月の母の意志を継ぐ黒きものが出陣。
学園祭が終わり、生徒会では楯無が宇宙からの飛来物に関する資料を集めて読んでいた。
「研究しても解析できたのはほんの一割、しかも」
「はい、将矢さんが撃退した機体と同じものである可能性が高いと」
「虚ちゃん、言いたくないけど宇宙からの侵略って線を信じる?」
「?まるで映画みたいな事をおっしゃいますね」
「可能性よ、あくまでね」
暗部としての顔を見せつつ、生徒会長としての仕事もこなす。だが、楯無は一つの不安を拭いきれなかった。
「もしも、ISが通じる相手じゃなかったらお手上げね・・・」
◇
その日の放課後、アリーナでは客席に代表候補生の四人と箒が立ち合う中、将矢と一夏が対峙していた。
模擬戦とは名目上で一夏が将矢に戦えと言ってきたのがきっかけであった。
「今度こそ、お前を倒して改心させるからな!」
「訳が分からない。男の思考が全て自分と同じだと思うなよ・・・。でも、ちょうどいい、いい加減に決着をつけておきたかったからね。ゴッドエンペラーとビーストマスターが戦ってたから俺が倒した訳じゃなかったし」
「っ!来い、白式!!」
「スラフティン、転送!モード・クワガタ!サムライ、アクティブ!頭部パーツ変更!シュリンプレス!」
頭部シュリンプレス 右腕ビームセイバー 左腕サムライセイバー 脚部ムシャブショー
頭部だけが伊勢海老を模した兜のようであり、他は全て戦国時代の甲冑を思わせる姿にスラフティンが変化する。
「流儀に合わせてあげるよ。男なら剣で勝負だって言いそうだから」
「舐めやがって・・・!」
開始の合図であるブザーが鳴り響き、白式を纏った一夏が突撃してくるが、将矢は光学格闘の武器である二本のセイバーをまるで宮本武蔵の絵のような格好で姿勢を取っている。
「うおおおおお!」
「ふんっ!」
左手に持ったサムライセイバーで一夏の雪片を受け止め、残った右腕のビームセイバーで横薙ぎの一撃で反撃するが一夏はそれを飛び退いて回避した。
「二刀流・・・・だって!?」
「残念ながら剣一本で勝負しろとは言ってきてないでしょ?二刀流は剣道の試合でも希に出てくる時があるよ?調べればすぐに出てくるさ」
将矢は馬鹿にした様子もなく、ただ淡々と自分が調べた事を口にしているだけだ。かえってそれが一夏をイラつかせる。
調べもしないで自分の意見だけを正しいと思うなと言われているような気がしてならないのだ。
「このおおお!」
今度は突撃と同時に、剣道の面を連続で打ち込むような激しい唐竹を繰り出してくる。
一刀流も二刀流も剣術に大差はない。だが、防御面において二刀流の方が有利なのは事実である。
「受けてばかりじゃなく、反撃してきたらどうなんだよ!」
「反撃するかしないかは俺が決める事、お前に強制されることじゃない」
舌戦では将矢の方が一枚上手であり、一夏は逆に精神を揺さぶられイラつきを加速させらてしまう。
それを客席で見ている五人は冷静に試合運びを見ていた。
◇
「皆さんはどう思いますか?この試合を」
「攻撃に転じてる時点で一夏が有利なのは間違いないけど・・・相当、挑発されて苛立ってるわね。あれじゃ冷静な試合運びをするのは難しいわ」
セシリアの言葉に鈴がすぐに答え、シャルロットも意見を述べた。
「確かに一夏は挑発されて苛立ってるけど、冷静さを取り戻させない将矢の判断がすごい」
「土谷将矢。アイツは戦う前に開示されている相手の情報を徹底的に調べるからな、おまけに相手の苦手とする事や嫌な部分を的確に突いてくる。戦術として正しいからこそ、ここまで手ごわい相手はいまい」
「剣士として私から意見を述べるのなら、鈴か言った通り挑発に乗った時点で冷静さを取り戻すのは至難だ。私自身もそれをよくわかっている」
ラウラの戦術眼としての意見と、箒の自分自身を反省しながら述べた意見に納得するように沈黙が支配する。
試合は一夏が攻撃し続け、押しているように見えるが無駄な動きが多く体力を自ら削ってきている。
逆に将矢は受けなければならない攻撃のみを受け、避けやすい攻撃は避けるように動いている。
避け方はまだまだ大雑把ではあるが、ロクショウから教わった戦法をキチンと実行して、余計な体力を使わないよう配慮しているのだ。
「はぁ、はぁ・・くそ!なんで当たらないんだよ!なんで、防御されるんだ!」
「戦略や戦術というのは状況に応じて変えていくものだよ。例えば一本の刀でも」
今度は将矢が一夏と同じように突撃し、唐竹を打ち込んだ。それを受け止める一夏だが押し込む力がほんの少し強い。
「ぐっ!重い!?」
「こうやって打ち込んだ後に、こうやるのも戦術さ!」
「え?ぐあああ!」
鍔迫り合いをしている最中、将矢はヤクザキックにも似た蹴りで一夏を蹴り飛ばした。
「最もこれは基本中の基本の戦略、モンド・グロッソの動画を見れば使っている人は沢山いるよ?」
「ぐ、くく・・・競り合い中に蹴りを打ち込んでくるなんて」
「武器を使うだけじゃない。相手が得意な間合い、戦略、武装、その他たくさんあるけど得意なことをさせない妨害系の戦略もある。ラウラの愛機に装備されているAICが身近にある妨害系の例だろう?」
反撃とばかりに今度は両手にセイバーを持ち直し、左右から繰り出される軌道の違う横薙ぎの攻撃、Xの形に斬りつけ、更には一本を投擲し弾いた隙を狙って切り付けてくる。
「け、剣だけでこんなにやり方が!?ぐあっ!」
「織斑先生のやり方だけを模倣してるんじゃこの先、どんな相手にも勝てないよ」
「!!なんだと・・・お前、千冬姉が弱いって言いたいのか!?」
「違うよ。確かに織斑先生はモンド・グロッソを刀一本で制覇した実績がある。でも、それは織斑先生の実力であってお前じゃない。どんなに真似したって同じ事が出来るとは限らないだろ?」
その言葉に客席にいたラウラはハッとした表情をする。自分も教官である千冬と全く同じ事をしようとした。
だが、結局は出来なかった。逆に自分は自分でしかなく、己が出来ることの中で近づける事は出来ても本人にはなれないのだと気づいた。
「今のアイツは・・・かつての私の鏡像か」
◇
「がう・・・違う!俺は!」
「同年代だし、俺も言えた義理じゃないけど・・・いつまで織斑先生の影を追っかけてるのさ?お前はお前であって、織斑先生じゃないんだよ。織斑先生の力が雪片で、それを持ったお前が織斑先生と同等なら」
動揺している一夏に対し、将矢は容赦なく言葉の毒を仕込んでいく。将矢は一夏の支えとなっているものを根本的から壊す事にしたのだ。そうでなければ本当の実力を見る事が出来ないと考えた末であった。
「世界中の誰もが雪片を手にしただけで、織斑先生と同じ実力者になると思わないか?」
「!!黙れよおおおおおおおおおお!!」
最も聞きたくない言葉の上位に位置する言葉を聞かされ、一夏は完全に冷静さを失ってしまい。闇雲に剣撃を打ち込み始めた。
「っ!ぐ!!」
「その口を閉じろよ!将矢!!これ以上、これ以上千冬姉を侮辱するな!何も知らない、ただ発掘するだけの根暗野郎のくせに!!」
「へえ・・・そう思ってたのか」
「何っ!?ぐあっ!」
将矢は一夏を蹴り飛ばし、うつむいているような状態で顔を見せていない。先程の連続攻撃でビームセイバーの出力部分が破壊され、サムライセイバー一本のみになっている。
「シュリンプレス・・・設置」
「これで終わりにしてやるよ!零落!ぐあっ!?」
白式の最大の必殺技である零落白夜を発動しようとした瞬間、白式のバーニアに近い装甲部分が爆発を起こした。
この爆発には既知感があった。クラス代表を決める時にセシリアと将矢が戦った時と状況が似ている。
「!まさか、トラップ!?」
「気づいたか、そう・・・今このフィールド全体に対格闘用トラップを仕掛けた」
「なんだと!?」
「零落白夜を封じるのは当然の戦略。だが、今のお前は雪片をも振るおうとすればトラップにかかる!」
これこそが実戦戦術の一つである。相手の特性が一つしかないのであれば、その特性を封じてしまうことで何もできなくさせてしまう。
「ふざけんなああ!ぐあっ!」
「警告はしただろう?」
将矢のトラップ戦術。これに関してはセシリアが最もよく知っている戦法であり、ラウラもゲリラ戦法の一つとして学んではいるが、徹底的に弱点を突く戦法で使うのは初めて見た様子だ。
「ざけるなよ。俺は守るって決めたんだ!だから、俺は何が何でも負けられないんだよ!!」
その瞬間、白式に眩しい光が溢れ出る。その現象は二次移行。白式が進化を果たしたということである。
「二次移行・・・」
「この場面で起こるなんてね」
代表候補生や箒達も固唾を呑んで見守っているが、将矢は冷静に進化した白式を観察していた。
「射撃用に大出力の荷電粒子砲、格闘用にブレードと零落白夜のエネルギー爪、防御用として零落白夜のバリアシールド・・・エネルギー消費量が爆上がりした分、強力になったって事か」
「行ける!これなら!!」
「シュリンプレス・・・強化設置」
一夏は武装を確認すると中にあった荷電粒子砲を構えて放つ。その威力は粉塵を巻き上げ、将矢の様子をわからなくさせた。
「どうだ!」
舞い上がった粉塵が晴れるとそこに将矢の姿はなかった。一夏はハイパーセンサーで索敵するが見つける事ができない。
「い、いない!ど・・どこに!?」
「新しいおもちゃを買ってもらってはしゃぐ子供だな」
将矢は上空から背後の位置へとサムライセイバーを突き立て、素早く引き抜いた。防御に使用した右腕は機能停止状態になっており、脚部も八割近いダメージを負っている。
「ぐああああ!しまった!」
「・・・サムライセイバー一本でどこまでやれるか」
『確かにな』
将矢の目つきが少し変わっている。彼は心の奥底に眠る覇王としての自分を一部だけ表面に出したのだ。覇王自身は協力的ではないが、肉体を消滅させられてはたまらないと回避の時のみ力を貸したのであった。
「このおおおお!」
格闘が使えないために一夏は慣れない射撃で将矢を狙うが、射撃の訓練を怠っている人間の射撃が当たるわけがなかった。
「終わりだな」
「え?」
そのまま試合終了のブザーが鳴るかと思われたが、将矢がサムライセイバーを投擲し、がむしゃらに回避しながら突撃し、刺さったままのセイバーを振り抜いてエネルギーをゼロにしたのだ。
その結果、スラフティン自身もエネルギーが切れる寸前ではあった。ブザーが鳴り試合終了を知らせている。
「そ、そんな・・・俺が負けた・・・?」
「・・・パーツの特性に助けられた、だな。けど・・・こっちもボロボロだ」
白式が生まれ変わり、負ける要素は何一つなかったのに負けた。しかし、これは将矢にとっては偶然の勝利であり、覇王とメダルのアドバイスがなければ負けていただろう。
進化した事でエネルギーが完全回復した白式、エネルギーが五割近くまで減っていたスラフティン、一夏が警戒して荷電粒子砲の連発をしてくれたおかげであり、格闘用のトラップを仕掛けておいた事も勝利の要因であった。
将矢はそのまま、アリーナを出て行き、代表候補生達と箒も観客席から出ていった。
一夏の事は気になるが、今は一人にしておいたほうが良いと考えたからだろう。
「負けた・・・違う!トラップさえ無ければ俺が勝っていた!」
その声も自分以外に誰一人として聞いている者はいなかった。
◇
試合をしている同時刻、スカイツリータワー周辺では月から落下してきた物が地下へと潜り、侵略の準備を始めていた。
「スベテヲ、ホロボス」
瞬間、スカイツリー周辺一体が吸い寄せられていき、巨大な悪魔の姿をした何かが現れた。
それは巨大なメダロットともいえる物であり、月の意志を継ぐ者でもある。
名をブラックデビル。ブラックデビルは配下のガンキング達を差し向け、街を破壊し始めた。
彼らの目的は地上の意志を継ぐレアメダルの破壊、すなわちロクショウとメタビーたちの命である。
『ウラギリモノヨ、ワガマエニクルガイイ』
この非常事態にIS委員会はIS部隊を向かわせたが、量産機では歯が立たず逆に撃退されてしまっていた。
「特例を持って、IS学園所属の代表候補生達の専用機の出動を要請します。バックアップ等はこちらで請負います!」
もはや世界の危機となってしまった状態になりふり構わずいられなくなった為に、藁にもすがる思いなのだろう。
その特例を電話で受け、部隊が編成されることになり出撃することになってしまった。
がむしゃら こうげき ビームにて勝利。ここで進化を果たしたのはお約束の補正です。
次回はブラックデビル率いる月のメダロット達との戦いです。
将矢はメダロットと一体化し、メダロット達は実体化し、刺し違える覚悟で戦う。
将矢が、ロクショウが、メタビーが、ビーストマスターが、ゴッドエンペラーが、ブラックビートルが、ブラックスタッグが死す!
勝利の鍵は束が開発した最初で最後の最終兵器にあり!