こんなんでも見捨てずにいてくれたら嬉しい限りです
翔は困惑していた。東豪寺のメイドを名乗る星華から聞いていた話とどう考えても、今の状況が一致しない。翔は確かに聞いたはずだ。麗華自身がいくつかの候補の中から自分のことを選んだと。
何度思い返してもあれは夢でも、自分の聞き間違えではないはずだ、そう自分に言い聞かせながら彼女に問いかけた
「恐れながら当方は麗華お嬢様が私を選んでくださったと聞き及んでおりますが」
我ながら声が震えすぎだと思った。ついでに足も震えていた。それを自覚したら震えは止まらなくなった。
それを見て麗華は笑い出した。麗華は結局翔はどこにでもいる普通の人なんだと再認識した。そう思ったら今まで怒っていた自分がバカらしく思えてきたからだ。
翔はそれを嘲笑だと思った。自分の事をただの恥ずかしい勘違い野郎だと自嘲した。せめて震えを止めようと思った。
「星華は下がりなさい。コイツと二人で話したいの」
「ですが、流石に男女で二人きりというのは「アンタ達は自分で信用できないような男を私の付き人に選んだ訳?」いえ、決してそのようなことは」
「じゃあ下がりなさい。悪いけどコイツにしか聞かれたくない事なのよ」
星華は少し顔を歪めて、
「かしこまりました。何かあれば私の端末にご連絡を」
「えぇ、わかってるわ」
「それでは失礼いたします」
渋々ながら下がっていった。すれ違いざまに翔に
「お嬢様に傷一つつけてごらんなさい。地の果てまで追いかけて生まれてきた事を後悔させてさしあげます」
などとお約束のようなセリフを言い残して部屋を出ていった。
「さて、翔?かたっ苦しい言葉遣いはいらないわ。いつも通りの話し方で構わない。腹を割って話しましょう?」
「じゃあまずはこっちから聞くぞ?」
「えぇ、何かしら?」
「お前が俺を選んだって話は「嘘に決まってるじゃない。たとえ私がこの家の一人娘とはいえ流石に家の使用人の人事権なんて持ってないわ」えぇ...」
「大方そうでも言わないとアンタがこの仕事引き受けると思わなかったんでしょうね。今回は恐らくこの家にいる大半の人間がグルでしょうね」
「じゃあ東さんとやらが急病だっていうのも・・・」
「嘘に決まってるじゃない。第一急病だってのに仕事に来る訳ないし、もし仮に急病が本当ならアンタが来るまで誰がその仕事をするのよ」
言われてみればその通りである。
「じゃあ次は私の番ね。」
そう言うと麗華は黙って顔を赤くしたり、青くしたり、笑ったと思えば怒ったり悲しそうな顔をしだして一向に話そうとしなかった。
翔はそれを黙って見ていた。何を言われるか怖いとか考えながら、百面相ってのはこういうのを言うのかなどと一人で勝手に納得したりしていた。そしておもむろに隣に座ると彼女の頭を撫で始めた。
「なっ、なっ、何を「いやな、引っ越す前に近所の妹みたいなやつにいつもこうしてたなぁって。嫌なら止めるけど」
また黙り込んでしまったので嫌じゃないのかとか思いながら撫でていると、彼女は翔に抱きついてきた
「おっ、おい、流石にこれはまずくねぇか?」
「なんでアンタはそんなに優しいのよ・・・私いっつもアンタ達に助けられてたのに、あんなに酷いこと言ったのに、なんで、なんでよ!いっそあのまま見捨ててくれれば!きっとこんな辛い思いをする事もなかったのに!私なんて、私なんて!」
気づくと麗華の目から涙が溢れていた。麗華が家族や使用人以外の誰かの前で泣くのは初めてのことだった
「なに、バカみたいな顔してんのよ・・・」
「まさかお前が泣き出すなんて思わなくてな」
「私は強くなんかないわよ、こうしてないと私が私でいられなくなっちゃうような気がするからいつも見栄張ってただけで、そんなんだからきっと愛想つかされたんじゃないかって」
「お前さ、俺が目の前で困ってたり、泣いてる友達見捨てるような奴だと思ってたのかよ」
「違う、違う!でも私はその優しさに何も返せてない!それどころか酷いこと言ってアンタを傷つけた!ずっと謝りたかった!でも、でも!今更どの面下げて謝れって言うのよ!許してもらえなかったらどうしようとか、アンタとこれまで通りいられなかったらとか考えだしたら怖くて、勇気が出なくて!」
「俺が誰かと関わりを持つのが怖かった時に助けてくれたのはお前達だったわけで、だから少しでもお前達に何か返せたらって、思ってたんだ。あの時ホントは余計なお世話だったのかなとか考え出したらどう接していいかわかんなくなっちまったんだ。そんな時にちょうどこの仕事の話をもらってさ、お前と話せるちょうどいい機会だと思ったんだ。第一ホントにお前のこと嫌いになっちまったらこの仕事引き受けねぇよ。でもあの時は俺も言いすぎた。ごめん、まさかお前がそんなに思い詰めてるなんて思わなかったんだ」
「違う、違う、謝るのは私の方で、翔は何も悪くなくて、全部私が悪くて、ごめん、なさい、ごめんなさい、ごめんなさい、うああああああああああっ!」
麗華は泣き続けた。ずっと胸の内に溜めてたものをすべて吐き出すように。翔は何も言わずに頭を撫で続けた。彼女の弱さに気づけなかったことを謝るように。彼女を意図せず孤独にしてしまったことを悔いるように。
お互いに世界に自分たちしかいないように感じていた。
麗華はこの時がずっと続けばいいのにとか思い始めた。あれ?このまま泣いてる限りはコイツ私の頭ずっと撫でてくれるのではとか考え始めた。
翔はいつまでこうしてればいいんだと感じ始めた。そろそろ頭撫でるの止めてもいいかなとか思ったけどまだ泣いてるし止めたら怒るかさらに傷つくかなとか麗華の髪がサラサラで触りごごちいいなとか実はすごいことをしているのではとかでももうちょっとこの髪触ってたいなとか考えだして止めに止めれなくなっていた。
そうこうしていると麗華が痺れを切らしたのか、涙をぬぐいながら
「ねぇ、アンタは私がこんなに弱いって知ってもそばにいてくれる?」
と、言ってきた。翔の答えはもう決まっていた。
「今まで通りお前と一緒にいるし、それ以前にお前誰かに弱音っつーか本音っつーか吐き出す相手いないとぶっ壊れちまうだろ」
「アンタの前では弱いとこみせても弱音を吐いたっていいわけ?」
「別に俺じゃなくたっていいだろ。りんとかともみとかだっていいし、星華さんでもいいだろ」
「バカね。アンタにはとっくに見せてるし吐いちゃってんのよ。これからもこんな私でいいかって訊いてんのよ」
「俺でいいなら別に構わんけどなんか特別なこととか期待すんなよ?」
「バァカ、私をこんなに泣かせたんだから、そのぉ、今までよりも・・・」
「腹割って話すんだろ?とりあえず言ってみろよ」
「〜〜〜っ!なんでもない!アンタは今まで通り私たちと一緒にいればいいの!わかった!?」
「なんでもなくはないだろうよ、言ってみろって、痛い痛い!悪かった!なんでもないです!だからこれ以上殴るのやめてっ!」
「わかればいいのよわかれば。まったく、いらないとこで気が効くんだから・・・」
麗華はその実恋愛に関してはヘタレだった。麗華自身も今目の前の彼に対する感情が恋なのかどうかもしっかりと理解していなかったりもするわけなのだが。それでも今は今だけは彼と今まで通りに一緒に過ごせる、そう確信を持って言えるだけで随分と心が軽く、また今まで感じたことのない温かさを覚えたのは事実だった。
「いい?私たちの前から勝手にいなくなったり距離置いたらただじゃおかないんだから!アンタは東豪寺麗華の数少ない友人なんだからね!」
そんな彼女の輝きに満ちた笑顔を見ながら不思議な今まで感じたことのない胸の高鳴りを感じながら、俺今まで通り接することできるのかこれ・・・と、人知れず翔の心の中は修羅場だった
ひとまず麗華編終了。今回試験的に三人称に挑戦。反響次第では戻すかもしれないしこのままいくかもしれない。君の一票がこの小説の行く末を左右する・・・!
次?りん編かなぁ・・・もしかしたら日常パートかもしれない。
降ってきたシーン次第ですね。
感想等待ってます。