守る立場が後手に回る。
大会開催まで残り日数、24日。
数十日以上経ち、学校行事でやるはずだったISによるバトルレース、キャノンボール・ファストは中止となってしまっていた。
そんな中、将矢は腕に覚えのある同輩や先輩達をかき集め、模擬戦を行っていた。
「次・・・」
「!も、もう勘弁してよ!相手がもういないわ!!」
「アンタがいるだろう?早く上がって来い」
「ひっ・・・!お、鬼!」
「始めるぞ・・・・」
将矢は八つ当たりにも等しい模擬戦を行っている。流石に三年生や二年生の成績上位者相手に無傷、無敗する事は叶わなかったが、同輩であれば容赦なく無敗で勝っている。
「・・・・もう、これで終わりか」
機体を解除するとフラフラになりながらアリーナを出ていく。その様子を一人の先輩が心配していた。
「あの子、不味いわね・・・力だけしか見えてない。何があったのか知らないけど」
将矢を背中越しに見送り、一般常識を持ち合わす三年生は心配そうに視線を向け続けていた。
◇
「ほら、立ちなさい」
「げほっげほっ!」
バケツを手に、大の字で気絶している一夏に水をかけたのは、生徒会長の楯無であった。本来ならば将矢の訓練もしなければならないのだが、本人から拒絶されてしまい、こうして一夏の特訓を行っている。
「大会まで時間は無いわよ、気絶してる暇なんてないからね?」
「ぐ・・はい」
それからも楯無は全力全開、持てるもの総てを使って一夏を叩き伏せる。普通ならここまではやらないが、特訓と称して自分の私怨も交えているのだ。
それは妹の簪にあった。将矢が生徒会に入る以前、彼女達は険悪だったのだが、ブラックデビルとの戦いを目撃し、人が目の前で死ぬという事を現実として実感した簪を楯無が慰め、同時に自分のせいで追い詰めた事を涙ながらに謝罪し、自分の機体の事も全て打ち明けたのだ。
そのおかげで、昔のように姉妹の絆を取り戻したまでは良かったのだが、問題が発生したのだ。
簪の機体である打鉄弐式を、政府からの正式な書類を持って来た倉持技研が接収してしまい、解体されてしまった。
この事に流石の楯無も抗議したが、政府の命令ですので、の一点張りで話にならなかった。
報告した時、簪は泣いた。まるで咆哮を上げるかのように大泣きした。
「どうして、どうして!これから先、努力していこうとしたのに!どうしてよぉぉ!!」
解体した本当の目的を探るために、楯無は暗部の情報網を徹底的に使い、倉持技研を調べ上げた。
その結果、女性権利団体と癒着している一部のIS委員会のメンバーが、進化した白式、つまり雪羅の強化パーツを作るために、打鉄弐式を利用した事が明らかになったのだ。
つまり、日本の代表候補生の機体よりも、進化した機体を持つ男性操縦者を優先したという事にほかならない。
楯無は怒りに燃え、徹底的に証拠を集めるよう暗部の部下達に指示した。ヘマをすれば首を飛ばすという脅しもかけて。
今現在も調査中であるが、幸運もあった。開発者の篠ノ之束が打鉄弐式の素体を開発すると、本人から連絡があったのだ。
だが、あくまでも素体だけ、武装などは代表候補生である簪本人が積む事を条件に出された。無論、本人は二つ返事で承諾し、今も武装の開発に勤しんでいる。
そんな事があり、少なからず怒りがあるのは隠せていない。優遇されているのは仕方ないとしても使いこなせていない相手に蜜を送る事が、どうしても許せなかった。
一夏自身、実力も付いて来ているしセンスも申し分ない。だが、それに反比例しているかのように精神、つまり心が幼すぎるのだ。
まるで、憧れのヒーローと同じ物を手に出来た子供のようで、扱い方を考えることをしていない。
「今日は私から一本取れるまで続けるわよ」
「お、お手柔らかにお願いします・・・・!」
◇
将矢自身も情け容赦なく敵を倒せる境地まで、たどり着きかけていた。心の内にあるのはセシリアを救う事、周りからは強引に助けたところで、セシリアは喜ばない、など説得してきていた。
だが、今の彼にその言葉は綺麗事にしか聞こえなかった。ドラマの説得が現実の人間に通用するのかと問われれば、全員が否と答えるだろう。それくらい軽い言葉に聞こえ、耳に入れなかった。
「どいつもこいつも・・・綺麗事と感動だけを貰おうとする奴らばかりだ。安全地帯からものを言うだけなら誰だって出来る」
自室に戻り、シャワーを浴びた後にベッドの上で横になる。言われた事を思い返しながら目を閉じ、眠りへと沈んでいった。
◇
「はぁ・・・はぁ」
「掠っただけとはいえど、一本には変わりないわ。今日はここまで!だけど、私だから許すのであって試合では妥協してくれないから、明日は実践的にするわよ」
「あ、ありがとうございました」
楯無の許しを得て、特訓が終了し、一夏はその場で倒れてしまう。無理もない、6時間ぶっ続けで休憩無しの戦闘を行っていたのだから。
「うっっぷ・・・」
胃液を吐きそうになるが、今ここで吐くわけにはいかない。男性用のトイレに駆け込み、一夏は吐いた。
吐いて吐いて、吐き続けた。落ち着いた時には休憩時に胃へ入れたものが、全て出ていた。
「うう・・・俺、身体まで弱くなったのか?」
実際には違う、己では自覚できない体力の限界と、運動許容量を超えてしまっただけに過ぎない。
限界を超えるという事は死ぬという事と同義である。臨界に達したまま動くことはできるだろうが、それを越えれば何も出来ない。
死ぬ寸前までならば良いだろうが、死んでしまっては元もこうもない。だが、一夏は限界を超えたい意思で特訓している。
「千冬姉も、セシリアも、俺がみんな助ける!将矢に負けてたまるか!!」
一夏は確かに強くなっている。それは事実だ、だがそれは、学園という名の内部での話、強さを求めるのならば、外に目を向けなければならないはずが、自分の中で強くなったと思い込んでいるに過ぎない。
「優勝するのは俺だ・・・!」
◇
仮眠を自分の自室で取った将矢は、束に連絡して転送してもらい、特訓マシーンの中で、再びオーバードライブの時間を伸ばす特訓をしている。
限界を超えるためではなく、自分の負担が耐えられる限界値を知るためだ。無闇に使ってしまっては、切り札とは成り得ない。
スラフティン自身も鮮やかな青から、黒色に近い青色に変化してきていた。起動時は白式と同じ白色だったのだが、経験を積むに連れて青くなっていった。
その青が黒くなり始めているのを表すことは、ただ一つ。鬼となった将矢と同調しているということ。
メダルの意思は本来、人間に危害を加えることはない。だが、リミッターが解除されたり、自意識と同調しすぎた場合、危害を加えるという意思を見せてしまう。
メダル達はなるべくそれをしないようにしているが、マスターである将矢が冷酷に徹しているため、同調により、破壊本能が強くなってきている。
「つーくん、やりすぎちゃったかな・・・・」
束自身もここまで将矢が冷酷にして非情な、考えを持つとは思っていなかった。だが、彼をここまで冷酷にしたのは、彼の優しさ故である。
優しいからこそ、失った時への反動が大きく。また、極端な思考にも陥りやすい。一度定めた事を曲げないのが、彼の長所でもあり短所でもある。
「はぁ・・はぁ・・・後は、大会までコンディションをととのえる・・・だけ、だ」
特訓用マシーンから出てきた将矢をクロエと束は、何も出来ず止めることは出来ないと考えていた。
「奴を倒せば・・・セシリアは助かる・・・戦いも終わる・・・」
「将矢様・・・」
「それなのに・・・・」
将矢は壁にもたれかかり、研究所の天井を見上げ始めた。傷は無くとも心がボロボロで、自分の行動と考えが一致していない。
「どうして・・・涙が出るんだろう・・・?」
将矢の目からは、涙が次々と溢れ出ている。彼の心は冷酷さを装っていても本当は、悲しみに押しつぶされそうになっていた。
それを目撃した束は彼の優しさが、完全に失われてはいない事に気づいた。自分の教育のせいで冷酷な機械になっていたと思っていたが違っていたのだ。
「つーくん、大丈夫。優しかったつーくんにもどる事を願ってる。束さんもあの子も、どんな障害にも負けない愛がきっとあるはずだって、それを信じてるから」
今の将矢は優しさをくれるより、さみしさを越えてゆく力が欲しいと願っている。その心と優しさを示す涙、それが将矢の中で天秤のように揺れている。
それを隠すかのように将矢は体育座りの格好になり、顔を隠して全身を震わせていた。
大会まで残り一ヶ月を切りました。
将矢は冷酷に倒す覚悟を決めつつ、揺れています。
一夏も戦えるレベルまでには達しています。
だれが、倒すのか。救うのかはわかりません。
次回は謎の老人的なイベントも挟もうかなと考えています。
ボンボンネタで謎の老人イベントとか言ってしまうとバレバレですがww
※ボンボンネタが少し風化してるので、何かあれば教えてくださいませ><