王の剣が使い魔   作:セスナ1028

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第2話

 

やはりここは異世界で間違いないようだ。

その結論が決定的になった瞬間は、ステルラが空を見た時だった。

 

空が夕暮れへと近づき、浮かび上がっていく月が二つだったのを目撃した

ステルラは、多少想像していたとはいえ驚きを隠せなかった。

 

「――で? あんた、何処から来たのよ」

 

ルイズの部屋の窓から視線を外し、ステルラは主へと視線を向ける。

授業は全て終わり、残りの時間を使い魔と過ごすという事になったために

二人はルイズの部屋へと戻ってきていた。

 

「何処から、か」

 

少なくとも彼女は自身の主に当たるのだから、嘘はつかないほうがいいだろうが。

少し考えてステルラは口を開く。

 

「君は、俺が違う世界から来たと言ったら信じられるか?」

 

「……信じられないわね」

 

「なら、お互いの国の名すら知らない程に遠い異国から呼ばれたとでも思ってくれていい」

 

ルイズの信じられない、という言葉にステルラはそうだろうなと内心同意していた。

出会って半日も経っていない、それこそ二人は知り合い未満の関係だ。

そんな人物から「異世界から来ました」なんて言って無理に信じさせようと出来るわけがない。

それなら今は異国から来た、という事にしよう。というのがステルラの考えだった。

 

「俺がどこから来たかの問答は今度でいいだろう。で、他に聞きたいことは?」

 

「あんた、強いの?」

 

また答えに困る問いをしてくるな、とステルラは内心で愚痴る。

この世界に来る前は、彼は多数の魔物やシガイを相手に戦える程度の実力は持っている。

だが、もしもこの世界でウルフラマイターやデスクロー、ケルベロスなどの強敵をこの世界の魔法使いが魔法一発で倒せるようなら、ステルラは

自分の事を強いなどとはこの世界では口が裂けても言えないだろう。

つまりは強さの基準がこの世界とあちらの世界とでは大きく異なる可能性がある、とルイズに告げる。

 

「はあ……使い魔としての役目ができるか心配だわ」

 

「使い魔としての役目?」

 

ステルラが首を傾げると、ルイズは三つの指を突き立てた。

 

「使い魔には三つの役目があるわ。一つは主人の目と耳となること」

 

「目と耳? どういうことだ」

 

「視界と聴覚を共有する魔法があるの。アンタの視界が私にも見えるのよ」

 

確かにそれは便利……なのか? 使い魔と主は常に一緒にいるようなもんだと思っていたが。

 

「二つ目は、主人の望むものを見つけてくることね」

 

「例えば?」

 

「秘薬に使う材料とかね。硫黄とか、苔とか」

 

ようはお使いか。とステルラは思った。

そういったことは幾らでもしてきたし、言われれば持ってくることもできるだろう。

 

「そうだな、持ってきてほしい物の資料をくれれば探してこれそうだ」

 

しょっちゅう自身の武器強化のために走り回って魔物やシガイを相手にしていたのが懐かしく感じる。

 

「で、最後! これが一番大事なことなんだけど、使い魔が主人を守るっていうこと!」

 

「要は護衛だろ? 相手が魔法使い……メイジは分からないが、それなりにはできるとは思う」

 

一度でもメイジの戦いが見れれば――欲を言えば戦えればある程度メイジの実力が分かるのだが。

 

「ま、期待しないでおくわ」

 

欠伸交じりにルイズはそういうと、徐に服を脱ぎ始める。

 

流石にその行動に驚きを隠せず、視線を逸らしながらステルラは声を荒げた。

 

「着替えるならそうと言ってくれ!」

 

「……はあ? 使い魔に観られたってなにも思わないもの」

 

「……そういう問題じゃないだろ」

 

言いながらもルイズの手が止まる事は無く、ステルラが部屋を出ようとする前には

着替えが終わってしまっていた。

 

「アンタの寝る場所はそこね」

 

ルイズが指さした場所は床。そして一枚の毛布だ。

 

「人間扱いっていう話だけど、今日だけはそれで我慢してちょうだい。

人間がくるなんて思わなかったんだから」

 

「そりゃあそうだな。ゆっくり眠れるだけでもありがたいけどな」

 

魔物やシガイの侵入を気にせずに寝れる、なんていうことは滅多にないことだったステルラに

とっては、これだけでも最上級に嬉しい部類に入る。

 

さあ寝ようといったところで、ステルラの傍らに服が投げられた。

 

「それ、朝になったら洗濯しにいって。あと時間になったら起こすこと」

 

ステルラの返事を待たずに電気を消してベットにもぐりこんだルイズにステルラはため息で返事をした。

 

 

 

 

 

「――さて、と」

 

ルイズが寝息をたてはじめたとき、ステルラは起こさないようにゆっくりと立ち上がり、窓へと向かう。

魔法が発展した分、化学の発展が遅れたのだろうか、街灯らしきものは見当たらない。

この時間帯はほとんどの人が寝入っているだろう。

 

窓を開け、ステルラの手に握られた一振りの剣を振りかぶり、木々へ向かって投げつける。

それが木に突き刺さると同時にステルラの体に青白い光が纏い始めた。

意識を集中し、自身の体を剣の元へと移動――シフト――を開始する。

 

木に突き刺さった剣の柄にぶら下がるような体制で、ステルラは軽く笑みを浮かべた。

武器召喚、シフト共に問題なく行えたことに嬉しく感じ、それを幾度となく繰り返して問題が無いかを確かめる。

とくに体や魔力に不調は感じない。それどころか、元の世界よりも調子がいい。

 

「原因はこれか?」

 

左手の甲に浮かび上がるルーン文字。

使い魔として契約した証。

ステルラが武器を握った時や魔力で身を包むとき、それが光り出して武器についての詳しい詳細や扱い方が頭の中に

思い浮かんでくる。また、普段よりも早く動けている気がする。

 

更に

 

「よっと」

 

右手を突き出し、初級攻撃魔法である『ブラスト』を地面へと放つ。

衝撃波が繰り出され、地面には小規模のクレーターが出来上がっていた。

本来のブラストにこれほどまでの威力はない。せいぜい小型の魔物を吹き飛ばすなどの牽制用に等しい魔法だ。

 

何故これだけ威力が上昇しているのか見当もつかないが、利用しない手はない。

 

「……今日はここまでだな」

 

もう少し色々と試しておきたかったが、ステルラは手を降ろす。

今の衝撃で小さくない音が出てしまった。これ以上騒げば、他の生徒や教師に気づかれる可能性もある。

剣を振るってルイズの部屋の窓付近に突き刺そうとした時、その動きを止めた。

 

人が普通に住んでいる所に剣を突き刺すのはやめたほうがいいか?

 

野外や人が住んでいない廃墟ならともかく、こういった場所でシフトするのはマズいだろう。

そう判断したステルラは、歩いてルイズの部屋へと向かっていく。

 

(問題は魔法だな)

 

この世界では貴族しか魔法が使えない世界らしい。

そんな中で平民である俺が魔法を使って不審がられないか?

そこは異国の魔法です、とでも言っててきとうに説明するしかないだろう。

異国の魔法なんてここの奴らは調べようがないだろうし、ぼかして説明しても何も問題はないはずだ。

最悪、自分は貴族だとでもいって納得させればいい。

 

ルイズの部屋へとたどり着き、ゆっくりと扉を開いて中へ入り込む。

部屋の主は変わらず寝息を立てていて、ステルラが外にいったことに気づいていない様子だった。

 

可愛らしい寝顔で寝ているその様子を見て、この世界がどれだけ平和か痛感した。

シガイが跋扈したあの世界ではそうそうこんな熟睡はできない。

 

毛布に包まって床の上で横になる。

そのまま睡魔に身を任せてステルラは目を閉じた。

 

 

 

 

 

翌朝、ステルラは一つの籠を抱えて学院内を歩いていた。

籠の中にはルイズに洗濯するよう言われた服が籠の動きに合わせて揺れている。

 

「学院のマップが欲しくなるな」

 

似たような道が幾つも続くこの学院を歩き続けて、ついそんなことをつぶやいてしまう。

注意力散漫になっていたせいか、横からくる物体にステルラの体がぶつかってしまった。

 

「きゃっ……!」

 

「おっと」

 

ステルラにぶつかり、転びかけた人物の腕を手に取り転ぶのを防ぐ。

が、人物が持っていた籠までは落ちるのを防ぐことができずに服があたりに散乱してしまった。

 

「悪い。よそ見してた」

 

そういってからしまった、とステルラは顔を歪める。

ぶつかった人物が貴族なら、平民である俺にそんなことを言われたら怒り心頭だろう。

すぐに改めたほうがいいか、と考えたところでその人物を観察した。

 

ワンピース型の黒いロングスカートに、真っ白なエプロン。

少なくとも、それはメイド服と呼ばれる衣装だった。

大体貴族が洗い物を入れた籠をこんな早朝に持ち歩かないだろうし、使用人の一人か。

内心安心しつつ、彼女から手を離す。

 

「も、申し訳ありません!」

 

「いや、謝るのは俺の方だ。すまなかった」

 

籠をいったん床に置いて散らばった服をかき集める。

こんな所が貴族の眼に入れば何を言われるかわからない。

 

「えっと、貴方様は貴族では?」

 

「ルイズに召喚された使い魔だよ」

 

彼女が落とした籠を渡し、自身のもってきた籠を持ち上げる。

 

「ルイズに洗うように命令されて困ってたんだ。洗い場もわからないし、俺が

女の子の下着や服を洗うのも問題だと思ってな」

 

「ミス・ヴァリエールの……噂は聞きました。本当だったんですね、人間が召喚されたなんて」

 

洗い場はこちらです、という彼女の横をステルラはついて歩く。

 

「自己紹介が遅れました。私はシエスタと申します」

 

「俺はステルラ・クレプスクルムだ。よろしく」

 

軽くお互い自己紹介し、目的地である洗い場に到着した。

そのあとはシエスタに軽くこの学院や貴族について軽く説明をしてもらいながら

洗い物を進める。

勿論下着類はシエスタに頼み、変わってもらった。

 

後は干しておきますね、というシエスタに後は任せて空になった籠を持ち

ルイズの部屋へと戻る。

 

(――にしても、シエスタはずいぶん貴族を恐れていたな)

 

貴族について説明をしてもらっていた時、彼女は絶対に貴族に口答えしてはいけない。

と言っていた。魔法で傷つけられたり、最悪殺されることもあるそうだ。

魔法が使えない平民にとって、大多数の貴族は恐怖の対象だとも。

 

(それほどにこの世界の魔法は恐ろしいのか?)

 

ルイズの部屋の扉をあけ、中へ入る。

籠を床に置いてからルイズの顔を覗き込むと、相変わらず寝息をたてて寝ている。

こんな無防備な姿を見せられては全然恐ろしくないんだけどな。

 

「ほら、起きろよ。そろそろ起きる時間だろ」

 

軽く揺さぶっても、その腕を跳ね除けてルイズは眠ったまま。

 

「ルイズ、起きろっての!」

 

「ひゃあっ!?」

 

布団を大きくめくりあげ、声を耳元で張り上げる。

 

「な、何よ!」

 

「起きる時間だろ、ほら支度支度。早く着替えろよ?」

 

そう言ってステルラはさっさと部屋から出て行った。

また目の前で脱ぎだされたらたまったもんじゃない。

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