修羅の先に信じるもの。
怒りのまま一夏は雪片を振るい、将矢はわざとそれを受けながら間合いを計る。
切りかかれば、鎬を利用して切り返され、横薙ぎを使えば、僅かに触れるだけで避けられ、斜めに切り下ろせば、回転ドアのように逆へ回って避けられる。
怒り任せとはいえど、一夏にとって唐竹は最も自信のある剣撃だ。やすやすと避けているように見えるが、剣の軌道をずらして避けているだけで、技術によるものである。
「くそおおおお!当たれ!当たれよ!斬られろおおお!!」
「そう、言われて斬られる奴が本当にいるのか?」
刃と刃がぶつかり合い、払われては斬りかかり、突撃すれば間合いを外される。将矢が反撃に出ないのは、相手が暴走していると考えた上で、防御と回避に重点を置いている。
消耗させた上で相手を倒す、戦略としては基本中の基本だが、将矢自身もこの作戦では、一夏の支柱を折る事は出来ないと自覚している。
◇
「精神的支柱をへし折る・・・・」
マッハマッシヴとは違い、ロクショウことヘッドシザースは音速戦闘を行う事が出来ない。だが、それ以上にメダルとの親和性が非常に高くなるのが、このパーツの利点だ。
メダルとの親和性が上がるにつれて、将矢は人工筋肉を利用した機体のような動きに変わり、ロクショウの意志と一つになり始めていく。
「お前が、お前がいなければ!俺はみんなを守れたんだ!千冬姉も、箒も、セシリアも、鈴も、シャルも、ラウラも、みんな全て守れたのに!お前のせいでええ!」
「己の弱さを他者の責任にするとは、己が守るといっている相手すら守ろうとしない者が!増上慢も甚だしい!!」
「うるせえんだよおおお!!」
将矢はわざと動きを止めて、一夏の刃を受けた。横薙ぎの一撃を食らってしまい、膝を着きかける。
「ぐぅ!」
「もう一発だあああ!」
「!それを待っていた!」
「なっ!」
一夏は驚愕した。いや、常識や一般的な考えを持っている人間ならば驚愕しか、出てこないだろう。なんと、将矢は一夏の二撃目の刃へ、自ら頭突きし、軌道をズラすとチャンバラソードの切っ先をシールド機能とエネルギークローを併せ持つ左腕の中枢へ突き刺した。
頭突きの反動と刃の威力によって、将矢の左脳側から血が流れ出てくる。絶対防御の機能は僅かに発動している零落白夜の影響で弱まっていた。
「っつ・・賭けは成功、か」
間合いを取って構え直す将矢を見ながらも、一夏は自分の機体の左腕を見る。スパークは起こしていないものの、中枢を破壊されており、使用することは出来ないだろう。これではほとんど、進化する前の白式と同じ状態だ。
「ぐ・・・!ならば!」
一夏は振りかぶるような構えを取った。その刃からは零落白夜のエネルギーが、溢れ出ており、何をするのか将矢よりも、ロクショウが悟った。
『あの一撃を斬撃として飛ばすつもりか!?』
「この距離なら絶対に外さない!覚悟しやがれええ!!」
零落白夜の特性を持つエネルギーの斬撃波。これをまともに受けてしまえば、スラフティンは完全に大破し、使い物にならなくなるだろう。
『力を持って・・力を止めねばらない、力を持って道を示す。ならば俺も力を求めよう!』
「!?」
その声は将矢ではなく、ロクショウの声であった。ロクショウは鬼となった将矢を見守るだけであったが、時として力を示さねば何も意味はない。
かつて、自分が慕っていた教授との別れのように、あの時に力があればと願った事はなかった。理由無き力は暴力となり、力無き正義は何も成せないと誰かが言っていた。
だが、今は違う。今の相棒が鬼となったのなら、自分は修羅となろう。相棒には何が何でも成し遂げるべき事がある。その為に力を欲するのならば、その力の使いどころを今、見せよう。
『守るべき友、相棒、仲間との誓いを果たす為に、争覇の先の真道を信じて、俺は阿修羅の道を進まん!うおおおおおお!』
ロクショウの言葉と共にヘッドシザースの身体からエメラルドグリーンの光が、宇宙へと届かんばかりに円柱を立たせて向かっていく。
そう、この現象はメダフォースだ。零落白夜に唯一対抗するとしたらメダフォースのみ。メダフォースはバリアエネルギーではなく、メダルから発せられる特殊なエネルギーが主だ。だが、このメダフォースの発現がおかしい。
本来、クワガタメダルは攻撃型のメダフォースしか、発動できない。だが、この現象はカブトメダルが扱えるメダフォース、バーサークと同じもの。カブトメダルの意志であるメタビーが干渉したのかもしれない。
攻撃力を上げる能力だが、ロクショウが持つ最大の特徴である機動力すら強化されている状態だ。だが、メダフォースによる一時的な底上げに過ぎない。
◇
『ぬおおおおおお!!』
「は、早い!」
零落白夜を発動するタイミングを失い、一夏はロクショウの一閃を正面から受けてしまった。強化されている一撃は一夏に膝を着かせるには充分過ぎる程の威力があった。
「ぐふっ!ぐ・・・く!お、重い・・・!」
『ふうう・・・・将矢!』
「おう!」
ロクショウの一撃は決意の表れだったのだろう。ロクショウは基本的に自衛や許せない出来事以外で、力を振るう事はなかった。
将矢は一夏の回復を待っていた。理由は簡単、雪片の攻撃が来ることだ。一夏が最も信頼し、最も象徴としているものを待っている。
「けるか・・・負けられるかああああ!お前を殺すまではああ!」
雪片による唐竹割りの一撃、それを避けるのを想定してしたかのように、刺突に切り替えて心臓の位置を狙ってきた。
「やった・・・!なっ!?」
斬られはしたが、刃を脇に固める事に成功し、将矢は流血したままニヤリと笑った。
「~~~~~っらぁ!」
メダフォースの強化と機体の補助、己の力の全てを込めた瞬間、バキッ!と何かが折れた音が響いた。折れたのは脇に固められていた、雪片の切っ先であった。
「!!!!!!!!」
カランとという音と共に、切っ先がリングへと落下した。それは雪片が折れたという事実にほかならない。
将矢は雪片を離し、間合いを離して様子を見る。どうやら一夏は何かをブツブツと呟いている様子だ。
「雪片が・・・・折れた・・・千冬姉の刀が・・・最強の力が・・・絶対に負ける事のない・・・最強の剣が・・・折れ・・・た?」
どうやら雪片を折られた事が、相当のショックだったようで延々と折れたという言葉を繰り返している。
『私を自由にして・・・・下さい・・・私はここ・・・です』
謎の女性の声が聞こえたような気がしたが、内部で反応したのはビーストマスターのみ。だが、ビーストマスターは喋れずとも、あの子を開放して欲しいという思いを将矢に伝えた。
その思いは言葉にしなくても伝わっている。一度だけとはいえ、生死を共にした仲間であり、相棒の一人なのだから。
将矢は突撃し、そのまま一夏からマウントポジションを取ると拳を撃ち込み始めた。遠慮なしに撃ち込まれ続ける拳は止まらない。
「拳で殴るなら、男として一度はやってみたい事がある・・・!」
「ぐ!がぁ!何!?」
チャンバラソードの刃を納め、ひと呼吸おいた後に、将矢の目つきが鋭くなり、今度はラッシュに切り替わる。そう、将矢自身も高校生だ。それを忘れていた。そして彼は愛読している作品のように叫びを上げながら、殴る。
「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラァ!」
「ぐあああああああああ!?」
誰もが知っている有名雑誌で連載している作品のキャラクターが使うラッシュの掛け声。一撃一撃が重く、一夏を、そして白式を追い込んでいく。コアが収められている所を目指していき、装甲を引き剥がす。
「これが、コアか!ぬんっ!!」
目的のものを掴むと荒々しく、力強く引き抜いた。引き抜かれた影響で一夏は展開していたISが消えてしまった。
「!お・・俺・・・の・・・白・・・式・・・」
「脈打っているかのように点滅してるな」
そのまま握りつぶそうとした瞬間、束から超機密通信が入った。スラフティンにしか搭載されておらず、誰にも会話は聞こえる事はない。束が開発した新しい通信である。
『待って・・・そのコアだけは私に預からせて、つーくん』
「束姉さん、なんで?」
『私の大切な子、だからかな・・お願い』
「わかったよ・・」
白式のコアを拡張領域と同じ場所へ収納すると、将矢は一夏へ近づいていく。今や生身の状態で、ボロボロになり、大の字に倒れてはいるが、将矢へ向ける殺意の篭った目だけは、輝きが消えてはいなかった。
「将・・矢・・・殺・・・し・・て・・や・・・る」
「・・・・どうやって殺すんだ?武器も鎧も無くなって」
「ぐ・・・」
「もういい・・・寝てろ」
腹部を思い切り殴った後に、髪を掴んで強引に立ち上がらせ、ピコペコハンマーの一撃を顔面に食らわせて、入場してきた入口へと殴り飛ばされた。
一夏は顎が外され、腹部を思い切り殴られた事による痛みで気絶してしまい、戻ってくる事はなかった。
無理もない、生身の状態でISの拳をくらったのだから。顎が外れたくらいで済んだのは奇跡としか、言い様がない。
『勝者、土谷将矢!!』
アナウンサーの声に観客達は最高潮の歓声で盛り上がった。そんな声に見向きもせず、将矢は自分が入ってきた反対方向の出入り口へと戻っていった。
「まっていろ・・・」
次は決勝、最大最強である相手に挑む。どんなに辛くなった道であろうとも、必ずセシリアを助け出す。
その思いだけが、今の将矢を支えていたのだった。
次回は決勝。
決勝の前に束さんが現れます。
奴を、決勝の相手を攻略するアイテムを授ける為に。
それでは。