Medaro IS メダルと共に   作:アマゾンズ

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将矢が恐怖状態

誰もがなんともならない状態


二十二話 癒えぬ傷

旅館の一室で束がひとりの男を看病していた。

 

「う・・・」

 

「気がついた?」

 

「束姉さん?」

 

ゆっくりと瞼を開き、束の顔を見たが目が覚めた瞬間に布団の中へ潜り込んでしまった。

 

恥ずかしさではなく、自分がしてしまった出来事の罪悪感からである。

 

「つーくん!?」

 

「もう嫌だ・・・誰にも会いたくない・・・」

 

「・・・・」

 

束は震えている将矢を見て、黙って部屋を出て行った。外の通路には心配してきていたメンバーが集まっている。

 

「どうでしたか?将矢さんは?」

 

「ダメだね、極度の人間不信になってる・・・今、会っても追い返されるだけだよ。私でようやく会話してくれるレベル」

 

「そうでしたか、覇王が言っていたのはこの事だったのですね・・・」

 

覇王の人格と主人格である将矢の記憶は共有している。だが、自分が行った出来事と女尊男卑の弊害によって傷つけられた心は深いものとなっていたのだ。

 

「・・・機械だったらパパッと直せるけど、人間の心だけはどんな天才でも治すことは出来ないよ」

 

それだけを言うと束は千冬の部屋へと向かっていった。その背中はどこか悔しさと哀愁を漂わせており、代表候補生達は見送る事しか出来なかった。

 

「私も戻るわね」

 

「僕も戻る」

 

「私は別の場所に行く」

 

鈴、シャルロット、ラウラの三人もそれぞれバラけるように去っていった。残ったのはセシリアだけであり、そのセシリアも部屋へ入るべきか迷っていた。

 

「・・・・今は入るべきではありませんわね」

 

仮に自分が慰めたとしても形だけの慰めにしかならない。セシリアは悔しさを胸にその場を去っていった。

 

 

 

 

 

 

その頃、千冬の部屋では一夏が正座し、千冬は束が来るのを今か今かと待ちわびていた。

 

「待たせたね、ちーちゃん」

 

「ああ、やっと来たか」

 

束はドアの鍵を閉めると怒りの笑顔で一夏の目の前に座った。その威圧感に一夏は怯えにも似た感情がせり上がる。

 

「さて、説教はちーちゃんとあのイギリス代表候補生の子がやってくれたから無いけど・・・その代わり」

 

束の手には千冬から預かっていた待機状態の白式があった。それを一夏の目の前に転がす。

 

「!白式、束さん!ありがとう!」

 

「勘違いしてんじゃねーぞ?甘ったれたガキが!その白式にはプロテクトをかけさせてもらった」

 

「え?プロテクト?」

 

「そう、零落白夜にな。今のお前が使おうとすれば、殺人道具として使われそうだ!」

 

「!!」

 

零落白夜を封印された。その意味を一夏は理解した、姉と同じ場所に立つ事を許されなくなったのだ。

 

「どうして、どうしてなんですか!?たば・・・ぶがっ!?」

 

「少しはてめえの頭で考えて答えを出せよ!ああっ!?ちーちゃんの弟だからって特別扱いなんざしねえよ、零落白夜の危険性を考えた事があんのか?」

 

束の手加減されたパンチを腹部にもらい、一夏は蹲ったがすぐに持ち直して座った。

 

「うう・・・・零落白夜の危険性・・・?」

 

「簡単に説明してやる、ロウソクに火を近づけたらどうなる?ロウソクはシールドエネルギー、零落白夜は火だと考えてみろ」

 

「それが・・・あっ!」

 

具体的な例を出されてようやく理解する。零落白夜はいわばバーナーのような威力を持つ火なのだ、それをロウソクに全開で近づけるとどうなるか?ロウソクは完全に溶けてしまう。

 

ISのシールドエネルギーを蝋に当てはめれば、零落白夜で斬りつけられる事は操縦者に致命傷を負わせる可能性があるということを示している。

 

いわば、生身の身体で光学兵器に体が触れる事は炙り焼きにする行為と同義なのだ。

 

「ようやく解ったか?プロテクトは扱えるレベルまで達したら自動解除するようにしてある。また扱えるようになれるまで勉強と訓練をしておきな!」

 

「束の言う通りだ。だが、危険性を説明しなかった私にも責任はある」

 

「そんなこと・・!」

 

「もう、お前のプライドなど関係ないのだ。よく考えてみるんだな、自分の置かれた立場というものを」

 

信じていた二人からも厳しい言葉を貰ってしまいショックを受けた。自分の立場とは一体何だ?試験会場を間違えて、その場に置かれていたISを起動させてしまい、それと同時にIS学園に連れてこられ、訳が分からず、誰も教えてくれなかった。

 

自分は望んでこの環境に居る訳ではないという考えが強まる。しかし、誰のせいでもない、偶然に偶然が重なり、その場にあったISというきっかけを掴んでしまったに過ぎないのだ。

 

その点では将矢も同じである。遺跡で発掘したメダルをきっかけにアクシデントでISを動かしてしまった。彼もISに関しては本当に基本中の基本しか知らない。戦闘もメダルからの支援を受けて、ようやくこなせるレベルが少しマシになっただけに過ぎない。

 

「っ・・・・!」

 

一夏は納得できない心境を俯くことで隠した。だが、どんなに不服を言った所で決定は覆らない。守るという言葉の重さが自分を押しつぶしているのを心で実感していた。

 

「しばらくこの部屋で謹慎だ」

 

そう言って千冬と束は出て行き、一夏は失意のまま一人、部屋に残された。

 

 

 

 

 

臨海学校も終了に近づく中、旅館の一室で銀の福音のパイロットであるナターシャ・ファイルスが目を覚ました。

 

「ここは・・・?」

 

「目が覚めたか?銀の福音の操縦者」

 

「貴女はチフユ・オリムラ!?じゃあ!」

 

「勘違いするな、ここは旅館の一室だ。福音の暴走を第一人者が止めて上で学園の代表候補生達が回収し、手当したのだ」

 

「そうだったの、それで・・・・あの子は?」

 

自分の愛機を心配するナターシャであったが、同時にウサ耳を外した束が落ち着いた様子で部屋に入って来た。その手には待機状態になっている銀の福音が握られている。

 

「福音は大丈夫だよ。問題は貴女自身」

 

「!プロフェッサー・タバネ!?・・・でも、私が問題とは?」

 

「軍事用ISの福音は今回の暴走の件で、破棄することになると思う。無論、製作者の私が回収したという通達を出したから解体は無くなったけど、操縦者の貴女は軍の記録から抹消、死亡扱いにされてるだろうね」

 

「・・・・そうね、当然といえば当然の処理だわ」

 

「話は変わるけど、今・・・貴女に残されている選択肢は二つ、保護プログラムを受けて別人になり、ISと関係なく生きていく。もう一つは銀の福音の為にIS学園に行き、そこで臨時講師をして自由国籍を取る」

 

「!でも、私は教員の免許なんて持っていないわ」

 

「私が学園長を説得してみよう。軍人というだけでも貴重な人材だ」

 

「チフユ・・・」

 

「私も協力するよ。兵器の危険性を知っている人が教員になれば、学園の生徒は自覚を持つかも知れない」

 

「プロフェッサー・タバネ・・・」

 

二人がナターシャをIS学園へスカウト、及び推薦しようとしているのは兵器の危険性を知っている事と軍人という点だ。

 

今回の件でIS学園の生徒の大半がISをスポーツ感覚でしか自覚していない事を憂いた為だ。極めて教師も似たような認識しかない、それを踏まえ軍の経験を持つナターシャを引き入れることで生徒達の認識の甘さを改善したいのだ。

 

「分かりました。あの子の為にIS学園のスカウトを受けましょう」

 

「わかった、それなら私がアメリカとイスラエルを説得するよ。こういう時にこそ、特別扱いの権限を使わないとね」

 

「手間をかけさせてすまんな、束」

 

「いいよ、私も目が覚めたし・・・使えるものは全部使うからね」

 

親友の二人は微笑み合い、それを見ていたナターシャはどこか羨ましそうに見ていた。

 

 

 

 

 

 

 

臨海学校最終日、いよいよ学園へと戻る日が来た。最終日の早朝に束は福音の応急修理とアメリカ・イスラエルの説得を行っている。

 

「という訳で、彼女はIS学園に行かせたいのです」

 

「しかし、福音は我々の・・・」

 

「一言、言っておきたい。コアはまだしも、軍用で兵器として勝手に作って暴走させた挙句、操縦者に責任を全部押し付けて知らない顔をするつもりですか?」

 

「な・・・!」

 

「もし、そうならそちらの国のISコアを全て凍結させても良いんですよ?軍用兵器・・・人殺しに使われるのなら凍結させた方が危険性はありませんから」

 

「ま、待ってください!条件を飲みます!それだけは!!」

 

「じゃあ、ナターシャ・ファイルスをIS学園へ出向、及び彼女の専用機である銀の福音は彼女の管理に置くということでよろしいですか?」

 

「は、はい」

 

束の脅迫と同義の説得に二カ国は折れるしかなかった。彼女は明確な怒りを持って言葉を選んでおり、弱体化させる意味を持って停止を宣言していたのだから。

 

「銀の福音に関するデータの吸出しは学園には禁止警告を出しておいたから、私からの慈悲と要件はそれだけ、バーイ」

 

モニターを消すと束は誰にも知られる事なく、旅館から去った。ただ、彼女の胸からは将矢が人間不信になってしまった事への悲しみだけが溢れており、それを堪え、ニンジン型ロケットに飛び乗り、帰っていった。

 

 

その後、学園へと帰路を走るバスに乗り込んでいき、将矢は真耶が隣に座る事で落ち着いており、一夏は千冬が監視するように隣へ座っている。ナターシャは特別にIS学園付近まで乗せていくという千冬の発言があり、影響はなかった。

 

他の組の一般の生徒達は楽しかったや厳しかったなど話しているが、二組へ割り振られたバスに乗り込んでいる鈴と一組のバスだけは誰もが沈黙しているままであった。

 

覇王の人格に支配されていたとはいえ、一般生徒相手に大立ち回りをしてしまい、己の間違いと差別による暴行で人間不信になった将矢、皆を守ると言って自分が戦う事ばかりに拘り、敗北を反省しない一夏。一組のクラスの一般生徒達から男性二人に対する評価は同等になっていた。

 

 

 

 

 

IS学園に帰還し、現地解散となり皆がそれぞれの寮へと帰っていく。そんな中で代表候補生達は荷物を置くと携帯端末で食堂へ集まろうと連絡をいれた。食事は出来ないが小休止のための飲み物を販売する自販機などは稼働していた。

 

やってきたのはセシリアと鈴、モニター越しかつ、キャラクターで姿を変えている束であった。シャルロットは亡命に近い形で日本にいるため、里親となった心優しい人達のもとへ顔合わせのために参加できないと連絡があり、ラウラもドイツへスラフティンのデータを持ち帰らなければならない為、データ纏めの為に参加できないと連絡が来た。

 

「それで、話って将矢と一夏の事でしょ?」

 

「ええ」

 

「二人共、束さんは話が見えないから説明してくれないかな?」

 

「あ、そうでしたわ」

 

セシリアと鈴は学園における一夏と将矢の評価と立場を自分達が知っている限りの範囲で、束に詳しく話した。それを聞いた束はキャラクターの顔越しだが憤怒の表情をしているのが分かる程、オーラが出始めている。

 

「んだよ・・・それ、顔だけで判断してやがるのか?どこまで腐ってやがるんだ!?」

 

「無理もないわ、将矢と一夏じゃルックスが違いすぎるもの。それに将矢は自分が努力している姿を信頼している人間にしか見せないし」

 

「そうですわね。織斑さんが守ると言えば、大半の女性は胸をときめかせてしまうのですから」

 

「それに関しては私は反省しているわ・・・自分が弱い立場の時って助けに来られると勘違いしちゃうのよね」

 

鈴は一夏に助けられた時を思い返す。確かにあの時の自分は胸がときめいた、しかし今はときめくどころか失望し、出来る事なら、もう関わりたくはないと思うようになってしまっている。

 

「それで呼んだ理由なんだけど・・・出来る事なら二人でつーくんと関わり続けて欲しいんだ」

 

「そんな事で呼んだんですか?別に私たちじゃなく」

 

「鈴さん、忘れましたの!?将矢さんは今、極度の人間不信状態になっていますのよ?」

 

「あ・・!ご、ごめんなさい!」

 

鈴が謝罪すると束のキャラクターは首を横に振っている。

 

「大丈夫だよ。正直、私が付きっきりになりたいんだけど・・・ほら、私ってさ?一応、世界に追われている身だし、IS学園でのつーくんの立場を考えるとね」

 

「確かに、羨ましがる奴らが出て来て更にイジメが加速する可能性が高いわ」

 

「そう、だから二人にしか頼めないんだよ」

 

「分かりましたわ。出来る限りの事をしてみます」

 

「頼んだよ」

 

束の通信が切れ、会話が終わる。鈴は立ち上がるとセシリアへ視線を向けた。セシリアは視線を受け止めつつ購入した紙コップのアイスティーを飲み干した。

 

「どうするの?セシリア」

 

「将矢に会わない事には始まりませんわ・・・織斑さんは千冬先生に任せておきましょう」

 

「そうね」

 

 

 

 

 

 

その頃、将矢はアークビートルダッシュとティレルビートルのデータをコンピューターで見ていた。無論、部屋の中の明かりは点いていない。

 

「この2体のユナイトをISで出来れば・・・」

 

『将矢・・・お前』

 

『・・・』

 

メタビーとロクショウも将矢の変化に戸惑いを隠せずにいた。自分達が話しかけても、将矢は最低限の返事を返すばかりでろくに会話をしようともしない。

 

「もう・・・良いんだ」

 

コンピューターの電源を切ると将矢はそのまま、ベッドに寝転がり眠ってしまった。

 

『このままでは・・・』

 

『よくありません・・・』

 

黒の二人も心配はしているが、会話も成り立たないことに悔しさを募らせている。だが、解決策が何もでない。

 

メダルの意志達は部屋に近づいてくる気配にも気づかないまま、将矢を見守る事しかできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「以上が、彼の情報になります」

 

「ありがとう。まさかとは思っていたけど・・・ここまで横行していたなんてね。冗談にも程があるわ」

 

「現実に起こったことです。それで、どう対処しますか?」

 

女性二人が会話しており、付き人のような女性が淹れた紅茶を一口飲み、ひと呼吸入れると口を開いた。

 

「彼は私に任せて、貴女はもう一人の方をお願いしたいの。恐らく、私じゃ門前払いだから」

 

「承知致しました」

 

「彼ら・・・特にスラフティンを扱う彼にはどうしても元の元気な姿に戻ってもらわないとね」

 

口元を隠すように開いた扇子のような物には「隠忍自重」と書かれていた。




将矢くん、今度は闇ならぬ病み状態です。

夏休みはトラブルがあるやもしれません。

イジメの原因は生徒だけではない?という次回です。
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