壬生の狼の牙を一時的に得る
将矢が束のいる孤島で焼肉を満喫している頃、もう一人、帰省している生徒がいた。
篠ノ之箒、束の肉親であり保護プログラムによって監視されている人間の一人である。
「着いた・・・」
彼女が実家へ帰省したのには訳があった。客観的な自分と恋心ばかりを追い続ける自分との折り合いをつけるためである。
「箒、久しいな。お前が禊ぎ場を貸して欲しいというのはどういった風の吹き回しだ?」
父からは怪訝の目で見られるが、それに怯まず口を開く。
「己を見つめ直すために・・・」
「今更、邪剣から正道に戻ろうというのか?未熟者め!と此処までは篠ノ之流剣術道場師範としての言葉だ。今からは親としての言葉。箒よ、用意はしてある心ゆくまで禊をするが良い」
「ありがとうございます」
箒は道場に入り禊用の白い衣に着替え、髪を結う。篠ノ之家の敷地に作られた簡易な滝がある池だ。
滝といっても轟音を立てているようなものではなく、禊用に調整された多少の勢いがあるものだ。
時期は夏ではあるが、水の冷たさは冬場に匹敵している。心地いいというよりも冷たさが突き刺さるだろう。
戸惑いを見せず池に入り、箒は禊を始めた。冷たさが全身に突き刺さり震えが来るがそれを堪える。
「・・・・・」
◇
禊の中で箒は自分の中へと潜っていった。その先にいるのはIS学園の制服を着ている自分自身。
「お前は・・・私か」
「そうだ、お前は私、私はお前だ!お前に聞く、どうして貴様は一夏と共に居ようとしない!?」
「どうしてそこまで一夏に拘る?今の私にはアイツが無鉄砲になっているようにしか見えない」
「ふざけるな!お前は一夏から離れても構わないのか!?」
「そうではない、第三者の目から見たらアイツの無謀さが分かっただけだ」
白衣姿の箒は制服姿の箒と話している。しかし、全くと言っていい程、制服の箒は話を聞いていない。
ただ、一夏を自分のものにしたいという独占欲と狭い視野だけだ。
「無謀に手を貸しては自分自身も死ぬ事になる。確かに皆を守るという志は尊い、だがお前も気づいているだろう?一夏の弱さを!!」
「うるさいうるさい!!」
「いい加減にしろ!お前は少しでも姉さんの事を考えた事があるか?ISの事を、将矢の事を!お前は姉さんのせいにして自分が常に正しいと思い込んでいるだけに過ぎん!」
「ぐっ!」
「私自身なのだから否定する事は出来ない!だが、少し考えれば分かる事だった。私は自分の事しか考えていなかった!姉さんが何故ISを作ったのかを考えようともしなかった!故に紅椿は私を認めなかったんだ!!」
「何故だ、何故そうまで私を否定できる!?私はお前自身なのに!?」
制服の箒は白衣の箒に向かって言葉で噛み付く。だが、それを冷静に切り返した。
「私自身だからこそだ。視野の狭い私を第三者の目で考えただけに過ぎない、だからこそ今まで見えなかったものが見えたのだ」
「ならばもう、問答は無用だ!貴様を殺し、私が表に出る!!」
制服の箒は紅椿を身に纏った。もはや戦いの中でしか交わすものはないという事なのだろう。
「良いだろう。お前の憎しみと怒りは私が受け止める覚悟はある!」
白衣の箒も紅椿を身に纏った。だが、細かな部分や刀の鍔元などの形状が違っている。制服の箒は刀、白衣の箒は源平時代の太刀を思わせる形状に変わっているのだ。
「来い、私よ。その凝り固まった一夏への思い、文字通り断ち切ってやる」
「ぬかせええええ!」
刀を抜き、制服の箒は白衣の箒に斬りかかるが、白衣の箒は太刀を抜かずに真剣白刃取りしてしまった。
「な、何!?真剣白刃取り!?」
「お前が言っただろう?お前は私、私はお前だ。じぶんの太刀筋くらい分かりきっている」
「それなら、これでどうだああああ!」
二本目を手に斬りかかり、白衣の箒の脇腹を掠めた。わずかに呻くがすぐに持ち直し、構えを取る。
「二刀か、それならば私も!」
白衣の箒も二刀を構えるが右腕だけが変化していた。まさしくメダロットのパーツである右腕になっていたのだ。
「これは・・?武装名コテツザンゲキだと?」
現れた浅黄色のダンダラ模様、そして紅椿の肩に刻まれた『誠』の一文字。それはまるで。
「し、新選組だと!?」
新選組、それは幕末と言われた時代において治安維持の為に同士を募り結成された剣客集団の名称である。
無論、箒自身詳しくは知らない。歴史を知った上で剣客集団だったという程度の知識しかない、それでも驚くべきなのは一部だけとはいえメダロットが扱えているという点だ。
「行くぞ!」
反撃の狼煙を上げた白衣の箒は二刀を巧みに扱い、制服の箒を追い込んでいく。剣道に簡単な護身術を加えた技も使い翻弄する。
「ぐ、何故!私にお前の剣が見切れない!?私と変わらないはずなのに!」
「上には上がいる。それを知って私はどこかでもっと強くなりたいと思った!だからこそ私は変化したのだ!」
「おのれ!!」
剣戟の音が響き、互いに受けては切られ、切られては受けるという行動を繰り返している。だが、優勢なのは制服の箒であった。
がむしゃらな連続の斬撃はただ一心に撃ち込まれる。余計な考えを持たない分、非常に強いのだ。
「終わりだ!死ねえ!」
「コテツザンゲキ!!」
お互いに振り切られた刃、膝を着いたのは制服の箒で白衣の箒は右肩を切られていた。
「ぐ・・・私が・・・負けるだ・・と?」
「敗北を知り、己を知る事で強くなれる。お前はそれを嫌がった」
「嫌だ、私は私は一夏と!」
「恋は盲目、男を知る前に己を磨かなければならないんだ。女としての自分を」
言い終える前に制服の箒は消えてしまった。正確には心の奥底にある理性の牢屋に閉じ込められたのだ。
「もう、出てくる事はないだろう。さらばだ・・・恋に盲目かつ独善な私よ」
白衣の箒は紅椿を解除し、シンセイバーの右腕であるコテツザンゲキを返還するように掲げて消滅させた。
「紅椿だけがあればいい。私の相棒は紅椿だ」
そう、呟くと現実へ戻るために自らの意識を引っ張り上げるかのように現実へと向かわせていった。
はい、箒は自分で自分を倒しました。
制服の箒は所謂、アンチタイプの箒で白衣(着物)の箒は現実の箒です。
制服が勝てばアンチに、白衣が勝てば一人のキャラクターになるというパターンです。
アンチにする気はなく、目撃かつ見守り担当にしました。
では。