リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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アンケートは14対9で遊園地となりました
アンケートご協力ありがとうございましたm(_ _)m



恋愛経験零 1

人が行き交う

 

平凡な日常、何度も何度も、繰り返され、続く日常

 

親がいて、友達がいて、親戚がいて、こうして自分の脇を通る、見知らぬ人がいて

 

平日には学校、休日には部活、部活がない時は勉強、友達から連絡が来たら外出

 

新しいゲーム、漫画、それが欲しくて貯めた小遣い、禁止なのにやろうとしてたバイト

 

好きな子に告白したあの日、ごめんなさいと返された失恋

 

一回戦を勝った大会、二回戦で負けた悔しさ

 

兄妹と喧嘩して叱られたあの日、テストで成績が落ちて落ち込みもした

 

朝昼晩とご飯を食べて、明日の為の宿題をする

 

休日には父親が帰って来て、家族団欒の時間を過ごす

 

 

 

人並みの幸せ、繰り返される幸せ、人の温もり

 

 

 

ずっとあって欲しかったのは、たったそれだけ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「にしてもどうするか、誘うにしても……な」

 

ネリアから渡されたチケットと睨めっこしながらその凡庸な脳味噌で考える

皇帝特権を使っても中々解決策思い浮かばないとはかなり難しい難解なのだろう、いや、その前に俺のチキンハートが皇帝特権以上の邪魔をしているだけかもしれないが

 

結局、ネリアから渡されたのは遊園地のチケット、マスコットキャラクターは『耳が大きい猫』、断じてネズミではない

あの黒い体に特徴的な鼻と耳をしたあのキャラクター、断じてネズミではない

 

遊園地を選んだ理由はあれだ、デバイスの持ち込みが可能だから

みんな知らないけど俺って一度プールでテロにあってるからな、ある程度の魔法ならそれでも使えるけどデバイスある事に越した事ないだろ、うん

ネリアは最後までブーブー言ってたが……なんでもプールの方があっち系のハプニングが起きやすいと……いや知らねぇよ

 

そんなこんなでチケット、まぁこっからが一番の問題だけど

いや、今まで『みんなでどこかに行く』というのはあったが二人きりというのは殆どない、しかも俺から提案したのだって

さらに言うと二人きりと言っても学校見学やら彼女の仕事関連やらばかりだし、それに俺は満足に娯楽施設には行ってないし

つまり言うと『どうやって誘えばいいのか分からない』、前世+年齢=彼女いない歴をなめんな

 

てかそもそもこの年になって遊園地はいいのか、いや、だからといって他の案を俺が出せるはずもないし……というか俺はフェイトを誘って結果的にはどうしたいんだ!?

告白、告白なのか?

出来るのか俺に、てかてか何で俺はネリアの勢いに釣られてチケットを貰っちまったんだ!?

 

「あー、頭痛い」

 

しょうがないだろこれは、下手すりゃコルテットのプロテクト破る時より頭使ったんじゃないか?

そしてそれでも答えは出ない、世の中の夫婦達はこんな困難を乗り越えているのか、気持ちを伝えるとはこんなにも過酷な事なのか

というかフェイトはどうなんだろ、今まで『原作だったら』とか言ってたけどあのスタイル、あの性格、あの容姿で誰とも付き合った事が無いっていう方が希望的推測な気がする

原作なんて所詮いいところやハプニングだけを切り抜いただけで裏までは語られないんだしね、あんないい女性誰も放っておかないよ、フェイトが『誰とも付き合った事が無い』って言っても本当かどうか分からないわけだし、てかガチでどうなんだ、忘れてたけど好きな男性とかどうとか言ってたよな

 

そういやこの頃聞かないよな、思いつめる様子もないし

……もう既に他人のもの……とかないよな、ないよな、ないと言ってくれ

局内で彼女がどうなのかなんて俺は知らないわけだしね、俺が知らない間にイチャイチャしてても可笑しくないわけだしね

学生時代、言っちゃあ思春期に一発誰かとかましちゃってても可笑しくないわけだしね!!

知ってるか、初めてを失う男女が一番多いのは高1の夏なんだってさ!!どうせ俺は売れ残りやんだよバカヤロー、一生童貞野郎でいいよバカヤロー!!

リア充消えろバカヤロー!!

俺だって男なんだよバカヤロー!!

性欲の一つや二つあるんだよバカヤロー!!

非童貞消えろバカヤロー!!

羨ましいぞバカヤロー!!

 

「ケントさん、ご飯ですよ~……ってどうしたんですか?」

 

「いや、なんでもないさ」

 

「なんでもないって……お、おでこから血が出てますよ!?

ママ~!!」

 

どうやら知らない間に机に向かって頭を何度も打ち付けていたらしい

ティッシュで血を拭いてくれるヴィヴィオは……俺みたいな淫らな考えなどない優しい子である

 

 

 

 

 

 

「大丈夫だった?自分で治してたけど」

 

「大丈夫大丈夫、あれくらいの傷なら数分で治るよ」

 

夕食後、傷の跡が無いかチェックしてくれるフェイト

なんと言うか、近いよフェイト

 

「それにしても何でいきなり……辛い事でもあった?私でよければ相談にのるけど」

 

「いや、大丈夫だよ、ちょっとした気の迷いみたいなもんだから」

 

疑惑の目を向けてくるフェイトだが「そっか」と言うと俺から離れる

相談って言ってもフェイトに対して言える内容じゃない、てか何考えてたんだ俺、馬鹿じゃないのか?

溜まり溜まった欲求が爆発したとかどうとかか、いや、もうやめよう、考えるのは

 

「まぁお兄様だから心配ないよ、跡がつくなら入院させるけどそこまでじゃなさそうだし」

 

「入院って……そんな大袈裟な」

 

「お兄様の顔に傷でも残ったら一大事だよ、入院している全患者を無視してでも治療するから」

 

おいおい、それは駄目だろ

机で未だにご飯を食べているネリア、ちなみになのはとヴィヴィオは二人で風呂に入っている

俺は一番最後

流石に男が入った風呂に女性が入るのは抵抗ある

みんなは気にしないと言ってくれているが俺が気にする、それだけだ

 

「にしてもあれだけの事でどこまで思いつめていたんだか、流石に情けないと思うよそれは」

 

「ネリアは知ってるの?」

 

「予想はつくけど大丈夫だよ」

 

全然大丈夫じゃないからああなったんだろ、それでも情けないと思うのは同意

だけど情けないからと言ってどうしろと、てかなんて声をかければいい

経験0の俺には分からない、誰か助けてほしい

 

はぁ、とネリアが溜息をつく

 

「そういやお姉様って今度の休日予定とかある?」

 

「え?

ん~、特に入ってないけど、あっ、臨時の収集とか事件とかがあったらまた別だけどね」

 

どうやらネリアが助け舟を出してくれるらしい

……妹に助けられるとは、つくづくホント情けない

 

「で、お兄様からお話があるのです」

 

……え?

 

(えっと、あの、ネリアさん?)

 

(自分の事は自分でしなさい)

 

念話での会話、そしてネリアの言うとおりでもある

パニクる頭をどうにかして落ち着かせる、えっ、えっと

 

「その……暇なんだったら……遊びに行こうというか、なんというか」

 

「うん、大丈夫だよ、それでどこ行くの?」

 

えっと、えっと……があぁぁぁぁぁ!!

 

「その、人が多いとは思うんだけど、ここに」

 

デュランダルに頼んでデータを出してもらう

頼むというか、指示しただけなんだけど

 

「……大丈夫なの?その、ケントとネリアは危ないからとか」

 

「え」

 

「え」

 

「はぁ」

 

上から俺、フェイト、ネリア

 

「違う違う、私は会議がビッシリだからその日は行けないよ」

 

「……え、え、それって」

 

理解出来たらしい

ちなみに俺の顔真っ赤、彼女の顔を直視できない

だから今彼女がどんな顔をしているのか分からないしどういう状況なのかも判断出来ない

 

「その、二人きりで」

 

「はぅ」

 

可愛い声、余計に緊張する

どうするどうする、気持ち悪いとかウザいとか怠いとかそんな事思われてたらどうする、てかこんな誘いフェイトなら何十回もされていても可笑しくないし断わる事だって慣れてしまっているだろうし俺もそんな奴らと同じかとか思われてる可能性だってあるし、体目当てのゲス野郎とか思われていたら修復不可能だって……うがあぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「う、うん、た、楽しみにしてるね」

 

「へ?」

 

思わず素っ頓狂な声を上げてしまった俺は悪くない

what?

OK?

ホントニOK?

 

「フェイトちゃん、お風呂空いたよ~」

 

「あ、うん、じゃ、じゃあ行こうかな」

 

俺が顔を上げるより早くにフェイトが立ち上がってそそくさとその場を後にする

……えっと

 

「お兄様にしたら……頑張ったよ」

 

「え、どうしたの?」

 

不思議そうにするなのはを尻目に

ホッと胸を撫で下ろした

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これは流石に……不味いとしか言いようがないかな」

 

自身の周りに稀少能力で作り出した猟犬を配置し身を屈める

場所は荒地、というか焼け野原というか……実に形容しにくい場所ではあるのだが少なくとも人が住める場所でない事は確か、彼自身今体全体を覆っている防護服がなければ……自分の全てを『蝕まれて』死んでしまう

そして彼は、今現在その『死』に本当の意味で直面していると言っても過言ではない

 

戦火の原因ともなったロストロギアの捜索、この星の状態から見ればロストロギアの性質など手に取るように分かるのだが、まさかこんな事になっているとは想像がつかなかった

ロストロギアの自律的行動、極悪人が悪事に使用、それならいい、どれだけいいか

よりにもよって、こんな……

 

「クロノが言ってたかな、『世界はこんな筈じゃ無かった事ばかりだ』って、全く、その通りだと思うよ」

 

元々彼の能力は偵察向けの能力であり魔法、頭を使って上手く立ち回ったり類稀なる才能を持つ親友達とは違う

だから今の彼に出来るのは逃げる事だけ、逃げ延びて、自身が得た情報を何とかして持って帰る

 

「…………っう」

 

 

黒い、塊

 

 

そうとしか形容できない、例えるとしたらテレビの砂嵐、あれを黒く塗りつぶしたらああなるかもしれない

それが前から、横から、後ろから、まるで虫のように這い出て来る

逃げなければいけない、勝ち目がない

触れたら駄目だ、近づいても駄目だ

彼の本能がアラートを鳴らす、いくらなんでも数が多すぎる

 

「……いくよ」

 

それでも、諦めたらそこで終わる

自身の観察力を持ってして『アレ』の一番薄いところを探す、周りにスフィアを展開

勝負は、一瞬

 

「はあぁぁぁぁぁぁ!!」

 

ありったけの魔力を注ぎ込み放射する魔力弾、それに続いて猟犬が一斉に走り出す

逃走に気づいたのか、周りの『』が一斉に彼を狙う……が遅い

前方の黒の殆どは燃えている、大丈夫だ、あの程度なら今着ている防護服で間に合わせる事が出来る

自身を取り囲むように走っていた猟犬達が一匹、また一匹と黒い塊に捕まって行く

一匹は断末魔のような声を上げて、また一匹は黒く侵食されて

猟犬の数はまだ足りる、転移ポートまで魔力は保つ

 

ひたすらに、がむしゃらに走って

 

 

終わりは一瞬

 

 

「……あ」

 

背後からの剣撃、ほんの一瞬の出来事

猟犬を従わせているにも気づかなかったとなると……一瞬で転移して斬りつけて来たのだろうか

短距離転移のレアスキルかな?などと気楽に考えてしまうのは自分の性格からだろうか

それがどうあれ、非殺傷で放たれたその斬撃は体を斬ることは無かったが、無情にもその防護服を斬り裂いた

 

そしてまた一瞬だった、体が侵食されていく感覚

五感が上手く作動しない、吐き気がする、目眩がする、頭痛がする

僅かな意識で斬りつけた相手の方向へ振り向く、もう迎撃する力なんて残っていない

朦朧とする意識の中、見つめた先にはフードの少年

顔は分からないけれど、どうしよもなく、誰かに似ていて

 

彼の意識は、そこで途絶えた

 

 

 

 


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