 

「お姉様とお兄様はね、こんな偽りの命を与えられた私を助けてくれて、受け入れてくれて、育ててくれた………私にとって二人は姉であり、兄であり………『親だ』」

 

だから………

 

「そんな人を傷つけられて、はいそうですかと黙っていられる程人間やめてねーんだよ私は!!」

 

杖を向ける、殺しはしない

 

この砲撃が全て消えるまで、痛みの中に溺れるといい

 

 

 

 

 

 

 

天の杯(ヘブンズフィール )

 

 

 

天が大地を抉る

 

 

 




技名に関しては適当、特に意味はありません(笑)
スターライトブレイカー×4にスフィア万単位


ちなみに書類上の親に当たる元当主は合宿中ケントに対して『お兄様のお母さんとお父さん』と自分とは無関係であると表現しています


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