「……………暇だ」
広いグラウンドの上で突っ立っていながら一人呟いてみる
目の前には元気に走り回る同級生、足元には白黒のボール
遠くにあるネットが揺れる、どうやら得点をとったらしい
これでわかると思が今の時間は体育、内容はサッカー………
最初は嬉しかったさ、転生してから六年間、ろくにスポーツしてないし……
前世でサッカーは別段上手ではなかったが楽しみな物は楽しみ、それに体育を通して始めての友達が出来るかもしれない
そう思って臨んだんだけど………
「結果があれじゃあな~」
この身体のスペックはセイバーと変わらない
確かに、彼女の持ち味である強大な魔力放出などは、魔法を使った事がない俺だと使用する事が出来ない……筋力や耐久なんかは一般人まで下がってしまう
しかしだ!!
例え魔法が使えなくても英霊としての反射神経や未来予知並みの直感、もっと言うと全体的な運動神経などは常人を遥かに超えている!!
その能力をフルに使い!!サッカーボールを奪取したのだ!!だが!!
(なんでみんな逃げんだよ)
サッカーって普通相手のボールを奪うよね?
ディフェンスするよね?
なのに!!なのにだ!!
何故半径五メートル以内に近づかない!!
さみしすぎるよ!!ドリブルしてもド真ん中一直線!!
パスなんてする必要がないから渡す事も出来ない!!
せめてキーパーは……と思ってシュートしたけど『防ぐふり』してゴールした……
あれか?俺の機嫌を損ねない為か?
俺からボールを奪うのがそんなに怖いのか!!
俺のシュートを止めるのは駄目な事なのかよ!!
そんなに俺の機嫌損ねたくないのかよ!!
やめよう、悲しくなってきた………
そんな訳で今の俺は味方からパスを貰えない様な位置にいる
だってボールを受け取ったとしても……
周りに敵味方、自分以外合わせて二十一人から注目をあびながらの一直線ドリブル
必ず入る形だけのシュート
…………体育、早く終わらないかな?
「どうしたのですか?顔色が悪いですけど……」
「いや、大丈夫ですカリムさん、気にしないで下さい」
体育の時間が終わり今は昼休み
場所は庭で、目の前にはカリムが自分のお弁当を広げている
その隣にはシャッハが座っていたがさっき何処かへ行ってしまったきり帰って来ない
ん、お弁当?
そう、お弁当だ
何故だか知らんが俺が『一人で』昼飯を食べようとしていると二人がわざわざ中等科から声をかけに来てくれたのだ
どこのギャルゲーかと最初は思ったが俺はそんなに嬉しくない
だってこのよくわからん形をした庭で弁当を広げているのは俺らだけではないのだ
周りには同じ初等科の奴や中等科の先輩達だっている
そこにだ、中等科でも恐らくマドンナ的ポジションにいるカリムとシャッハをどこぞの初等科が一緒に食事している
俺がただの学生ならまだしも俺は『コルテット』の一人息子であり、自分で言うのはいつも恥ずかしいが顔も文句なし
嫉妬こそあれど何も言い返す事が出来ないのだ。
それこそ、自分達に俺より『勝る所』が無いために
それにまだある
昨日の事件、何処から漏れたのかは分からないが噂は中等科に広がってしまっている
曰く『家の力を乱用する最低野郎』
どこで知ったかって?
廊下を歩いてたら聞こえるんだよ……本人達は聞こえてないつもりでも丸聞こえ、トイレに入ろうとすると大声で怒鳴り声や俺に対する評価とか聞こえてくるしね
ちなみにそのトイレに入ったら中等科の男子達が顔を真っ青にして逃げ出した……はぁ……
それにカリムについてだって『脅されてる』とかも噂されてるし………
俺……そんな最低野郎に見えるかな………
なんかこの頃精神的に辛い事ばっかです
まあそんな理由もあって中等科男子からの視線が凄い
それに庭だけでなく校舎の窓からも………
視線で人を殺せたら何度死んでるかな……俺……
「あの……立派なお弁当ですね」
「ん……はい、普通でいいと言ってるんですけど毎日こんなのです」
俺の弁当を見ながらカリムが驚いた様な声をあげる
俺の弁当?
先ずは弁当箱、俺にはよく分からんが表面がツヤのある黒に金の装飾が満遍なく描かれている
これ……本物の金じゃないよな?
………今度値段聞いて見よ……
それが普通サイズで二段、初日にアニメでよく見る重箱なんか持たせやがったので変えさせた、量が半端ないし……
そんでもって中身
タコさんウインナーに卵焼きにミートボールに………な筈がない
俺始めて弁当にキャビアやらフォアグラやら入れてるの見たよ、どう考えてもあり得ないだろ
他にはこっちの世界で言うミシュ○ンの三ツ星シェフ達が腕によりをかけて作った具材
唯一変わらないのは白米だけだ……どんな白米かは別として……
あと料理の話で思い出したんだが、この前『リーガルマンモス』の肉とか出たんだよ
美味しくいただきました、ちなみに体はちゃんと光りました
「すみませんカリム、探して見たのですが……」
「そうですか、有難うございましたシャッハ」
何時の間にかシャッハさんが帰って来てた
探してた?何を?
「あ、まだ話していませんでしたね。
私には義弟がいて、一緒にお昼をしようと思ってたのですが……」
「また誰かをナンパしてるのでしょう、大丈夫です。心配かけました」
………ロッサだな
てかあいつ、この年からナンパしてたのか?
確かレアスキルのせいで恵まれた幼少期送れなかったんじゃなかったか?
…………俺の言えたことじゃないか、現に恵まれてないし、俺
嫉妬と呪いの視線が延々と突き刺さる中弁当を食べ始める
途中で二人が物欲しそうに見てくるのでそれぞれ好きなものを一つあげた
両方共その味に驚いてたが………俺的に別段美味しい訳じゃない
やばい、六年間もこんな料理食べてたせいで舌が肥えた……
このままじゃこの生活から抜け出せなくなっちまう!!
俺は普通の高校生にもどりてぇんだ!!
贅沢は敵だぁぁぁぁ!!
弁当は美味しくいただきました