リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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私の幸せ

日常が続く

 

代わり映えの無い、本物の日常

 

朝起きて、学校行って、部活して、ゲーセン寄って、金使って、晩飯食って、勉強して

 

それの繰り返し、退屈すぎるこの世界

 

生まれてこの方十六年、別段何か特別な事など無かった

 

そんなある日の、昼休みに

 

「はぁ、もしも……ねぇ」

 

「いや~なんというかさ、俺ってあの時勉強してれば数学平均点行けたと思うんだよな、うん」

 

うんうんと勝手に頷きながら飯を食う友人

なんでも返って来たテストが赤点だったとかなんだとか……いや、お前が勉強してる姿見たことねーから、授業も殆ど寝てね?

ちなみに俺はギリギリ平均点

 

「こういう時にドラ○もんがいたらタイムマシンとかで過去に戻れるのによ~、解答持って」

 

「どうせ空いた時間に遊びまくるだけだろ、テスト期間で部活休みだし」

 

俺でもそうする

 

「じゃあもし○ボックスとかか?俺が天才だったらという設定で」

 

「あれは自分を変えるんじゃなくて周りを変える道具だからな、てかどちらかというと望んだ並行世界を作り出す……とかじゃなかったか?」

 

「は?」

 

「つまりお前が賢くなるんじゃなくて周りがお前以上に馬鹿になんだ、社会機能大混乱だな」

 

「い~や~だ~」

 

電気水道ガス全てストップだな、うん

 

「はぁ、並行世界なぁ……あんのかな、そんなの」

 

「知らんがな、てかそんなもんに頼るなよ」

 

「え~、でも本当に天才の俺がいるかもしれねぇじゃんか」

 

「そうですね~」

 

棒読みで軽く受け流す

並行世界なんてどうせ人間の空想だろ?それにアニメみたいに自由に行き来するなんて事も不可能だからあったとしても俺らには関係の無い事だ

 

「でもあったら楽しそうだよな、『地球』の並行世界」

 

「そうですね~」

 

「科学が異常に発展してたり、魔法使いがいて魔王がいて勇者がいて」

 

「それはまた別世界じゃないか?」

 

少なくともアニメだろ、それ

……でも

 

「並行世界……ねぇ」

 

もしあったとすれば……別次元の地球というのはどうなっているのだろう

例えば……

 

 

今勃発直前の戦争なんて……可能性さえ無い世界とか?

 

 

 

 

 

 

 

伸ばしていた手が……止まる

 

何を考えたわけでもなく、無意識に

何が違うのかも分からない、本能は向かっているのに、それを押しとどめたのは残った理性

違うと聞いたから、映像を見たから、止められた

 

それでも、その不自然な動きは彼にとって理解するには十分で

 

「……まぁ、しゃあないか」

 

静かに、残念そうに呟いた

 

その顔はどこも変わりなく

それでも少し残念そうに、小さく笑ってみせる

 

「そうだな、ちょっとお話したいし……中入っていいか?」

 

ビクリと肩が震える

家に入れる、それは……どうなのだろう

今のところ彼から敵意は感じられない、その前に話がしたいとも言っている

だが……今は自分だけ、守護騎士のみんなはいない

でも……

 

「……うん、歓迎するな」

 

「ありがと」

 

彼を、私は招き入れた

 

 

 

 

 

 

 

自分が出したお茶に口をつける

毒が入ってるとか、そういう警戒心は無いらしい、まぁ自分が入れる筈もないしケント君ならそれくらい見分けられるだろうが

私はそんな彼の前に真っ直ぐと座る、鏡があったなら自分の顔は酷く険しい物になっているだろう

カツンという音とともにカップが机に置かれる、それと共にゆっくりと視線を向けて来る彼

 

「そんじゃ、何から聞きたい?」

 

意外な事に単刀直入、一瞬ビクリとした

目の前のケント君は回りくどい事をするのは嫌らしい

 

「……じゃあ聞くな、ケント君は何処におるん?」

 

「はやての目の前にいるよ?」

 

「貴方じゃない、私達が知ってるケント君の事や」

 

「ふぅん」

 

やや面白くないという表情

殆ど希望的推測だったが、もしかしたらと思い聞いて見たが……

 

「何故殺ったのか、じゃなくて何処にいる……か、実際体験したはやてならではだな」

 

「それじゃあやっぱり」

 

「ああ、あいつは『死んでない』よ」

 

呆気なく放たれた言葉に自分の体から力が抜けていく……まだ希望はあった

 

「にしてもよく気づいたな、『夢』の中にいることを」

 

「そうやな、女の勘、ってやつなのかもしれへん」

 

なんども映像を見て気づいた違和感、それはケント君の死ぬ間際

実際にリインフォースとなり、フェイトちゃんを取り込んだことがあるからなのだろう、崩れたケント君の残骸が、目の前の彼に流れていくのが分かった

どちらかというと吸収、だろうか、少なくとも違和感というだけだったので確信は無かったが……

 

「流石と言うべきか何と言うべきか」

 

「じゃあ次や、起こしてって言ったら?」

 

これも単刀直入、無駄口は挟まない

少しでも気を許せば、本当に彼に呑まれてしまいそうだから

 

「まぁ待ってくれよ、一つ聞いたんだから俺も一つ、等価交換だろ?」

 

「…………どうぞ」

 

焦り過ぎもよくないかもしれない

 

「そうだな……俺の事を知ってるって事は映像とか音声とかでだと思うけど……俺が本物であいつが偽物って言ったら信じる?」

 

それは音声で流れていたので聞いた

二人少しの問答、『偽物』という言葉にケントは過剰反応した

これにどんな意味があるのかは分からないが少なくとも

 

「私達にとってケント君は一人で、貴方は人殺しや」

 

そうか、という彼を見つめる

その瞳は虚無で、何を考えているのかは読めない

ただ、何も変わっていない

 

「にしても俺も随分と嫌われたもんだ、明日にら中将昇格なんだからパーと祝ってくれてもいいのに」

 

「え?」

 

中将昇格?

 

「そうそう、大変だったんだぜ?最低でも中将の位は必要だからさ」

 

「え、ちょっ、あの」

 

話についていけない、というか先程までの問答など無かったかのように明るくなる彼

一体全体どうしたと言うのだ

 

「俺さ、あいつが俺の中にいるから空白の三年間の記憶も少しだけ取り戻してんだ、JS事件から知らなかったからさ、みんなの事」

 

「JS事件?」

 

何故今更その名前が

 

「鮫島の能力で俺があいつと分離してからなんかマイホーム買ってるし家ではハーレム状態だし中学生の武道指導とかさ、合宿とか羨ましいよ……それに」

 

 

「可愛い彼女ゲットしてたりして」

 

「え?」

 

今、なんと言った?

 

「はやては知らなかっただろ?抜け駆けされてたんだぜ、親友にさ、何時の間にか告白して何時の間にか愛し合っちゃってるんだからな……羨ましい限りだよ全く」

 

「え、あ」

 

「周りにはこんなに好きだとアピールしてくれてる人がいるのに酷いよな、自分だけ愛に一直線、ホントに」

 

言葉が出ない

何故がこんな状態なのに、襲って来たのは虚無感だけ

 

「だからさ、はやて」

 

 

 

「俺は君の為に言ってるんだよ?」

 

「え?」

 

それは、甘い言葉だ

 

「俺とあいつは同じなんだ、いや、どちらかというとあいつは俺の模造品、俺を閉じ込め、我が物顔」

 

「俺が外に出たと思ったらもう一度押さえつける為に殺そうとしてきて、俺は自分を取り戻す為に戦って」

 

「なぁはやて」

 

 

 

 

「あいつは君を抱けないんだよ」

 

「う、あ」

 

 

「俺は君を愛してる」

 

「どれだけ憎まれようとも、閉じ込められながらも君がずっと好きだった」

 

「君と一緒にいたい」

 

「君に隣にいてほしい」

 

「俺とついて来てほしい」

 

「俺が世界を作る所を」

 

 

 

ぐるぐると世界が回る感覚

意識が飛びそうになる、何が起こっているのか分からない

 

心を委ねる、身体を委ねる

 

彼は彼だ、全く変わらない

 

一体全体みなどうしたというのだろう、何故本物偽物こだわるのだろう

 

そもそも本物も偽物も分からないのに

 

私の初恋、私の十年

 

心が休まっていく、治っていく

 

身体に力が入らない、まるで自分の物じゃないかのように

 

嫌じゃない、だって好きだから

 

理性が飛ぶ、繋がっていた心が崩れる

 

甘い甘い、そんな奔流に呑まれる

 

まるでお腹の中にいる赤ん坊のように、優しく抱きしめられるように

 

気付けば彼が覆い被さっていた、身体は相変わらず動かない

 

顔が熱い、目がトロンと垂れる

 

何故だろう、なんでだろう

 

なんでこんな事になったのだろう、どうしてこうなったのだろう

 

何も分からない、ここを超えたら戻ってこれない事は分かっているのに

 

それでも、これでもいいかなと思ってしまう

 

何も変わらない、私と彼が結ばれてそれで終わり

私にとってのHAPPY END

 

そう、それでいいじゃないか

 

幸せの中にいていいじゃないか

 

唇が迫る

 

だから…………

 

 

 

 

 

「駄目やで?」

 

「…………。」

 

押し倒された状態のまま、静かに自分の言葉を口にする

気付けば上はカッター一枚、しかも胸元までボタンは外れてチロチロと下着が見え隠れしている

 

「時たまおるで、そういう風に話術を使って来る人、ケント君の場合は催眠術になるんやろか……それでも本気で落ちかけたのは初めてや」

 

「……なぁはやて、俺は」

 

「うん、ホンマ、私ってアホや」

 

悲しそうな顔をする彼を尻目に、私は上体を起こす

彼の言うとおり今ここで彼に抱かれていれば……それは私にとっての幸せだろう

私が彼が好きな事は当たり前だし、私には二人のケント君の何が違うのかが全く分からない

それでも……

 

「それでもな、私が愛したのはケント君であって、貴方じゃないねん」

 

結局、この初恋、十年も愛し続けた相手は……たった一人の男の子

それが変わる事はないのだ

 

「ごめんな、だから貴方には、答えられへん、私は全力で大好きな彼を助ける……それだけや」

 

「そうか……」

 

彼がフゥ、息を吐いて離れる

 

「そうだな、残念だ」

 

 

 

 

 

「使い潰すには丁度いいと思ったのに」

 

声のトーンが下がる

それを気にせず、私はベッドから離れてデバイスを持つ

 

「はやての立場ってさ、丁度良かったんだよね……ほら、俺の事結構理解してくれそうだし、側に置いといて損は無し……みたいな?」

 

「そりゃ残念やわ、期待に答えられんくて」

 

「本当に残念だ」

 

ハハハと笑う

その顔はさっきとは違い……狂気に満ちている

 

「助ける、助けるな~、助ける助けないの前にあいつが自分を知るのはもうすぐだぜ?それに未来も決まってる、更にはやては」

 

指を向けられる、自分はバリアジャケットになる

魔力を溜める、杖を前に向ける

ただ……それよりも

 

 

 

「ここで死ぬし」

 

 

黒い何かが……襲いかかった

 

 

 


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