将矢が隠している本当の将矢。
ブラックシスターズに交代。
スラフティンの強奪未遂及び暴行事件、IS学園にとってはもっとも起きて欲しくなかったものが、起きてしまったと学園長である轡木十蔵は珍しくため息をついた。
強奪の際に起こったスラフティンの暴走。ゴッドエンペラーという兵器と差し支えない火力を持つ形態になり、アリーナを破壊しつくしてしまった。更には破棄せねばならないISまで出てきている。
「よくありませんね・・・しかも、強奪に関わっていたのは」
改めて関わっていた生徒を調べた資料を見ると、退学処分を受けた六名の生徒は全て親が政府の重臣のポストに着いている者たちであった。
「はぁ・・・ですが、証拠も出揃ってしまっているこの件、もみ消しは不可能でしょうね」
やってくるであろう。女尊男卑に染まりきった政府の人間を言いくるめの為のカードを整理しようと十蔵は少しだけ椅子の背もたれに身体を預けた。
学園の倒壊した部分は多少のもので済むであろうが、量産機とはいえ無断でISを持ち出し、破壊寸前にさせたことに関しては言い逃れはできない証拠を掴んでいる。
「こちらのカードはロイヤルストレートフラッシュ・・・ベットは最大限にしますよ」
十蔵は口元をわずかに浮かべるとやってくるであろう、親御との話し合いに意識を向けた。
◇
ゴッドエンペラーの暴走事件により、メタビーもロクショウと同じように眠りについてしまった。ゴッドエンペラーの意志に引き込まれ、メダフォースの連続使用が原因だそうだ。何故、それが分かっているのかと。
『マスター、メタビー、ロクショウの二人に変わり私達が』
『貴方をあなたをお守りいたします!!』
そう、彼女達だ。もう一度言う彼女達である。メダルを調べた所、黒くなっていたために驚いたが、彼女たちが話しかけてきたのだ。
Bカブトメダルこと、ブラックビートル。Bクワガタメダルこと、ブラックスタッグと二人は名乗った。
二人に名前はないらしく、マスターが名づけて欲しいとの事でブラックビートルをヌーマイト、ブラックスタッグにはオニキスと名前をつけた。
今、将矢は監視も兼ねて病院で治療を受けている。ただ、全身に包帯が巻かれているためにミイラ男状態で動くことができない。
暴走に関してはいくら本人が望んだ事ではないとはいえ、罰則が言い渡された。一週間の謹慎処分と反省文30枚というものだ。アリーナを破壊してしまった事を鑑みれば、かなりの情状酌量がされた様なものだろう。
二人によればメタビー、ヌーマイト、オニキス、ビーストマスター、ゴッドエンペラーの五人はあまりに怒り狂っていたそうで、現在は反省の意味も込めてゴッドエンペラーとビーストマスターはスラフティンの奥底で眠っているらしい。
「ところでさ?なんで二人はブラックって名乗ってるの?」
『それをお聞きになりますか。良いでしょう、私達はメタビー達とは反転した存在なのです』
「反転した存在?」
『はい、ロクショウさんとメタビーさんが「白」つまり、表側の存在とすれば私達は「黒」裏側の存在です。性別も性格もまるでコインの裏と表のように全くの真逆なのです』
「真逆・・・」
確かにそうだ。ヌーマイトはKBT型でありながらロクショウみたく冷静だし、オニキスはKWG型なのにメタビーみたく活発で行動派だ。
『それとマスター、言っておかなければならないことがあります』
「なんだい?」
ヌーマイトは冷静な口調で話題を切り出し始める。それは将矢も驚きを隠せない内容であった。
『私、シャルル・デュノアと接触していまして・・・スラフティンのデータを盗み出そうとしていたのを咎め、脅しをかけてしまったのです』
「なんだって?」
『今は解決している事案でしたので、お知らせしました。余計な心配をかけまいと黙っていたのです』
「・・・・それで、シャルには何をしたんだい?」
『データをコピーした端末と記録装置を処分させただけで、他は何もしていません』
「本当だね?嘘は言ってないよね?」
『もちろん、マスターには真実しか口にしていません』
「そっか・・・」
将矢は目を隠すように布団の中へと潜り込んだ。無論、そんな事をしてヌーマイト達の視線から逃れられるはずはない。
『マスターさん・・・?』
『マスター・・・?』
黒姉妹の二人は将矢が被っている布団が震えているのに気付いた。表情は伺えないが何かを押し殺しているような声を出している。
『マスター・・・・泣いているのですか?』
『・・・・』
ブラックビートルのヌーマイトはあえて言葉にしたが、将矢には聞こえている様子はない。ただ、声を押し殺して泣いている。
ブラックスタッグのオニキスは右手を胸元で握り拳をキュッと軽く握り締めた。ああ、この身が煩わしいと。
二人には泣いている理由が分かった。否、分かっていた。彼は本来なら勇敢ではない、戦う事を怖がり、相手を思いやる心を持ち、過去に何があったかを探求する青年だ。
偶然とはいえ、メタビーとロクショウの意志が宿るレアメダルを発掘しISを起動させてしまった。
更には世界で希少とされる男性操縦者の織斑一夏を傷つけた。専用機が奪われそうになり、自分の意志ではないにしろ、ビーストマスターとゴッドエンペラーの暴走を許してしまい、学園を破壊してしまった。
好奇の目から毎日のように突き刺さる恐怖と怯えにも満ちた視線、徐々に離れていく人々、少数の友人はいても何処か一歩引かれている感覚から抜け出せない。
それでも将矢は己を偽ってでも、そこにあり続けた。発掘が好きな青年として。しかし、内側では常に助けを求め、己が起こしてしまった過ちに押しつぶされそうになっている。
彼には師が居なかった。自分が力を持つ意味、それを得てしまった時に導きブレない軸となる物がなかったのだ。
束にはISの知識と戦闘能力を鍛えられたが、それだけであった。彼に欠けているもの、それは心技体の心である。
誰かに縋りたい、助けて欲しい、自分は違う、こんなこと望んでいない。あらゆる負の感情が涙となって溢れているのだ。
「く・・うううう」
『マスター・・・』
『っ・・・!』
ヌーマイトは冷静であったが、オニキスはそうではなかった。彼女はどうして自分に本体がないのかと憤怒した。
反転した存在とはいえ自分には魂がある。許されるのならマスターを腕に抱きしめたい、しかしそれはかなわない。
『・・・私達にその感情は許されませんよ?オニキス・・・いや、スタッグ』
『あ・・・・っ!』
ヌーマイトはオニキスの感情に気づいていた。彼女はマスターに心を許し過ぎている、それはつまり・・・魂の存在でありながらマスターである将矢に恋をしているということだ。
きっかけは些細な事であった。メタビー、ロクショウとともに戦う将矢の姿を見ているうちに、普段は見せない笑顔や爽やかさなどに胸の高鳴りを覚えてしまったのだ。
『わかってます・・・わかってはいるんです!でも、どうして私はメダルの存在なのですか!?抱きしめられるのなら私が抱きしめて差し上げたいのに・・・こんな・・こんな!』
『わかっています。私もマスターと同じ人の身でありたい思った事は一度や二度ではありません。ですが、言葉を交わすことは出来ても触れる事が出来ないのが事実』
ヌーマイトの言葉は非情にもオニキスの心を抉る。自分の立場を弁えているからこそ、強く突き放すのだ。
『・・・・っ』
『今は見守りましょう』
将矢はその日、声を殺して泣き続けた。メダル達の視線を気にもとめずに。
◇
その頃、IS学園のアリーナ倒壊はIS委員会の耳にも当然入っていた。緊急会議ではスラフティンを接収する案がいくつも挙げられている。しかし、その中で良識のあるメンバーの一人が言葉を発した。
「仮に接収できたとして・・・・例の報告にあったゴッドエンペラーと呼ばれる形態になってしまったらどうするのですか?ゴッドエンペラーの火力は一機で連合艦隊に相当すると解析が出ています」
データを表示しながら話を進めるうちに他のメンバーたちの口が閉じていく。
「ゴッドエンペラーを押さえるだけでIS部隊は最低でも100は必要です。世界中にあるコアの四分の一が必要な訳です。これでは消耗戦になった場合、向こうが圧倒的に有利です」
「どういう事なの!?一対百なら楽に!」
報告すべきか迷っていた女性は決意して報告書を片手に新たな報告を始めた。
「もう一つの報告によれば、スラフティンはゴッドエンペラーの他にビーストマスターと呼ばれる形態があるそうです。こちらも火力はゴッドエンペラーに勝るとも劣らないそうで・・・これが事実ならば世界中のISの約半分を使わなければ、押さえる事も出来ないという訳です」
「なんですって!?」
世界中のISを使わなければ接収する事ができない。それならば強奪や窃盗といった違法な手段も検討されたが、IS学園にいる限り無理であろうという結論に至る。
「すみません、これは裏が取れていない情報なのですが・・・」
「今度は何!?」
「土谷将矢は篠ノ之束博士と面識があり、今も交流を持っている可能性があるとのことです」
「な、なんですって・・・」
委員長らしき女性は秘書の報告に束の名前が出た瞬間、顔が青褪めた。将矢がIS開発者である束との交流があるという事は、もしもスラフティンに手を出せば束自身からの報復の可能性が出てきたという事でもある。
そうなればISはすべて凍結となり、今まで積み上げてきた女尊男卑が瓦解し、男性に報復されるケースが出てきたのだから。
「っ・・・スラフティンとその操縦者である土谷将矢に関しては保留とします。良いですね?」
委員長の判断は賢明であった。今この時代でISを完全に停止させられてしまえば、自分の権力が地に堕ち、追放させられてしまう。
それだけはどうしても避けなければならない、権力を得た自分が地に堕ちるのだけはどうしてもごめんだ。
手にした権力を失えば報復と蔑みが来る。自分がやるのはいいが、やられる立場に回されるのだけはどうしても嫌、それだけが委員会全体に万延していた。
◇
医務室では一夏が丁度、目を覚ましていた。傍には箒と千冬がいる。それを見た一夏は起き上がり、安堵して声をかけた。
「千冬姉、無事だったのか。良かった」
「良かった、ではないわ!大馬鹿者が!!」
「っっ!?」
千冬のあまりの剣幕に一夏と隣にいた箒は震えが走った。自分が何故、ここまで怒られているのかが理解できていない。
「お前は何をしていた?避難警報が出ていたのにも関わらず、避難せずに戻ってくるような真似をして!」
「千冬姉が避難してないって聞いたからそれで・・・」
千冬は思い切り張り倒したいのを堪えると剣幕を強めたまま説教を始めた。無論、論点は避難を無視した事とゴッドエンペラーに関してだ。
「私はな、ゴッドエンペラーと話し合いをしていたのだ!奴は主人である将矢を守ろうと行動していた、スラフティンが強奪されそうになってな!」
「え・・・?ゴッドエンペラーと・・・あんな破壊しまくるだけの機体が話し合いに応じる訳が!」
「残念ながら奴は応じてくれたよ。スラフティンを強奪しようとしていた馬鹿共の音声と映像さえ提出してくれた」
「なんだって?」
一夏は極限状態とトラウマによる恐怖で、ゴッドエンペラーの声は合成音声によるものだと思い込んでいた。
だが、恐怖しながらもゴッドエンペラーと話し合った千冬は断言している。
「条件として奴らを的にしろと言われてしまったがな・・・」
「その条件を飲んだのか!?なんで!」
「では、一夏。一つ聞くが・・・仮に篠ノ之が四肢を拘束され、金属バットや角材などで暴行され、女として大切なものを奪われそうになっていたらどうなる?」
「そんなの・・・許せる訳無いだろ!暴行した奴らを止める!」
「どうやってだ?」
「殴り飛ばしてでも!」
一夏の言葉は千冬にとって子供の理想を聞いているようなものであった。確かに防衛行動は必要だろう、ましてや犯罪の領域に踏み込んでいる相手をみれば当然の考えだ。
「殴り飛ばすのは構わんが、殴られた者の報復は考えんのか?」
「え・・・」
「剣ならば斬った相手が反撃できるなら斬ってくる。銃ならば撃てば撃ってくる。格闘ならば殴れば殴り返される・・・・」
「そんなの、当たり前の事だろう?」
殴られたら殴り返すのは当然だという考えを千冬は否定しない。むしろ自分がそれを実践してきている身であるのだから、否定すること自体がおかしい。
しかし、千冬が感じたのは覚悟の無さと視野の狭さであった。
「一夏、何故あの時、ゴッドエンペラーを攻撃した?」
「あれは、千冬姉を守るために攻撃したんだよ!左腕を千冬姉に向けてたし、それに」
「もういい・・・お前は攻撃する前にゴッドエンペラーの破壊行動が止まっているのを見えなかったのか?ISを纏っていた状態で」
「そ、それは!」
千冬は冷静にISを装着しているのなら理解可能な状況を口にしている。もしも、真っ直ぐに突撃してきていたのならばその間に、ハイパーセンサーからデスレーザーの熱源反応がない事をアラートされていたと指摘している。
頭に血が昇っていたのであれば、見る事が出来なかったと言えるだろう。しかし、校舎からアリーナまでISを使って飛行してきたのならばその距離の間に情報を得る事は出来たはずだ。
「お前の事だ、自分を負かしたビーストマスターと雰囲気が重なるゴッドエンペラーを倒そうとしたのだろう?」
「う・・・・・」
「お前はもう少し冷静な目を持て、一夏。あそこでお前が攻撃しなければ、お前は怪我を負わず、ゴッドエンペラーもアリーナを破壊し尽くさなかったのだ」
「俺が悪いのかよ!?だって、ゴッドエンペラーは!!」
「暴走させていた土谷にも責任はある。だが、止められた場面を台無しにしてしまったのはお前だ」
「そんな・・」
「千冬さん、一夏は貴女を守ろうとしたのですよ!どうしてそこまで」
箒は一夏の行動に対し、擁護しようと意見を口にするが千冬は目を閉じ、改めて開くと冷静な意見を口にした。
「篠ノ之、一時の感情で大局を見失うのは愚かな行動と変わらんのだ。あの時、お前が放送室に乗り込んだ事とな、お前を無人機の光学兵器から守ってくれたのは誰だった?」
「い、今はその事は関係ないでしょう!」
「避難警告を無視してでも放送室での応援が必要か?今回の件もあの時の件も、お前達は全く同じ無謀さで行動していたんだぞ!?」
千冬の言葉に何も言えない二人であった。行動した場所は違えど、避難勧告を無視した無謀な行動を行った点は全くの同じであった。
「土谷は一週間の謹慎と反省文30枚を言い渡された。暴走した事や暴行を受けた点を考慮に入れてもアリーナを破壊した事には変わらんからな。金銭的な賠償を求められなかっただけでも温情だ」
将矢の処分に僅かながらざまあみろと思ったのか、箒と一夏の口元が僅かに歪んでいた。
「一夏、お前も反省文50枚と二日間の謹慎だ」
「え?なんで!?」
「避難警告を無視、緊急時だったとはいえ勝手な行動による戦闘・・・これだけでも処分は発生する。土谷よりも軽い事を感謝しろ。以上だ」
千冬が去っていった後、一夏は自分が処分される理由が分からなかった。避難警告を無視したのは理解できる。でも、暴走していた相手をから姉を守るために戦ったことに何がいけないのか、分からない。
「千冬姉を守っただけだろ・・・なんでだよ」
「一夏・・・」
箒は一夏の味方であろうとしているが、自分の行動が理性と恋心の板挟みになってきていた。一夏を守ろうとすれば自分の行動が空回りとなりかえって事態を悪化させている。
逆に理性的に行動すれば一夏を守る事になり、事態も悪化せずに円満と解決している。
箒の理性的な行動を阻害しているのは一夏を独占したいという思いからであった。他の誰にも渡さない、一夏は自分の隣に居るべきなのだと。
一方で冷静な自分もいる。一夏の行動が自分と同じように無謀な行動で事態を悪化させていると見れる自分が。
「私は一体・・・どうすれば良いのだ・・・?一夏を渡したくはない、だが・・・一夏を止めねば大局的に悪化してしまう事も多いのが、わかってはいるのだ」
箒の心中は穏やかではなかった。無人機事件以降、大局的に物事見れる冷静な自分と恋心だけを優先し独占欲が強くなっている自分、二人の相反する自分自身に板挟みになっているのだから。
「わからない・・・・どうすればよいのだ。姉さん・・・貴女なら答えてくれますか?今になって一夏と共に居たいが為、貴女の名前を利用している事が恥ずかしいです・・・」
俯いている一夏を置いて箒は医務室を出て行く。自分の内側の相反する感情を秘めたまま。
今回は処分回及び交代です。
今回からしばらくの間、ブラックシスターズが将矢と共に戦います。
彼女達はメダフォースはゲーム基準です。
装着の間は将矢がTSる事はありませんのであしからず。