Medaro IS メダルと共に   作:アマゾンズ

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それぞれの思い。考え


三十三話 心の穴

私はあの激闘の日の翌日、初めて学園を休んだ。ただ、あの教室に行きたくなかったからだ、行けば否応なしに見せ付けられるからだ。

 

「なぜ・・・あそこまで命をかけられたのだ?」

 

私に彼と同じ事が出来るかと尋ねられたら出来ないと言ってしまうだろう。

 

土谷将矢、初めて会った時は一夏と啀み合う気に食わない奴だと思っていた。だが、事実は違った。

 

彼は自分が知れる範囲の情報を調べ上げ、相手に対策を怠らず己のできることを最大限にやる人間であった。

 

当時の私はそれが気に食わなかった。相手の弱点や対策など卑怯者のする事だと考えていた。

 

しかし、それは間違いであった。剣道でも相手を想定して戦うし、相手の弱点となる苦手な事を徹底的に突く事を忘れていた。

 

「やはり、未熟だな・・・」

 

私は自分の寮の室内で考え込んでいる。竹刀を振りたいがそうもいかない・・・。私は土谷に対しては戦士としての尊敬を持っていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あら?凰さんは欠席ですか?」

 

「はい、体調不良だそうです」

 

「そう・・・」

 

鈴の所属する二組でも鈴が欠席していた元気印の鈴が欠席するなど珍しい事だが、授業は普段通りに進められていった。

 

鈴も自室でベッドの上で天井を見つめていた。未だに自分の身近にいる人間が目の前で死んだ事を信じられないでいたのだ。

 

「・・・なんで、人って簡単に死んじゃうの?まだ、私はアンタにリベンジしてないのよ]

 

アイツ、土谷将矢。初めは警戒心が高く、ISに関しては初心者という事もあって、正直バカにしていた。

 

私に勝てるわけがないと、だけど・・・アイツは己の身体を負担を顧みずとんでもない賭けをしてきた。

 

後から聞いた話では私と初めて戦った時に使ったあれはオーバードライブ、機体のエネルギーを放出して三分間だけ音速戦闘を可能にするというものらしい。

 

だが、そのデメリットが身体への極端な負担と機体の冷却だそうだ。僅かな時間で、しかもデメリットが強いものをわざわざ発動させてまで勝ちを狙いに来た姿勢に好感を持った。

 

誰だって勝ちたい、負けたくない。それは初心者も熟練者も変わらない、そんな当たり前の事を思い出させてくれた。

 

結果は慢心していた私の負け。負けた悔しさもあるけど同時に新たなライバルが出来たのが嬉しかった。

 

「帰ってきなさいよ・・・帰ってきたら思いっきり殴ってやるんだから」

 

 

 

 

 

 

 

同時刻、シャルロットは授業を休み、ただひたすらにIS用の射撃場で訓練用の弾薬を使い、ひたすらに訓練用ターゲットを撃っていた。

 

「・・・・」

 

もう、何発撃ったのだろうか。足元には数え切れないくらいの空薬莢が落ちており、シャルロット自身も汗だくで腕が震えている。

 

「っ・・・はぁ」

 

ISを解除し、休息を取る。空薬莢を回収する為のボタンを押して近くにあるベンチへ腰掛けた。

 

「・・・・キミは」

 

身近の人の死がこんなに重いものだとは知らなかった。将矢、彼はボクが男性として転入してきた時、それが一夏にバレて彼に相談した時、一夏はボクを助ける案が有ると言ったけど、その抜け穴を指摘して来た。

 

その件で彼と一夏は険悪になってしまった。けど、織斑先生が後から教えてくれた話によれば既にボクの件を将矢が相談していたそうだ。

 

彼の言っていた「特別扱いの一介の高校生が、大企業に勝てる訳がない」この現実的な言葉は正しいと思えた。

 

タッグトーナメントの時も彼はボクの特性を調べ上げ、弱点を徹底的に突いてきたし、トラップ戦術というISの常識をひっくり返す戦法を取ってきたのには正直、脱帽した。

 

だけど、ボクは彼を好きになれない。ライバルとしては嬉しい、でも、異性としては見れない。彼の思考は現実的すぎてとてもじゃないがついていけない。嫌いじゃなく異性として見れない、ただそれだけ。

 

「でも、帰ってきて欲しい・・・君には借りを作ってばかりだから」

 

 

 

 

 

 

IS学園のトレーニングルーム。そこでたった一人、筋力レーニングと基礎体力を向上させる走り込みをしている人物がいた。

 

「はぁ・・・はぁ・・・」

 

手に膝をついて呼吸を整える。銀髪を揺らしながら汗を拭った。その目には疲れが宿っている。

 

「死など見慣れてきたはずなのに・・・」

 

彼女、ラウラは将矢の死を振り切れていなかった。軍属であるはずの自分が身近の人間の死を目撃しただけでこのような気持ちになるなどと。

 

もしも、自分の部下が目の前で死んでしまったら?それと同じである事に気づき、己の気持ちを否定せずに済んだ。

 

「あれが本当の戦死・・・実戦での死なのか?」

 

今でも彼女の瞼には焼きついて離れない。開くことのない瞼、反応しない耳、呼吸のない口。それら全てが彼女を苛む。

 

「土谷将矢・・・!まだ、お前との戦いの決着が着いていないのだぞ!帰ってこい!!」

 

八つ当たりするかのようにパンチングボールを殴り飛ばし、自分の気持ちをぶつけていた。

 

 

 

 

 

 

他の者達と同じ時刻、セシリアは湯船の中に身を沈めていた。無論、身体は既に清めてあり髪も顔も同じように清めてある。

 

「将矢さん・・・・」

 

彼女は俯くように顔伏せ、水面に映った自分の顔を見つめていた。映っているのは無意識に泣いている自分自身である。

 

わたくしは彼、土谷将矢のおかげで初心を思い出し、今日まで己を高め続けてきました。彼には返しきれない恩義と共に一人の男性として見るようになっていました。

 

なによりも嬉しくもあり、初心を思い出せた言葉・・・。

 

『セシリアさんだって相当努力してきたはずなのに、どうしてそこまで横暴になっちゃったのかな?慢心してなかったら俺が負けてたよ』

 

慢心していた事を指摘しなながらも、自分が負けていた事を認める器量。それに相手を調べ、弱点を突く戦法、相手の得意とする行動を妨害するトラップ戦略。

 

自分が模擬戦をしてきた相手とは全く違う戦略を見せてくれた。初めは楽しいだけであった。次第に彼の存在が自分の中で大きくなっていた事に今回の出来事で気づいてしまった。

 

織斑一夏のように恵まれた容姿があるわけではない。ISに関しても初心者で情報、支援、妨害、あらゆる術を使い、対策と努力によって勝利を掴む。当たり前の事を当たり前に捉えているだけ。

 

何処にでもいるような普通の同年代の男性、ただそれだけだったのに。

 

「将矢さん、わたくしはまだ・・・貴方に伝えていない事がありますのよ」

 

セシリアの呟きは湯の中へと溶けていき、将矢への想いを募らせた。

 

 

 

 

 

 

放課後、一夏は荒れていた。物に当たっている訳でもなく、ただ単に気分の問題である。

 

「どうして、みんなして将矢、将矢なんだ!?」

 

あの激闘は自分が強さを証明できる場所であった。だが、もはや呪いのように付きまとう代表候補生達の幻影が一夏を苦しめる。

 

『あの戦いで燃費の悪い機体で倒そうなんて・・・無謀ですわ!』

 

『それに、接近戦が出来る相手じゃなかった。気づかない訳じゃなかったんじゃない?』

 

『キミは本当に目先の事しか考えていない。自分の弱さを自覚できないの?』

 

『お前は己自身すら守れる力もないのに、教官と同じ事をすれば全てを解決出来ると思い込んでいるだけだ』

 

「違う!俺は守れるんだ!力を持ったんだから守れるはずだ!」

 

幻影達は消えていたが、一夏の根本を指摘してくる。これは無意識下で自分が冷静に下している言葉だ。

 

それを代表候補生達の姿を借りて言葉を紡いでいるだけに過ぎない。

 

「アイツは、アイツは死んだんだ!だから、これからは俺が皆を守るんだ!!」

 

セシリアに言われた『守る』という言葉の意味を一夏は思い返すことはなかった。自分が全てを守るという強迫観念と将矢という邪魔者が居なくなった事で、自分は皆を守れるだけの力を持っているのだと知って欲しい。ただ、それだけであった。

 

 

青空が広がる砂浜と海が見えるとある世界。そこでは大きめの白い帽子とワンピースを着た少女が、黄昏の光の中で一言つぶやいた。

 

『私は・・・・何を間違ってしまったのでしょうか?』




それぞれの考えという形です。

最後の子は自分の判断は正しかったのか?という疑念に駆られています。

次回は復活までの準備と新たな敵です。
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