リリカルな世界で苦労します   作:アカルト

57 / 176
クローン

 

「ふぅ……ひとまずこれでいいか?」

 

少女に当てていた手をどけて額の汗を拭う

今俺がいるのはコルテットの船の中

まだ結婚式は続いているのだが……事態は一刻を争ったので皇帝特権を使い、船の中まで飛んだ

そんでもって医療室、これだけ大きな船だ、医療用具も一通り揃ってある

外傷と内部の手当、麻酔を使って足に突き刺さっていた銃弾の除去

 

ひとまず一命は取り留めたとおもう、顔に表れていた苦痛の表情も今は大分マシになっている

 

そしてその素顔は………紛れも無く俺

いや、所々違うところもあるのだが………まずこの子、俺よりもなんかこう……顔全体が柔らかい感じ……女の子だ

年はどれくらいなのだろうか……俺よりも数センチだけ小さいと思う

ぶっちゃけ『双子』と言えば分からないのでは無いか……いや、間違える事はないのかもしれない

俺はセイバーなのに『男』と認識出来る様にこの子の第一印象は『女』、何と言うか……俺とはまた雰囲気が違う

 

そして……そこから導き出される結論は……

 

(クローンね……無人世界だから安心か、それに逃げても誰も頼りになる人間がいないし)

 

クローン………簡単に言うと俺の偽物

ここは無人世界、更にコルテットの私有地

そんでもって超セレブの結婚式ぐらいしかここに来る事がない……人体実験には丁度いい場所だ

もし逃げても無人世界なので庇ってくれる人間はいない、それにより外にこの事が漏れる心配もない

逃げたら逃げたでそこからはリアル鬼ごっこ、捜索の為に裏の人間を呼び、見つけ次第処分するってか?

今回のパターンは俺のクローンが逃げようとする最中に研究関係者に見つかる……逃げられないと悟り自身の力で撃退ってか?

よく見てないが……黒こげになった『何か』があったしな……残念ながら俺はそんな物を見慣れているわけではないのですぐに目を逸らしたのだけど………

 

「よいしょ」

 

取り合えずベッドの横に椅子を持って来て座る

寝息を立てる少女……恐らく数日は起きないだろう

複雑な気分だ……これは自分では無いと自覚しているのにこの子の境遇を考えると自分を照らし合わせてしまう……自分が銃弾の渦に呑まれ……実験動物の様な………

 

………この子は、プロジェクトFによって作られた子なのだろうか

もしそうだとすれば……心苦しいのだが少しだけ記憶からを消さないといけないな、前世の記憶や神なんて物の事を知られているとすれば面倒だ

 

そして……この子を作った組織……

 

恐らく……いや、絶対に………

巨大な組織には絶対に影がある……それは十分に知っていた事だった

しかし、映像で見るのと実際に見るのでは訳が違う

………苦しいのだ、この子の事を思うと……これが俺が好き勝手した事への罪だと思うと……

 

「はぁ……」

 

取り合えず……どうしようか……

馬鹿正直に『この子は僕のクローンです』なんて言う事は出来ない、コルテットにとっても局にとっても……この子の事を思っても……

かと言って『コルテットとの関係を切る』なんて事も出来ない

誰かが守ってやらなければすぐに消されてしまう……コルテットと対等に渡り合い、彼女を本気で守ってあげられる存在……

 

「俺しか……いねぇじゃねーか」

 

分かりきっていたことだ、この子を守れるのは俺しかいない

近いうちにあの研究所が潰された事、彼女が失踪したこともすぐに上へと伝わる……ならばその手から守ってやらないといけない

だが……それでも足りない……一応考えはあることにはあるのだが……それに彼女が頷いてくれるかどうか……

 

「…………通信か?」

 

気付けばディランダルが通信をキャッチしている

相手は……爺か……

まぁ当然だわな、もうかれこれ一時間以上はトイレの中、調べてみたらもぬけの殻だったのだろう

この子は当分起きないし……結婚式に戻ろうかね……

 

ここで出来ることは殆どないからな、それにしても彼女……

 

 

魔力値SS+って……どう考えてもおかしいだろ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「酷い」

 

一人つぶやきながら彼女は焼け跡を見渡す

そこには廃墟、火は殆ど消えているがチラホラまだ微かに燃えている所がある

だがこのクレーター、生存者は恐らく絶望的だろう

そして………

 

「血」

 

地面にべっとりとこびりついた血、そして銃弾

さらには転移した時の残留魔力、己のデバイスに座標の逆算をさせ、その目的地に彼女は目を見開く

彼女が今回の事に気づけたのはホントに偶然、偶々デバイスが遠くで爆発した魔力を察知したのだ

自分の仕事の為に自身のデバイスはこういった分野に少しだけ特化させてある、相手を逃がさない様に……出来るだけ早くに駆けつけてあげられる様に……

 

しかし結果は間に合わず、そこにあったのは廃墟と血の跡、そして残留魔力

もし、この銃弾を放ったのが転移魔導師なら………この血は被害者の血なら……

 

駄目だ、転移先は兄の結婚式場のすぐ近く、

このままでは……危ない

だが………

 

「ケントの……魔力?」

 

転移の為の残留魔力を調べた結果、その特性はケントの物

しかし………爆発したと思われる魔力についてはエラーが続くばかり

彼女の脳裏に最悪の光景がよぎる、この血がケントの物だったら………この銃弾がケントの肉を引き裂いていたら……

ケントが今も……助けを求めているのだとしたら………

 

彼女、フェイト・T・ハラオウンは飛ぶ

 

転移先は、コルテットの次元航空船

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。