トラウマからの否定。
鈴との戦いから二日経ち、将矢はマッハマッシヴとマッハマッシヴRのパーツを封印するようにロクショウへ頼んだ。
オーバードライブモードを試しで使った結果、代償があるとは言え、あまりにも強すぎる戦闘力を持つために使う事を自ら止めたのだ。
こんな時にパーツの組み換えができるのはありがたいと、しみじみ感じる。
授業を受けながら攻撃だけではなく、回復や支援などを考慮に入れようなど戦略をメモしながらも講義をノートに移していた。
◇
放課後、将矢は代表候補生のデータを得ようとコンピューター室へ向かっている途中、誰かが言い争っているのが扉越しに聞こえてきた。
声からして一夏と鈴が言い争っている様子だ。
「馬鹿とはなによ!唐変木!!ヘタレ!」
「うるさい、貧乳が!」
瞬間、学園の床が殴られ一瞬だけ建物が揺れた。将矢は地震か?と思ったが気にせず盗み聞きを続ける。
将矢は生真面目なだけではなく、好奇心の他にイタズラ心を持っており、人を驚かしたりするのが好きなのだ。
これも十代の特有である。
「言ったわね・・言ってはならないことを言ったわね!?」
どうやら一夏は鈴が最も気にしていると同時に、コンプレックスを指摘されたようだ。
「え・・・あ、ご、ごめん!鈴!俺が悪かった!」
「トーナメント当日・・・覚悟しておきなさいよ?」
扉に向かってきている足音が聞こえた為、将矢は遠くへ逃げると向かい側から歩いてきたように装う。
「将矢?」
「鈴?どうしたんだい?ものすごく怒っているように見えるけど」
「何でもない、って言いたいけど聞いてもらえる?」
「俺で良ければ」
自販機がある休憩所に場所を移し、飲み物を二つ買って先に座っている鈴に手渡した後、将矢は座った。
その後、鈴が落ち着いてきて先程まであった出来事や、どうして学園に来たのかを話し始めた
彼女は一夏にいじめを助けられた事があり、それによって一目惚れをし故郷の中国へ帰った後、また会いたいという思いだけで一年間の間で代表候補生になってIS学園へと来たのだという。
彼女の行動力には将矢も脱帽した。再会だけを糧に日本まで来るなんて並大抵のことではないからだ。
その後、将矢が途中、盗み聞きをしていた場面の事を話し始めた。昔の日本の告白である「毎日、味噌汁を作ってあげましょうか?」という言葉をアレンジして「毎日酢豚を作ってあげようか?」と告白したが、一夏の返事は毎日、ご飯を奢ってくれるというものであったそうだ。
鈴の言葉のアレンジにも問題はあるが、一夏の返事も考えものだ。どうやって解釈すれば料理を作ってあげるという言葉をおごってあげるという言葉に変換できるのだろか?
「鈴からすれば、その言葉は告白だったのだろうけど・・・一夏の返事を聞くと鈍感ってレベルじゃないような気がするよ。多少なりとも告白なのか?って聞くと思うけどなぁ」
「そうでしょ!?私の約束を忘れてたのよ!アイツってば!」
「でも、鈴だって悪いよ?恥ずかしいのはわかるけど、一夏はウルトラ級に鈍感みたいだから【あなたが好きです、恋人として付き合ってください】ってくらいのストレートな表現じゃないと意味がないんじゃないかな?まぁ、幼馴染だとすると【俺のことを好き?冗談だろ?】って返してきそうだけど・・・」
「その予想、当たってるかもしれないわ。一夏は本当に女泣かせだもの・・・どうして惚れちゃったのかしら」
両手で缶を持って鈴はため息をつきながら頭を垂れた。
「惚れる惚れないは本当に突然だから何とも言えないけど、その気持ちは本物だから、大切にしたほうが良いんじゃないかな?」
「アンタ、本当に同い年なの?言葉が年取っているように聞こえるわよ」
「発掘のせいかもね、昔の人が何を考え、何を思い、何をしていたかって想像してるから」
「変わってるわね・・・ホント。ありがとう、聞いてくれてスッキリしたわ」
「それなら、良かったよ」
「じゃあね、飲み物ありがと」
鈴は立ち上がると缶をゴミ箱に捨てた後に行ってしまった。将矢も目的であるコンピューター室に向かっていった。
◇
そしてクラス代表トーナメントの当日、一回戦で当たるのは一組と二組であった。
つまり、対戦カードは一夏と鈴ということになる。将矢はロクショウのアドバイスで試合を見る事を決めていた。
「一夏、思いっきりぶん殴ってやるから覚悟しなさいよ!」
「なんでだ?確かに気にしているのを言ったのは悪いとは思っているけど、それ以前のことは説明してくれなきゃわからないだろ!?」
「説明もなにも少しは自分の頭で考えなさいよ!」
「まぁいい、俺が勝ったら説明してもらうからな!」
「出来るものならね!」
試合が始まり、鈴と一夏は刃をぶつけ、火花を散らせた。鈴は将矢と戦っていた時に自分の戦い方を一夏に知られたのに気づいていた。その為に攻めのパターンを変え、手数を増やす手段を身に着けていた。
「そぉれ!」
鈴は青龍刀を一夏へ向かって投擲した。機動がまっすぐなもので将矢との戦いで知っていた一夏はそれを回避し、瞬間加速で間合いに入り斬りかかる。
「この後で来るのは見えない弾!だから」
「私が見られたパターンをずっと使うと思ってんの?」
「え?うわぁ!」
鈴は衝撃砲を使わず、もう一本の青龍刀で横薙ぎに斬り払い、一夏から間合いを離した。
「ぐ、パターンが違う?」
投擲された青龍刀は一本だけであった。片手で素早く投げた事によって連結していると錯覚させたのだ。
「当然じゃない。見ていたのに気づいていないとでも思った?」
「く・・・完全な誤算だ」
◇
固定化しているという先入観で挑めば、ほんの僅かの違いが致命的となる。投擲からの衝撃砲というパターンを変えられた事で一夏の予想は外れてしまった。
追撃しようとした瞬間、何かがアリーナのバリアを破り、乱入してきた。
「さぁ!終わり・・・!?何よあれ!?」
「わからないけど、何かマズイいって事は確かだぜ!?」
アリーナの通信網、制御系統が謎の機体に乗っ取られており、アリーナの出入り口の扉が開かない。それによって見物していた生徒達はパニックを起こしている。
そんな中で、将矢は千冬から指示を与えられていた。
「土谷!済まないがアリーナの扉を破ってくれ!お前の機体の火力なら出来るだろう?」
「良いんですか?破壊して」
「緊急事態だ、止むを得ん!先ずは生徒の避難を最優先にしてくれ。もし、出来るなら織斑と凰の援護に入って欲しい!」
「了解です。スラフティン、転送!モード・カブト!ポッピンスター、アクティブ!!」
頭部・プラズマビーム 右腕・ついびビーム 左腕・おっかけビーム 脚部・ストリートキング
流線型のスマートなフォルムを持つが、若干重めな姿を持ち、ザリガニをモチーフにしたかのようなパーツを装備したスラフティンが扉の前まで移動を開始した。
ローラースケートによる移動だったが、扉の付近にまで来ると声を荒らげた。
「退いてくれ!扉を壊すから!壊した後は落ち着いて避難して!プラズマ、ついび、おっかけ、全てのビーム、同時発射!」
光学兵器の一撃を受けた扉は完全に破壊され、避難していく。それと同時に一夏と鈴は窮地に立たされていながらも、乱入者の動きに違和感を感じていた。
「鈴、気づいてるか?あいつの動き」
「ええ、パターン化してるかのような動きね」
「もしかしたら、無人機かもしれない、!だったら!」
零落白夜で乱入者を攻撃しようとした瞬間、アリーナの放送室から音量を最大にした状態で声が響いた。
「一夏ぁー!男なら、男なら、その程度の敵に勝てなくてなんとする!」
その声に反応した乱入者は放送室へ向かってレーザーを放ち、それを見ていた一夏は大声を上げた。
「箒ーーーー!!」
「!!何をしているんだよ!?篠ノ之さんはさ!パーツ換装!脚部・カンオケ!ライトアーマー!アームフラッシュ!左右両腕、同時換装!」
将矢は三ヶ所のパーツを換装し、ジャンプで放送室前に飛び出し防御した。それと同時に爆発が起こり、噴煙が舞い上がる。
「箒・・・・嘘・・・だろ?」
箒が殺された。そう思い込んだ一夏ではあったが、噴煙が晴れた先にあったのは盾を掲げ、レーザーを無効化している将矢の姿であった。
無論、放送室は無事であり、箒はその場でペタンと座り込んでしまっていた。自分が狙われるなどと思ってみなかったと同時に助かった事で、気が抜けてしまったのだ。
「よ、良かった」
「喜んでる場合!?アイツを倒さないと!」
「そうだった!」
◇
一夏達が乱入者を倒そうと戦闘している中、スラフティンから再び鼓動のような音が脈打ち始めていた。闘気に当てられたゴッドエンペラーが表に出てきてしまっていたのだ。
「ぐ、ま・・まさかこれって?」
『まずいぜ、将矢!ゴッドエンペラーだ!ゴッドエンペラーが出てこようとしてやがる!』
「な、なんだって!?ぐああああ!」
『我ガ・・・マスター・・・左腕ト頭部、脚部ノミ・・・我ガ出ル』
「み、みんな!壁際に避難しろ!!射線上に入るな!!」
「「!?」」
将矢が叫んだ後、バラバラにパーツが展開されていたスラフティンに罅が入り、弾けとんだ。将矢の意識は既にない。
『グウウウウ・・・・!!』
「!」
「な・・・何よ?あれ・・・・」
一夏はその声を聞き、顔が一瞬で真っ青になり、鈴は威圧感にその場を動けずにいた。
ビーストマスターと似た雰囲気、姿形はシャコをモチーフにしているようだが、威圧感が半端ではない。
将矢の意識は再びメタビーによって守られ、この場でスラフティンを動かしているのはゴッドエンペラーの意志である。
頭部・デスブレイク 右腕・ライトアーマー 左腕・デスレーザー 脚部・デスクローラー。
【推奨BGM One Arms Weapon ゴッドエンペラー戦】
右腕だけが盾なのは主を守るという意思表示なのだろう。乱入者である無人機はゴッドエンペラーに向かってレーザーを放つ。それを見たゴッドエンペラーは右腕を掲げ、レーザーを防御した。
『グルゥアアアウゥゥゥゥゥッ!!!』
『右腕パーツ・ダメージポイント99』
無人機の攻撃を受けきったゴッドエンペラーは左腕を無人機へと向けた。僅かなチャージと同時に発射され、無人機の中心を射抜いた。それだけに留まらず、無人機は小さな内部爆発を次々に引き起こし、最後にはバラバラになってしまった。
「あ・・・・あああ・・・」
「一夏?どうしたのよ!?一夏ってば!!」
一夏は歯をカチカチと鳴らし、雪片を構えたまま震えている。ビーストマスターによって身体に植えつけられた恐怖が全身に広がったのだ。
「う、うわああああああああああああああ!お前は一体何なんだよ!」
「一夏!?」
一夏は恐怖のあまりゴッドエンペラーへ向かって突撃してしまった。この恐怖を克服したい、克服するためには倒すしかないという考えと条件反射によるものだろう。
『ワレノナハ・・・ゴッドエンペラー。ワガマエニ タチフサガルトハ オロカナ・・・』
「ISが喋った!?」
ゴッドエンペラーは右腕を犠牲に一夏の攻撃を止め、後退した。鈴はゴッドエンペラーが言葉を発した事に驚愕と恐怖を感じていた。
『右腕パーツ・ダメージポイント100、機能停止!機能停止!』
『キシャアアアアア!』
頭部の上で何かがチャージされ、一筋の光線が球体となって白式の利き腕を撃ち抜いた。
「ぐあああ!あがあああ!?」
絶対防御による反動であまりの激痛に一夏は声を大きく上げ、その手から白式を落とした。
『イマノワレ二 ハカイノイシハ ナイ・・・マスターヲマモルタメ二 コウゲキシタ』
ゴッドエンペラーは己の意思を伝え、役目を終えるとその姿がスラフティンの内側へと消えていった。
「あぐああああああ!」
意識を取り戻した将矢は機体が解除されると同時に悶え苦しみ始めた。ビーストマスター同様、今はまだ扱う事の出来ないパーツを使い、そのパーツを使う意志に肉体を支配され、その反動が全身を襲っている。
今の将矢は全身に激しい痛みとかゆみが同時に襲ってきているのだ。痛みは反動によるもの、かゆみは血液の流れを感じられなくなっていたためだ。
一夏はデスブレイクを受けた際に発生した絶対防御の反動で、気を失ってしまっていた。
鈴は急いで千冬に連絡し、二人をアリーナから医務室へ運んでくれるよう頼み込んだ。
「ゴッドエンペラー・・・・そんなIS聞いた事ないわよ」
鈴の心の中にゴッドエンペラーの姿が深く刻まれていた。自分達が苦戦した無人機を一撃で倒した程の高火力。それに自意識を持っていることさえ不気味だ。
「怖いわ・・・・あのゴッドエンペラーという機体」
神の帝、その圧倒的存在感は一部始終を見ていた上級生と教師陣に大きな恐怖を与えるものに変わっていた。
呼ばれて飛び出て、ゴッドエンペラー!
無人機を一撃で破壊するデスレーザー、内部爆発は貫通によるものです。
一夏がトラウマから神の帝に刃を向けてしまいました。克服したい気持ちの表れです、責めないであげてください。
この神の帝は、マスターを守るという忠義で動いていますが、今回は戦いの雰囲気にあてられた上に無人機に攻撃されたので安全のために破壊しました。
これでもまだ、大人しい状態です。ガチギレさせるにはきっかけが必要です。
次回はパーツテスト回。お待たせしました、スゴイやつ。二つの王が現れます。