カブトの王 クワガタの王の入場です。
乱入者の機体の回収を済ませ解析しているのを見学している中、千冬へ真耶から解析の結果が伝えられた。
「コアは未確認、機体の方は完膚なきまで破壊されていましたが・・・人は乗っていませんでした」
「そうか、破壊の方は・・・?」
「映像が残ってます」
アリーナのカメラに残された映像にはビーストマスターが現れた時と同じく、スラフティンの内部から現れるゴッドエンペラーの姿が映っていた。
「土谷・・・またか」
映像にはすべてが記録されており、現れた機体の名前も判明したがそれ以上に千冬の頭を悩ませたのが一夏のゴッドエンペラーへの特攻であった。
「馬鹿者が・・・ビーストマスターの時と二の舞ではないか」
千冬もまた気づいていない。ビーストマスターの改良機であるゴッドエンペラー、この姿を目の前にして正気を保っていられるのが難しい事を。
実戦を経験した歴戦の兵士ならば、己を奮い立たせることができるだろう。だが、一回、二回の実戦経験だけでは意味がない。
まして、相手は制御されていない暴走状態と同じなのだ。別の視点からすれば実戦と同じように見えるが実際は違う。
ビーストマスターとゴッドエンペラー、この二機は自意識を持ちマスターである将矢の最重要命令である、【むやみな破壊をするな】という命令を守っているために学園が崩壊していないのだ。
もしも、この二機が制御を離れれば世界中を焼き尽くす災厄となってしまうだろう。
「先輩・・・土谷くんが使っている機体の名前の意味って考えたことあります?」
「スラフティンの名前の意味だと?」
「はい、スラフは英語で脱皮、ティンはブリキを意味しているんです」
「ブリキの脱皮・・・つまり、あの機体は成長し続けるサナギのようなものだと?」
「そうです。彼が機体を完全に扱えるようになった時、成虫になるんでしょう・・・まるでカブトムシやクワガタムシのように」
「・・・・・」
真耶の言葉に千冬は言葉を濁していた。成長した姿がビーストマスターやゴッドエンペラーだとしたら?
そんな訳がないと振り切るように頭を振って部屋を出て行き、別の部屋に入った。
映像に残った一夏の特攻を思い返し、千冬は一夏に対し僅かながら成長しているのは見て取れていた。
だが、あまりにも成長が遅すぎると感じてもいる。彼は的確な環境さえあれば急激に伸びる程のセンスを有しているのだから。
「やはり、原因は篠ノ之か・・・」
千冬は一度だけ、空き時間を利用して隠れながらアリーナで箒と一夏の訓練を見た事があった。
だが、素人目で見ても箒の指導は的確とは言えなかった。なにしろ擬音だらけで、聞いている側が全くもって理解が出来ないのだ。
言いたい事は確かにあるのだろう。だが、それをキチンとした言葉で説明が出来ていない、自分が分かっていても相手には理解できないという典型であったのだ。
「私が出張ってもいいが・・・それでは意味がないだろうな。あいつが自分で気付けば良いのだが、もしも気づいて相談してた時には助け舟を出してやるか」
千冬は一夏が自分で置かれている環境では成長できないと気付いた時に助け舟を出そうと考えたのであった。
◇
そして翌日の放課後、一夏は自分で購入した木刀で素振りをしていた。ビーストマスターとゴッドエンペラーの咆哮が今でも頭の中で響き続けている。
「ぐ・・くうう!」
素振りを終えると一夏は木刀を手から離してしまい、肩を抱くようにして震え始めてしまった。
「ダメだ・・・俺は、俺は戦うのが怖い」
初めて知った戦う事への恐怖。ISを使い、雪片を手に力を得て燥いでいた自分を殴り飛ばしたくなる。それほどまでに彼の精神は追い込まれていた。
「強くなるには・・・どうすれば、千冬姉に相談してみるか」
一夏は今、力を求める事に執着しつつあった。浮かれ心は無くなったもののビーストマスターやゴッドエンペラーをも圧倒できるほどの力を求め始めていた。
「もう、箒との訓練じゃ限界だ・・・成長できないし力も手に入らない」
一夏は木刀を拾い上げ、隠すようにして部屋の中にしまった後に千冬のもとへと向かうのだった。
◇
同時刻、将矢はノートパソコンで束とカメラ通信をしていた。束からメタビーとロクショウに相応しいパーツが出来上がったのこと。
「今から転送するねー」
束から転送されてきたパーツ一式が表示される。それを見ただけで新しいKBTのパーツは王の風格を漂わせていた。
頭部:プロミネンス 右腕:イグニッション 左腕:エクスプロード 脚部:ファイヤーワーク
それに続いて新しいKWGのパーツも転送されてくる。こちらは全てを圧倒するような雰囲気だ。
頭部:ディルムン 右腕:アアル 左腕:ペレト 脚部:ザナドゥ
「この二機はアークビートルとティタンビートルって名前にしたよ。どちらもクセが強いけど扱えれば最強のパーツだよ」
「扱えれば・・・でしょ?束姉さん」
「もー、つーくんは自信を持てば最強の操縦者なんだよ?この束さんの保証書付きで!」
「過度な自信は足元をすくわれるから、このくらいでいいんだよ」
「あーそうだ、つーくん・・・ゴッドエンペラーを動かしたでしょ?」
「あ・・・そ、それは」
「どうなの?」
「動かし・・・ました」
「はぁ・・・このバカーーー!今の君はビーストマスターだけでも死にかけるって状態なのに、ゴッドエンペラーまで動かしてどうすんのさーーー!!?」
「いや、あれはゴッドエンペラーが」
「言い訳無用!!メタビーとロクショウに地獄の特訓パート2を送っておいたからそれを続けろ!わかったね!」
「ええ・・・・」
「返事は!?」
「は、はい!」
「よろしい、その特訓をコンプリートできたら、さっき送ったアークビートルとティタンビートルの後継機を渡してあげるからね?」
「そうだ、束姉さん。最後に一つだけ」
「何?」
「今回の無人機の乱入・・・束姉さんが関わってるの?」
「関わってないよ。私はその時、ファーストメダルのテストをしていたから」
束は一切の欺瞞を捨てて将矢に言葉を向けている。ロストテクノロジーと言われているメダルのコピー技術の復元の方が束にとって最優先だからだ。
「分かった、信じる」
「うん、それじゃ」
束は要件を言い終えると通信を切った。同時にあれだけ怒った束を見るのは幼少期以来だった。
激しく怒るという事はそれだけ心配と、死んで欲しくないという思いからだろう。
束からすれば将矢は一般的な世界と、天才である自分にしか分からない世界の橋渡しをしてくれた人間である。
昔の人間が何を考えていたのか、今を生きる人間には理解ができない。しかし、それを想像する事は出来る。発掘はそれが楽しいのだと将矢は語った。
束姉さんは想像力が豊かなんだから理解しなくても、想像すればいいんじゃないかな?と一言いわれ、束にとってはそれが衝撃的だったのだ。
それ以降、束は一般人とも接するようになったのだ。自分が嫌な感じがする相手とは距離を置いているが。
「さて、アークビートルとティタンビートル・・・試してくるか。行こう?メタビー、ロクショウ」
『おう!楽しみだぜ!』
『重量級・・・使いこなせねばな』
メタビーとロクショウは送られてきたパーツに慣れる為の特訓と、束の言葉通り将矢を扱く事に全力を注ぐのだった。
◇
翌日、一夏は箒と言い争いをしていた。一夏が箒との訓練では何にも身にならないと言いだしたのが原因だ。
「私の特訓が身にならないだと!?どういう意味だ!一夏!?」
「言葉通りの意味だ。箒と訓練してても、成長を全く感じられないんだよ」
一夏の言葉は箒にとって衝撃だった。彼と共に過ごしたい気持ちと共に成長していきたい気持ちがあったのだが、圧倒的に前者の方が上回っていた。
「そもそも、あんな教え方でどうやって理解しろって言うんだよ。擬音ばかりで意味がわからねえ。箒は解っているのかもしれないが、俺は全く理解できないんだよ!!」
「な、私の指導が下手だと言いたいのか!?」
「ああ、そうだよ。今日は千冬姉に相談して特訓メニューを考えてもらうさ、出来る事なら千冬姉に鍛えてもらう。いつまでも成長できない特訓なんかやってても、時間の無駄だからな」
「ぐ・・・それなら私を倒してから行け!」
「はぁ?千冬姉に相談するのを、何でわざわざ箒に許可を貰わないといけないんだ?ふざけんな!俺を指導する前に、自分が的確な指導の仕方を教わってから来てくれよ」
完全に論破されてしまった箒はショックを受け、その場で固まってしまっていた。一夏を鍛え直すつもりが、かえって彼の成長を妨げてしまっている原因だと本人の口から言われてしまったのだ。
一夏は登校するため、箒をそのまま置いて部屋を出ていった。部屋に残された箒は強く握り拳を握り締め、八つ当たりでベッドを殴った。
「私の指導が・・・間違っていたはずが」
その呟きは誰にも聞かれることはなく、消えていった。そして本日、無人機乱入事件に関わったとの事で話があると授業の途中で、学園長室に呼ばれる事になったのであった。
アークビートル、ティタンビートルが完成。将矢くんは扱えるのだろうか?
一夏は力を求め始め、千冬に相談することにしました。擬音だらけの指導って指導になっていない気がするんですよね・・・。
どんな物事も、実力があるけど教えるのが下手な人、実力無いと言われているけど教えるのが上手な人っていうのもいますからね。
次回は転校生回です。
大企業に狙われるスラフティンのデータ、そして現れる初の女性型メダロット。
それは反転した黒の姿。
黒き雨を纏う兎の前に悪魔型のメダロットが現れる。
一つは幽霊を攻撃に使うバフォメット型、一つは破壊と再生を司るベルゼブブ型。
女性の身でありながら血に飢え続けた深紅の悪魔の三体。
三体の悪魔が代わる代わる現れ、兎を蹂躙する。
それでは次回!