Medaro IS メダルと共に   作:アマゾンズ

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過去の大人の時間それに


四十四話 それぞれを見守る者

大会開催まで三日と迫ったある日、束はとある日を思い返していた、千冬をとある場所に呼び出した日だ。そこはかつて二十歳になったら一緒に飲もうと、約束していたバーであった。

 

営業時間は夜からと限定的で、潰れたとも噂されていた場所だ。古ぼけた雰囲気が一層、味を出しているとも言える。

 

地下への階段を降り、扉を開くと現代社会とは隔離された空間が目に入る。

 

ライトはほとんどが、ランプであり蝋燭も使用されている。現代の恩恵である電気は、音楽や調理用にしか、使われている様子はない。

 

「来たね?ちーちゃん」

 

「ああ・・・」

 

束は珍しく機械のウサ耳を外しており、ワインレッドのドレスのような服装に身を包んでいる。千冬もスーツ姿で、束が座っているカウンター席の隣に腰掛けた。

 

マスターは、それを確認すると無言でグラスを拭いていたのを止め、アイスピックを用意し氷を砕き、球状に近い形に整えたものを二つ用意し、グラスの中へと入れるとボトルを取り出した。

 

中に入った酒が注がれる音だけが、三人の間で聞こえてくる。氷の入ったロックグラスに注がれた酒をマスターは二人の前へそっと出した。

 

「・・・どうぞ」

 

千冬が来ると同時に用意されたという、事は束が事前に頼んでおいたのだろう。マスターは酒を用意すると、厨房の奥へと入っていった。

 

「・・・・束」

 

「乾杯、しようか?」

 

軽くお互いのグラスを鳴らすと二人は、注がれた酒を飲んだ。ふんわりとした優しい口当たりと、長年に渡って熟成された味わいが口の中で広がる。

 

「・・・・これは、ウイスキーか?」

 

「正確には違う、バーボンだよ。束さんが取り寄せて、マスターに頼んで永久キープにしてもらった。ウッドフォードリザーブダブルオークド・・・だよ」

 

「!ウッドフォードリザーブダブルオークドだと!?」

 

ウッドフォードリザーブダブルオークド、バーボンの中で最高級に位置する代物だ、安くても8000円以上する物である。

 

「ふふ」

 

「お前なら簡単に入手くらい可能か・・・」

 

一気に飲まず、千冬は氷が溶けるのを見守るかのような、スローペースでバーボンを飲んだ。

 

「・・・で、どう?弟君の彼は」

 

「相変わらずだ。何処でどう間違えてしまったのか・・・私は分からない」

 

頬杖をついた千冬は軽く酔っている様に見える。ストレスの影響で酒に弱くなってしまっているのだろう、それほどまでに千冬は精神的に追い込まれていた。

 

 

 

 

 

「・・・例えばさ」

 

「ん?」

 

「このグラスの中身が、バーボンでも・・・ただの水道水でも、彼らには大差は無いんだよ」

 

「何?」

 

束はグラスを見せるように持ち上げると、一気にバーボンをぐいと煽ってしまい、カランとグラスの中で氷が動いた音が響く。千冬は驚いた表情のまま固まっている。

 

「生まれと機体が違っても、二人は同じ条件だった・・・二人共、偶然という橋は一緒、だけど対照的になっちゃった」

 

「どういう事だ?」

 

「ちーちゃん、自分の立場になって考えれば分かるでしょ?彼がどれだけ守られていたのかを、さ」

 

そう、言われて初めて気づいた。構ってやれなかった反動もあって強くなりたいという彼の願いを叶えようとしたが、徒労に終わっていた。同時にIS学園において、どれだけ守られている立場であるのかを。

 

「もう一人はね。自分を守る為に強さを身に付けていった。センスも何もない、まるで鰈が海中の泥にまみれるように努力した」

 

「確かにあいつはそれほどの力を持っていた・・・。狙われているのを守ろうとして後手に回り、結局は・・・」

 

千冬も後悔の念は強い。後ろ盾がある者と無い者では、対応も違ってくる。彼には後ろ盾がない、束と知り合いだという事を知っているのは代表候補生達だけ。

 

「後手に回った、でしょ?」

 

「・・・・・」

 

「別に責めてはいないよ?ただね、彼にちーちゃんの栄光は、荷が重すぎる」

 

「ああ・・・改めて思い知っている。アイツは戦いに関してスポーツとしか考えていない。だが、もう一人はどうやったんだ?」

 

「私が徹底的に教育したんだよ。戦場の心得をね、協力者もいてくれたし」

 

「誰だ?それは」

 

「亡国企業・・・ファントムタスクだよ」

 

「!」

 

亡国企業の名を聞いてさらに驚く、テロリスト組織と繋がっているのか?などの不安がよぎるが、束はそれを一笑に付した。

 

「戦場の教育は戦場を知っている人間が一番、蛇の道は蛇だからね」

 

「お前・・・!」

 

「安心していいよ。教育の対価はお金にしておいたからね。男の子を一人教育するのに、ISじゃ釣り合ってないもん」

 

そう呟くと、マスターが酒のつまみらしき肉料理を手に現れた。ふたりの目の前に皿を置くと、空のグラスに目配せし、束がウインクで返すと再びバーボンをグラスに満たした。

 

それが終わると、またグラスの洗浄へと戻っていく。

 

「テロリストに金銭を渡すなどと・・・!」

 

「私が彼を強くするためにした事、ちーちゃんに兎や角言われる筋合いはないからね?私はどこにも所属してないんだからさ」

 

「っ・・」

 

束の言葉は正論だ。誰にも束縛されず、己が正しいと思った事を実行する人間。それが篠ノ之束という存在。

 

教育の相手がテロリストであろうと、生死をかける戦場を知った人間と言われれば、言葉を返せない。

 

彼自身が望んだのかといえば、強くなるためには仕方のなかった事と返される。あらゆる言葉を模索する千冬だったが、舌戦では束に叶わない事を誰よりも知っているのは自分だ。

 

「・・・わかった。私の胸にとどめておこう」

 

「懸命だね」

 

 

 

 

 

それから数時間後、二人はほろ酔いになりつつあり、つまみも消費され、グラスも空になっている。

 

「さて、そろそろお暇しようか?」

 

「そうだな」

 

バーの支払いは既に束が済ませていたらしく、マスターは一声。

 

「ありがとうございました」

 

だけを言い、二人は店を後にした。ネオンだけが灯っている夜の街はどこか神秘的で、ここが現代だという事を忘れてしまいそうになる。

 

「ちーちゃん、送っていくよ。私はすぐに戻れるからね」

 

「ああ」

 

歩きながら昔話に花を咲かせつつ、歩き続ける。二人の間には亀裂があったが、今はただ素直にただの幼馴染として会話し続けた。

 

IS学園付近までたどり着くと、束は足を止めた。ここから先は踏み込まない領域であると言うかのように。

 

「今日は、楽しかったぞ」

 

「私もだよ。でも、一言だけ」

 

「なんだ?」

 

「私は誰であろうと容赦なく叩き潰すよう、改めて教育して大会に向かわせるからね」

 

「・・・・もう、アイツは死ぬ寸前まで叩きのめされんと自分を理解せんだろう。今までが甘すぎた」

 

千冬の言葉は最早、彼を更生できないと諦めたものであった。何を言っても聞き入れず、自分の都合の良いように解釈してしまう。

 

姉である自分の言葉なら尚更だ。余計に正しい言葉を聞かない、正しくとも、そんな事を言うはずがないと本人は否定するだろう。

 

「今のちーちゃんは霞んで見えるよ・・・ブリュンヒルデの伝説を継いだ彼を潰すのは、あの子かもね」

 

言葉を残し、いつの間にか束は姿を消していた。自分の実績という名の伝説を潰す相手が出てくる、それを考えると口元に笑みが浮かんだ。

 

「私の伝説など・・・大したことじゃない」

 

 

千冬の望む事、それは自分以上の次世代が現れることだ。自分の中で称号が疎ましくなってきているからだろう。

 

最強という称号は負ける事を許さない。許してはならないという風潮が実績を持つ人間を追い詰めていく。

 

憧れるのはいい、目標にするのもいい、崇拝だけはどうしても嫌いであった。戦女神という称号は今の自分には必要ない。

 

そう思いながら、千冬は自分の部屋である寮長室へと戻っていった。

 

 

 

 

「回想なんて私らしくないな」

 

いつの間にか、眠ってしまった自分を起こし、特訓プログラムを書き始めたのだった。

 

ISの有能はISによって壊すと強く思い抱きながら。




大人の時間=お酒=回想です。

そこ、エロい方面を考えた方はゴッドエンペラーに謝りなさい。

次回から大会編です。

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