オーバードライブ発動。
クラス代表を決める戦いの後、将矢は束のナノマシンによって回復したが、しばらくは完全状態での裏コードを使わないよう厳重注意を受けた後、授業に復帰していた。
「はい、クラス代表は織斑一夏くんに決定しました。一繋がりでいいですね」
「え、あの・・・俺がなんで代表者に?」
「わたくしは辞退したからですわ」
「じゃあ、将矢は!?」
「土谷に関しては暴走したといえどあれだけ強力な物を持っていては勝負にならん。そもそも、対戦相手が危険すぎると本人から申告があり辞退している」
「という訳で俺は出来ない。暴走した責任も込めてね」
それからセシリアはクラス全体に謝罪し、改めて受け入れられた。だが、将矢に関してはあまり関わる者が居なくなっていた。
その原因はビーストマスターではあるが、自分達が蔑んでいた相手が報復してくるのではないかという恐怖にあった。
ビーストマスタークラスの機体を持っているとなれば、自分が戦う立場など想像したくもない。
無論、将矢に報復などという気持ちは毛頭なかった。むしろ、ビーストマスターに対して自重するように叱ったほどだ。
「将矢さん、もうお身体の方は大丈夫ですの?」
「うん、大丈夫。暴走させちゃったからね・・・負い目があるよ」
「負い目だなんて・・・」
「あのパーツはまだ俺には扱えないんだ。それを出してしまったから」
「気にすることはありませんわ、暴走していたのですから」
「ありがとう、セシリアさん・・・雰囲気が変わったね?」
「将矢さんのおかげで初心を取り戻すことができたからですわ」
「そっか」
セシリアとの会話を楽しみつつ、将矢は自分が研究したセシリアへの対策のネタばらしを始めた。
それを聞いたセシリアは驚愕と同時に、自分でも気付けなかった弱点が余りにも出てきた為にへこみそうになっていた。
「将矢さん。もしよろしければ、わたくしと戦った時と同じように対射撃用トラップを使って、私に訓練をしてくれませんか?」
「良いけど、俺が教えられるものなんて本当に基礎中の基礎だよ?」
「構いませんわ。格闘に関しては将矢さんの方が上です」
「分かった。代わりに射撃を教えてね?」
「もちろんですわ」
◇
それから授業は滞りなく進んでいき、休み時間を利用してメタビー達と話していた。
無論、束からのパーツに関する話題だ。
『アークビートルが使えるようになりそうだって言ってたな』
『ティタンビートルも完成間際だそうだ』
「まだ、俺が扱える技量に達してないから無理だって」
どうやらKBTとKWGの中で火力のあるパーツが完成間際だと二人は聞いていたようだ。
一夏は箒と会話しているが、殴られたりしている。将矢はそれを見た後、会話をやめてメダルに関する資料を読み始めた。
「ねえねえ!二組に転校生が来るんだって!!」
一人のクラスメイトが転校生の話題を持ってきていたが、将矢は関心が薄かった。
「つっちーは転校生に興味ないの~?」
話しかけてきたのは布仏本音、友人からはのほほんさんと呼ばれている。将矢自身も名前と顔は覚えているが、あまり話したことはない。
「ええ、あまり・・・」
「めずらし~ね?」
本音と会話していると教室のドアが開き、背丈の小さな女の子が一夏に対して宣戦布告していたが、一夏の言動でずっこけていた。
視線が将矢に移ると少しだけ興味がわいたように話しかけてきた。
「アンタが二人目の男性操縦者?」
「ええ、土谷将矢です」
「礼儀正しいのね?凰鈴音よ、よろしくね?それにしてもアンタ、強そうに見えないけど?」
「ISに関してはようやく初心者から一歩抜け出せてる。という認識で構いませんよ」
「ふ~ん、だったら放課後、私と戦わない?」
「え?」
「お、おい!鈴」
「あ、っと時間がないわ!お昼休みに話をしましょ!」
鈴は素早く自分の教室に戻り、入れ替わるように千冬が入ってきた。
「授業を始めるぞ、早く席に付け!」
人気がある訳でもいじめの対象になっている訳でもない、ISがある事を除けば、いたって普通の学校生活を送っているのが今の将矢であった。
◇
昼になり食堂へ入ると鈴がラーメンの乗ったお盆を手に立っていた。
「遅いわよ!」
「授業が少し長引いたんだ。それにそこにいちゃ食券が買えないだろ」
「ぐ、分かってるわよ!席を確保しておくから」
それぞれが昼食を乗せたお盆を持ち、鈴が確保していた席に座る。
途中で箒と鈴が騒ぎ出していたが、周りにとっては関係のないことだ。
「それで、将矢とか言ったわよね?放課後、アリーナに来なさいよ?」
「お、おい!鈴、コイツは!」
「二時間だけ時間をもらえるかな?」
「?別にいいわよ」
一夏の静止は二人の間で全くの無意味であった。鈴は将矢の実力が知りたく、将矢は新しいパーツを実戦で試したいという気持ちがあった。
そして放課後、将矢は約束の時間までに出来る限り、鈴の情報を集めていた。
「甲龍・・・名前はまるで願いを叶える七つ玉の龍みたいだけど」
『接近すれば青龍刀での格闘戦』
『距離を取れば衝撃砲と呼ばれる武装で攻撃してくる』
「接近戦と中距離では相手の間合いって事か・・・現状で対抗できるパーツは」
考えに考えた結果、やはり新しいパーツが一番だという結論に至った。
「行こう」
アリーナへ向かい、戦いの準備をした。
◇
「ようやく来たわね」
「調整に時間が掛かってね」
「そう、なら・・・始めましょうか!」
ギャラリーはセシリア、一夏、箒、本音。パイロットを目指す者、将矢の実力を知りたい二組の生徒、話を聞き付けて観戦しに来た者など多数だ。
「スラフティン、転送!モード・クワガタ!マッハマッシヴR!アクティブ!」
頭部・マッハアンテナR 右腕・マッハハンマーR 左腕・マッハソードR 脚部・マッハタタッカR
ヘッドシザースと同型でチューンアップ機であるマッハマッシヴを更にチューンアップしたパーツであるのがこのRシリーズだ。
『このパーツはマッハマッシヴよりも格段に早い。今のお主なら扱えるが支援を最大限でさせてもらう』
「ああ、頼む」
マッハマッシヴの姿を見て鈴は笑いだした。無理もない、全身装甲とはいえどモチーフはクワガタムシ、虫の姿をしているなど滑稽に映るのだろう。
「アッハハハッ!な、なによ、その姿!クワガタって・・・ひー、お腹痛いーー!」
腹を抱えて笑う鈴に対し、将矢は動じている様子はない。自分にとって相棒であり、パートナーで親友でもあるロクショウのボディだ。恥じる事などない。
「はぁ・・・笑った笑った。でも、手加減なんてしないわよ!?」
「ああ」
『合意と見てよろしいですね!?マッハマッシヴVS甲龍!それでは!ロボトルゥゥゥ!ファイトォォォ!』
ステージ・アリーナ(サイバー扱い)機体・甲龍
【あんたがわたしにかてるわけないでしょ!】
◇
「たあああ!」
鈴は突撃すると青龍刀で斬りかかり、将矢はマッハソードでそれを受け止める。
「やるじゃない、本当に初心者から抜け出たばかり?」
「もちろん、じゃあ今度はこっちから!」
刃を押し返すと、将矢はマッハマッシヴの機動力を生かした走りで間合いを詰める。
『ハンマーでフェイントし、ソードで腕を狙え!』
ロクショウからの指示を聞いた将矢はハンマーで殴りかかろうとする。その動きは鈴にとって見切りやすいものだ。
「もらっ、え!?」
ハンマーを寸止めし、ソード切り上げの一撃を叩き込んだ。その一撃は大剣で斬られたのではと錯覚するぐらいに重い一撃だ。
「あぐうう!?」
『追撃!』
今度はハンマーの一撃を思いきり吹部へと撃ち込む。真っ直ぐに撃ち込んだ一撃は鈴をアリーナの壁へと叩きつけた。
「ぐはっ!?・・・やるじゃない」
「マッハアンテナR・・・起動」
鈴が立ち上がってくるのを見て、警戒の為にアンテナを起動する。索敵だが、位置が分かれば、未だ使ってきていない衝撃砲などのタイミングが回避できるからだ。
「今度はこれよ!」
「!?青龍刀を投擲した!?」
『!敵接近!!防御しろ!!』
「隙有り!!」
「しまっ・・!うわああああ!?」
鈴は青龍刀を投擲することで将矢の注意を逸らし、衝撃砲を撃ち込んで吹き飛ばした。
『全パーツ、ダメージポイント98』
「一撃で半分以上持って行かれた・・・!?まるでナパームみたいだ」
「ふふん、どう?」
「確かに強い・・・けど、勝利を譲るなんて一言も言ってないよ?」
「!?」
「マッハマッシヴのスピードを最大にする。ロクショウ、サポートを」
『音速戦闘になる。気をしっかり持たなければ意識を失うぞ?準備はいいか?』
「いつでも!」
『了解した。制限時間は3分、オーバードライブモード!起動!!』
マッハマッシヴの赤いモノアイが強く輝くと、その姿を消した。
「消えた!?きゃあ!」
ハンマーで殴った後、またすぐにマッハマッシヴは姿を消してしまう。鈴はハイパーセンサーで捉えようとするが映るのは、動いているのがわかる程度の僅かな影だけであった。
「ああっ!?く・・・こんのぉ!きゃああ!」
ソードによる斬撃を繰り出し続けるマッハマッシヴ、鈴も攻撃された方角から反撃するが音速超過による攻撃のため、反撃を加えられない。
龍咆を連発するが、音速移動をしているマッハマッシヴには何の意味もなかった。
「はぁはぁ・・・はぁはぁっ!!」
『残り時間1分!これで決めなければ将矢、お前の身体が持たんぞ』
将矢の身体は音速によって発生する重力負荷によって、莫大な負担がかかっていた。
今の将矢は訓練を終えたばかりの新米戦闘機パイロットが、熟練パイロットと激しいドッグファイトをしているようなものだ。
「ああ!行くぞォォ!!」
次の一撃で決めるため、残像を生じさせるほどのスピードで鈴へと迫っていく。
「このおおおおお!」
刹那の瞬間、オーバードライブモードが解除され、将矢のマッハマッシヴRが膝をつく。
「かはぁっ!はぁ!はぁ!!」
頭部パーツを解除し、酸素を貪るように吸い込み、呼吸を整える。鈴が振り返ると機体は解除されていた。腕に僅かな切り傷を負わせて。
「やるじゃない、私の負けね。アンタの事、舐めてたわ・・・ごめんなさい」
「はぁ・・はぁ・・いいよ・・・気にしてない」
『勝者!マッハマッシヴR!!』
「でも、リベンジは必ず・・・するからね?」
「それまで自分の実力を上げておくよ」
鈴は小悪魔的なウインクをして将矢を支え、アリーナから出て行った。逆に戦いを見ていたギャラリーは静まり返っていた。
将矢が見せた時間制限と、肉体的負担を顧みないオーバードライブによる音速戦闘を見てしまったからだろう。
ISで当てはめるなら常時、瞬間加速状態で戦っていたようなものだ。それをこなせる将矢が恐ろしいと感じてしまうと同時に、嫉妬と羨望もあった。
一般人だったからこそ、対策と訓練と勉学を怠らない。周りからすれば本当に凡人と言っても差し支えず、ISに関しても初心者を脱却したばかりなのだ。
最もメダルの意志であるメタビーとロクショウの支援があってこそ彼は戦うことが出来るのだ。
◇
「・・・・くそっ」
一夏は握り拳を強く握りながら将矢の背中を見ていた。大切な幼馴染を傷つけられたという怒りと追い抜かれてきているという焦りが彼の中で渦巻いている。
彼自身も努力を怠ってはいない。自分の機体は剣術をスタイルとするのだから、剣を磨こうと箒と共に剣道をしている。
だが、彼は今回の戦いで自分でも気づいてしまった。箒との訓練だけでは知識はおろか、一方的に追い抜かれていくだけであると。
箒が教えてくれるのは嬉しい。だが、それだけでは将矢に勝つ事はできないのだと。
「・・・・・っっ!!」
「一夏?」
一夏の中であの光景が蘇り全身が震えだす。将矢の意志ではなく、機体自身が報復に来た出来事を。
彼の脳内ではビーストマスターに四肢を縛られ、デスブラストを至近距離で浴びせられたと同時に、咆哮を上げる姿がフラッシュバックする。
ISでは考えられない凶暴性を持ち、自意識を持って言葉を理解し、考えられない程の高火力を持つ獣の王。
その姿が彼の中に恐怖の象徴して、トラウマを刻み込んでしまっていた。
姉である千冬に聞いた話では、あの姿は機体が暴走していたのだという事。もしも、あの機体を将矢が制御して自分へ向かってくるとしたら?
「ぐ・・・ちくしょう」
震えが止まらない、将矢自身がビーストマスターで戦っていた訳ではないため、彼を責める事が出来ない。
自分は姉の力を受け継いで強くなった。みんなを守れる力を得たと確信していた。
だが、獣の王に挑んでいった結果は、その思想をいとも簡単に噛み砕き、上には上が居るという現実を、同じ人間ではなく獣の王に教えられてしまった。
これからは自主鍛錬もしようと、一夏は固く固く心に誓ったのだった。
その視線に気づいていた神の帝が、主を守ろうと表に出る決意をしているとも知らずに。
鈴とのバトル回でした。
やはり代表候補生というのは自信があるので、どこか傲慢になっているのではないかと考えています。
マッハマッシヴのオーバードライブモードはオリジナルです。
マッハマッシヴの機体説明に【音速超過の戦闘機動に並のメダロットでは触れる事すらできない】とあったのですが・・・。
普段から音速戦闘では扱えなくなってしまうので、時間制限と搭乗者の肉体へ爆発的な負担をプラスし、オーバードライブモードという形で音速超過戦闘を一時的に可能な状態にする事にしました。
これは機体説明にあるマッハマッシヴとマッハマッシヴR限定ですので他のKWGには使いません。
このモードがあるため、マッハマッシヴはしばらく封印する事なるかもしれません。
次回は乱入回、神帝がいよいよ動き出す?
それでは!