一日目
表紙にも書いたと思うけど私の名前は影島奈々、歩きスマホをしていたところ、居眠り運転をしていたトラックに轢かれてこの世界に転生した日本人だ。これからこの世界に慣れていくにつれ日本での常識や日常が薄れていってしまうと思ったので、せめて毎日の日記だけは欠かさずやろうと思い、簡単そうな依頼を請けてその報酬でこの日誌を購入した。もし私が死んだときなどにこの本を読む日本人がいるならモンスター討伐の参考になれば嬉しい。
私が神様から貰った特典はアイルランドの説話に登場するクー・フーリンの槍、『ゲイ・ボルグ』。投げれば30の矢になって降り注ぎ、突けば30の棘になるという謎すぎる槍である。特典をこれにした理由は、某運命ゲームのスカサハとクーフーリンが大好きだから。自分でも選んだ理由が適当すぎるとは思ったが、今日請けたジャイアントトードの討伐では大いに役立ってくれた。ただ、突くたび毎回先端が破裂するのは心臓に悪すぎた。瞬時に元に戻るとはいえ、破片がこっちに来るんじゃないかと不安になる。そういった意味では少し選択肢を間違えたかもしれない。
冒険者登録時に私のステータスがどれも平均よりも上だったようで、上級職というランクが上の方の職業に就けることが分かった。クーフーリンを参考にし、ランサーという職に就こうと思ったが、せっかく上級職になれることだし、とルーンナイトを選択した。スキルの名前を見た感じだと、攻撃力の上昇、防御力の上昇、敏捷性の上昇の他、剣や槍、盾などのスキルとルーンを用いた魔術の習得があるようだ。剣や盾はともかくとして、槍やルーン関連のスキルがあるのはおっぱいタイツ師匠と槍ニキに近づける気がして素直にうれしい。とりあえず槍の威力上昇とアンサスという火のルーンを習得した。
ルーンの威力は術者の魔力に依存するようだ。流石に最初から強い訳がないので落ち込みはしなかった。
今回依頼を受けたジャイアントトードは大体2mくらいの大ガエルだった。基本行動は舌での引き寄せ、捕食と巨体を生かした押しつぶしだった。舌を使う時は鳴き声を上げるときよりも大きく口を開くため回避は簡単だった。舌は若干スナップがかかっているのでジャイアントトードの正面の横幅までが危険範囲と思っておけばいいはずだ。舌以外の動きは遅いので横から攻撃するのが効果的だ。
昼はスキルや武器の性能の検証で終わってしまったが、面白かったので問題はない。夜になってギルドにご飯を食べに行くと隅っこの方で自分の得意なポーカーを使った賭け事が開催されていたので、少し参加させてもらった。今日はツイていたのか、かなりの数勝つことができた。参加したときの所持金が11万エリスくらいだったのに対し、席を離れた時の所持金は15万エリス。4万エリスの儲けで懐があったまった。1時間くらいでこれだけ儲けたのは幸運としか言いようがない。
ゲーム中にイカサマをしているんじゃないかという言葉が対戦相手から発せられたが、周りに何人もの人が見ている状況でイカサマするのはリスクが高いだろうと否定した。その勝負に勝った後、相手から謝罪された。なんでも「終始ポーカーフェイスなので言いがかりをつけたり感情を揺さぶれば表情が崩れるかと思った」とのこと。見た目は某世紀末のヒャッハーっぽいのに結構律儀なんだと少し驚いた。そのことを伝えてみると「嘘つけ崩れてないぞ」と苦笑いされた。私はポーカーフェイスをしているつもりは無いんだけど……。
PS.冒険者になりたての人は馬小屋で寝るのが普通らしい。結構寒い。
二日目
朝は他の冒険者と話をしてこの辺りに住むモンスターのことを教えてもらった。近くにいるのは比較的温厚で危険性の少ない生物が多いそうで、昨日討伐したジャイアントトードは繁殖期以外は人里に近寄ることの方が少なく、そこまで警戒する相手でもないことが発覚した。
この辺りで警戒しないといけないのは初心者殺しという猫のようなモンスターだそうだ。なんでも、ゴブリンを討伐しに来た冒険者を奇襲し捕食するかなり知能の高いモンスターのようだ。文字通り初心者殺しの速度と攻撃力を持っているそうなので警戒を強めようと思う。
昨日の討伐依頼で懐はそこそこ温まったので、昼は日用品の調達を兼ねて街の観光をすることにした。冒険初心者の街というだけあって、傷のついていない綺麗な防具を付けている若い人が多かった。偶にすごく強そうな装備を身に着けた中堅冒険者と思わしき人がいたが、次の街に行ったりはしないのだろうか。
大通りに並んでいる屋台で昼食を摂った後、これからお世話になりそうな道具屋と武器屋にあいさつに行ってきた。武器屋さんには軽くて動きやすそうな革鎧を見繕ってもらうついでに槍の手入れの仕方を教えてもらった。ゲイ・ボルグとかについた血はその場で振り落とせばいいけど、帰った後も拭いたりした方がいいとのこと。昨日ジャイアントトードを倒した後にそのままにしていたので不安になって劣化していないか見てもらったが、特に問題ないことと、今まで見たことが無い素材で作られているとかを見抜かれ、素材に関して質問攻めにされた。とりあえず自分は異国の出身で、この槍は亡くなった祖父に冒険者になる記念として貰ったものであり、素材についてはよく分からないと答え、逃げるように退散した。
街では着替えを何着かと毛布を1枚購入した。今のところ難しい依頼に行く気もないので、ポーションなどの回復道具は買っていない。
夜まで観光を続け、ギルドに戻ったところで昨日のヒャッハーに声を掛けられた。どうやら昨日大負けしたのが悔しかったようで「今日こそは吠え面かかせてやる!」と意気込んでいたので1万エリスほど稼がせてもらった。
明日は簡単そうな依頼を請けようと思う。
三日目
今日は朝から依頼を請けた。内容はエギルの木の伐採。
エギルの木はドラゴンクエストに登場する『じんめんじゅ』のようなモンスターで、根を足代わりに急速に伸ばして少しずつ移動する植物系のモンスターだった。このエギルの木の花粉を長く浴びた他の木は段々と衰弱してしまい、森の規模の減少などに繋がるらしい。討伐の難易度は低めだが、探し出して討伐するのが面倒くさいモンスターのため、あまりやりたがる人がいないらしい。
攻撃方法は花粉をまき散らしたり、枝を槍のように突き刺そうとしてくることだった。事前に花粉対策として口を覆うように言われていたので特に問題なく倒せた。風属性の魔法なんかがあっても楽かもしれない。枝に関してはしっかりと退路を確保しながら当たりそうなものを砕けばいいのでこちらも簡単に対処できた。
報酬はでき高制とのことだったので、日が昇るまでは森を散策し、エギルの木を見つけたら伐採して一か所に集めて依頼主に引き取ってもらった。依頼主曰く、エギルの木はよくしなる上に頑丈なため、弓などに加工するらしい。
エギルの木の伐採数は5本だったが、余計な傷が少なかったとのことで、本来の相場より色を付けて貰った。刺したら破裂してしまう性質を持つゲイ・ボルグでは余計な傷が付くと思って薙ぎ払いと切り払いで戦うようにしてよかった。ゲイ・ボルグの先端がノコギリ状になっているのも関係しているかもしれない。
エギルの木は余り経験値の稼げるモンスターではないらしく、レベルアップには至らなかった。ジャイアントトードの討伐でレベル4になっていたのを思い出し、帰り道で槍に関連するスキルを習得しておいた。こういった神器による力任せのレベルアップでは流石に技術が上がらないだろうということで、槍を使っている人に教わることにした。「遠出する予定があるから1週間しか教える期間が無い」と言われたが、「期間が短い方が本気になって取り組める」と明日から1週間指導してもらうことになった。
ちなみに槍を教えてくれるのはあのヒャッハーだった。最初聞いた時は腰が抜けるかと思った。
影島奈々の、と書かれていますが、他の人の記録が出てくることはありません(当たり前)