リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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白い少年

フェイト視点

 

 

バリンッ、というガラスが砕ける音と共に、二人のケントが壁を突き破る

意味が分からない、確かにあのケントは誰なのかは分からないが少なくとも彼が自分から仕掛けるなんて

少し隣にいただけだが彼の様子は終始可笑しかった、私を助けてくれた後、落ち着きのない表情をして

体からは汗をながしていて、目は終点に合っていなかったかのようにも思えた

 

なんらかが原因で理性を無くしているなら落ち着かせなければいけない、少なくとも私には二人のケントの違いが分かる

どこがというと分からないのだけれども、感覚で分かるのだ

 

二人が突き破った場所へと飛ぶ、外からは剣撃の音

無理に介入すれば邪魔になる恐れがあるので自分がするのは後方支援になる、片腕があんな状態なのだ、見ているだけで痛々しい

 

と、外に出る直前の所で

 

 

黒い『何か』に、道を遮られた

 

 

 

体がゾクリとする、あのケントと出会った時とはまた違う恐怖

まるで、テレビの砂嵐の様な、ノイズを物質科したらこんな感じなのかもしれない

それでも、道を遮った『それ』に触れてはいけないとは理解して

後退した瞬間に……一気に襲い掛かられる

 

「っぐ、早い!!」

 

避けきれないと判断し、バルディッシュのサポートを借り、ギリギリの所でバリアを張る

 

黒い物体に原型はないらしく、バリアの周りに浮かぶ事はするのだが抜けてくる事は出来ないらしい、抜けられたら一巻の終わりなのだけど

 

黒は少しずつ、少しずつ増殖し始める

初めは成人男性くらいの大きさだったのだが、この数秒の間で部屋全体にまで

 

積極的に襲いかかってこない事を見るとこれは恐らく時間稼ぎ、あのケントの味方と考えていい

ケント自身が操っているのか、どこかに術者がいるのか、これそのものに意思があるのか分からない

ただ……

 

「どうしようか、バルディッシュ」

 

悪いが今はこの黒い物体と遊んでいる暇はない、向こうが時間稼ぎをしようにもこちらはケントを助けないといけないのだ

 

黒は何時の間にか部屋の全部を覆い尽くす、白い壁も、立派な壺も全て飲まれてしまった。一面黒一色

 

それでもケントがいる方向は分かるし、どちらに進むべきかも見えている

 

「……いくよ」

 

少し部屋を壊してしまうだろうが今更だ、手に魔力を込め、体の芯で発電する

いつもより多めに設定した性質変化、魔力を食う事にはなるだろうけど仕方が無い

この黒が何なのかは分からない、だけれども、やってみないと分からない

 

「サンダー  スマッシャー!!」

 

爆音と共に破壊される壁の音、聞き慣れた雷撃の音が部屋中に響き渡る

中を走った雷撃は拡散し

 

黒が、燃えた

 

「ハアァァァァ!!」

 

バルディッシュを振るう、黒が一斉に襲いかかってくるが数がしれている

空ならまだしも今ある黒は部屋一つ分、それならば全て焼き払ってケントの方に迎える

 

炎が弱点なのか、黒がどんどん激減していく、それでもまだまだ底知れずに増殖しているのだけれども

 

ここまでくれば一種の魔法ではなくロストロギアの仕業と考えた方がいい、そしてその術者は守らなければいけない主

だからこそ

 

「そこっ!!」

 

黒が一番密集している部分へと砲撃

やはりというか、砲撃は奥まで届かずに途中で相殺される、本体がいるならばそれを捕まえてあのケントの事をはかせた方がいい、どちらにしろロストロギアの不法所持、執務官として捕まえなければいけない

……なのに

 

「えっ?」

 

黒の中心にいたのは、『白』

真っ白の服を着た、真っ白の髪を持つ、真っ白の少年

年は二桁もいかない、ただ少年からは何かが抜けていて

ただ一つ、真っ黒な目玉が、こちらをただ某然と見つめてくる

あれは、生物なのだろうか?

いや、そもそもあれは、生きているのだろうか?

 

黒か一斉に主の体を包み、消えていく

黒が部屋から全くいなくなった時には、少年も消えていて

 

……怖い

 

引き取った時のエリオと同じくらいの子どもにたいして初めて抱いた感情

 

でも確かに、あの子の事は気になるが、今大切なのはケントであって

 

 

何時の間にか、剣撃の音は止んでいた

 

 

 

 

 

 

今思い出してみれば、最初彼に対して向けたのは同情の意思があったからなのかもしれない

 

隣にいたいと思いながらも、どこかで彼の境遇を『可哀想』と思い

 

どこかで私と照らし合わせていた

 

だからあれだけ強く惹かれて、隣にいて支えたいという思いが、何時の間にか恋心になって

 

実際恋心に変わったのは何時なのだろうか、明確な時なんて覚えていない

 

ただ、ずっと想い続けて来た

 

彼が血を流しているのは辛かったし、どうして私は何も出来なかったのだとも責めた時もある

 

笑顔で、優しくて

 

そんな彼から嫌われてしまうかもしれないと、ずっと自分の事を黙ってて

勇気を持って全てを話した

 

結局、彼から返って来たのは『どうでもいい』の一言

この一言でどれだけ救われたか

 

下手な同情の言葉や、変な慰めなどよりもずっと嬉しくて、私の事を思ってくれていて

 

ずっと一方的だったのに、彼の方から告白されて

 

ビックリして、嬉しくて

 

だから私も伝えた、自分の気持ちを

あがってしまっていてよく覚えていないのだが、絶対に伝えられた

 

それからは手を繋いで帰って、ご飯食べて

いつも通りの時間

 

ただ寝る時は、ケントのベッドに二人で寝た

 

初日から抱いてくれる事は無かったけれど、手を握って、お互いの顔を見ながら

 

ホントは少し期待してたとかは言えない

 

それでも、こんな日が、ずっと続くといいなと思って

 

 

 

 

…………私達が何をしたのだろうか?

ただ、普通に幸せを求めただけなのだ

好きな人と、一緒にいれるだけで良かったのに

やっとケントの隣に立てたのに

 

外に出て見た風景は、よく覚えていない

 

それでも、彼からは私の手を握ってくれる手が、無くなっていた

 

それがどういう事なのか理解出来なくて

 

叫ぶ彼を見て、現実から逃げ出そうとして

 

あれが偽物だと考えても、私の心は、あの人が私の好きな彼だと肯定していて

 

気付けば声をあげていた、魔法を使っていた、涙を流していた

 

二人の間に割って入る、追撃しようとしていた奴に刃を向ける

 

ただ、それも一瞬で

 

「フェイトォォォォォォ!!」

 

「え?」

 

ドンッ、という音と共に、私は吹っ飛ばされていて

 

銃声が聞こえたと思ったら、赤い何かが見えて

 

……生暖かい、赤い何かが、彼から飛んでいて

 

頬に赤が当たる、バリアジャケットに降り注ぐ

 

突然の出来事と、現実に頭がそれを拒絶していて

 

ただ、小さくやめてと言うだけで

 

世界がスローで動く、まだわたしの身体は吹っ飛ばされたまま

 

早く動け、動いてくれと懇願しても、時間は全く進まない

 

そんな横目に、奴の持つデュランダルがケントの胸に突き立てられて

 

そのまま、串刺しにした

 

 

 

 


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