束がグレインを封印。
後に一夏の評判がダウン。
※今回の話はメダロットの神曲の一つである【DO OR DIE】を聞きながら読むのを推奨します。
「来い、セシリア・オルコット」
「ええ!」
「待った!!」
戦おうとした瞬間、束がそれを静止し、その声に将矢とセシリアが視線を向けた。
「セシリアちゃん・・・だっけ?ちょっと来て。覇王!戦いの準備があるから少しだけ待ってなよ」
「良いだろう。万全を期して来るがいい」
律儀にも彼は準備するのを承諾した。ただ圧倒するだけでは相手への恐怖心は生まれない、万全な状態で倒してこそ意味があるのだから。
◇
「篠ノ之博士?一体何を・・・」
「いいから黙ってろ!今、ブルー・ティアーズのコアに復元させたファーストメダルのエンゼルメダルデータをコアにコピーさせてるんだ!」
「???」
セシリアは束の言葉の中でコアになにかのデータをコピーしていることだけしか、理解できなかった。
「よし、データコピー完了。パーツも換装するよ」
束によってブルー・ティアーズの姿が天使のような姿に変わっていく。カラーリングは変わっていないがまるで戦いに赴く戦天使の姿を彷彿とさせていた。
「グレインのデータを見た時に止められる機体として開発しておいたパーツ・・・名前をパーティクル!」
「パーティクル・・・」
「グレインを止められるのは現状、君だけ・・・・頼むよ!」
「ええ、承りましたわ!」
一時的なパーツ換装を済ませ、セシリアは覇王の面前へと趣いた。そこへ、怒号のような声が響く。
「セシリア、俺がやる!俺が将矢と戦って止める!だから、変わってくれ!戦っちゃダメだ!ラウラ、離してくれよ!!」
AICによって動きを封じられてはいるが、声をかける事はできるために自分が戦うと叫んでいる。
しかし、帰ってきたのは空へ向けてライフルから放たれた弾丸であった。その意味はお前は口を閉じていろというメッセージである。
「いい加減に自分の実力を自覚して頂けますか?織斑さん・・・」
「セ、セシリア・・・?」
セシリアの表情は冷静だが、目は本気で怒りの色が見えている。あれだけの事を引き起こしてまだ自分が戦うのかと。
「貴方が勝てる要素は何一つありません。織斑先生の力があれば勝てるとでも?」
「そうだ!だから、セシリアも俺が守るから戦わなくても」
「その口を閉じていただけますか?わたくしを守る?貴方が守られるの間違いでしょう?」
「え・・・」
セシリアは怒りを通り越し、極端に冷静な思考になっていた。自分自身でも驚く程に客観的で大局を見極め、現実かつ論理的思考が出来ていた。
「覇王の言う通り、貴方は借り受けた力を振るっているに過ぎませんのよ?零落白夜は確かに最強の力、ですが、最強の名を世界に知らしめたのは貴方ではなく、貴方の姉である織斑千冬さんですわ。その名を借りているだけ、ええっと・・・日本のことわざで、こう言いますわね?“張子の虎”だと」
「な・・、俺が・・・張子の虎?」
その言葉は代表候補生達が、あえて言わなかった言葉であった。張子の虎の意味は弱いはずなのに虚勢を張っている人間の事を指し示す言葉だ。イギリス出身のセシリアではあったが、国語の授業で学んだことわざに興味を持ち関する本を読んでいたのだ。
「ですから黙って見ていてください。織斑先生、心苦しいと思いますが」
「分かっている、束」
「うん、この戦いに乱入させないようにするよ。ごめんね?いっくん」
「束さん、何を!あっ!!」
束は白式に自分の端末を繋げると纏っているISを操縦者から強制解除させるコードを打ち込み、白式を解除させ、待機状態のガントレットがその場に落ちる。無論、ラウラのAICに束縛されているため一夏自身は動く事は出来ないままだ。
「ちーちゃん」
「・・・・一夏、白式は私が預かる。この戦いの邪魔は許さん」
「か、返してくれよ!それがないと!守れない!!」
「はぁ・・・いい加減にしろよ。現実を聞かされても耳に入れないガキが!AICを解除して!」
「?分かりました」
束は再び口悪く罵るとラウラにAICを解除するよう声をかけ、解除と同時に一夏を合気道の押さえ込みのように組み伏せた。
「痛ててててて!!痛い!!」
「確か、IS用の接続用コードが・・・あった!ちーちゃん」
「うむ」
千冬は容赦なく、束によって目の前に投げ出されたコードを縄の代わりにし、一夏を簀巻きにして縛り上げた。それを見届けた束は一夏の組み伏せを解く。
「な、なんだよこれ!解いてくれよ!」
「大人しくしていろ、お前もこの戦いを見ておけ」
一夏は解こうと暴れるが、ISに使われているコードだけあって人間の力では引きちぎる事は不可能な代物である。その姿を見ている他のクラスメート達はほんの少し、幻滅している。
教室で見ていた爽やかなイケメンスマイルを振りまき、優しさを与えてくれる王子様から一転、わがままな男という印象が強まってきていた。
◇
「申し訳ありません、戦いに水を差すような真似を」
「関係ない・・・だが、その姿で俺に挑むとは本気のようだな?データにある・・・このグレインと対を成す機体パーティクル!」
「グレインを倒して、貴方には去って頂きますわ!覇王!!」
「来い!!」
[ステージ・砂浜 覇王]
「誰であろうと、俺の前に立つならば 倒す」
【※今回は限定ロボトルです。一人だけが参加出来ます】
◇
セシリアはライフルを手に覇王へと突撃するが、追加されたパーツデータの確認も怠らない。
「頭部は反射機能?右腕はプログラムリペア、左腕は装甲復活ナノマシン、ですか。変形すると継続再生、カウントアタックですか・・・?使いこなせるかわかりませんが、やってみますわ!」
パーティクルの姿になっているとはいえど、ブルー・ティアーズはあくまでISであり、スラフティンのような機体の変形やパーツ換装は出来ない。
だが、パーツを変形させる事は可能であり、それがメダチェンジの代わりとなる。
「そこだ」
覇王は冷静にスタティックの効果がある左腕から弾丸を発射する。それを見てセシリアは回避に専念しつつ、将矢から教わったトラップ戦術を思い返した。
「トラップといっても攻撃するだけがトラップじゃないんだ」
「そうなのですか?」
「そう、対戦相手が接近戦型なのか、射撃型なのか、それから、特殊戦術型なのかを見極めてから使わないといけない。仮に相手が一撃でダメージを半分近く与えてくるタイプなら、自分にトラップを仕掛けるんだよ」
「自分にトラップを仕掛けるのですか!?」
「そう、自分が有利になるトラップをね」
思い返した後、ライフル射撃で反撃する前にセシリアは左腕に装着されたパーツからトラップを仕掛ける。たった一度のチャンスを作り出すトラップを。
「これを仕掛けておきますわ!」
「だが、スタティックから逃れることは出来ない!」
「うっ!」
向けられた砲口から発射された弾丸は直撃してしまうが、セシリアには発泡スチロールをぶつけられた程度の感覚しかない。だが、油断せずに将矢から教わった事を再び思い返す。
「いいかい?強力な攻撃だけが攻撃じゃないんだ。あえて弱い攻撃をしてくる場合もある」
「何故?射撃戦でも撃ち込み続ければ勝てますわ。確かに弱い攻撃も牽制では役立つでしょうけど」
「いくら弱い攻撃でもダメージは蓄積していくんだ。俺がメルトやファイヤーといった攻撃を使うパーツを選んだのは蓄積ダメージを理解して欲しかったからなんだ」
「蓄積ダメージ?」
「ファイヤーやメルトはお世辞にも威力が高いとは言えない。でも、その分、相手に継続的なダメージを与え続けられるのが利点なんだ。セシリアもくらった後、移動しているだけなのに違和感がなかった?」
「そういえば、ブルー・ティアーズの動きが少しずつ鈍って、シールドエネルギーがカウントダウンしてるみたいに減っていっていましたわ」
「それが蓄積ダメージの恐ろしい所さ。何も知らない間にシールドエネルギーが勝手に減って行くのを想像すればわかるでしょ?どんなに恐ろしいことか」
「う・・・そうですわね」
「だから、もしも相手の攻撃に当たってしまったのならその衝撃で図るといいよ。まるで痛くない衝撃だったら蓄積を疑った方が良いね」
メルトの強酸にも似た攻撃でも、ファイヤーの火炎放射と似た攻撃でもないのに弱い攻撃。普通ならば気にする事もないだろう。しかし、セシリアは教わった通りに用心する。
「グレインの攻撃は全て最初の一撃が弱い・・・蓄積させてからの逆転がありえますわね」
「何を考えている?メダチェーーーンジ!」
グレインを駆る覇王はメダチェンジし、上半身と下半身の大きさが違う姿になる。セシリアの背後に陣取っているため、狙いは一つだ。
「デストロイ、発射!」
向かってくる光弾の気配にセシリアは直感する。あれに当たったら一撃で終わってしまう、と。
「どうすれば!」
『声に出しなさい、メダチェンジと』
「!!メダチェーーーンジ!!」
瞬間、ブルー・ティアーズの換装されたパーツが神獣を模した姿に変形する。同時にデストロイに直撃してしまうが、全くの無傷であった。
「!メダチェンジだと!?・・・ちっ!」
覇王の言葉に一瞬だけ動揺があった。パーツ換装だけとはいえどメダルの無いISがメダチェンジするとは思わなかったのだろう。だが、現にセシリアはメダチェンジを成功させているのだ。
「!武装はカウントアタックのみ、やってみせますわ!」
「まだだ!」
変形したパーティクルのパーツから牙のような剣が現れ、切りつけるが威力が低い。カウントアタックという名前のとおり、何度も攻撃して真価を発揮するものだ。扱いにくい武装にセシリアは歯噛みするが、ライフルや元からあったビット兵器を繰り出すことで、カウントアタックを四回命中させる事に成功する。
だが、同時にグレインのカウントアタックのチャージもされてしまった。
「メダチェーーーンジ!」
「!こちらも!メダチェーーンジ!」
大悪魔の名を持つ個体の「穀粒」と大天使の名を持つ「粒子」お互いに抑え合っているこの戦いに、生徒も教員も誰もが目を離さず見ている。
そんな中で歯を噛み締めながら悔しがっている者もいる。だが、いよいよ決着の時がやってきたのだ。
「再びメダチェーーーンジ!」
「!!しまった、このタイミングではメダチェンジが間に合いませんわ!」
「タイムアタック!発射!」
チャージを重ねたタイムアタック攻撃、この一撃はデストロイと同等の威力に跳ね上がっている。
「!リジェネート、起動!」
「何!?」
セシリアはパーティクルの頭部であるリジェネートを起動し、タイムアタックの一撃をグレインへと跳ね返した。この一撃を回避しようとするが、反射されたタイムアタックの一撃は光の速さでグレインへと直撃する。
「ぐ・・・まだ、終わりではない!」
「いいえ、この一撃が大悪魔を倒す"Silver Bullet(銀の弾丸)ですわ!!」
遠距離からのライフル狙撃を中心に受けたグレインは機能停止になり、覇王の人格は機体と共に膝を折った。
「以前のわたくしであれば、こんな・・・一か八かの賭けなんてしなかったでしょう。今回は一歩を踏み出して賭けに乗りましたわ」
「ふ、その結果が俺の敗北か・・・認めよう、俺の負けだ。だが、お前達の試練はこれからだ」
「どういう事ですの!?」
「俺は意識の奥底へと消えるだろう。だが、主人格が受けてきた傷を癒す事が出来るかな?」
「!」
覇王は潔く敗北を認めた後、主人格である将矢の心の状態をセシリアに教えていた。それはセシリアにとっても最大の試練にも等しいものであった。
「偽りの守人の身代わりとして受け続けてきた傷、己を追い込み閉ざした心、その全てを癒してみるがいい・・・主人格を救った勝者の役目・・・だ」
それだけを言い残し、覇王は意識の奥底へと消えていった。覇王の人格はいわば将矢自身が生み出したものである。それを消し去ることはできない。
「将矢さんの心の傷・・・・」
セシリアはISを纏ったまま、気を失っている将矢を助け起こし、千冬と束のもとに運ぶとISを解除した。
◇
「悪いけど、パーティクルのパーツは全て回収するよ。メダルのデータは消去するとコアが動かなくなるから妥協してあげる」
「はい、ありがとうございました、篠ノ之博士・・・」
「そのお礼、つーくんを助けてくれたから素直に受け取っておくよ、だけど」
「ええ、覇王が言っていましたわ。主人格である将矢さんの心を癒す事ができるのかと」
「どれだけ傷つけられたんだろう・・・・」
「・・・・」
会話しながらもブルー・ティアーズに換装されていたパーティクルのパーツは束によって回収されていき、グレインの方も厳重封印のプロテクトをかけていく、もはやスラフティンの中で目覚めたグレインを引き離すことが出来ない為にこのような処置しかできない。
戦いを見届けた生徒達も旅館へと戻り、残ったのは代表候補生達と教員である千冬、束、そして気を失っている将矢と一夏だけであった。
一夏は戦いが終わった事で縛めを解かれており、セシリアに駆け寄った。
「すごいぜ、セシリア!あのグレインを倒すなんて!!」
「え、ええ」
一夏の勢いに怯むが、なんとか持ち直し一夏と会話をする。以前ならば当然だろうという態度をとったであろうが、今はなりを潜めている。
「一緒に戦って倒したかったな、そうすればセシリアを守る事が出来たのに」
「!」
今、この男はなんと言った?一緒に戦えば自分が守る事が出来たのにと言ったのを確かに聞いた。それはセシリアにとって戦士の威厳を汚したばかりか、お前は自分より各下だと言われた事と同義であった。
「けないで・・・」
「?セシリア?どうした・・・・っ!?」
「ふざけないでくださいまし!!」
バチーン!と一夏の頬がビンタされる。一夏はなぜビンタされたのかを理解していない様子であるが周りは全員、されてあたりまえだという表情をしている。
「わたくしを守るですって!?一体、貴方はどれだけ自分を格上にしているんですの!?」
「え?お、俺はそんなつもりじゃ・・!」
「お黙りなさい!この機会だから言っておきます!「守る」というのは相応の実力と己自身を守れる技量がある事は当たり前であり、主に各下であると思っている相手に向けて言う言葉なのですわ!」
普段は激情に駆られる事の無いセシリアが本気で怒っている。これに対し、意見する者など誰一人としていない。
「織斑一夏、貴方は代表候補生ですの?それとも企業代表候補生?ISに関する大会には参加しましたか?ISに関する実績はありますの?あるのなら仰って下さい!織斑先生に関することは抜きで!!」
「そ、それは・・・!」
「無いでしょう?貴方は世界初の男性操縦者ですが、ただそれだけ!ISが扱えるという資格しか持っていませんのよ!!」
「ち、違う!俺は・・・そんな事!だったらアイツも!」
「ええ、将矢さんも貴方と同じですわ。二人目の男性操縦者でしかない」
「そうだろう、だから・・!」
なんとか執り成そうとするが、一度火の入ったセシリアの口撃は収まることはなかった。
「将矢さんはわたくしと初めて戦った時、猶予の間、対策を考えていましたわ。貴方は猶予の間、何をしていましたか?わたくしとの戦いの時は?鈴さんとの戦いも、ラウラさんの時も貴方は何をしていましたか?答えなさい!!」
「うう・・・」
振り返ってみるが、自分が成し遂げた事は何一つなかった。セシリアとの戦いでは暴走したビーストマスターに返り討ちに合い、鈴の時は同じようにゴッドエンペラーにやられ、シャルロットの時は自分の助ける手段の穴を指摘され、ラウラの時は自分が暴走していた。
「これ以上、貴方から守るという言葉を聞きたくはありませんわ!己に足りない物を見つめ直しなさい!」
「ぐ・・・」
セシリアは同学年ではなく、イギリスの代表候補生として一夏に怒っていたのだ。努力して掴んだものといきなり渡された事による認識の差ではあるが、それが許せなかったのだ。
「私が言いたい事を、オルコットに言われてしまったな」
千冬はわずかに笑みを浮かべて、生徒の成長を喜んでいた。これでいい、自分の後に続く者が自分を超える偉業を成し遂げてくれればいいと。
「そうだ、束さんに聞きたい事が!将矢が使ってるスラフティンって・・・一体何ですか!?どうしてセシリアも!?」
セシリアに叱咤された後、すげ替えたのか本当に思い出したのかは分からないが、一夏は束の近くに来た。
「いっくん、この言葉を覚えておくといいよ?"A secret makes a woman woman.」
「え?」
いきなりの発音の良い英語に一夏は鳩が豆鉄砲を食らったような表情になるが、束は自分の人差し指を立てて唇に当てた仕草をしたままだ。
真の意味を理解しているのは代表候補生達だけであった、束の言葉にある裏の意味を。
スラフティンに関する事を聞くというのなら存在を消すという、メッセージか込められていることを。
はい、覇王は奥底に封印されました。グレインもプロテクトです。
作者個人の考えですが、人を守るって相手を各下に見てるんじゃないかな?って考えたことがあります。
お前は弱いんだから前へ出ずとも何とかしてやるから、という意味が含まれているのでは?と。あくまで「人を守る」と「約束を守る」は別の意味であると捉えて書いています。
後、スラフティンを貸せと言われていた事に関してですが、将矢くん自身が拒否していたので処罰も何もありません、そもそもメダルがないと動きませんので。仮に奪われたとしてもメダル無しではただの木偶です。
束さんに似合うと思うんですよね「"A secret makes a woman woman.」ってww