この槍使いに祝福を!   作:シンセイカツ

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影島奈々の記録(15)

五十八日目

 

 

 昨日と今日に渡って悪霊騒ぎが起きた。霊視のできるアクア曰く、騒ぎを起こしたのはこの屋敷に棲みついている悪霊であり、もともとこの屋敷にいたというお嬢様の霊とは無関係だそうだ。そもそもお嬢様の霊がいるということ自体アクアの即興の作り話だと思っていたので重要視していなかった。カズマ君と一緒にそのお嬢様、アンナ=フィランテ=エステロイドちゃんのお墓を見つけた時の衝撃は文では表せない。

 

 今回、アクアの活躍により屋敷に住みついていたアンナちゃん以外の霊は浄化された。アンナちゃん以外は悪霊だったらしいからね。ちなみにアンナちゃんはいたずらの好きな、背伸びをしたい系の女の子と言うことらしい。今度お墓に度数のめちゃくちゃ低いお酒を備えておこう。

 

 悪霊が最近になって急激にあの屋敷に棲みつくようになった理由は、アクアが定期的に浄化するという約束をしていた共同墓地から来たものが多いらしい。アクアに話を聞くと、面倒になったから神聖な結界のようなものを張っていたらしい。ギルドからの臨時報酬とかが支払われたが、アクアのせいで棲みつき始めた悪霊による被害をアクアが解決するという自作自演に近しい行いであるので、全会一致で報酬を受け取らないことにした。そのことを濁して伝えた時の受付さんの不思議そうな顔が印象的だった。

 

 その後は不動産屋さんにこのことを説明し、謝罪した。なんとこの不動産屋さんの懐の深いこと。冒険者に貢献するのは市民の義務であると言って許してくれた。悪霊騒ぎのせいで評判が落ちてしまったとも言っていたのに、怒りもしないのは器が広すぎる。

 

 その後は屋敷の掃除がメインになった。アンナちゃんのお墓もこの時に見つけた。基本は草取りだったけど、日本で家にいた時はよくやらされたのを思いだせてよかった。集めた雑草はまとめて街の近くの河原まで持っていき、アンサスで燃やした。この世界には日本とは違いゴミ収集の頻度が少ないらしく、皆何かしらの方法でゴミを処分しているそうだ。

 

 今日の分の掃除のノルマが終わったのは昼頃だった。かなり早くに終わってしまったので暇になってしまう。ただ、拠点が変わって、自分の部屋も分けて貰えたので多少は模様替えをしてみたいと思った。とはいっても私の趣味は読書なのでこの世界のおとぎ話や武器の指南書なんかが大半だ。ルーン魔術の資料が全くないのが不満でならないが、まぁそこまで重要視するものでもない。今だけでもどうにかなるしね。

 

 明日も明日で仕事。まだ借金の返済が終わっていないので討伐依頼をいくらか請けて資金を返済に充てないといけない。数日に1回は休みを取ってリラックスすることも必要だろう。

 

 

おしごとがんばってね

 

 

 

五十九日目

 

 

 日に二度も身体が跳ね上がるほど驚くことになるとは思わなかった。まさか書き込んでくる人がいるとは。ってんなわけあるかい。部屋に鍵はかけていなかったとはいえ、日記にコメントを書いてくる人がいるわけない。この現象が出たのは見ての通り昨日。屋敷に来て生活が安定したときなので、何とか解釈すればこれはアンナちゃんが書いた物なのかな?仲間の誰とも筆跡が一致しない、丸っこくて可愛い字だし。そこまで丁寧に書くことを意識してない私の字とは大違いである。

 

 そういえば、アンナちゃんは冒険者の冒険話が好きだとアクアから聞いたが、私の日記では淡々とした語りしかできないのでとても残念である。アンナちゃんの姿を見れないのも残念だけどね。できれば一種の自伝のようなものとして見て貰うのがいいのだろうか。

 

 まぁいいや。今日の討伐対象はすでにお馴染みとなりかけている一撃熊。の番。難易度の割には報酬が良かったので他の人に請けられる前に受注。速攻で討伐してきた。番と言うことで、意外と連携とかを組まれてしまったが2匹なら何とかなると思ったのでそのまま討伐。今回はゲイ・ボルグを持って行ったが、特に威力が上昇しているなどの異変は無かった。嬉しいような悲しいような。

 

 今日は前日から雪が降っていたらしく、街も、街の周りも大量に積もっていた。討伐が終わってから屋敷の庭に簡単な雪像を作ってみた。2時間ほど年甲斐にも無くはしゃいでしまったが、雪で作った二頭身のサーヴァントはそこそこ良い出来だったので満足。騎士王と英雄王は鎧の部分を作るのに手間取ってしまった。でもまぁ、結果的にうまく作れたので問題ない。よかれと思って2人は隣同士にしておいた。

 

 あと、昨日の日記に書いた通り度数の弱い果実酒を買ってきた。日記の書き込みが見られたことからお墓と日記帳のどちらに置けばいいか分からなかったので、とりあえず机の上に日記と一緒に置いておくことにした。

 

 ここまでは今日の昼までで起きた話。

 

 夜になると、ダクネスの実家から送られてきた霜降り赤ガニという高級食材でのカニパーティーになった。アクアのテンションの上がり具合から考えても高級食材で間違いないあのカニは、私が今まで食べてきた魚介系のどんな食材より美味しかった。ただ、最近お酒を飲むようになったというカズマ君が途中で席を外したりするのには違和感があったが、まぁキース達と昼間に飲んでしまっていると言っていたのだし、そうなのだろう。

 

 私はこの世界の法的にはお酒を飲んでも問題ないのだが、そう進んで飲もうとも思えないのでアクアに勧められた酒は辞退した。二日酔いになると頭痛が酷いと聞くし。そんなこんなでアクア達とガールズトークを堪能して、カニと酒が無くなりそうになったので気分を変えるため、お風呂に入ることになった。めぐみんとアクアはこのまま楽しむと言っていたが、ダクネスは乗り気だったので一緒に入ることになった。

 

 ここが日記の前に跳ねるほど驚いた出来事で、ダクネスと2人でお風呂場に入ると、カズマ君がいた。反射的に手元にゲイ・ボルグを呼び出しそうになったが、何とか自制。私が出ていこうかと考えていると、こういう時結構慌てそうな雰囲気だったカズマ君が平然と背中を流してくれと言い放ったのが印象的だった。その時は私もダクネスも混乱していたため、なぜか強気のカズマ君の言いなりになっていた。ただ混乱していた時にカズマ君がアンケートや世間知らずのお姉さんや包容力のあるロリっ子だのと言っていたのを聞いたような気がする。カズマ君も意外と混乱してたのかな?

 

 結局ダクネスと2人でカズマ君の背中を流したが、今度は前を…と言ってくるカズマ君に流石に違和感を覚えて警戒していると、曲者を見つけたというアクアの声が響いた。腰にタオルを巻いたままそちらに向かったカズマ君を追うため、急いで着替えなおして私たちも現場に向かうと、そこにはかなり露出度の高い少女が魔方陣の中で座っていた。

 

 私たちが到着するのと大体同じくらいのタイミングで浄化してしまおうとアクアが提案し、私たちがそれを受諾しようとしていた時に、いきなりカズマ君が攻撃を仕掛けてきた。もちろん速攻で鎮圧した。

 

 後で聞かされた話によると、あの時魔方陣の中にいた少女はサキュバスという種族であり、男性を魅了し操るモンスターだそうだ。カズマ君は操られていたから言動が意味不明になったり、性格が変わっていたのだろう。女性冒険者からは目の敵にされているモンスターらしい。私的にはかわいかったらいいと思う。今回みたいなことが起きるのはまぁ困るし、直接危害を与えてくるなら対処するけどね。基本的に生きるために男性を誘惑したりするんだし、一概に悪とは言えないんじゃないかな。

 

 もう恥ずかしいことを思い出すのも辛いし、今日のことは早めに忘れることにする。

 

 明日も何かしらの依頼を請けて、明後日は1日休もうと思う。新しく本を買ってこようかな。

 

 

お酒ありがとう

おいしかったよ




なんとなく思いついたのでアンナちゃん出してみました

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