続く二回戦、第五試合。組み合わせが発表される。その組み合わせをアナウンサーが放送する。
『二回戦、白式・織斑一夏! 対するのはゲットレディ・仙谷・カウネル・綾女!!』
リングへ一夏が上がると、観客からはブーイングの嵐だ。無理もない前の試合を止めようしたという愚行をしてしまったのだから、興奮しきった観客にとっては邪魔者でしかないだろう。
逆の方角から出てきたのは、まるで忍び、それもくノ一と呼ぶに相応しい機体を纏った黒髪の女性であった。
「・・・・綺麗な人だ、でも・・・今の俺は無性に腹が立ってんだ!」
「・・・任務、開始」
この綾女という女性、日系の外国人である。元はキューバで兵士の訓練を受けていた生粋の兵であった。
殺さなければ殺される。そんな戦場に身を置き続けた、女としての喜びも何もかもを捨ててきたが、結局は信じていたものに裏切られた。
資金源となっていたのは武器の密売、麻薬の製造によるもの。正義と信じてきた自分の部隊が、裏資金によって支えられていた。
それを知った彼女は脱走をはかったが、結局は捕まりこの大会に参加させられた。最後の最後で役に立って来いと、所詮、自分は道具としてしか見られていなかったのだ。
ならば最後の華を咲かせよう。いつ散らしてもおかしくはない命を、それが兵としての行き場を失った最後の望み。
◇
『試合開始!』
開始の合図とともに一夏は接近戦を仕掛ける。雪片を片手にエネルギークローを使い、追い込んでいく。
「うおおおおお!!!」
「・・・格闘90パーセント。射撃10パーセント、格闘武装にエネルギー消失系アビリティー有り・・危険度MAX」
兵士としての状況分析、コアからのデータ算出、これら二つによって解析が始まる。本来ならば機械的処理を行うはずなのだが、この機体には特別な機構が備えられている。
「・・・弾数装填モードオン。トラップ機能、チャームポイント設置」
「もらっ!?ぐあああ!」
突然、クローが爆発し、一夏は後退する。この現象を何処かで見た覚えがあった。思い出せと、己の忘れやすい脳に発破をかけ続ける。
「!将矢のトラップ戦術・・・!いや、アイツよりも綿密に計算されてるのかよ!?」
ようやく思い出せた。この現象はセシリアやシャルロットが苦しめられたトラップ戦術そのものであった。
だが、トラップの精度が将矢と全くと言っていいほど違いすぎている。元々、綾女はトラップを仕掛けつつ、相手を狙撃する事を得意としていた。
ゲットレディというメダロットはトラップを仕掛け、相手を火力を持って倒す事を重視したメダロットである。改良型では射撃用トラップであったが、改良前のデータを反映させ、格闘用に調整されている。
「反撃、開始」
火薬玉、手榴弾と名付けられた両腕からナパーム弾を発射し、一夏の周りを爆炎で包み込んだ。
「ぐあああああ!な、なんで!?」
純粋な火薬による爆破攻撃、これはミサイルなどと同じでエネルギー攻撃ではない。
実弾兵器に近いもので、故に防御にも転化できる零落白夜の特性を使えなくしていたのだ。
爆破だけあって、ミサイルとは違い、死角を作り出すことも可能だ。爆煙に身を隠せば、近づく事も探し出すことも困難、更には格闘トラップの影響で一夏の得意技を封じている。
「射撃を使おうも、相手が何処にいるのか・・分からない!」
剣を使おうとすれば爆破され、射撃を使おうとすれば爆煙の中に逃げ込まれる。まさに忍者といってもいい。
爆煙という名の闇に潜んでしまい、相手が探している僅かな隙を狙って攻撃する。
東洋の暗殺者と戦場の狙撃手、立場は異なっているが、相手との根比べをするというのはほとんど同じだ。
◇
「くそー!出てこい!!臆病者!!」
挑発のつもりだろうが、綾女には通用しない。相手はプロの兵、相手が弱ってくるのを待つのは基本中の基本だ。
単純な挑発は挑発にもならない。返って自分自身の位置を教えている事になってしまう。
「ぐああ・・・!」
再びなパームを撃ち込まれ、一夏はよろける。相手はシールドエネルギーを削る事を目的にしている。
零落白夜を使わせれば燃費が悪いため、すぐにガス欠に追い込むことは可能だが、それをしない。
相手の土俵で戦う事をしないのは、戦略において基本中の基本。ゆえに根比べの勝負。先に折れた方の負けとなる。
爆炎が晴れてくると、ゲットレディはその姿を現した。だが、何もしてこない。
「・・・・」
「余裕のつもりかよおおおお!!」
雪片を両手持ちで振るう。だが、ゲットレディはただ避けるだけ、反撃の隙を狙っているとも言えるが、様子が違う。
あえていうならギリギリの範囲で避け続ける練習をしているようにも見えるのだ。
「くそ!くそ!馬鹿にしやがってえええええ!うああああ!」
馬鹿にされているように感じたのを理解したのか、クロー攻撃を使うが、回避と同時にトラップを仕掛け直し、発動するように仕向けた。
「がああ!また、トラップを・・・!」
「反撃」
ナパームを一夏の真下へ放ち、爆破する。本来ならば弾切れになるはずだが、このゲットレディには外部からの装填プログラムが組み込まれている。
擬似スラフティンの中で、この機体だけが連続攻撃用に改修されていた。だが、プログラムされているのはそれだけに限らない。
「ぐあああああ!このおおお!!」
「!!」
「射撃は苦手でもこの距離なら外さない・・!!」
一夏はダメージを受けながらも、ゲットレディを掴んでゼロ距離射撃の位置に、荷電粒子砲の砲口を付けている。
この距離で放てば、自分もタダでは済まないが、現状で使える武器がこれだけなのだ。
「俺は負けられないんだーーー!!」
荷電粒子砲をゼロ距離で撃たれたゲットレディは、会場のフェンスへと激突した。無論、絶対防御は働いているが、それに何の意味があるのだろうか?
「ごふっ・・!機体ダメージ、89パーセント。左腕損傷、右足複雑骨折・・・トラップ機能使用不可・・戦闘・・可能」
ボロボロだというのにリングへと戻り、攻撃を仕掛けてくる。その様子を見て一夏は叫んだ。
「何でだ!?もう勝負は付いているはずなのに、何で反撃してくるんだ!?」
「任務・・続行・・」
理解したくない事を理解してしまった。初戦の人も、この人も人間を捨てている。機械の一部となって人間としては生きていない、ただのパーツでしかない事を。
零落白夜を使えば完全に倒す事が出来るだろう。だが、一夏は使わなかった。いや、使いたくないのだ。
最初に味わった肉を切り裂いた感触、手に付着した血、その血から出てくる鉄の匂い。その全てが嫌だった。
「!うあああああああああ!!」
負けたくない、死にたくないという本能には勝てず、出力を抑えた零落白夜でゲットレディを斬った。
「ダメージ・・・90パー・・セン・・トオー・・バー、最終・・プロ・・グ・・ラム・・発動」
「な、は・・離せ!!」
ゲットレディは最後の力を振り絞り、一夏にへばりつくと自分に残ったナパームを使って自爆した。
「ぐ・・・ううう」
絶対防御によって守られたが、自爆する相手など初めての経験であった一夏は混乱していた。だが、自爆攻撃が最後に、特別プログラムされた物だったのだ
「自爆するなんて・・・なんで・・・はっ!?」
ドサッという鈍い音ともに落ちてきたのは、対戦相手であった綾女の片腕であった。その他は爆風で吹き飛んでしまったらしく、残ってはいない。
「あ・・・あああ!そんな・・・自爆しなきゃ・・・助かってたはずだろう・・何で・・」
片腕の前で膝を折り、ショックを隠しきれていない。観客達は歓声とブーイングを交互に行っており、その声は届いてはいない。
『勝者!織斑一夏!』
アナウンサーの声が響くと同時に、会場の整備メンバーが片付けをし始めてしまう。更には一夏の目の前から落ちていた片腕拾い上げ、持っていこうとする。
「ま、待ってくれ!その腕だけは」
「・・悪いな。俺達はただ仕事でやっているだけだから、権利はないんだよ。上からはすぐに片付けろとしか言われてなくてね」
「そ、そんな・・」
「試合が終わったんだ。早いところ戻ってくれ、整備するんだから」
そう言われて一夏はリングから出ていく。控え室に向かう通路で一夏は現実から逃避しかけていた。
◇
「俺・・・なんで参加したんだっけ・・・千冬姉を助けるためだっけ・・・なんでかな・・・どうすればいいんだろ」
ただ守る力が欲しかった。それだけあれば良かった。だが、それは儚い夢へと消えていってしまった。自分の弱さを徹底的に叩きつけられ、遊びのない戦いに押しつぶされてしまったのだ。
「千冬姉・・・助けてよ・・・」
今は居るはずのない姉に向かって、助けを求めようとする程に彼は、ほんの僅かな間だけ幼児退行をおこしてしまった。
『誰か、私を・・・誰か私を・・開放してください・・・罰してください』
白い衣を纏った彼女は、開放を求めていた。一夏が嫌だからではない、己の選択によってこの状況を引き起こしてしまった責任を感じた故だ。
しかし、そんな逃避を許されるはずがない。彼女は解放される事が出来なくとも、罰せられたいと強く祈る事しか出来なかった。
最後は自爆、忍者関連から参考にしました。
外国人なのに日本名っておかしくね?と思われるかもしれませんが、日本名が気に入っていますのでそちらにしています。
次回はまたもや仲間との戦い。