第二試合、一回戦の組み合わせが決まり、フィンランド代表はリングに上がっており、将矢はゆっくりと歩いてきた。
「へぇ・・・随分と華奢だね。そんなんでアタイに勝てると思うのかい?」
「・・・」
ルルフと名乗るこの女性は女尊男卑に染まりきり、影で粛清と称して男を虐殺していた人間である。
無論、虐殺といっても公にはならない事であり、政府もそれをもみ消している。国々の中に完全な女尊男卑の国があっておかしくはない。
「まぁいいけど、男がこの・・・っ!?」
「・・・・男だからといって女に手加減するとは思うなよ」
ルルフは一瞬、将矢の背後に鬼が見えたような気がした。それを幻覚と思って振り払い、持ち直す。だが、相手からの殺気は本物、自分が恐れるものはいと必死に言い聞かせる。
『試合開始!』
開始と同時にルルフは両腕にアサルトライフルを持ち、一気に放った。彼女の機体はヴォルフガング、名称がドイツ語なのはドイツの技術を流用した機体である故、名付けられた。
「アハハハハ!死ねええええ!」
アサルトライフルを撃ち終えると素早く、将矢の居る位置へと飛びかかる。それはまるで獲物を喰らうことに餓えた獣そのものだ。
これが彼女の機体、ヴォルフガングの戦闘方法である。アサルトライフルの撃ち込みによってダメージを与えつつ、接近戦用のクローから出力されるエネルギーネイルで引き裂く。
「ふふ、これで私の・・・!?いない・・・!」
爆煙による塵が晴れてくると、その場に将矢は居なかった。リングの範囲は広いとはいえ、居ないというのは有り得ないのだ。
「ど、どこ!?どこに隠れた!?」
「・・・ここだ。ヘルマイト!」
「がぎゃ!?」
まるで影から現れたかのように、将矢はルルフを脇から殴りつけた。ただ殴りつけただけではない、使っているパーツはベルゼルガ一式、つまり最初から本気で倒すつもりの一撃を加えたのだ。
悪魔型を使う時点で彼は向かってくる相手、全てを潰すつもりだ。それだけ、セシリアを救おうとする意志が強いのだろう。
だが、回避が一歩遅れていた為、頭部パーツと脚部パーツのダメージは8割を超えている。弾幕の雨ともいえるアサルトライフルの乱射を回避出来たのを鑑みれば、安いものだろう。
「ぐ・・く、お前えええええ!よくもよくも!私の機体に傷をつけたなあああああ!!」
「・・・・ヘルシング!」
「ぐええええ!?」
将矢は威嚇している相手にも容赦なく、攻撃を加える。形振りかまわない攻撃が彼が鬼となっている事を表しているかのように。
威嚇していようと、銃口を向けていようと反撃してこようと関係がない。拳のラッシュがそれを物語っている。
◇
「ぐ・・・く・・シールドエネルギーが残り65だとぉ!?ふざけやがってええええ!ん?くくく・・・アハハハハ!アンタの両腕、ボロボロじゃないか!」
そう、ベルゼルガの攻撃方法はパーツを犠牲にして威力を増大させる[サクリファイス]攻撃。それだけにパーツを損傷させてしまう。
それだけではない。将矢自身、顔には出していないがパーツから生じる反動の衝撃が、彼の腕の感覚を麻痺させている。
だが、今の彼にはそんな事は関係なかった。目の前の相手を倒さなければ先へ進めないのだから。
「アタイの勝ちだな!」
「ヘルメット・・・起動」
頭部パーツであるヘルメットの機能、パーツのナノマシンを活性化させパーツを復活させる能力。頭部に値するパーツから伸びている二本の管が、両腕に繋がっており、それが脈動する。
だが、表情を伺う事は出来ない。彼の目元はベルゼルガのアイセンサーに似たバイザーのようなもので覆い隠されている。
「な・・・なにぃ!?壊れていたはずの両腕が修復した!?」
「・・・もう、付き合っていられない」
将矢は走り出し、容赦なく腹部にサクリファイスを起動させずに、強い一撃を撃ち込んだ。それによってルルフは口から嘔吐してしまう。
「が・・・ごぶっ!?」
容赦なく、マウントを取ると何度も何度も拳を撃ち込んでいく。シールドエネルギーは既に枯渇しているが、情け容赦なくヘルマイトのサクリファイスの一撃が止めに撃ち込まれる。
「が・・・・・・・あ・・・・・・」
その声を最後にルルフはピクリとも動かない。だが、将矢は解除されていない機体に目を向けるとコアがある部分に手をかけ、装甲を引き剥がし、中にあったISコアを引きずり出した。
「・・・・死ねと言っていたんだ。自分が死ぬ覚悟は出来ていたんだろ」
そのコアを地面に置き、ヘルシングのサクリファイス攻撃でコアを殴り潰してしまった。まるで返り血のようなマシンオイルが、スラフティンの全身に降りかかる。
『勝者、土谷将矢!』
観客達は更に歓声を上げる。情け容赦のないルール無用とも言える止めの刺し方が、逆に観客にとってはエンターテインメントのように映ったのだ。
「・・・・俺の目的は一つだけだ」
ベルゼルガの頭部パーツであるヘルメットだけは解除せず、腕部と脚部のみを解除し、控え室へと戻っていく、通路の途中でそこに一人の人影があった。
◇
「おい、将矢!何でだ!?何であの人のISを殺した!?それだけじゃない、操縦者まで!」
「死んだのは結果だ。相手が本気で殺そうとしてくるのならこっちも殺す気で迎え撃たなきゃ、やられる。お前は殺されてもいいのか?」
「そうじゃない!他に方法があったはずだろ!?」
「自分の存在を理解していないのにか?情報によると俺が戦ったあの代表は、影で生きた人間の男を的にして銃を撃っていたんだぞ?そんな人間に生きる意味がない・・・自分の快楽の為だけに人間を殺すような獣はな」
そう言い切った将矢の雰囲気を感じて、一夏は再び彼の背に鬼を見た。その影響で、自分の身体が硬直してしまっている。将矢を殴ろうとしたのに、腕を動かすことができない。
「人を一人殺めかけて、騒いでいる今のお前は霞んで見える・・・俺は何人殺そうが必ずセシリアを助ける・・・血みどろにならずに助け出すなんて、架空の物語の中だけでしか出来ないんだよ」
これが束の教育の賜物なのだろうか?今の彼は殺しすらも過程としか考えていない。確かに試合で死んでしまったというのは、アクシデントであり、事故として片付ける事は可能だ。
だが、殺めた本人の気持ちの問題は本人でしか、解決できない。一夏は重圧に耐えられず、将矢は苦しみながらも受け入れようとしていた。
「だからって・・・!」
「もう、お前と交わす言葉はない。この戦いは勝ち上がれば上がって行く程、人を殺めた事実に押しつぶされなかった人間ばかりだんだ。今のような考えをしているのなら・・・・決勝に上がるどころか、織斑先生を助ける前に一夏、お前・・・対戦相手に殺されるぞ?」
「!」
殺される。この言葉が一夏にとって大きな衝撃を与えた。この大会は健全なスポーツのIS大会ではなかったのか、と。
いや、将矢の言葉は真実だった。自分が対戦した相手である氷雨は、本気で自分を殺しに来ていた。
勝利できたのは自分の意志ではなく、生存本能によるもの。それが強く働いて勝ち残ろうことが出来た。
だが、それが何度も続く訳がない。これからは自分の意志で殺し合いをしなければ、己自身が殺される。
将矢はそれを指摘していたのだ。一夏本人はそれがどうしても納得できない。
「快楽殺人者になるなよ?殺しが楽しくなったのなら俺は織斑先生に一生恨まれようが、何をされようがお前を殺す・・・それだけだ」
まるで誰も居ないのか様に将矢は通路を歩いて行ってしまった。一夏はその場で立ちすくんでいたが、通路の壁を思いっきり殴った。
「くそおお・・・気圧されて何も出来なかった!何で・・・何でアイツばかり強くなっていくんだよ!?チキショウ!!」
一夏は壁を何度か殴った後、自分の控え室へと戻っていった。二人はもはや友人でもなければ、知り合いという考えもない。
ただ、目の前の障害となる人間として、倒すべき相手としてしか見ず、決勝戦を目指し勝ち進む事しか出来ないのだから。
将矢君の鬼はどんな鬼なんでしょうね・・・。
人は必ず死ぬという教育のの影響か、将矢君は意識の奥底に人を殺めたという事実を収めています。
ころしてでも助け出す。助け出された時にセシリアは何を思うのか。
次回は代表候補生が出てきます。相手は誰になるのか?
※岩本版ロックマンXで作品を構想しています。