「さて、どうしようかな……逃げるが勝ちってな!! アバヨ、ダンゴムシ!!」
俺は今、目の前に居る一機のダンゴムシ(通称ガジェット)に背を向けてダッシュ。そんな俺を追いかけてくるダンゴムシ……ああ、何でこうなった!! 内心でそう吐き捨てながら、死に物狂いで走る。すると、何かが俺の左頬を掠り前方にあった木に穴が開いていた。
左頬からツーッと血が流れる。
「ちょっ!! マジで、冗談じゃねぇぞコレ!!」
何で、こんな事になっているのかは、時間を少し遡らなければならない。
「うん……んあ……此処、何処だ?」
光が収まり、瞼を開き顔を覆い隠していた両手をどけると、そこには……大木があった。彼の思考は一瞬だけ停止したが、すぐに作動し、辺りを見回す。
木。木。木。まさに木が三つ足されて森と言った感じの完全な森だった。
「おいおい、マジかよ。さっきまで俺は公園に居たはずだぞ。まったどうなってんだよ、マジで……」
頭を抱えるしかない。今俺が居る場所が、マジで『魔法少女リリカルなのは』の世界だったらもう笑う事しか出来ないぞ俺……冗談なしにな。非常識にも程があるが、今の俺の状況も非常識に程がある。
「アホみたいに考えても仕方ねェ。歩くか……とその前に、」
俺は何時の間にか首にかけているアミュレット手に取った。見た目からして、あのアミュレットだ。そうデビルメイクライのあのアミュレットだ。何が何だか意味が分からない。まぁ、分らない事を気にしても仕方がねぇから、歩くか。歩いて、何かしらの手掛かりを探すしかない。
はぁ~、何でこんな目に合わないといけないんだよ俺が……全くついてねぇな。
まだここが『魔法少女リリカルなのは』の世界って決まった訳じゃないしな。俺はそうだと信じたい。
それから、約二時間ほど歩いた……多分、二時間……二時間であってほしい。
さっき携帯を開いてみたんじゃけど、圏外とかテラ鬼畜。更に充電が残り10%を切っていたよ、もうオワタだ。
携帯を開いたら時間が分かるじゃんと思うが、俺の予想では、多分時間はあっていないと思う。
だから、俺は直感を信じることにした。
それまでの時間は、普通に歩くのはつまらないから何デカ知らないが首にかかってあったアミュレットを首から外して、手に取って眺めたりしていた。うん、只それだけだから直ぐに飽きた。
このアミュレットが一体何なのかは全く分かっていない。
話がガラリと変わるが小腹が空いて堪らん。腹の虫がさっきから何度も鳴っている。
そして、グゥ~っと一際大きい腹の虫が鳴った。うん、突然盛大な音鳴らすなボケ!! そう叫びながら、俺は自分の腹を押さえつけた。
その時、後ろの草むらの方からガサガサっという音が聞こえた。
普通の人なら恐怖感が先に来ると思うが、この時の俺は腹が減りすぎてストレスでマッハだったんだ。意味は分からないと思うが、雰囲気で察してくれ。
「メシーーーーー!!!!!」
俺はその草むらに向かって、ダイブをした。今になって思う……なんで俺はあんな事をしたんだろうなってな。仕方ねぇって言えば仕方が無かったんだよな……もう、まともに思考する事なんて出来る様な状態じゃ無かったからな。
ガツンと何かしらの鉄の様な硬い物に額をぶつけた。鉄の様にヒンヤリしてて、手で触るとツルツルしている。更に万遍なく触ってみると、卵型というのが分かる。丁度目の前には丸い赤いレンズが見える。そのレンズが赤く光り出していて嫌な予感がヒシヒシと伝わってくる。
「ヤバスッ!!」
俺は体を捻って、この良く分らんダンゴムシ(俺が勝手につけた名前だ。)から離れた直後。赤いレーザーが赤いレンズから発射された。それは後ろにあった大木を貫通していった。
全身から冷や汗が流れる。
それから、冒頭に至る。
「今の状況って、冗談なしにヤバイよな……誰も答えてくれるわけねえか!!」
嫌な予感がした俺は、スグに横っ飛びをした。すると、先ほどまで俺が居た場所に赤いレーザーが迸った。何かしらんが今日の俺の直感は冴えてるかもしれんな。
そして、また悪寒が背中に走った瞬間に体を前に倒した。丁度頭があった所をあの赤いレーザーが通って行った・今のはヤバかった!! マジでヤバかった。アレが当たっていたら、頭が完全にザクロ状態だ……シャレになんねぇな。
つうかよぉ、何で俺はこんな目にあってんだよ。ふざけんじゃねぇぞ!! だんだんと血が頭に上り、怒りが溜まって行く。
どうにかしてこの怒りをぶつけたい俺は、とうとう逃げる足を止めて後ろを振り向いて、ダンゴムシに向かって猛然とダッシュした。
「只のダンゴムシ風情が、人間様に刃向ってんじゃねェ!!」
超低空ドロップキックをダンゴムシのドテっ腹ぶちかましてやった。それにより体勢が不安定になったダンゴムシが大木に突っ込んでいった。
「人間様なめんじゃねぇぞ!! クソダンゴムシ!! Fuck you!!!!」
感情の行くままに、言葉を発して中指を立てた。このクソッタレ!! 俺は背を向けて歩き出した。もう関わりたくない、その一心によっての行動だった。
「こんな所にいたら、命が幾つあってもたりねぇ。さっさと移動しよう」
言葉に出して、自分に言いかける。こうでもしないと、精神がマッハでヤバイ。背を向けて一歩目を踏み出そうとした時ジワリと腹部に熱が広がるのを感じた。その部分を手で触れた。
「ハハハハハ……マジで、冗談じゃねェ……」
手は血に染まっていた。それを認識した瞬間、腹部が熱くなるのを感じた。まるで、熱した鉄を押し付けられたような熱さ……痛みより熱さの方が強い。頭がおかしくなりそうだ。両膝を地面に付いて、すぐに両手も地面に付けた。
そして、ドバっと赤黒い血を吐きだした。
意識が朦朧とする。
焦点が合わない。
視界が霞む。
ああ、マジで冗談じゃねェよ。
俺はまだ死にたくねぇよ。
やりたい事は沢山あるんだよ。
美人な嫁さん貰って、子供が二人から三人ぐらい作って平和に過ごして、息子と一緒に飲みに行くのが夢なんだよ。
こんな所で死ぬなんて……マジで……冗談じゃ……ねェ……冗談……じゃ……ね……ぇよ……。
俺の意識は落ちた。