【Another Travel】仮面ライダーディケイド   作:結城亮亮

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プロローグ 世界の終わり 2

「士くん!士くん!」

夏海は不透明な灰色のオーロラを叩きながら、その向こうにいるはずの士を

呼び続けた。しかし、何度呼んでも返事はない。

 

「うわああああああああ」

突如響き渡る叫び。夏海は驚いて振り向き、異様な光景に絶句した。

近くのビルのガラスから、人間大の白い怪物がぞろぞろと湧き出しているのだ。

「な、何なんですか……あれ」

混乱する夏海。

白いミラーモンスター、シアゴーストは人間を襲いながら進軍する。

夏海は周囲の人間に混じって逃走した。

 

 

 

「夏海!夏海!!」

士もまた、オーロラを叩きながら夏海を呼び続けていた。

当然、夏海の応答はない。

 

 ふいに、オーロラが前進して士を呑み込んだ。

驚いて閉じてしまった目を士が開くと、どういうことか辺りは夜になっていて、

士はビル街の真ん中にある広場に立っていた。

「一体どうなってるんだ……?」

 

「ディケイド」

誰かの声が聞こえた。それは、先ほど士が聞いた声だった。

士が振り向くと、そこに立っていたのは紅いマフラーの青年だった。

「ディケイド」

「ディケイド?俺のことか?」

士が問う。しかし、青年はその問いには答えない。

「今、この世界が終わろうとしています。救えるのは、貴方だけです」

「何?どういうことだ?」

「バックルとカードはどこにありますか?」

士の問いには尚も答えず、それどころか青年は質問を返した。

その態度に、士は少しイラついた。

「……クレジットカードは作らない主義だ」

「急いでバックルとカードを揃えてください。手遅れになる前に……」

青年がそう言うと同時に、灰色のオーロラが士を再び呑み込んだ。

 

 

 

 夏海は必死に逃げていた。彼女や共に逃げる人々を追うのは、

トンボに似た二足歩行のミラーモンスター、レイドラグーンだった。

転んだ人、追いつかれた人から順に、レイドラグーンの餌食となっていく。

皆その凄惨な光景に怯えながら、必死に逃走を続けていた。

 

 そんな人々を、急に現れた灰色のオーロラが呑み込む。

気がつくと彼女たちは、雨に晒された路地裏に立っていた。

振り返ると、追手の姿はなかった。

「雨?何で急に……」

夏海が訝しんでいると、前方から足音がした。

今度はそちらを振り向く夏海。

「きゃあああああ」

悲鳴と雨水を浴びて、ステンドグラスを思わせる体表の怪人、ファンガイアが数体近づいていた。

人々はまた逃げ惑う。ファンガイアたちは突起を飛ばして人間たちを襲い、

生命力=ライフエナジーを貪る。

逃走する夏海の後ろで1人、また1人と罪なき声が消されていた。

 

 いつの間にか、夏海は1人で逃走していた。

既に追手は撒いていたが、彼女は自らを追い回した恐ろしい怪物のせいで、

心身共にひどく疲れていた。

そんな彼女を、またしても灰色のオーロラが呑み込む。

彼女は崩壊したビルの残骸が転がる、廃墟と化した街にいた。

その衝撃的な光景に、夏海は息を飲んだ。

 

「…………?」

ふいに、夏海は数メートル先の瓦礫の中に何かを見つけた。

歩み寄り、彼女はそれを拾う。

「これって……!」

夏海が拾ったもの、それは彼女の夢に現れた光の戦士がつけていたバックルだった。

やけにボロボロではあるが、同じ夢を何度も見ている夏海には、

間違いなくあのバックルだとわかった。

彼女はもう1つ、ケースのようなものを拾い上げた。

夏海は漠然と、それがバックルとセットになるものであるように感じた。

 

「…………」

夢の中の光景を思い出し、バックルを見つめる夏海。

このバックルは不吉なものなのではないか、というのが正直な感想だった。

これは拾わない方がいいのではないだろうか、

でも、他の誰かが拾ってしまっても大丈夫だろうかと夏海は葛藤していた。

 

 ザッという足音が、夏海を現実に引き戻す。

見上げる夏海。

そこにいたのはなんと、もう1人の夏海だった。

「えっ!?今度は何ですか!?」

一方の夏海は怯えている。

もう一方の夏海はというと、逆に笑みを浮かべていた。

笑みを浮かべる方の夏海の姿が変質する。

「きゃああああああああ」

無我夢中で逃走する夏海。

右手に鋭い爪を持った緑色の怪物、ワームのサナギ体が

それほど早くない走りで夏海を追いかける。

 

 夏海はどこへ逃げているのかもわからなかった。

それどころか逃げる度に見知らぬ場所に迷い込み、そこでまた怪物に追われの繰り返しで、

最早生きることを諦めかけていた。

そのときである。

「夏海!」

彼女を呼ぶ声。声がした方を向くとあの灰色のオーロラがあり、

その向こうで士がオーロラを叩いて叫んでいた。

「士くん!」

夏海の顔に、安堵の表情が僅かに浮かぶ。

彼女は士の下へ駆け寄った。

しかしオーロラに手を伸ばすと、やはりそれは壁として夏海の通過を許さない。

「夏海、お前それは」

士の視線は夏海の持つバックルとケースに向けられた。

そして同時に、士には何故かそれの使い方がわかった。

 

「キシャァァァァァァァ」

奇怪な声で、夏海は振り向く。

いつの間にか5体いたワームのサナギ体が、すぐ近くまで迫っていた。

「夏海、それを俺に渡せ」

「えっ?」

夏海は手元を見る。

「早くしろ。俺がそれで世界を救ってやる。……たぶん」

夏海は一瞬、不穏を感じさせるこのバックルを渡していいのか迷った。

しかし、今の状況を切り抜ける術がわからない以上、賭ける以外の選択肢はなかった。

 

 夏海は、バックルとケースを突き出した。

するとボロボロだったバックルとケースはオーロラを通過し、

綺麗な状態で士の前に出てきた。

士はそれを受けとる。そして、バックルを腹部に当てた。

バックルの左右からベルトが飛び出し、士に巻きついて1周、輪を作る。

ケースをベルトの左側に設置し、中からカードを1枚取り出す。

ワームはあと数歩で夏海に襲いかかれるところまで迫っている。

士はバックルのサイドハンドル引き、カードスロットを上に向けた。

カードを持つ右手が士の胸の前に突き出される。

 

「変身!」

 

 士がカードをスロットに装填する。

バックルの前に、カード情報がアルファベットのホログラムで浮かんでいる。

バックルのサイドハンドルが押し込まれた。

 

<カメンライド……ディケイド!>

 

 バックルから戦士のアーマーが投影され、それが士の体と重なって実体化する。

そして後からマスクが完成し、マゼンダの装甲を纏った戦士が姿を現した。

 

 その戦士は左腰のケースを変形させて小銃にすると、目の前のオーロラに向かって歩き出した。

戦士の体はオーロラを通過し、夏海の隣に並ぶ。

そして、右手の小銃でワームたちを攻撃した。

「下がってろ」

夏海にそう言うと、戦士は飛び出してワームたちを相手取る。

戦士が殴り、蹴り、時に小銃からの光弾を浴びせ、時に小銃で敵を殴打し、

戦士は優位に戦いを進めていく。

戦士が今一度光弾を放つと、3体のワームが倒れ、2体が生き延びて脱皮、成体と化した。

成体ワーム2体は自らをより早い時間流に乗せる能力、クロックアップを用いて戦士を翻弄する。

「くっ」

見えない攻撃に、戦士は僅かにひるむ。

自らに注意を引き付けている内に倒さなくては夏海が危ない、

そう判断した戦士は小銃からカードを取り出し、バックルに装填した。

 

<カメンライド……カブト!>

戦士の姿が変わる。

カブトムシを思わせる装甲の赤き姿となった戦士は、さらにもう1枚カードを使用する。

<アタックライド……クロックアップ!>

赤い戦士がワームと同じ時間流に乗る。

ワームを視認した戦士は駆け寄り、鋭い拳や蹴りを見舞う。

そして仕上げに、再度光弾を撃ち込む。

<クロックオーバー>

電子音声が通常の時間流に戻ったことを知らせる。

戦士の背後で2体のワームが爆炎に沈んだ。

直後、戦士のバックルから、先ほど姿を変えるのに使用したカードが排出され、

戦士は最初の姿に戻った。手の中で、カードの絵柄が消失する。

戦士はそれを静かに見ていた。

 

「夏海、無事か」

戦士が夏海と合流する。

夏海の関心は、夢で見たのと全く同じ姿の戦士が現れたことと、

その正体が士であると声でわかることに向けられていた。

「士くんが……ディケイド」

「何!?お前、どうしてその名前を……?」

士は夏海の言葉に疑問を持った。

しかし、夏海の疲れた様子に気がついて、この場で追及しても仕方がないように思った。

「……帰るぞ」

ディケイドと呼ばれた戦士は夏海の手を引いて歩き始めた。

 

 

 

 ディケイドといる影響か、夏海もオーロラを通過することができた。

2人は数回オーロラを通過した。気がつけば、廃工場にいた。

しばらく歩いていると、ふいにディケイドが足を止める。

「士くん?」

夏海は呼びかけると、自身もディケイドの視線を追った。

「……あっ」

2人が見つけたもの、それは公園で士に絡んだクレーマーたちの横たわる姿だった。

関係こそ良好ではなかったが、見知った人間の遺体を目にするのが

不快なことであるのは変わるまい。

夏海は士の心痛を想像して、自らも胸を痛めた。

 

 一方、ディケイドは不審な点に気がついていた。

クレーマーの遺体の一部が灰化しているのである。

ディケイドはクレーマーを襲った者が近くにまだいることを察した。

 

「フフフ……」

ディケイドの予測通り、彼らの前方に灰色の怪人、オルフェノクが数体現れた。

オルフェノクがディケイドに接近する。

「夏海、離れてろ」

夏海は言われた通りに距離をとった。

ディケイドは左腰のケースを、今度は剣に変形させてオルフェノクと交戦する。

ディケイドがオルフェノクの攻撃を回避し、自らの刃で敵を切り倒す。

切られたオルフェノクから、ディケイドの背後で青い炎を上げて灰化していく。

「きゃあああああ」

ディケイドが悲鳴のした方を向く。夏海がオルフェノクに囲まれていた。

「夏海!」

ディケイドは助けに入ろうとするが、ディケイドの前方にも

未だ多くのオルフェノクが立ち塞がり、すぐには行くことができない。

 

「だったら……」

ディケイドは剣からカードを取り出し、バックルに装填した。

<カメンライド……ファイズ!>

ディケイドのアーマーの上に赤い閃光が走る。

瞬く間に、ディケイドは黒い装甲を纏った姿に変わった。

<アタックライド……オートバジン!>

ディケイドがカードを使うと、彼の頭上をロボットが飛行した。

ロボットは夏海の前に着陸するとタイヤに似た盾を構え、

盾に内蔵されたガトリング砲からの弾丸でオルフェノクを撃ち倒していく。

その間にディケイドもオルフェノクを切り捨てながら進み、ほどなくして夏海の下へ辿り着いた。

ディケイドとロボットは残りのオルフェノクを一掃した。

 

 戦闘を終えると、ロボットの姿が変化した。

2人の前にはディケイドに似たデザインのバイクが停車していた。

続けて、ディケイドのバックルからカードが排出され、ディケイドは最初の姿に戻った。

彼の手の中でカードの絵柄が消失した。

ディケイドは少しの間それを見つめ、すぐに夏海に視線を移した。

「乗れ、すぐ行くぞ」

そう言うとディケイドは目の前のバイク、マシンディケイダーに搭乗した。

夏海はその後ろに乗り、ディケイドの胴に手を回す。

夏海がしっかりと掴まったのを確認すると、ディケイドはマシンディケイダーを発進させた。

 

 

 

 数回、オーロラを通過した後、光写真館の前でディケイドはバイクを止めた。

夏海が降り、ディケイドも周囲に異常がないことを確認して変身を解除した。

「この辺りは何ともないんですね……」

「ああ」

夏海に返事をする士はどこか上の空だった。

「一応、おじいちゃんの無事を確認してきます」

そう言うと夏海は写真館の中へ入っていった。

 

 士はバイクの前で思案していた。これまで何も思い出せずにいた自身が

突然あれだけ戦えたのは、士にとっても不可解なことであった。

「俺は何故戦い方を知っていた……?

いや、それだけじゃない。

俺は自分の本来の力があんなものじゃないことまで知っている。

カードの力が持続しないんだ。

何故持続しない?何故俺はそんなことまで知っている?」

「僕が答えましょう」

「!?」

突然の声に驚き、士は周囲を見回した。

しかし、近くには誰も立っていなかった。

代わりに大きな衝撃音が響く。

見れば、数キロ先のビルを中心に爆発が起こり、その炎が物凄い勢いで街を呑み込んでいた。

炎はあっという間に光写真館に到達しようとしている。

「くっ!」

士はとっさに腕で顔を隠して目を伏せた。

 

「…………?」

しばらくして、自身が炎に呑まれていないことに気がついた士は目を開いた。

見ると、炎は数十メートル手前で静止していた。

と言うよりも、世界の時間が止まっているようだった。

「これは……」

「どうにか間に合いました」

士の背後からまた声がした。

振り返ると、先ほど会った紅いマフラーの青年が立っていた。

「お前……何者なんだ?」

「僕は紅渡。今起こっていることと貴方の疑問について、これから順を追って説明します」

青年がそう言うと、灰色のオーロラが2人を呑み込んだ。

2人が立っているのは宇宙のような空間だった。

ただ奇妙なことに、その空間には地球が複数個存在し、

そのいくつかは互いにぶつかり合っていた。

 

「すごい光景ですね」

渡がそう言った。士は渡に向き直り、目で話の続きを促した。

「貴方は、仮面ライダーディケイド。

9人の仮面ライダーを破壊する、10人目の仮面ライダーです」

「仮面ライダー?」

士は聞き慣れない単語を聞き返した。

しかし口に出してから、その単語に覚えがあるようにも感じた。

「そう呼ばれる戦士が存在するのです」

渡はさらに続ける。

「9つの世界に9人の仮面ライダーが生まれました。

本来、それらは独立した世界だった。

しかし今、それらの世界が融合して1つになろうとしています。

そしてこの世界もまた、9つの世界と融合しようとしている。

このまま融合が進めば、全ての世界が消滅します」

「何だと!?」

士が驚愕した。対する渡は、冷静に話を進める。

「今、僕の仲間たちが融合を食い止めています。

しかし限界があります。

その前に、貴方にはしてもらいたいことがあります」

「?」

「ディケイド、9つの世界を旅して9人の仮面ライダーを破壊してください。

それが世界を救う唯一の方法です」

渡はそう言うと、士の右手を指差した。いつの間にか例のバックルとケースが握られていた。

「そのライドブッカーからカードを取り出し、ディケイドライバーに読み込ませることで、

貴方はディケイドとしての能力を使うことができます。

しかし貴方は以前、本来の能力と貴方の記憶を失ってしまった。

力が持続しなかったのはそのせいです」

「!!」

士は先ほどよりも大きく驚いた。

ずっと探しいていた、自らの記憶の手がかりが思いもよらぬ形で掴めたからである。

「ディケイド、9つの世界を巡り、仮面ライダーを破壊してください。

ディケイドの力はそのためのものです。

そして世界を巡れば、貴方は取り戻すことができるでしょう。本来の能力も、自分の記憶も」

「……」

「どうか、手遅れになる前に。頼みましたよ、仮面ライダーディケイド」

渡がそう言うと、オーロラが2人を呑み込んだ。

気がつけば士は、静止した炎に照らされる光写真館の前に立っていた。

 

 

 

 士は写真館の中に入り、スタジオへ足を運んだ。

「あ、士くん」

夏海が出迎える。栄次郎が砂嵐を映すテレビと格闘していた。この空間は静止していなかった。

外の炎によって、夕日のような赤い光が差し込んでいた。

 

「士くんがディケイドになって、仮面ライダーを破壊する……」

夏海が呟く。士が渡から聞いた話を夏海に説明したため、

夏海は自身が見た夢との関連性を疑っていた。

仮面ライダーを破壊するというのが夏海の見た夢を現実にするということなら、

それは何か良くないことなのではないか、と感じていた。

「士くんは、それを実行するんですか?」

夏海が尋ねる。

「そうだな……とりあえずやってみようと思う。

世界も救えて、俺のこともわかって、一石二鳥だしな」

そう答える士の顔が赤く照らされる。

その表情は少し楽しそうで、彼が期待を抱いていることを窺わせた。

「……わかりました。私もついていきます」

「は?」

士が嫌そうな顔をした。

「世界を救ってくれるのは大歓迎ですが、士くんじゃ1人で上手くいく気がしませんから。

それに借金を踏み倒されるのはごめんですし」

夏海はぶっきらぼうに言った。

本当は夢のことで、不安や心配があったのが理由の大半だったのだが、それは伏せていた。

 

「それで、どうやって他の世界に行くんですか?」

「……さあな」

士は他人事のように言い放った。夏海は驚愕している。

「それは説明されなかったからな」

「とか言って士くん、また『大体わかった』って自分から話を聞かなかったんじゃないですか?」

「違う、本当に説明がなかったんだ」

もめ始める2人。そんな2人を微笑ましげに見守る栄次郎はふいに、

スタジオの奥にある、撮影用の背景ロールを弄り始めた。

 

「何の話かわからないけど、人は皆旅人だよ。人生自体が、ある種の旅だからね」

栄次郎の言葉に2人も耳を傾ける。

すると背景ロールが切り替わって、見慣れない絵が出現した。

所々ヒビが入った石に刻まれた、文章のように整列された記号の羅列。

もっとも、どこの国の記号かもわからないその羅列は、意味のあるものなのかさえ怪しかった。

しかし、士は記号の中の1つに目を留め、小さく呟いた。

「……クウガ」

 

 

つづく




2018.01.06.19:25 最後のところで「しかし」が2文続いて用いられていた部分に気がつきましたので、その内の前の文の接続語を「もっとも」に修正しました。
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