王の剣が使い魔   作:セスナ1028

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第3話

 

「……眠いな」

 

ルイズの着替えを部屋の前で腕を組んで待っていたステルラは

欠伸を噛み殺しながら呟いた。

いつもの彼の睡眠時間は基本的に5時間未満。

それも熟睡ではなく、小さな音でもすぐに起きれる程度の浅い眠りである。

寝すぎて疲れた、とでも言うのか? 

 

少し待つと学生服へと着替えたルイズが部屋から出てきた。

と、同時にルイズの隣の部屋の扉が開く。

 

そこから現れたのは一人の女性だった。

ルイズがその女性に気が付くと、心底嫌そうな顔をしたのを見て

何かしら彼女と因縁があるのだろうな、とステルラは考えた。

 

「あら、おはよう」

 

真っ赤な髪に褐色の肌の女性だ。

ルイズよりも背が高く、体つきはより女性的――妖艶な雰囲気を纏う子だった。

挨拶をしない仲ではないのか、嫌そうな顔のままにルイズは挨拶を返す。

 

「……おはよう。キュルケ」

 

「ねえ、貴方の使い魔は後ろの人?」

 

キュルケと呼ばれた女性は、ルイズの僅か後ろに立つステルラを指さす。

顔を顰めたままルイズはそうよ、と肯定した。

キュルケの事だから、人間を――平民を呼んだ自分を馬鹿にしたいのだろう、と。

 

「ふうん……」

 

キュルケは顎に手を当てながらジッとステルラを上から下まで眺めている。

 

そんなキュルケの様子に、てっきり笑いながら馬鹿にされると思ったルイズ以外だった。

自己紹介くらいはしたほうがいいだろうと考えたステルラは口を開く。

 

「ステルラ・クレプスクルムだ。よろしく頼む」

 

「あら、どうも。私はキュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストーよ。

キュルケでいいわ。よろしくね?」

 

お互い挨拶をしてから、キュルケはルイズへと視線を向ける。

 

「それにしても、本当に人間を呼んだのねえ」

 

「なによ、何か文句でもあるのかしら?」

 

「別に文句なんてないわよ。中々男前でいいじゃない?」

 

そう言ってキュルケはステルラを流し目に見るが、彼は肩を竦めるだけだった。

 

「まあ、私の使い魔のほうがいいけどね。おいで、フレイムー」

 

キュルケがそう言うと、彼女の部屋からのそのそと大きな赤色のトカゲのような生物が出てきた。

フレイムという名にふさわしく、その尻尾は炎でできており、口からも僅かに炎が噴き出ている。

 

「これって、サラマンダー?」

 

「……初めて見るな」

 

ルイズがキュルケに尋ねると、彼女は得意げにその大きな胸を張った。

 

「ええ、火トカゲよ。ここまで鮮やかで大きな炎の尻尾は間違いなく火竜山脈のサラマンダー。

ブランドものよ? 好事家に見せたら値段なんてつかないでしょうね」

 

「……そりゃあよかったわね」

 

ステルラはジッとフレイムを見つめて自分が今まで見てきた動物、魔物、シガイ……。

それらの全てとフレイムは――サラマンダーは一致しない。

こんな生物は一度も見たことがないだろう。

 

こうやって敵意のない未知の生物を見る、というのも案外楽しいかもしれない。

なんて思った矢先、ルイズに腕を引っ張られて視線が大きく逸れる。

 

「キュルケなんかの使い魔見てないで、さっさと朝食に行くわよ!」

 

「何だよ……それじゃあな」

 

そのままルイズに引っ張られていく形で、二人は食堂へと向かっていく。

そんな二人をキュルケは手をヒラヒラと振って見送った。

 

少し歩いて、ルイズは手を離してステルラへと振り返って口を開く。

 

「サラマンダーに興味があるのはわかったけど、キュルケにはあまり

拘わらない事。いい?」

 

「ルイズがそうしろ、と言うのならそれには従うが……何であそこまで

嫌ってるのか聞いても?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……最近の子はあんなに短気なのか……?」

 

ステルラは外でベンチに腰掛けながら独り言をつぶやいた。

ルイズに何故あそこまでキュルケを嫌うのか、という質問に彼女は延々と話をつづけられた。

なんでも、キュルケはゲルマニアの貴族らしく、お互い国境沿いに領地があるらしい。

場所の問題もあり、戦争がおこれば真っ先に戦う相手であり、更に婚約者や奥さんなどが

寝取られてしまったり、ということがあったからルイズは彼女を嫌っているとの事だった。

 

話を聞き終わったとき、ついステルラは「彼女個人としてみればいい子なのでは?」

という呟きがルイズの逆鱗に触れたらしく、それはもう怒り狂ってしまった。

彼女の肩を持つような発言がタブーだったらしい。

具体的には朝飯抜きの刑となった。

 

あっちの世界では、数日も飯が食えないなんていう事は日常茶飯事だったし、一食

抜かれるくらいなら別にいいのだが。

 

さて、ルイズが食べ終わるまで何をしていようか。

付近を見渡すと、彼と同じ立場である使い魔は様々なところで寛いでいた。

小型の動物から、竜のような動物もいる。

 

「竜か」

 

竜種の魔物やシガイとの戦闘は幾度となく危険な目にあったりと嫌な思い出が蘇る。

竜に限らず、飛んでいる敵に武器や魔法はとても当てるのが大変だったり、ずっと見上げているから

首を痛めたり……。

 

竜を眺めながらそんなことを考えていると、不意に竜が顔をあげた。

ジッと竜がこちらを見つめている。

 

「…………」

 

お互い見つめ合う事数分。

もはやどっちが先に視線を外すかの勝負となっていたころ、背後から

声がかけられる。

 

「アンタ、ここで何してたのよ」

 

「色々な使い魔がいるなと思って眺めていただけだ。竜を呼んだ子もいるんだな」

 

「確かキュルケとよくいる子……タバサの使い魔だったかしら」

 

ルイズはステルラの隣に腰掛けながら、一つのサンドイッチを差し出した。

差し出されたサンドイッチを見つめながらステルラは首を傾げる。

 

「朝飯抜きの刑じゃなかったか?」

 

「いらないのかしら」

 

「すいませんでした」

 

流石に呼んだ翌日から関係に亀裂が入ることを少し恐れたルイズは

少しのご飯だけ食べることを許した。

使い魔なら主人のいう事に同意すべきだが、それ以前に彼は人間だ。

自分の意志だって持っているという事を朝食を食べているときに改めて思い出したルイズは、すぐに

サンドイッチをつかみ取りステルラに渡しに来たのだった。

 

「さっさと食べて、授業に行くわよ」

 

「ん、分かった」

 

小さいサンドイッチは数口で彼の胃の中へと入っていった。

 

「にしても、俺が授業に出る意味はあるのか?」

 

「使い魔を呼び出した翌日は、授業に連れて行くのよ。先生方が見たがるのよ」

 

「分かった」

 

 

 

 

魔法学院の教室へとたどり着き、ルイズが扉を開く。

ルイズに続いてステルラも中へと入っていく。

 

先に教室に来ていた生徒達は、一度会話を辞めてルイズへと視線を向ける。

次いで笑い声やひそひそとした話が始まった。

 

(……あまりいい空気じゃないな)

 

――これでは、まるでルイズが虐められているような。

 

ルイズが席に座り、その僅か後ろでステルラは立ったまま教室の様子を眺めた。

多種多様な生き物がいる。外で見かけた生き物も何匹か目に映った。

やはりほぼ全て、ステルラ自身は見たことのない生き物だ。

正確にいえば、創作の話だとか、御伽噺だとか映画だとかで聞いたり見たりしたような生き物が多い。

 

(魔法使いといい、御伽噺に出てくるような生き物といい……まるでファンタジーだな)

 

なんてステルラが思っているときに、教師らしき人物が教室へと入ってくる。

 

教師は紫色のローブに身を包んでとんがり帽子を被った、誰が見ても魔女の恰好をした中年の女性だった。

女性は教壇の前に立ち、満足げに頷く。

 

「みなさん、春の使い魔召喚の儀式は大成功のようですね。私は毎年こうしてみなさんが召喚した

使い魔を見るのがとても楽しみなのですよ」

 

ニコニコと教室を見渡して、ルイズとステルラで目が止まる。

 

「ああ、ミス・ヴァリエールはなかなか変わった使い魔を召喚したものですね」

 

教師――シュヴルーズの言葉に教室のあちこちからルイズに対しての

笑い声や野次が飛んでくる。

 

「召喚できなかったからって、そこらへんから平民を連れてくるなよ!」

 

「ルイズが召喚なんてできるわけないもんなぁ」

 

「サモン・サーヴァントは成功させたし、契約のルーンだってちゃんとあるわよ!」

 

彼らに負けない勢いで声を張りあげて立ち上がったルイズの言葉に、ステルラは

周りの生徒に見えるように左腕を上げてその甲を見せる。

勿論その手には彼女との契約の証であるルーンが刻まれていた。

 

「で、君たちは何か文句があるのか?」

 

笑い声や野次を飛ばしていた生徒達へ視線を向ければ、彼らは一様に固まった。

まるで喉元に刃を突き付けられているかのような感覚が過る。

大人げないが、ステルラは彼らに僅かながら殺気を込めて睨み付けていた。

こういった手段で黙らせるのはあまり好みではないが、最も手っ取り早い手段だ。

 

シュヴルーズは、騒いでいた生徒はステルラのルーンを見て納得して黙ったと思ったのか

手を叩いて自身へと注目を集めさせた。

 

「はい、みなさん静かになりましたね? それでは、授業を始めますよ」

 

 

 

 

 

ステルラにとって、魔法の勉強は未知なものだった。

 

シュヴルーズが行う授業は『土』系統の魔法に関するものだ。

火、水、土、風の四つに、失われた虚無を含めて五つの属性があるらしい。

その中で最も重要なのは土らしい。

 

土は万物の組成を司る魔法であり、重要な金属を作り出す事や

建物を建てる石を切り出したり、果てには農作物の収穫までにも密接に関わる魔法とのことだ。

 

なるほど、確かに自分たちの生活にここまで関わる魔法なら、最も重要と

言われても納得できるかもしれない。

 

まあ、彼女が扱ってる魔法が土だからこその身内びいき感も否めないが。

 

シュヴルーズは、拳大の幾つかの石を取り出して教卓の上にそれを置いた。

 

「今から皆さんに教える魔法は、土系統の基本である『錬金』です。

一年生の頃にできるようになった人もいるでしょうが、基本は大切です」

 

シュヴルーズは机の上の石に向かって杖を振るい、呪文を唱えた。

すると、一つの石が眩い光を放ち始める。

光が収まるころには、その石は光沢を放つ金属へと変わっていた。

 

「ご、ゴールドですか!?」

 

キュルケが驚いた表情で身を乗り出し、シュヴルーズに問いかけていた。

 

「いえ、これは真鍮です。ゴールドはスクウェアクラスのメイジでなければ錬金できません。

私は――ただのトライアングルですから」

 

スクウェアとトライアングル。

会話から考えれば、スクウェアがトライアングルより優れているのが分かる。

恐らくは魔法の実力を測るための格付けだろうか?

 

「スクウェアやトライアングルっていうのは魔法使いとしての強さのことか?」

 

「……ああ、遠くから来たって言ったたもんね。そのとおりよ。

メイジは一度に系統を重ねられる数で強さが決められているの。

ドットが一つで、ラインが二つ。トライアングルは三つで、スクウェアが四つね」

 

魔法使い――メイジは四つのクラスに分かれ、シュヴルーズはその中でも上から二番目の実力者

という事になる。こういっては失礼だが、彼女が強いという印象はあまり持てなかった。

 

「なるほど、ありがとう。授業中に悪かったな」

 

「ええ、どういたしまして」

 

何でもないようにルイズは手をひらひらと振った。

 

「――では、ミス・ヴァリエール。前に出てやってみてください」

 

どうやら、手を振ったのがシュヴルーズには挙手に見えてしまったらしい。

ルイズが彼女に指名された瞬間、空気が凍り付いた。

 

「……?」

 

ステルラは、てっきりまた彼らがルイズを馬鹿にするのかと思った。

そうなればまた殺気でも叩きつけようなんて考えていたのだが。

ちらりとルイズを馬鹿にしていた男子生徒に目をやると、青ざめた表情で

ルイズとシュヴルーズを交互に見ている。

 

「あ、あの……ルイズは、ちょっと……」

 

キュルケが困ったような顔でシュヴルーズに待ったをかけた。

 

「どうしたのです?」

 

「ルイズを教えるのは初めて、ですよね?」

 

「ええ。ですが彼女は大変努力家だと聞いています。ミス・ヴァリエール、さあこちらへ。

失敗を恐れずにやってみましょう」

 

ルイズは僅かに視線を彷徨わせた後、決意を固めたのか杖を握りしめて

立ち上がった。

 

「はい。やります」

 

キュルケや他の生徒がやめるよう言うが、ルイズは止まることなく

教壇のほうへと向かって歩いていく。

ルイズを止めることを諦めたのか、大半の生徒達が椅子の下や

机の下へと潜り込んで身を隠し始めた。

 

(……こいつ等は何してるんだ?)

 

学生の頃にやった災害時の避難訓練が頭をよぎる。

いや、なんでこのタイミングで隠れているんだよ。

 

「ミス・ヴァリエール。錬金したい金属を、強く心に思い浮かべるのです」

 

「……はい」

 

ルイズは真剣な表情で杖を振り上げた。

最早ルイズの実習を見ているのはステルラとシュヴルーズ以外いない程となった。

シュヴルーズはルイズのほうに意識が向いているため、そんなことには気づかない。

 

そしてルイズは深呼吸を数回した後、ルーンを唱え杖を振り下ろした。

 

その瞬間、ステルラの本能が咄嗟に行動を取っていた。

両手を前に出し、魔力で教室ほどの魔力障壁をドーム状に作り出す。

彼が魔力障壁を張ると同時に、ルイズが金属に変えようとした石は教卓と共に爆発四散した。

 

「ぐっ……うおお!?」

 

爆発が障壁に当たった時、莫大なエネルギーがステルラを襲った。

ボムの自爆やデスクローのレーザーにも耐えた魔力障壁が意図も容易く壊されるなんて。

ステルラはその場で尻もちをついてしまった。

 

「……おい、いつになったらルイズは魔法使うんだよ?」

 

「み、見れるわけないだろ。顔出した瞬間に使われたら死んじまうよ」

 

被害は最小限に抑えることが出来たらしく、教卓一個とステルラの尻が犠牲になったくらいだった。

ステルラはすぐに立ち上がり、ルイズへと駆けよる。

 

「怪我はしてないか?」

 

「え、ええ……大丈夫。ちょっと失敗しちゃったみたいね」

 

「錬金が、爆発した? ど、どういうことですか?」

 

ルイズもシュヴルーズも、どちらも特に目立った外傷がない事に安堵した。

 

ルイズの魔法が終わったことに気づいたのか、ノロノロと他の生徒達がそれぞれ這い出てくる。

 

「確かにいつものと比べるとちょっと……か?」

 

「いや惑わされるな、普通錬金使って教卓爆発しねーだろ!」

 

それを皮切りに怒りの声が様々な生徒達から発生する。

 

 

 

そのあともシュヴルーズの言葉を無視してルイズを罵倒していた生徒は

シュヴルーズの魔法によって口を赤土で封じ込められることで、今回の

授業は終わりを告げた。

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