「それでね、その時にシャッハが~」
「へ、へぇ~、そうなんだ……」
季節は相変わらず夏……と秋の間くらい
蝉の鳴き声も少しずつだが収まって来るこの時期
休みが開けた学校の廊下を歩きながら隣の人物に目を移す
長く伸びた緑の髪に整った顔立ち……
十人中十人が『カッコいい』と答えるであろうその少年からはなんというか……よくわからんプレイボーイ臭…………
あの最高神が現れてから早一ヶ月、学校も二学期がスタート
夏休みの宿題は………頑張った………
なんなのあの《将来の夢について考えていることを原稿用紙10枚で書きなさい》って………エゲついにも程がある……
小一に原稿用紙10枚ってふざけてんじゃないの?
「それてその時姉さんが」
「へぇ~、そうなんだ………」
それと……最高神はちゃんと過去を改変してくれていた
爆弾事件の事は『なかった』事になり、あの日はみんな一日中コルテットのプールで遊んだ事になっている
もちろんプールに出来た爆発跡も全て消えていた、捜査も元からなかった事になってるしあれからの夏休みはSP付きだったら外に出る事が出来た
そして新学期………いつも通り教室で一人きり、昼休みにカリムが来る以外誰も俺に近づこうとしない筈なんだが………
「ん、聞いてるかい、ケント君?」
「うん、聞いてる聞いてる」
新学期から突然話しかけてきたのは五つ年上の初等科六年生、『ヴェロッサ・アコース』
カリムと同じく教会通いのレアスキル持ちエリート
ぶっちゃけそれまで俺は話した事もなかった筈なのにいきなり喋りかけてきたのだ。最初はかなり警戒した
なんたって『心を見透かす』レアスキルの持ち主なのだ、前世の事やコルテットの情報、『なかった』筈の事件などを知られてしまったらひとたまりもない
そんな相手が気軽に話しかけてきたのだ……警戒だってする
ただ………
「ん、もうこんな時間か……それじゃあ、またお昼に」
「ん、わかった」
ヴェロッサ………ロッサの話しによると俺らはプールの時に意気投合?してずっと一緒にいたらしいのだ………
プール爆発事件がなくなってしまったせいで俺以外の人間はあの日普通にプールを過ごしたのだ………
そしてその記憶の中には俺もいる
ロッサは爆発の直前に現れ、俺らを助けた。
だがそれは『爆弾事件』がある場合の話、この世界では一日プールを満喫した事になっているのだ
なのでロッサはあの時からプールに参加、その時に一人でプールサイドにいた俺に話しかけて来てもなんら不思議ではない
気軽なロッサのことだ……絶対に話しかけてくる………
はっきり言ってこれは誤算だった……そのせいで話題を合わせるのに必死………メイド達も俺の反応に不思議がるし爺もかなり不思議がっていた………
まあそんな事もあったらしいので、ロッサは今ではちょくちょく俺の教室に遊びに来て、お昼になるとカリムやシャッハと一緒にお昼を食べる
確か……公式設定ではロッサは幼少時代、親に捨てられたところを聖王教会に拾われ、世にも珍しい古代ベルカ式のレアスキル持ちだったからカリムと一緒にさせられたはずだ
だが現実はそう甘くない、学校ではそのレアスキルに対する妬みや嫉妬のせいで恵まれた幼少期を過ごせなかったそうだ……それが今の姿
確かに……この数日でロッサが同級生の男子といるところを見た事がない……女子に囲まれているのは見るが………
まあ、ちょくちょく俺とは違うが大部分は同じ……妬みと嫉妬………
こいつは……同類を見つけて嬉しいのだろうか………いや、原作ではそんな奴じゃなかった……もっと純粋な理由で、俺と一緒にいてくれている……筈……
だけど……油断は……出来ない……
なんたってあのレアスキル………教会からの指示でコルテット内部の情報を探りに近づいて来たかもしれない……
俺と一緒にいるのはただの『命令』なのかもしれない……
もしかしたら嫌々で俺のそばにいるのかもしれない………
仮初めの『友情ごっこ』をするために優しくしてくれているのかもしれない………
ダメだ……爆弾事件のあの日から周りの人間がどうしても信用出来なくなってきている……
今まで『安全』だと思っていた家までもが今では敵がいるかもしれないのだ………
今では誰も……信用出来ない………
そして………そしてもし、ロッサや、これから出会う人達がそんな『仮初め』の友情ごっこを望むんだったら………
初めから……友達なんて望まない
信じられるのは、自分だけ……
チャイムが鳴る
次は魔法学の授業だ………
それでも、今の俺は一人では生きていけないのもわかっている
だから、一人で生きていけるまで『仮初めの』友情ごっこに付き合おうじゃかいか……
俺を狙ってくる奴は全部付き合ってやろうじゃないか………
もう誰も信用出来ないのだ、自分を守るのは自分のみ
今はまず、力をつける
誰にも負けない、誰の助けも借りない自分になる
強くなるんだ……どこまでだって………