リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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パソコン潰れてました、復旧して久々の投稿

遅れた事をお詫びします


殺意

 

「う、いくら抜け出すのは厳禁とはいえ……ここまでのハードスケジュールは初めてだよ」

 

身体的にも精神的にもヘトヘトになった体を引きづりながら住宅街を歩く

比較的早く会議が全て終わったので日が落ちる前に帰路につけたのだが足は重い、実際家は本家なのでわざわざ戻る事は無いのだが昨日の事やら何やらでいち早く知りたいという願望が足を動かす

まぁ、家の前まで送ってもらっているので実際動くのは門から玄関までなのだが

 

いつも通りドアを開けようとして……閉まっている

はてさて、どこかに出かけているのだろうか

自分の中ではホテルとかホテルとかホテルなら物凄く嬉しいのだが自分の兄と姉では一日でそこまでは到底不可能、となると買い物か何かだろうか?

 

持っている鍵でドアを開けて……

 

「……あれ?」

 

台所で、地震でも起こったのか、コップが一つ割れている

別段高い物でもないのだが……一つだけというのが怖い

 

「…………。」

 

何故だろうか、とても……怖い

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ赤だ

 

赤く、赤く塗りつぶされる視界

 

その行動は無意識だったのだろう、気づいた時には彼を抱え、気づいた時にはその場を離脱していた

 

目の前の光景を信じたくなくて、信じられなくて

明かりが灯っていないその目を見つめながら、某然と自分が知る初歩的な治癒魔法をかける

 

左腕は無く、右の眼球は潰れ、体の至る所に生々しい傷口が開き直り、血が飛び、ポリゴンが舞っている

 

言葉などもう出なかった、声は出し尽くした

涙さえも出ない、だってこれは現実だと思っていないから

目を見開いたまま、まるで人形のように、意味もない魔法使いを使う

それでも、徐々に消えていく体

 

頭の中は空っぽだった、何も考えないように頑張った

それでも、現実は残酷で

 

「…………ぁ」

 

やっと出た掠れた声

何時の間にか、腕の中にあった重りは無くなっていた

暖かみも、存在も

まるで初めからそこに無かったかのように

 

自分の手のひらを見つめる、なんで無いのだろう

 

彼はどこへ行ったのだろう、どこに消えたのだろう

脳の処理が追いつかない、どうしてかなんかは分かっているのに

目の前で、ガラスみたいに壊れちゃったんだから

 

それを理解した後、脳内に流れてくる様々な感情

 

叫びたい、泣きたい、名前を呼びたい、助けを請いたい

 

ただ、どれをしても彼は戻ってこない

 

『何故だろう?』

 

どうして彼はもう戻ってこないのだろう?

どうして彼は消えちゃったんだろう?

どうして彼はいなくなっちゃったんだろう?

 

カツン、と音がした

 

音の先には『誰か』がいた

知らない人だ、少なくとも私には

だけど、その知らない人が彼を奪った

あれは誰だろう?

彼とは真逆の存在

大切な人を奪った犯人

私の居場所を奪った存在

 

悲しみとか、そんなのじゃない

今必要なのはそんなのじゃ無いはずだ

 

今の私には何が必要だ?

 

何があればいい?

 

何があれば……

 

「あは」

 

「……はぁ?」

 

再び漏れた声、私は狂ったのだろうか?

母さんを失った時とは違う、そう、本当に大事な存在を失った時、人ってこんな感情になるんだ

それを奪われた時、こんな感情になるんだ

これを狂ったと言わずになんと言う

胸の中に広がるドス黒い何か、大嫌いな筈なのに、今の私には何故か、とても愛おしく思えた

こんな物を持ってしまった以上、私は元には戻れないかもしれない

ずっと狂ったままなのかもしれない

でも、それでいいんだ

今必要なのはそれだけなんだから

 

バルディッシュを握り締める

フラフラとその場から立ち上がる

ニヤニヤとしているあいつ

 

気持ち悪い

 

だから、だからこそ

 

 

 

 

 

 

「シネ」

 

 

殺す

 

 

 

 

 

 

 

ゾクリと、周りの温度が下がった気がした

久々な感じがする、ここまでの殺気を向けられたのは

気付けば目の前に彼女がいた、巨大な大刀を振り上げて、瞬きしているうちに真っ二つにされとうだ

刃にはもう安全装置なんてついていない、あれが俺のに当たれば肉を抉り、擦れば焼くだろう

もちろん、それをただ見ているというわけにはいかないので

 

「よっ」

 

デュランダルで軽く流す

大振りのモーション、そこらの相手ならば大丈夫かもしれないが生憎自分は『一流だ』

 

「くっ、ああぁぁあぁあああぁぁああぁ!!」

 

決められなかった事で連続で振り下ろされる狂気

相変わらず大振りで大雑把、形も何もない

俺から見たらスキだらけ

ただ強く伝わってくる殺意

記憶ではフェイトという人間はそんな殺意を持つような人間では無い筈だ、いや、殺意そのものを受け入れられる存在ではない

だからこそ、彼女が殺意を向けてくる程、俺という存在は特別だったのだろう

彼女にとって特別な存在で、特別な人間だったのだろう

ああ……

 

 

 

くだらない

 

 

 

そもそも俺なんていう存在はそんな大層な人間じゃない

そんな想いを受けてはいけない

だから彼女が向けてくる殺意もどうでもいいし、俺が彼女にとってどういう存在だったのかもどうでもいい

だから……

 

「邪魔なんだよ」

 

「がっ!?」

 

頭を地面に叩きつける、攻撃の手が止まる

元々最初に騙されてくれて、裏で俺を取り込めたらよかった

そんでもって利用できたら利用する、ただそれだけの存在

 

俺が『ケント・コルテット』としているためには目撃者はいない方がいい、どうでもいい存在なのだから

 

剣先をフェイトに向ける、なんとか立ち上がろうとしているが腕力はこちらの方が上

なのに

 

「うっ!?」

 

思わず手を外す、フェイトの真下に現れる魔法陣

あれは俺のだ

 

発信元はフェイトのデバイスから、恐らくはあらかじめ組み込まれていたプログラム

発動条件は見れば分かるだろう

 

『転移魔法』

 

どこに飛ぶかなんて分からない、ただ高度だ、こちらと彼女の空間が『隔離』されている

もしかするとあのまま押さえつけていたら腕の一本持っていかれていたかもしれない

フェイトは某然としていたが、次の瞬間には目から涙を流して、名前を何度も呼んでいた

 

手を前に出す、隔離されていようが何だろうが問題ない、ただ壊せばいいだけだ

ただ次の瞬間には、そこにはなにもいなかった

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ちている

 

そんな感覚だろうか?

 

ただ落ちているというには実感が少ないというのが本音だったりする

真っ暗闇の中、ただそういう感覚があるだけ

 

どちらが上なのか、下なのかなんて分からないし

どちらが左なのか右なのかも分からない

 

そもそも自分がどんな存在なのかも分からないし

肉体があるのかさえ定かではない

 

この暗闇は本当に世界そのものなのかもしれないし、まぶたの裏なのかもしれないし、元から目なんてないのかもしれない

 

ただ、そこにいる

 

なんの感情もない、そもそも何故ここにいるのだろうか

 

その前に俺は誰なのだろうか

 

名前は何なのだろうか

 

ただ、そんな事もどうでも良くなってくる

 

『無』という存在が

 

少しばかりの意思を持っただけなのだ

 

声を出そうにも口はあるのかさえ分からないし

 

音を拾おうにも耳があるのかさえ分からない

 

そもそも何で意思があるのだろう

 

ああ、もうどうでもいい

 

考えたって分かる物ではないのだ、だったら初めから考えなければいい

 

もうどうでもいいから眠っていたい、眠るという概念を持っているかも分からないが

 

けれど何か、何か大切なもの「……き」失っている気がして

 

こんなところで「……お…………ろ」

 

………………………………。

 

 

 

 

「起きなさい、遅刻するよ」

 

「……ん、眠い」

 

鳥が鳴き、窓から差し込む朝日

 

まだ少し肌寒いこの季節、あぁ

 

「おはよう母さん」

 

「おはよう」

 

 

平凡な、日常

 

 

 

 

 


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