【Another Travel】仮面ライダーディケイド   作:結城亮亮

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プロローグ 世界の終わり 1

「ここは…………?」

 どこまでも続く果てしない荒野。そのどこかに、光夏海は立っていた。

自分はどこからここへ辿り着いたのか、何故ここに佇んでいるのか、

彼女には何もわからなかった。ただ事実として、夏海はその荒野に立っていた。

「きゃっ!!」

 突然、夏海の背後で起こる爆発。

驚いて悲鳴を上げ、頭を抱えてしゃがみ込んだ夏海は振り返る。

彼女の後方150メートル程の辺りに、マゼンダの光を放つ何者かが立っていた。

 光を放つその者は突然、自身の周囲に拳や蹴りを放った。

夏海の目には、その攻撃が空を切っているように見えた。

しかし直後、蹴りの延長線上にカブトムシを思わせる赤い戦士が現れ、地を転がったのを見て、

夏海は拳や蹴りがその赤い戦士に放たれていたことを理解した。

 直後、今度は金色の装甲を持つ戦士と肩や右足に鎖を巻いた紅い戦士が光の人物を挟んだ。

2人の戦士は互いの隙を補うように、拳や蹴りを次々に繰り出すが、光の人物はそれを受け止め、

かわし、流し、自身の拳や蹴りを返していく。

さらに、どこからか剣を抜いて右方向に1周回転切りを決め、2人の戦士を退けてしまった。

 続いて、両手に棍棒を持った紫の戦士と剣を握った青い戦士が光の人物に挑む。

光の人物はこれもあしらい、自身の剣で切り伏せてしまう。

間髪入れずに赤い戦士が2人、また剣で切りかかる。しかしその刃も光の人物に届かない。

 

 ここで、機械的な黒い装甲の戦士が、光の人物を背後から押さえつける。

赤い戦士2人はそのチャンスを逃すまいと、一斉に切りかかる。

すると光の人物はカードのような何かを取り出し、腹部で操作した。

その瞬間、光の人物の姿は消えてしまった。3人の戦士は、見失った敵を探して周囲を見回す。

しかし、光の人物が見つかるより先に、多数の光弾がどこからともなく現れ、3人を襲った。

3人は光弾を浴びて地に倒れてしまった。

 再び姿を現す光の戦士。すぐさま、新たに現れた赤い戦士が襲いかかった。

拳を交える2人の戦士。しかし、光の戦士が圧倒的に優勢であった。

 夏海はその戦いをずっと見つめていた。

その間、9人の戦士が何度も立ち上がって、たった1人の戦士に挑み続けていた。

しかし、その光を放つ1人の戦士は一度も劣性に陥ることなく、そこに君臨し続けていた。

今、光の戦士は地に倒れた9人を見下して静かに佇んでいる。

夏海は光の戦士のバックルを見て、続いて顔に視線を移した。

そして、その戦士の名前を静かに呟いた。

「…………ディケイド」

 

 光写真館の受付。机に伏して眠っていた夏海は目を覚ました。

顔を上げて写真館にいることを理解し、時計を見れば13時過ぎ。

ようやく夏海は自身が眠っていたこと、先ほどの光景が夢であったことを理解した。

「……またあの夢。一体何なんでしょうか……?」

 

 9人の戦士を倒す、ディケイドという戦士の夢。夏海はその夢をもう何度も見ていた。

しかし、その意味は未だに全くわからないでいた。

彼女の知るところによれば、夢とは睡眠中の、記憶の整理が影響して見る映像である。

しかし、夏海は夢の中にいた人物について、自分以外の誰一人知らないのだ。

それどころか、舞台となっていた荒野さえ覚えがない。

彼女には、あの夢の全てが不可思議であった。

「ちょっと!寝てる場合!?」

突然の大声が夏海を現実に引き戻す。

右に振り向くと、見知らぬ女性が物凄い剣幕で怒りを見せていた。

 

「すみません!……えっと…………?」

「これよこれ!!」

女性は夏海の前に1枚の写真を突き出した。

それは、この女性が笑顔で写り込んだ1枚。

しかし、ピントが合っていない。

それどころかモヤのようなものがかかっていて、笑顔が台無しになっていた。

「この写真を撮ったカメラマン、ここの人でしょ?

世界に1枚だけの写真を撮ってくれるって言うからモデルになってあげたのに、

出来上がりがこれって、馬鹿にしてるの!?」

 ふと、夏海は廊下の奥のスタジオでも騒ぎが起こっているのに気がついた。

目の前の女性に申し訳なさそうに頭を下げて、夏海はスタジオに足を運ぶ。

すると、夏海の祖父、光栄次郎を数人のクレーマーが囲んでいた。

クレーマーたちは順番もなく一斉に怒りをぶつけている。

夏海は回り込んで、栄次郎とクレーマーの間に入った。

「あの、もしかして士くんの撮った写真のことでしょうか?」

夏海が尋ねた。彼女には心当たりがあった。

「そう、そんな名前だった!あのカメラマン!」

「急に声かけてきて写真を撮ったかと思ったら、この様だぞ!」

「代金返しなさいよ!」

クレーマーたちは口々に叫びつつ、問題の写真を突き出してきた。

夏海はその写真を受け取る。

先ほどの女性に見せられた1枚と同じく、どれも滅茶苦茶な写真だ。

「ひどい写真だと思わない!?」

先ほどの女性も加わった。

「……ひどいです!もう我慢できません!」

夏海もムッとして栄次郎に写真を押し付けると、足早にスタジオの外へ向かった。

「夏海、どこへいくんだ?」

「……士くんのとこです。写真代、フィルム代、家賃他諸々取り立ててきます」

夏海はそう言って、祖父と尚も憤るクレーマーの声を背に店を出ていった。

 目的の人物の居場所はわかっていた。

クレーマーたちが見せた写真の背景に印象的なオブジェやベンチが写っていたのである。

そこは、その人物がよく行く公園の広場であった。夏海は早足でそこを目指す。

 

「こんにちは」

小さな子どもが夏海に挨拶をした。ムッとしていた夏海は一瞬素通りしそうになったが、

立ち止まって少しだけ笑顔を作り、子どもとその後ろにいた母親に挨拶を返して、

また早足で広場に向かった。

 

 しばらくして、夏海が曲がり角を右折しようとしたとき、

ちょうどこちらへ曲がってきた若者とぶつかりそうになった。

夏海は小さく謝ると、また先を急いだ。

 

 ふと、夏海は頭の中でキーンと何かが響くような感覚を抱いた。

いや、それは響きというよりも、何者かがすぐそばにいるような気配に近かった。

夏海は周囲を見回す。ひび割れたスタンドミラーが捨てられていた。

夏海はそのミラーに目を留める。

しかし、ミラーに不審な点は見られなかった。

ミラーを見つめている内に、夏海の感じていた気配はいなくなっていた。

気のせいか、と思いながら夏海は先を急いだ。

 

 しかし、夏海の生きる世界は既に蝕まれていた。

例えば、夏海が挨拶を交わした親子。

夏海の後ろで、親子の顔にはステンドグラスを思わせる紋様が浮かび上がっていた。

夏海がぶつかりかけた若者が、彼女の背を見送っていたとき、

若者の肌には馬を思わせる模様が浮かんでいた。

夏海が妙な気配を感じたとき、傍らのスタンドミラーには白い人型の生物が映っていた。

 世界は、確かに危機を迎えていた。

 

 その男は広場でカメラを構えていた。

マゼンダカラーの前面が特徴的な、2眼のトイカメラ。

男はそのカメラで噴水の下の鳩を撮っていた。

その背後に大柄な男と、チンピラ風の男、気品漂う女性が近づく。

 

「見つけたぞ!!」

大柄な男の怒声に驚いて鳩が飛び去る。カメラの男が恨めしそうに振り返った。

「てめぇ、よくもこんな写真撮りやがったな!」

カメラの男の前に、数枚の写真が突きつけられる。

カメラの男は特に驚く様子もなく写真を受け取り、小さくため息をついた。

「またか」

カメラの男はクレーマーたちに背を向けて立ち去ろうとする。

それを見てチンピラ風の男が殴りかかった。カメラの男はそれを簡単に避ける。

2人が何度かそれを繰り返していると、大柄な男がチンピラ風の男を制止した。

 

「おい、何だってそんな写真を撮るんだ?」

大柄な男が尋ねた。

「別に。俺はただ世界を写したい、それだけだ。

だが、被写体が俺を拒絶している。結果、像が歪んでしまう」

カメラの男は淡々と答える。その態度か、あるいは回答の内容か、

どちらかが大柄な男の癪に障った。

「つまり、悪いのは俺たちだって言うのか?」

「そういうことになるな」

カメラの男が悪びれる様子もなく答える。

クレーマーが我慢の限界に達するのは時間の問題かに見える、そんなときだった。

「士くん、見つけましたよ!」

どこからか声がした。

「げっ、夏みかん!?」

カメラの男はドキッとして、声のした方を振り返る。しかし、誰もいない。

「秘技、笑いのツボ」

カメラの男の背後をとった夏海は、彼の首の後ろの一点を親指で突いた。

「痛ぇ、…………アッ、アハハ、ハハハハハハハハハハハハッ」

唐突に大笑いするカメラの男。夏海に笑いのツボを突かれたために、

意思と関係なく笑いが込み上げて止まらないのである。

「ハハハハッ……夏みかん、ハハッ…………おま、ハハハハッ……笑いの、ツボって、

ハハハッ……そういう、意味じゃ、ハハッ……ないから、ハハハハハハハハッ」

「いいから貴方はそこで頭を冷やしてなさい!」

夏海はそう言うと、クレーマー立ちに向き直って頭を下げた。

「士くんがご迷惑をおかけして申し訳ありません!

本人もこのように、泣き笑いで反省しておりますので!」

夏海は隣に立つカメラの男にも頭を下げさせて謝った。

大笑いを続けながら頭を下げる様子に、クレーマーたちは引いていた。

「も、もういい。じゃあな」

クレーマーたちが去る。頭を上げて、ほっとため息を吐いた夏海の後ろで、

カメラの男は未だ笑い続けていた。

「士くん、いい加減にしてください!」

夏海はベンチに腰掛けながら、カメラの男に文句を言う。

「士くん」と呼ばれたその男は、自らがベンチに立て掛けた段ボール片を片づけた。

段ボール片にはマジックで「世界に1枚の写真を あなたに」と書かれていた。

士は夏海の隣に座った。

「おじいちゃんの写真館を貴方の代理店にするのは止めてください!

貴方のひどい写真のせいで、おじいちゃんの腕まで悪く思われたらどうするんですか!

あと、いい加減支払ってください。写真代、フィルm」

「大体わかった」

「大体じゃ困るんです!」

士はそっぽを向いたまま、夏海の抗議を軽くあしらう。

夏海はしばらく士を睨み付けて、今度は大きなため息を吐いた。

「……それで、何かわかったんですか?貴方自身のこと」

声のトーンを落ち着けて、夏海が尋ねる。

「いや、まだ何も。こいつを使って世界を写せば、何かわかると思うんだがな……」

士はそう言いながら、首から下げたトイカメラを見つめた。

 

 青年、門矢士は自身の記憶を失っている。

半年ほど前、路上で倒れているところを光栄次郎に発見された士は、光写真館に運び込まれた。

目覚めたとき、彼は名前以外何一つ思い出すことができなかった。

唯一の手がかりとなりそうな、彼の所持していたカメラも、最後にフィルムを装填されてから

使われた形跡がなく、彼の素性は依然として不明であった。

その後、成り行きで光写真館に居候することになった士は、

カメラを手に毎日のように外へ出掛けた。

片っ端から写真を撮ることで、記憶の手がかりが見つかるはずだと考えていた。

「でもまともな写真、一度も撮れてないじゃないですか。

やっぱりそのカメラ、壊れてるんじゃないですか?」

夏海もカメラに視線を落とした。今回のような、

ピントがずれたり、奇妙な歪みが出たりといったことは、

士が撮った全ての写真に起こっていた。

以前、夏海は別のカメラを勧めてみたことがあったが、士はそれを断って、

ずっとこのトイカメラを使っている。それ故、夏海はカメラの問題ではないか、と考えていた。

 

「いや、悪いのはカメラじゃない。世界が俺に撮られたがってないんだ」

士はそう言った。夏海は言葉の意味が理解できず聞き返した。

「人も、鳥も、犬も、猫も。水も、雲も、木々も、建物も。

みんな俺を拒絶して、俺から逃げていく。

それがああいう形で写真に残る。像が歪んでしまうんだ。

きっとここは、俺の世界じゃない」

士が寂しそうに言った。

「『貴方の世界』ですか?……よくわかりません。どうしてそういう結論になるんですか?」

夏海は純粋な疑問を投げ掛けた。彼女の言葉に非難する意図がないことは士にも伝わった。

「…………何となくだ」

 

 士と夏海は広場を後にし、帰路についていた。

2人は並んで歩きながらも特に会話もなく歩いていた。そのときだった。

「……ディケイド」

「?」

何か声が聞こえた気がして、士は立ち止まって振り向いた。しかし、後方には誰もいない。

 

「どうかしました?」

夏海が士に声をかけた。

「……いや」

士は数歩先で立ち止まる夏海に追いつこうと、再び歩き出そうとした。

しかし、その瞬間灰色のオーロラが現れ、士の進路を遮った。

「何ですかこれ!?」

夏海は驚きつつ、オーロラに触れてみた。

オーロラは強固な壁となって2人を分断していた。

士も反対側からオーロラを叩いてみるが、びくともしなかった。

ふいにオーロラが曇る。

2人は互いの姿が見えなくなってしまった。

 

「夏みかん!おい!夏海!!」

つづく

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