リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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すみません、投稿が遅れました



ケント・コルテット

 

何もない

 

ただ一人

 

そこには幾つもの思いがあって

 

幾つもの生命があって

 

そんな世界に、ただ一人

 

幾つもの思いが『あった』

 

幾つもの生命が『あった』

 

あった、だけなのだ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一進一退、それ以上表す事など出来ない

素人が見れば何が起こっているのか分からない、自称専門家が見れば適当な考察をするのだろうが所詮素人には変わりがない

 

ケントという青年の二つ名は『剣姫』、大昔につけられた名前だが未だに健在

剣を振るうその姿は勇猛で、剣を振るう本人は言葉にならぬ程に美しい

まさに『姫』、その姿にどれほどの人間が魅了されただろうか

『一流』、それは言葉にすれば簡単な事だが実際には殆どいない

そもそもどの線引きで一流となるのか、大雑把になるが世界で『英雄』と呼ばれる人間は何かが『一流』である

アーサーは剣、イスカンダルはカリスマ、織田信長は軍略

逆に言えばそこまでいかなければ『一流』ではないのだ、単に周りがもてはやしているだけ、自意識過剰

人間など殆どが二流、三流、はたまたそんな事も名乗れない人間ばかりだ

誰かが『完璧な人間などいない』などと言っていた、その通り、どんな存在にも完璧などないしどこかしらの欠点がある

 

しかしだ、もし『完璧に近い人間がいる』とするならば

 

それは、『一流であればある程近づくのではないだろうか』

 

 

「アァアアア!!」

 

「暴れるなよ……まるで狂戦士だ」

 

暴風、そう形容出来る風の荒波を受け流し斬り捨てる

一流通しの戦いに決着がつく事など早々ない、あるとするならばその時の状態、有利不利

現状ならば圧倒的までケントが不利、まぁどちらも『ケント・コルテット』であるのだが

その姿はまるでプログラムされたかの様に精密で、ケモノの様に荒々しい

風を纏った見えない剣を自由自在に操り、その技量で敵を圧倒する

それと同時に、我を失ってもいた

 

目の前の存在を否定し、自分の中から溢れ出る衝動に不安し、それをうち払おうとする

どんな不安か、何故そうなるのか、そんな物本人でさえも分からない

だが、一つだけ、目の前の存在はいてはいけないのだと自身が告げている

 

「模写」

 

「おっ」

 

ケントの姿が掻き消える、一瞬目の前に存在するのは残像

回るは背後、

その間ほぼ零

 

「ソニックセイル」

 

「フェイトのか」

 

剣を後ろに回し斬撃をガード、高速で放たれた五つのスフィアも同じ数のスフィアで相殺する

ソニックセイル、魔法の内容は簡単、フェイトがソニックフォーム時に、両手足に常時起動させている高速機動魔法

光の羽根を手には2枚、足には3枚

それを120%再現、彼女が操作する物よりもより緻密に、正確に、簡略化し、高度にした

 

「人の技パクるの、俺嫌ってそうなんだけどな」

 

「模写」

 

左手を大きく戻す、体を捻る

単純な、単純過ぎる体術

 

「エレミア」

 

「レストリクトロック」

 

ガキン、という音と共に拘束される左腕

拳の威力を殺され衝撃もない

まぁ元々、ビデオ越しに真似した内容なので本物にも達していない失敗作なのだが

 

「「破壊」」

 

不意に二人から同時に発せられた一言、その一言のみで世界が壊れる

破壊を破壊する、空間は歪み、そこにあるのは『無』

その『無』さえ破壊され、たどり着くのは世界の拒絶、エネルギー

超高速で両者が弾き飛ばされる、バリアジャケットなど無いに等しい

力強く両者が地面に叩きつけられる、立ち昇る砂煙

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺とは一体何なのだろうか

そんな質問を、剣を交えながら自問する

転生しコルテットの人間として生まれて、学校に通って

嫉妬と妬みの中で育って、みんなと出会って

テロとか色々な物に巻き込まれたけど、馬鹿みたいに生き残ってて

ネリアと出会って、鮫島と戦って、恋をした

そして昨日、告白した

 

俺は、何だ?

 

目の前の男は何だ?

 

あるのは不安、恐怖

ただ恐れてる、自分自身を

何か、大切な物が、俺には抜けている気がして

それを、知ってはいけないのに

あいつはそれを、知っている気がして

 

「うっ、ぐ」

 

手をついて立ち上がる、負傷した左手でエレミアを使おうとしたからだろう、もう痛み止めなど関係ないような激痛が走る

血はゴボゴボと溢れ出ているが大丈夫、死ぬレベルではない

それよりも今の衝撃で骨が何本かイかれていないか心配だ、受け身は取ったつもりなんだが

しかし結局、今のおかげである程度の正気は取り戻せたのは幸いと言ってもいい、同じ技量の敵と戦う以上、正気を失ったままで戦い続ければあるのは破滅のみだ

 

「痛ぇ、まさかあんなになるなんて誰も思わねぇよ」

 

向こうも向こうで立ち上がる、どうやら左腕が使えなかった分こっちの方が負傷してそうだ

あちらは、戦いを通して平常を常に保っている、だったら何か聞ける事もあるはずだ

結果的に倒すにしろ逃げるにしろこの現象を、存在を、恐怖の根本を知らなければ始まらない

 

「さっきお前は俺の事を『偽物』と言った、それはどこから来ている結果なんだ?ハッキリ言わせてもらうと俺としてはポッと出のお前が偽物なんだが」

 

「おっ、正気に戻ってる」

 

相変わらずニヤニヤしている俺、こうやって対自しているだけでも息苦しい

 

「そうだな、確かに、この世界で『ケント・コルテット』と言えばお前を指すかもな、その前にお前も俺も『ケント・コルテット』じゃないんだから」

 

「何言ってんだ?」

 

話の内容が理解できない

 

「そもそも俺という存在は『ケント・コルテット』という殻の中に入り込んだ魂に他ならない、俺が偽物本物言ってるのは『中身』だよ」

 

「中身?」

 

『魂』、その単語は前に何度も聞いた、ロクな思い出は無いのだが

 

「お前の中では自分は平凡な元高校生、特に取り柄もない、平凡に生活して、平凡に生きてた存在だって、でも違うんだよ」

 

 

 

 

 

「平凡な人間が、転生なんて出来るはずないじゃん」

 

 

 

……ああ、その通り

たかが一つの小さな命、神が殺したからと言って保証に転生させて貰える筈がない

だが、だったら何だ?

 

「俺の記憶には別段変わった物は無いけどな」

 

「そこがミソだ」

 

こちらに指をさしてくる

目を細める、何だこの違和感

 

「転生の理由は『封印』、それを踏まえてお前に聞く」

 

 

 

「お前、名前は何だ?」

 

 

「あっ」

 

口から声が漏れる

……何だ?

 

今まで考えた事など無かった、ケント・コルテットになってから一度も

 

『分からない』

 

長い時間を過ごして来て忘れた、などないだろう

少なくとも名前に関しては、生まれた時に貰い、死ぬまで側にある物だ

違和感が頭によぎる、そもそも俺は前世でどんな生活をしていた?

ただ一つしか分からない、『平凡な高校生だった』

ぼんやりとした風景はあるのに、具体的な情景は浮かばない

殆どが、霧に包まれている感覚

何故今までこの違和感に気づかなかったのかさえも分からない

 

「あのジジイが封印したかったのは俺、俺の一部で作られたのがお前、消える事の無い『呪い』を、お前の中に封じ込めた」

 

何かが聞こえる

 

「お前の魂で蓋をして、まぁ鮫島の野郎が壊したお陰で俺が表にも出て来た。俺の一部であるお前を残した、不完全な形でな」

 

なんだろうか

 

「お前も呪いの一部なんだよ」

 

ああ、これは

 

「お前は俺だ、同じ物を見てくれば、必ず『答え』は同じになる」

 

人々の、叫び

 

「んじゃまぁ……いってらっしゃい」

 

「!?」

 

目の前に現れる『俺』

唐突の出来事であった為に体が反応出来ない、動けない

左肩から右脇腹へと斜めに振るわれた剣線、それにより与えられる激痛

体が熱い、意識が途切れそうになる

それでも血しぶきは、飛んでいなかった

代わりに俺の体からは無数のポリゴンがバラバラになり、消えていく

まるで鮫島の時の様に、血を一切あげず、体が持っていかれる

ようやく体が反応する、痛みから逃げる様にデュランダルを振るう

距離が開く、それでも……思考が止まっていたせいか

大きすぎる、隙

 

「破壊」

 

「あっ、ギッ」

 

体を捻じる、最低限の回避

ゴロゴロと地面を転がる、追尾に備えて体を思いっきり引く

体制を立て直す、デュランダルを持ち直そうとして

 

左肩から下が、なくなっている事に気づく

 

「あ、ギ、ガアァァァァァアァァァ!!」

 

人間とは、ある一定量の痛みを超えると脳がシャットダウンすると聞いた事がある

まさにそれだった、そしてそれを理解した瞬間、蛇口が一気に開かれる

今まさにその状態、相変わらず血は出ていないのに、痛覚だけはしっかりしている

目眩がする、動けない、余りの痛みに脳がついていけない

 

俺の叫びと同時に、彼女の絶叫も微かに聞こえてくる

俺に追撃を与えようとする俺との間に割って入る、相手がどんな表情をしているかなど見る事も出来ない

ただ、分かった事は

 

 

『彼女だけは、守らなければならない』

 

 

「フェイトォォォォォォ!!」

 

声を出す事でギリギリの意識を保つ、彼女を弾き飛ばした瞬間に訪れる

 

生暖かい、激痛

 

……第三者からの攻撃、彼女が再度悲鳴をあげているのが分かる

右目が潰れたらしい、今度はちゃんと血が飛ぶ

目だけで無い、体の至る所から、同じ様に鮮血が飛ぶ

良かった、彼女には当たっていない

視線の先にいるのは、先程戦った栗色の髪をした少女

ったく、女の子が物騒なもん持つなよ

 

消えていく意識の中で

 

心臓を潰されたのを感じた

 

 

 

 




次回はフェイト視点でいきたいと思います

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