カチカチカチカチ
忙しくキーボードを叩く
画面には幾つもの『エラー』が映し出され、その先が『危険』だという事を示している
カチカチカチカチ………
それでも少年は手を止めない
一つずつ、的確にロックを外していく
そして………
「また……か………」
少年はフゥ、と一息ついて椅子の背にもたれかかる
額には汗、相当神経を使ったのだろう。顔には疲労の色が見える
「流石はコルテットの警備システム、安い仕事してねぇな」
ハハっと乾いた笑みを見せる少年
そして数分休むとまた画面に向き合う
その顔は……険しい……
「ただで済むとは……思うなよ」
そして少年は、また一人笑う
カチッ
「……………フゥ」
疲れた、やっぱり幾ら皇帝特権と言ってもなれない事を長時間するもんじゃない、おかげで頭が怠い怠い
だがそれだけの苦労が実り、今日は一つ、《研究所を再起不能》にさせる事が出来た
一つ丸々落とせる事なんてまず無いからな、今回はそれ程重要でもなかったという事か?
「お前にAIでもついてたら、労いの言葉一つかけてくれても可笑しく無いんだけどな」
三年間一緒にいる相棒に軽く語りかけてみる
そしてやはり無反応、まあもう慣れた
この三年間、俺の周りは殆ど変わっていない様にも見える
あれから内部からの襲撃が無いのが何とも不自然だが……それは一先ず置いておこう
俺は原作の進行度合いを確認する為に毎日と言っていい程インターネットに向き合っている、別に中毒やらなんやらじゃないから安心してほしい
そんでもって二年前、俺はある事を気がついた
『皇帝特権を使えばもっと情報集められるんじゃね?』と………
なので皇帝特権によって『ネットを完璧に使いこなせる』様に『主張』してみた
そうすれば出るわ出るわ、97という管理外世界なのに情報が
文化やら軍事力、人口から言語まで………
最初は楽しかったよ、皇帝特権で少し主張するだけで色々な情報を見る事が出来る
それだけにしとけば良かったんだ、そこで止めておけば今、俺がしている苦労は全部ない
本当に興味本位だった、あとのときは浮かれていた
もっと情報を集めたいと思った俺は、次に『一流のハッキング能力』を主張した
そこで見つけた………
『大企業の裏側を』
人体実験に軍事研究、細菌兵器の開発やクローン技術
そして、それをしていたのが『コルテット』
普通のハッキングでは決して入る事が出来ないエリアに俺は踏み込んでしまった
初めは自分の目を疑った、こんなの嘘だと
だがそれは真実、目の前で開かれた研究ファイルに入っていた画像には変わり果てた子供の姿………
俺と皆年は違わない、『新薬の開発』の為に研究所段階の薬を飲まされる子供達
『新たな技術』の為にクローンとして作られ、作られた瞬間に『不要』と言って殺される人達
『新たな兵器開発』の為に、細菌が充満した部屋に閉じ込めたその研究データ
………馬鹿げてる
一日に何百という人達が死んで行っている
そして、その殆どが親に捨てられ、人身売買によって売られた子供だということ……
あくまでもこれはコルテットの『裏』
コルテットの人間全てが関与している訳でもない、関与しているのはほんの僅か
さらに、コルテットは世界の市場を実質支配している大会社、管理局が動くことはない
そして……この実験によって世界の技術が進歩しているのも事実…………
馬鹿げてる…………
そして、やはりクローンというだけあってやはり『プロジェクトF』にも関与している……裏金、技術の提供、それらを『実験結果の報告』との対価交換
馬鹿げてる
やはり最初は吐いた
当たり前だろ、幾ら転生者と言っても中身は普通の人間、そんな画像を見れば誰だって吐く
調べれば調べる程、そんな情報は嫌という程入ってくる
調べれば調べる程、組織の裏側が見えてくる
…………現実は、残酷だ
「フゥ………これでよし」
カチッと、また一つの研究所にハッキングをかける
コルテットの警備システムは異常だ、普通の人間なら入る事はまず不可能
もし入れたとしても確実に足跡が残る、そうなれば『裏』が動き、ハッカーは社会的に消滅している
足跡を残さず、ハッキング出来るのは……俺しかいない
馬鹿げてる
「ハァハァ……ハァハァ」
頭をフルに回転させる
コルテットの警備システムの前ではたった一瞬のミスが命取りになってしまう
もしこれに……俺の両親が関わっているとすれば……俺も無事では済まない
馬鹿げてる!!
「くっ、思った以上に……硬い!!」
必死に手を動かすがセキリティが硬すぎてこれ以上は無理
皇帝特権の効力も切れ始めてきてる……今日は、終わりか………
「くっ……ハァハァ………ハァ」
皇帝特権が切れるギリギリのところでなんとかアクセスを切る
やっぱ……一日二つは無理があるか……
額の汗を拭う
やっぱり体力の消耗は想像以上、頭を使うだけあっていつもキツイ
だけど……これをやれるのは世界中どこを探しても俺だけ、他に頼る方法がない
この事実を知った俺が行っているのは《研究データの破壊工作》ならびに《自動迎撃システムの暴走》
研究データを完全に抹消させ、あらかじめ迎撃用に作られているガジェットの様なものを暴走させる、これで大概の研究所は潰せるのだが……やはり一回一回ハッキングをかける事によってセキリティが強化される
最初は難なく出来た破壊活動も今では一日一個出来たらまだよい方、酷いときは一週間手詰まりだった事もある
それに幾ら潰しても研究所は一行に減らない……絶対量が多すぎる、俺一人じゃ完全に破壊出来ない
こんなにあるのに局が知らない筈がない……確実に……上が黙認している
さらに……コルテットをもっと探ると数億の金が消えている事が判明した
それを見逃す程甘くない、ハッキングを繰り返し、それが地上本部に流失している事を確認
そこから地上本部の最新部、コルテットの技術がフルに使われたデータに皇帝特権を使って約一ヶ月調べた結果………それがあの脳味噌共に渡っていることが判明した
使い道はほぼ同じ、クローン技術や兵器開発、既に『無限の欲望』がコルテットとの共同開発によって作られている事もわかった
だがそんなことはまだ軽い、俺がこの世に生まれてきて一番目を疑ったもの……それは……
《魂の転移研究》
指定の相手の魂を抜き取り、他の相手に移し替える研究、いわば『憑依』
あの脳味噌共………完全に復活する気でいやがる………
詳しい研究内容や関わっている人物、研究所の場所は《皇帝特権を使ってもわからなかった》
なのでこの研究は続いているのか、はたまた凍結しているのかさえわからない
だがこんな技術が実現すれば最悪だ、気づかない内に体を乗っ取られている可能性だってある
くそっ、リリなのってこんな世界だったか!!
そして浮かび上がった不可解な点がもう一つ
今まで話したこれらの研究、全て《俺が生まれた直後に開始されたのだ》
なぜなのかは全くわからない、それに関する記述は何もない
ただ言えることは……《俺が生まれたときに何かがあったという事》
くっ、考えても仕方が無い
今は俺が『コルテット』として、やれる事をしていく必要がある
幾ら時間がかかってもいい、前に進まないといつまでたっても終わらない
一つ一つ、一歩づつ……自分一人で……
頼れる人間なんて、いないのだから……