次話から物語が動きます
朝の日差し、鳥の囀り
まだ覚醒していない頭を起こす、時間はもう九時だ
体を伸ばす、少し寝すぎた
部屋はポカポカしている、カーテンから入る日差しで温まったのだろう
隣には……もう誰もいなかった、代わりに下の階からトントンという音が聞こえる
ベッドから降りてスリッパを履く、そしてそのまま階段で下へ
いい匂いが漂ってくる、朝食は日本食だろうか
ドアを手にかけ、部屋に入るといたのは……エプロンをかけた一人の女性
こちらに気づき振り向く、いつもの様な柔らかい笑顔……うん
「おはようフェイト」
「おはようケント」
いつもと同じで、いつもとちょっと違う朝の風景
「今日のケントはお寝坊さんだね、朝食の当番ケントだよ?」
「悪い、また代わりにやっとくな」
両手を合わせて謝るがフェイトは別段気にしていない様子
効果音を入れるとするならば『プンスカ』なのだろうか、何と言うか、可愛らしい
二人で『いただきます』と言って朝ご飯に手をつける、味噌汁が美味い
あとこれは余談なのだが味噌汁はこっちの人には余り好かれなかったり……美味いのになぁ
「そう言うけどケントは何でも出来るよね……どこかで料理習った事でもあるの?」
「ん~、テレビでやってたシェフのをパクっただけだよ、俺に家庭の味とかいうのは出来ないからな」
「そ、そうなんだ」
ま、実物を見たわけじゃなくあくまで画面の向こうだから再現率は八割から七割ぐらいなんだけどな
「で、フェイトはこの後予定あるのか?執務官の仕事とか」
「大丈夫だよ、夜にちょっとしないといけないかも知れないけど殆ど終わっちゃってるから」
そうか、ヴィヴィオもなのはも帰って来るのは夕方ぐらいだからそれまで二人か
「じゃあどこか買い物でも行くか、服とか靴とか、フェイトあんまりそういうの無いだろ、時間無いんだし」
「ケントとは違うからね」
「酷い」
間違ってないけど今言うか?
「ふふ、ケントから言い出したんだからお財布はお願いね」
「それも酷い」
いつものフェイトは何処行った
「あと荷物持ちも」
「ホントにフェイトか?」
むにーと頬を引っ張ってみる……あ、いい感触
「いひゃいいひゃい、冗談、冗談だよ」
「うおっ、ごめん」
う~、と言いながら頬を摩るフェイト、それも可愛いと思ってしまった俺はどうなんだろうか
「もう、荷物持ちは決定だね」
「うっ、了解しました」
あんなことしてしまった以上仕方が無い
朝ご飯を食べ終わって二人でごちそうさま、俺もまだパジャマのまま、フェイトもまだパジャマのまま、着替えてなんやらしないといけない
食器を持って席を立つ、女の子は準備に時間がかかるし朝食は作って貰った身なんだから食器洗いぐらいはしないといけない
食器洗いと言っても食器洗い機に並べてぶち込むだけなんだけどな
「ケント」
「ん?」
スタートボタンを押そうとした瞬間に呼び止められる
人間名前を呼ばれると振り向いてしまうのが普通だろう、俺もそうであって反射的に振り向き
「ん……」
唇を塞がれる
唐突な出来事だった為に思考が一旦停止……え
「それじゃ、着替えて来るからちょっと待っててね」
「え、あ、うん」
自分の顔はトマトの様に赤いだろう、というか思考が停止していた為に簡素な返事しか出来なかった
……フェイトがこんなにも積極的だとは思っていなかったりする
来たのはショッピングモール、服やらなんやら、ブランド品が多いとこ
いや、まぁブランド品と言ってもそこまでだとは思うのだが……フェイトが値段を見て顔を顰めていたから相当なのだろう
俺が買おうとも思ったが「じゃあ一番欲しいので」と言って断られた、一番欲しいのって……家とかか?
いやまあそういう事はないだろうから大丈夫、うん、金目当ての駄女は腐るほど見て来たからな……
そういうわけでショッピング、ブランドと言っても安い店だってあるしフェイトは何だかんだで小金持ち、いつの間にか紙袋四つ
買っている服や靴が殆ど黒なのはやはり彼女の趣向なのだろう、フェイトには黒が似合うし丁度いいのかもしれないが
俺?服とか靴とか考えないタイプです、それが着れればそれでいい
「オシャレは大切だよ、ケントって私服もあまり着ないし殆どスーツだったりするじゃん」
「バリアジャケットもスーツが主体だしな、それ以外思いつかないし」
セイバーって言ったら騎士装甲なのだろうが生憎、スカートを履きたいとは思わない
赤王なんかあり得ない、パンツ丸見えとか俺がやったらただの不審者だ、そんでもって変人変態確定……ガキの頃に似たような事をしてたのは忘れたい
「そんな考えだったら女の子にモテないよ?」
「モテなくていいよ」
なんでフェイトが俺に不倫をそそのかせてるんだよ
「冗談だよ、どっちにしろケントはモテモテだしね~」
「いやそれはない」
メイドにキャーキャー言われてたのはまた別だろうしどちらかというと憎まれ人間、近寄って来る女もさっきも言った通り金目当ての駄女ばかりだし……てか結局は金なんだよなぁ
「ケントはもうちょっと自分に自信を持ったらいいのに」
「フェイトもな」
「え」
「え」
結局こんな感じ
「朝の光景見たら発狂する男子がどれだけいるだろうか……俺って知らない間に無茶苦茶な人数の敵を作ってる気がすんだよ……次元さえ超えて」
「そ、それは大袈裟だよ」
いや、世界にはアニメキャラが好きすぎて抱き枕と結婚する外人だっているんだ……うん、いるんだ
「そういう意味では……フェイトって結婚してるのか?」
「え、わ、私はしてないよ!!」
ブンブンと首を横に振る
冗談とは分かってるけど、今思えば凄まじいよなアレ、フェイトの迷惑も少しは考えた方がいいと思う
「わ、私はその、結婚とかその……あの……」
急に一人でモジモジし始める……なにこの子可愛い
取り合えず気を取り直す、時間は丁度昼、いくら朝食が遅かったとしても小腹は空いてくる
ショッピングモール内のマップを見て適当なカフェを探す……あ、ちなみに俺コーヒー飲めないです。悪かったな子供舌で
「どうする、一番近い所でいい?」
「うん、大丈夫だよ」
荷物も重いしな
「普段鍛えてないからだよ」
「おっしゃる通り」
反論しようがない
いや、俺は『自宅警備員』として日々訓練を!!
「次元世界最強の自宅警備員だね」
「Sランク魔力の無駄使いだな」
もっとよい使い道はないのだろうか
「個人的には私の補佐、とかになってほしいんだけど上官だしね、いや、ケントなら逆に私が補佐官になってたりして」
「そんな面倒な事するつもりはないぞ、デスクワークとかマジ無理」
「ケントならすぐに終わると思うけど」
ガチになったらな、多分人の二倍から三倍程度
ただやる量は変わらないのだから怠い物は怠いのだ
「働いたら負けだと思う」
「私の彼氏は駄目人間」
それでも経済的に自立している。流石黄金律
「賭け事とかめっぽう強いしね」
「株とかもな」
黄金律万歳
「それにヤル気さえあれば何処でも働けるし」
皇帝特権万歳
「駄目人間にしては異常だよ」
「自分でもそう思う」
どう転んでも社会的に死ぬ事はない
「……今度執務官試験出してみよ」
「いやなんで」
「ケントなら私が落ちた試験も一発勝負で合格しそうだね」
否定出来ない所が怖い
「流石ケント、汚い」
「酷い」
なぜかフェイトが冷たい
精神的にボコられながらカフェに入る
ある程度広く内装は落ち着いた感じ、まあどこでも同じなのかもしれないが
腹が軽く鳴り、それを効かれて笑われてしまう
と、その時だった
「……通信?」
デュランダルに通信が入る、相手は聖王教会……という事はカリムか?
何か急用でもあるのだろうか、余程の事がない限り『聖王教会』からの連絡先は来ない、それにはコルテットと教会との間での権力やらなんやらがあるのだが大概は『カリム』からの私的なメールや通信、普段とはまた違う
「ちょっと御免、席外すな」
「あ、うん」
聞かれたら不味いことかもしれないので行ったん席を立ち、その場から離れる
外の方がいいかなと思ったのです外へ出てから通信を受け取る。
画面には……カリム、なのだが
「どうした?」
目に涙を溜めている彼女を見るのは初めてだろう、それが事の重大さを教えてくれる
聖王教会からの通信で涙を流すカリム、どれ程の事があったのだろうか
カリムの息は荒い
「あ、あ、」と声が出ないカリムを画面越しに一旦落ち着かせる、そしてゆっくりと
「助けて、下さい、ケントさん」
「え?」
教会からの通信でSOS、それは教会が襲われたとか何かか?
だが、そんな連絡はまだコルテットから一通も……
「ロッサが、意識不明の重体で!!」
………え?