リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

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あなたのこと

 

「あ、ソース切れた、補充頼む!!」

 

「ちょっ、焦げた!!」

 

「買い出し誰か行って来てくれ!!」

 

忙しく動くテント、風船やらダンボールで作った看板、看板にはデカデカとタコの絵が書かれている

 

「全然間に合って無いって、まだ完成しないのか!?」

 

「そもそもこんな効率悪いのをしようとするのが悪かったんだろ、他のクラスみたいに冷凍食品にしときゃよかったんだよ!!」

 

今更そんな事を言っても遅い、決まってしまったのは仕方のない事なのだから、そしてもう始まってしまっているのだから

俺は忙しなく目の前の玉を転がす、まだ初夏といえど暑い物は暑い、熱せられた鉄板があるのだから余計に

出来上がった物を使い捨ての皿に入れて運ばせる、鉄板が空になったのを確認すればまた素を入れ……タコを入れる、その単純作業をどれ程続けただろうか?

 

文化祭、日本の中高生なら絶対経験するであろう一大イベント、その中で俺たちのクラスは必死に『タコ焼き』を焼いている

いや、何故タコ焼きなのかは知らないがクラスのアンケートでの結果なのでしょうがない、混みまくる文化祭でそんな時間のかかる物を作る事に不安はあったが結局これだ、需要と供給が全く噛み合っていない、ずっと列が出来て余裕がない状態が続いている状況だ

 

いやもうしんどい、暑い、怠いの三拍子が見事に噛み合ってるね、クラス対抗とか何か言ってたけど正直どうでも良くね?

 

早く自分の出番が終わって欲しいと思いながらタコ焼きを回し続ける、自分も色々な売店を回りたいものだ

 

そんな事を考えても文化祭はまだまだ序盤、嘆いたって始まらない

それにグダグダ言っていても純粋にこの時間を楽しんでいる自分だっている

 

ただ、それでも……何なんだろうか?

 

あり得ないのに、意味が分からないのに、何故か頭をよぎる事がある、確かにある違和感

 

 

 

俺は、この日を何度繰り返しただろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ強えわ、特に砲撃適性ゼロでこれは酷い、うん、無い」

 

傷ついたバリアジャケットを見ながら独り言をつぶやく

体がヒリヒリする、よく見ると右肩から血が流れている

 

「にしても連携すげーな、これが家族っていうのの力ってか?奥の手まで使わされるんじゃな」

 

周りを見渡す、場所は先ほどまでの結界ではなく一つのれっきとした『世界』

赤と黄金によって彩られたそこは始めて見る物なら圧巻、そうでなくてもあまりものプレッシャーで押しつぶされそうになる

そして、そんな華やかな劇場の中心には……

 

「そういえば見せるのは始めてだったっけな、すげー事なんだぞ?生まれてからまだ二回、これで三回目だ……綺麗だろ、はやて?」

 

劇場の中心にいるのは、バインドで手足を縛られた八神はやて

その体に目立った外傷は無い、バリアジャケットが所々破れているくらいだろうか?

 

「君たちは強かった、それと同時に俺の支えにもなってくれた、だから殺すとかそういった野蛮な事はやめとく、明日には全部終わってるからさ、だから見守っててよ、俺が世界を変えるのを、全部終わらせるからさ、君達は……そこから頑張ればいい、うん」

 

彼女に意識はなく、だらんと下げた頭を顎を支えにして触れる

仕事を終えた劇場が崩れていく、周りに転がっていた守護騎士達を集めて固める、気を失っている内に管理局の獄内にでも押し込んでおけばいい、所詮明日まで、今の自分ならそれくらい出来る権力がある

 

「明日になれば、あいつが見ている夢も終わる、その時に全部変わるんだ、だから見ていてくれよ」

 

 

 

「魔法の原初を、コルテットの遺産をさ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「一足遅かった、というべきですね」

 

要約された自分の予言書を見て息を吐く

内容と言えばいつも通りの分かりづらく、遠回りな内容

ただ、それでも、もっと早く伝えられなかったのかと

 

「それでも、私は信じていますよ、何だって私が一番、あなたとの付き合いが長いのですから」

 

一筋の涙が流れる、自分の無力さからか、それとも……

 

「それと、帰って来たらちゃんと聞かせて下さい」

 

 

 

 

「あなたの、前世を」

 

 

 

 

 

 

 

 

闇の中

 

右も左も何もない

そんな世界に彼はいた

 

暗闇、夜

いや、夜ではなく『埋め尽くしている』と言うべきか?

 

体も服も真っ白な子供

 

遊びたがりの年である子供

 

ただその目はどこか遠い場所を見つめていて

 

「……どうかしたの?」

 

闇に向かって問いかける

反応はない、ただそれでも少年は異変に気づく

 

『友達』が忙しく動いている、どうしたのだろう……と

 

首を傾げる、どうしたのかともう一度問いかける

返って来たのは……閃光

 

「……………え?」

 

ドンッ、という爆発音

闇に包まれていた世界に光が差し込み、それと同時に熱が暴れ出す

 

一瞬炎が立ち上がり己の世界を包み込み……闇が再び支配していく

 

ゆっくりと爆発が起きた方向へと向き直る、そこの闇だけが取り払われていく

 

先にいたのは、見た事のあるお姉さん

 

「三人いた中で、あなたが一番つけ入りやすそうだったから、どう見ても自分の意思の様には見えないし、ただそのロストロギアに振り回されているだけ」

 

「?」

 

首を傾げる

金髪のお姉さんはそれと同時に再度刀を振るう、振動する世界、暴走する熱と光

……雷、なのかな?

 

「お姉さん?」

 

頭の処理が追いつかない、今の自分が『暴力を振るわれている』という事は理解できるのに何故そうなっているのかの過程が全くわからない

 

「私だって本当は嫌だよ、見た限り、貴方は最初に会ったときのエリオやキャロと同じ位の年だと思う」

 

再度、刀が振るわれる

その度に闇が盾になって攻撃を防ぐ……『友達』が守ってくれる

 

「私が聞きたい事は一つだけ」

 

足が止まる、危険だという事を察知したのだろうか?

結局それは正解でそれ以上近づけば『友達』は本気で彼女を潰しにかかっていたかもしれない、だって『友達』だから、僕の為に戦ってくれる

だけどそれは駄目なんだ、だって

 

「あいつは、どこだ」

 

「お姉さんは」

 

 

 

 

「僕の友達になってくれる?」

 

 

友達を作るのだから、まずはお話しないと

 

 

 

 

 


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