Medaro IS メダルと共に   作:アマゾンズ

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黒龍とメデューサの戦い。


四十七話 黒怨甲龍VSストンミラー

試合の興奮が冷めやらぬ今、第三試合の組み合わせが発表される。同時にアナウンスと観客の完成が最高潮へと達した。

 

『第三試合!凰鈴音・黒怨甲龍!対するのは推薦選手の一人クロリス・ストンミラー!』

 

対戦の組み合わせが決まった。名前を聞いて驚く二人が居たが、一方は興味が無さそうに控え室に戻り、一方は駆けつけるように走り出した。

 

「試合が始まるわね。やっぱり、見てた限りこれは試合じゃない・・・命をかけた殺し合い、死合とも言えるわね。博士が言っていた通り」

 

鈴は代表候補生ではあるが、試合に参加していた。この大会に制限はない、生身では不可能だがISか、それに代わる物を使えれば誰であろうと、幼子であろうと参加が可能なのだ。

 

では、何故、鈴が参加を決めたのか?それはセシリアと千冬が入院して三日程、経った時であった。

 

 

 

 

 

 

「セシリア・・・」

 

意識を失ったまま何も語らず、ただ生きているだけの状態の親友を鈴は見舞いに来ていた。初めて出来た海外での友人、その友人がこんな姿になるとは思わなかった。

 

綿密に計算された戦略と行動。自分にはなく正反対の戦略、初めは衝突していたが、それを踏まえて訓練すると、機体が自分の身体のように動く事が出来た。

 

逆に私は、セシリアに計算で測れない事が有るのを教える事にした。己の身体能力、戦いで培った判断力や勘など計算だけではなく、予期せぬ出来事に値する不意打ちやデータにない行動などを。

 

それ以降、私達は気が合い、気が付けば一緒に訓練していた。綿密な研鑽や軌道方法などをセシリアが、不意打ち、騙し討ち、倒したと油断させた後の戦闘などの戦闘方法を私が担当し教えあった。

 

その彼女がたった一人の男性を守る為、身を投げた。その結果がこれだ。初めは彼を恨みもしたが、それは全くの筋違いだ。

 

セシリアは私だけに話してくれていた。将矢と恋人として付き合うようになったのだと。私もそれを邪険に扱うほど馬鹿じゃない、彼の話をする時のセシリアは、恋する女性そのものだったのだから。

 

「セシリア、私・・・・あの大会に参加する。勝って助けてみせるから」

 

「その覚悟は認めるけど、君に人を殺せる覚悟はあるのかな?」

 

「貴女は・・・篠ノ之博士!?」

 

「その髪飾りとIS、君が・・・セーちゃんの親友かな?話は聞いているよ」

 

束は手にしている花束を花瓶に生けると、鈴に向き直った。ISの開発者と一対一で対面するのは初めてだ。

 

「それでさっき言っていた・・人を殺せる覚悟って・・・?」

 

「んー?分からないかな?あの大会はね、スポーツじゃないんだよ・・・学園とかでやっているお遊びとは世界が違う」

 

「!お遊びって・・・!」

 

「事実だよ。それで君は参加するつもりのようだけど、今のままなら止めておく事をお薦めするよ」

 

「!どうしてですか!?」

 

「じゃあ、聞くけど・・・君は人を殺して一生、生きていける?今のまま参加して殺したら、自責の念に潰されて自殺するのが関の山だよ」

 

「そ、それは・・・」

 

束は冷酷な目で正論を突きつけてくる。確かに今の鈴が殺し合いに参加したとして、生き残ったとしても自責に潰されるか、狂乱するだろう。友人を助けたい気持ちは尊いが、それだけではダメなのだ。

 

奪った命を背負ってでも、助け出したいのか?それが本当に成し遂げたいのかを問われている。

 

「だから、止めておきなよ。それにね、君はつーくんと戦える?今のつーくんは君ですら殺しかねないよ?」

 

「!将矢が・・・?」

 

「そう、それだけ覚悟を決めてるって事、半端な気持ちで殺し合いの世界に入らないよう警告してるの、私が警告してるんだから相当だよ?」

 

「っ・・・」

 

鈴は悔しく思えた。お前は戦いを甘く考えていると言われているような気がしてならない。確かにスポーツとしてしか、見てなかった自分は甘いのかもしれない。

 

「どうにかして、出場出来る方法はありませんか!?」

 

「無い事もないよ。だけど・・・」

 

「何ですか?」

 

「君は苦痛に耐えられる?私の詰め込みは、つーくんですら叫び声を上げる程に過酷だよ?」

 

「構いません」

 

「二度と清らかな世界には戻れないよ?心も身体も」

 

「望むところです」

 

鈴は束の目を見て、ハッキリと答えた。それを受け止めた束もため息を一つ吐くと、また顔を上げた。

 

「着いて来なよ、その身体と心にシッカリと刻み込んであげる」

 

 

 

 

 

 

 

「も、もう・・・止めてぇ・・・ぎゃあああああああああ!!」

 

束に着いて行き、鈴に施されたのは束が開発したヴァーチャル・リアリティ、いわゆる仮想現実による精神的苦痛を与え、心の痛みを麻痺させる訓練だ。

 

仮想現実といっても映像だけではなく、実物と寸分変わらない物を現実に鈴の触覚に対しても味あわせている。

 

今現在、行われているのは拷問による電気ショックだ。殺さない程度には加減してあるが鈴の目の前には拷問を楽しむ人間の声を聞かされながら現実にも苦痛を受けている。

 

電気ショックが終われば、冷たい冷水の中に身体を沈められ、女性が最も忌み嫌う黒光りするゴキブリを視覚にいれ、這いずり回る感覚を味わう。

 

この他にも、刃物で身体を刺される。鞭による激しい乱打、針による激痛などの考えられる責め苦を繰り返し受け続けた。

 

「いやあああああ!」

 

「だから言ったのに、この訓練はつーくんですら叫び声をあげたって・・」

 

束は叫び声を上げ続ける鈴を冷酷に見ている。気絶すれば強制的に目を覚まさせられ、苦痛を受け続ける。

 

だが、これこそが人を冷酷な領域へと押し上げる最も早い方法なのだ。人間に対する憎悪を完全に身につけさせ、その上で戦わせる。

 

それによって結果、相手が死ぬ事になってもそ受け止められれば迷いがなくなる。しかし、この方法にも欠点がある。

 

それは受けている側の精神が崩壊しかねないという点だ。あらゆる苦痛を拷問で受けさせ、精神的にも追い詰めていく、それを受けてマトモな状態になるはずがない。

 

こんな訓練を耳にしたら、まともな感性の人間は施している相手を責めるだろう。だが、鈴はそれを耐え続けている。

 

どんなに叫ぼうが、気絶から覚醒させられようが、止めてと弱音を口にしようが、訓練自体を止めてくれとは一言も言わなかった。

 

 

 

 

 

 

大会当日の10日前に訓練を終えた鈴は、女性の身体とは思えない程の傷跡が、腕、太もも、足、肩などに刻まれていた。

 

「よく耐えたね。そんな君に束さんからプレゼント」

 

投げ渡されたのは待機状態の甲龍だ。だが、色合いがより黒に近くなっており、それを見た鈴は訪ねた。

 

「これは・・?」

 

「束さんが特別チューンを施したんだよ。そしたら君に影響されたのか色が変わって、出力やパワーまでも上がってるよ。一歩使い方を変えれば・・」

 

「人を殺せる・・・」

 

「ピンポーン、大正解。それと傷跡を消してあげるよ、そんなんじゃ心配されるでしょ?」

 

「いえ、肩の傷跡だけは残してください。乗り越えたという証に」

 

「いいよー」

 

鈴の傷は束の治療用で使い捨てのナノマシンで跡も残らず、治療されてしまった。その後は強化された甲龍を扱えるようになるために、通常の訓練をしていたのである。

 

 

 

 

 

 

 

「鈴!!」

 

あの時を思い返していると一夏が現れた。息を切らしているのを見ると走ってきたのだろう。

 

「何か用?」

 

「なんで、この大会に参加してるんだよ!?」

 

「ISがあれば参加可能だったからよ。それ以外にある?」

 

「わかってるのかよ!?この大会は殺し合いをしてるんだぞ!?だから!」

 

「棄権なんかしないわよ?私だってこの大会に参加した目的はあるから」

 

説得しようとした瞬間に先手を取られてしまう。一夏は驚くが諦めようとはしない。

 

「だからって殺し合いを鈴がする必要はないだろ!?」

 

「・・退いてくれない?試合が始まるから」

 

「待てよ!鈴!」

 

通り過ぎようとする鈴の手を掴むが、鈴は向き直ると振り払ってしまった。何故?といった表情の一夏を見てたった一言だけ、鈴は口にした。

 

「邪魔者・・」

 

 

 

 

 

 

 

リングでは擬似スラフティンの一機であるストンミラーを装着した女性が、今か今かといった状態で待っていた。

 

「あらぁあ、可愛い子ねぇぇぇ!私がたっぷり可愛がってあげるわあああ・・!」

 

「キモ・・・・」

 

生体部品となっているクロリスという女性は前科のある犯罪者であった。特に性に奔放で男性に春を売っては大金を手にし、年端もいかない少女達を性的に襲うなど奇行が目立っていた。

 

最も彼女自身、初めからおかしかった訳ではない。彼女は娼婦として働く母親とその客で常連であった男性との間に産まれた子供であった。

 

両親の愛をまともに受けたことは無く、幼少期は殴る蹴るの暴行は日常茶飯事、僅かばかりの食料、衣服も必要最低限、毎日毎日、飲食店などで破棄された食料品を盗み食いして生き延びていたのだ。

 

そして、彼女は学校に行く事も働く事も出来ないまま、十代となった。勉学は捨てられていた本から学び、文字の練習は土に書いて最低限は書けるようになっていた。

 

ある日、彼女に更なる不幸が襲いかかる。自宅にいた時、人気娼婦であった母と共に複数の男達の強盗に合い、二人揃って犯されてしまった。

 

全てを失った母親はクロリスのせいだと、叫び声を上げて襲い掛かり、殺そうとしてきたのだ。偶然が重なり、凶器のナイフは母親がまるで自殺したかのように刺さり、その場にいたクロリスは泣きながら笑い続けていたという。

 

その後、ありとあらゆる犯罪に手を出し、生き延びてきた。刑務所の独房に留置されている時、ISのパイロットにならないかと言われたのだ。

 

無論、二つ返事で承諾した。狂わなければ生きられなくなってしまった彼女が、最後に望むものは死ぬ事だけだったのだ。

 

ましてやストンミラーはゴルゴン三姉妹の一人、メデューサをモデルに開発された機体だ。美女から醜悪な怪物に成り果てたクロリスにとっては相応しいと言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

『試合開始!』

 

鈴は黒怨甲龍を展開し、ストンミラーへと向かっていく。先手必勝で斬りかかった青龍刀の一撃は、ストンミラーの蛇のようなユニットに止められていた。

 

「どぉしたのかしらァ?そぉぉぉれ!」

 

「きゃあああ・・!」

 

ストンミラーの腕の一撃が鈴へ襲いかかる。なんとか回避しようとしたが、ユニットの一部が鞭のようにしなり、一撃を与えられてしまう。

 

「・・・・強い」

 

「まだまだこんなもんじゃないわよォォ!?」

 

「!?消えた・・!後ろ!」

 

「ちぇ・・・一撃で楽にしてあげようと思ったのにぃ」

 

瞬間加速を使って背後に居るストンミラーから離脱した鈴。ストンミラーの最大の武器はデストロイ攻撃だ。

 

背後を向けているのなら、どんな機体でも一撃で倒してしまう。それが例え、専用機であろうと。

 

「これが・・・命をかけた勝負」

 

鈴は口元に笑みを浮かべ始めた。相手を侮っている訳でも、バカにしている訳でもない。己の中にあった闘争本能、死ぬかもしれないという極限のスリル、それが鈴の中で爆発したのだ。

 

「焼き尽してあげるわ・・龍の息吹でね」

 

「じゃかああしいいんだよおお!小娘があああ!!」

 

自分の思い通りにいかない腹いせか、クロリスは口が悪くなり背後を取ろうと動きが最大戦速となって鈴に襲いかかる。

 

だが、鈴はその場で立ち止まったまま、その目は相手の動きに合わせるかのように、動き続けている。

 

「確かに早いけど、狙いが一つだけ・・それに将矢のオーバードライブに比べたら、ちゃんちゃらおかしいのよぉ!」

 

「ごばぁあああ!?」

 

右肩から発射された龍砲がストンミラーを吹き飛ばした。だが、以前の威力とは比べ物にはならない程に強い。

 

「ねぇ、知ってる?蛇って上手に焼くと美味しいらしいわよ・・」

 

左肩の龍砲を展開すると、そこから発射されたのは火炎放射のような炎であった。ストンミラーを焼く温度は100℃を超えている。

 

クロリスは声にならない悲鳴を上げ、絶対防御で守られてはいるが、徐々に温度は上昇し、全身火傷を負っ意識を失ったクロリスだけが残った。全身の80パーセントを焼かれたために命は助からないだろう。

 

鈴はISコアを将矢がやったように引きずり出し、青龍刀の鋒を突き刺して機能を完全に停止させた。

 

「・・・これが命を奪わなきゃならない戦い、震えが止まらないわね」

 

『勝者!凰鈴音!!』

 

試合を終え、鈴は相手を一瞥した後、控室に戻る通路を歩いていった。やはりというか、また一夏が話かけてくる。

 

「鈴、なんで!?どうして殺したんだよ!?アイツみたいに!」

 

「・・・殺さなきゃ殺される戦いに何を言ってるのよ?」

 

「お前は間違ってる!今からでも遅くないんだ!棄権しろよ!!」

 

「甘ったれた思考を押し付けるんじゃないわよ・・・鈍感野郎」

 

「な・・・!」

 

今ここにいる鈴は幼馴染の凰鈴音、ではない。此処にいるのは本当に覚悟を決めた戦士である凰鈴音だ。

 

「女だから血みどろの戦いをするな?ふざけた事、言ってるとその口を燃やすわよ?」

 

「り、鈴・・・?」

 

「あたしは親友を救うために此処に居るのよ・・・アンタも目的があって此処に居るんでしょ?それだけを考えたら?」

 

冷たく射抜かれた一夏は鈴を引き止めることができないまま、その場で膝を着いてしまった。あれほどまでに冷酷非情な鈴を見た事がない、どうしてこうなってしまうのか?一夏の疑問は誰も答えてはくれなかった。

 

 

 

 

 

 

「・・・・」

 

「・・・アンタ、観てたんだ」

 

「・・・・・・」

 

「あたしも手加減はしないわよ・・・」

 

「俺の邪魔をするのなら・・・鈴、お前でも容赦はしない」

 

将矢と鈴はすれ違った瞬間、お互いを敵として認識し、振り返る事はしなかった。恋人のため、親戚のため、友のために戦うのは一人のみ。

 

次の戦いが、知人同士の殺し合いになってしまう事を今は誰も知らない。




鈴の登場です。

黒怨甲龍は左肩を火炎放射器のような武装に改造されただけの代物です。

次回は・・・殺し合いです。
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