一夏、大会への参加を決める。
襲撃事件からの翌日、事件を聞いた束はすっ飛んで駆けつけ、IS学園が贔屓している病院へと駆け込んだ。
「ちーちゃん、それにセーちゃんまで・・・」
二人は生命維持に必要な栄養素などを身体に繋がれたチューブなどを通して、注入されている。
二人は眠っているようにしか見えないが、肉眼でも見える程の黒いモヤが二人を包んで意識を失わせているのだ。
「・・・つーくんが気になる。IS学園に急がなくちゃ!」
束は二人に肉体活性化のナノマシンをこっそり注射すると、IS学園へと向かって行った。
◇
『・・・・・バカ野郎!あれを解放するなんて、何考えてんだ!?』
『私も同意しかねます』
『何を考えているのだ・・・!』
『マスター、それだけは!』
その頃、将矢はメタビー達から叱咤を受けていた。それもその筈、彼はメダルのリミッターだけではなく、とあるプログラムのプロテクトを開放しようとしていた。
それは機械の破壊実行プログラム。この世の全ての機械を破壊し尽くすまで止まらない、ISを始めとした機械に対するアンチ・プログラムとでも言えるものであった。
そんなものを発動すればどうなるか?大部分を機械によって生活している人間が滅亡しかねない危険性にさらされるのだ。それだけ、世界中が機械に頼っているという事の裏返しでもある。
「もう、全てを・・・」
「残念だけど、そのプロテクトは簡単には解除できないよ?」
「!束姉さ・・・うっ!」
歩み寄るなり、束は将矢に平手打ちをした。それは恋人でもあり、姉代わりとしての叱咤でもあった。
「安易な事を考えるなよ!破壊実行プログラムを起動したらどうなるかわかるの!?そのプログラムはISが私の手を離れて危険な存在になってしまった場合の最終手段、勝手に使おうとするんじゃない!」
「・・・ごめんなさい」
「落ち着いたならいいよ、手を出しちゃってごめんね」
束の平手打ちを受けた影響で、頭が冷え冷静になる事が出来た。セシリアを戻すには、奴が主催し二ヶ月後に開かれる大会に出場して優勝しなかればならない。
奴自身は絶対王者として、挑戦者を待っているのだから。
「出場するよ。必ずセシリアを助ける!」
「そうだよ。もう、セーちゃんは私の半身なんだから」
「?それは一体、なぜ?」
「ううん、言葉の比喩って事だよ」
束とある程度会話した後に将矢は、マッハマッシヴのオーバードライブの活動限界時間を伸ばしたいと束に頼み込んだ。
束は承諾したが、今まで以上に想像を絶する訓練をする事になると忠告したが、彼の熱意に負けて訓練する事になったのであった。
◇
その頃、一夏は大会への参加を決意し、剣を振るっていた。しかし、己の中で雪羅が思うように動かない事に苛立ちを隠せないでいる。
「ちくしょう、千冬姉があんな事になったっていうのに!2ヶ月の後の大会にはなんとしてでも優勝しなくちゃいけないのに・・!!」
焦りだけが考えを鈍らせ、一番大事な事を一夏は忘れていた。だが、自分の唯一の肉親がやられたとなれば冷静さを保っている方が難しいだろう。
一夏はISとの会話を忘れており、ただひたすらに剣を振るう事だけを続け、自分が優勝することだけに集中している。
まだ見ぬ強敵との戦いは厳しいものであるとは知らずに。
◇
将矢は束に住処でもある束の研究所へと連れられ、戦闘機のパイロットが加速度に耐えるための訓練を行わされている。
「ぐ・・・はぁはぁ!」
「現在のGは2、最低でも4Gは耐えないとオーバードライブを一時間まで伸ばすのは不可能だよ!」
「はっっ!くっ・・・!?」
将矢は意識を持っていかれてしまい、訓練用装置の中で気を失ってしまった。束はそれを引きずり出し、容赦なく、水を被せ、覚醒用のナノマシンを投入し、将矢の意識を覚醒させる。
「う・・・・ううう・・・」
「休んでいる暇はないよ!ほら、もう一回だ!!」
「はい・・!」
何度も気絶しては起こされ、起こされては気絶してしまう。加速度による重力は体重の約8倍のGが掛かるとされており、将矢の体重を50から60以上と仮定すれば、400から480キロ以上の負荷がかかる計算だ。
それでもやはり、限界を迎え、流石の束も休息を取らせる事にした。負荷ばかり掛け続けていては身体の方が壊れてしまう、布に色を付けるかのように身体へ負荷への抵抗力を少しずつ付けさせ、慣れさせていくのが成長の一歩なのだ。
その夜、将矢は訓練用ゴーレムと100人組手を始めとした訓練によって、全身傷だらけになってしまった。
それをナノマシンと点滴によって治療後、訓練の汗を流そうと風呂に入っているのだ。お湯は束特性の人工温泉らしく、自然温泉には及ばないが疲労回復には効く成分が調合され、ジャグジー湯になっている。
「・・・・必ず、助けるからな」
「つーくん」
「!?た、束姉さん!なんで入ってきてんのさ!?」
そこにはバスタオルを体に巻きつけ、ウサ耳を模した機械も身に付けていない束が髪を下ろした姿で浴室に入ってきたのだ。
いつもの明るい雰囲気はなく、姉としての威厳も無い。そこにいるのは、ただ一人の篠ノ之束という女であった。
「つーくん、背中流すよ」
「いや・・・だいじょ」
「流させて」
「・・・わかったよ」
今一度、束に背中を流してもらう事にした将矢は、椅子に座り背を向けた。訓練とはいえ肩に残った傷跡が生々しく残っている。
それを一つ一つ見ながら、束は適度な力加減で、将矢の背中を流し続けた。
湯船で温まった後、束はと共に一枚の布団へ入るが、その直後、束が押し倒したような格好で将矢を見つめてきた。
「束・・・姉さん?」
「つーくん・・・」
その姿は、一人の女としての魅惑が溢れ出ていた。束の頬は赤く染まっており、唇からは熱い吐息が漏れている。
「セーちゃんとはシたのかな?」
「ああ・・・学園の外で、だけど。もちろんマナーは守ったさ」
「そっか、なら問題ないね」
「?束・・・ね・・んむぅ!?」
「んう・・・!」
束は将矢の唇に、自分の唇を重ね、しばらくの間、離さずにいた。
「つーくん、束さんにもシてくれるかな?束さんの熱を受け止めてよ・・・」
「わかった。憧れの人と結ばれるなんて・・・嬉しいよ」
「つーくん・・・」
「束姉さん・・」
二つの影がひとつとなって、その夜はウサギが女としての一夜を燃え上がらせたのだった。
◇
翌日、アリーナでは更識楯無と簪、そしてセシリアを除いた代表候補生達と箒が集まり、長所を伸ばす訓練をしている。
楯無は一夏を鍛えており、その内容はスパルタそのものであった。気絶すれば水をかけられ、全力で叩き潰してくるのだ。
「どうしたの?その程度じゃ大会に勝ち進むどころか、一回戦敗退よ?」
「・・・」
「また気を失ったのね。せーの!」
楯無は容赦なく水を一夏にかける。それを受けた一夏は意識を覚醒させた。
「うう・・・」
「ほら、続けるわよ?」
「わ、わかった!」
それから、何度も何度も一夏は、吹っ飛ばされ、叩きつけられ、倒れ続けた。目を覚ますたびに自分の弱さが嫌になってくる。これほどまでに自分は弱かったのかと。
「織斑くん、まずは自分が弱いという自覚を持ちなさい。己の弱さを知ってからが強くなる一歩目よ」
「そんな事は分かっていますよ!」
「大声を出す時点でわかってないわ。君は二次移行と零落白夜の二つを持った事で自分が強くなったと錯覚しているだけよ」
「!」
「良い?どんなに機体が良くても、操縦者が性能を引き出してあげなきゃ機体は応えてくれないわ。君は一度でも自分の機体を考えたこと、あるの?」
「そんな事は・・・!」
言い返そうとするが、楯無の睨みに一夏は怯んでしまった。暗部としての鋭さを出されては仕方ないが、それ以上に、前にも同じような感覚を味わったのだ。
「自分の気持ちも大切かもしれないけど、一番振り回されていたのは貴方の専用機よ。休憩時間にするからその事を考えてみなさいな」
そう言って楯無は休憩室へと向かって行ってしまった。ほかのメンバーは訓練を続けているが、休憩を取るために一夏も休憩室前の自販機へむかう。
水分補給用の飲み物を購入し、それを一口飲む。訓練で失った水分と冷えた液体が火照った身体に染み渡り、気分が落ち着いていく。
「機体の気持ちって・・・・なんだよ、それ」
残された日数、それぞれの思いを秘めつつ訓練を続けていく。大会の出場者は続々と決まっていき、世界大会と言っては過言ではない規模になりつつあった。
大会当日まで、後58日。
将矢くんは闇堕ちしかけましたが束さんがとめました。
そのあと二人がどうしたって?聞くだけ野暮でござんすよ。
機体が優れていても、パイロットが性能を引き出せなければ意味はない、これ・・・事実だと思います。
次回はオーバードライブの実戦です。相手は誰になるか。
では次回。