この槍使いに祝福を!   作:シンセイカツ

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影島奈々の記録(7)

二十三日目

 

 今日は朝の鬼ごっこ、ギルドで雑談、熊の討伐で1日が終わった。アンデットモンスターの討伐依頼のせいで少し遅くまで寝てしまったので、今日の鬼ごっこの時間はかなり短くなった。

 

 初心者殺しとの鬼ごっこも何回かこなすうちに追いかける側になりかけている今日この頃。レベルは3くらい上がってスキルポイントもうまうま。ステータス面では上から順に敏捷、知力、筋力、生命力、器用、魔力。最初は筋力の値が下から3番目くらいだったのに、今では上から3番目なのことがかなり遺憾。今回はスキルの習得は攻撃力上昇だけにして残りはキープ。特に何かスキルを狙っているわけではないけど今後のスキル習得に役に立てばいいかなと。

 

 初心者殺しとの鬼ごっこで汗を流してから食事を取ろうと食堂に入ると、昼間からネロイドというシャワシャワする謎のドリンクを飲みながら他の冒険者と話しているカズマ君とその様子を遠巻きに見つめる3人に遭遇した。カズマ君の話を邪魔しても悪いと思い、3人の方の席に座って料理を注文することにしたが、その時にめぐみんにカズマ君が他のパーティーに入るかもしれないという心配はしてないのかという感じの質問をされたので、もしそうなったとしてもカズマ君の意思を尊重すると言っておいた。なぜか空気が若干重くなったけど。

 

 席に戻ってきたカズマ君と軽く挨拶を交わして野菜スティックを摘まむ。この野菜スティックがまた曲者で、一度机を叩くなどして驚かせないと素直に食べさせてもらえない。指から逃げる野菜とか、もう突っ込まないからな。カズマ君は何度か挑戦していたけど、ことごとく避けられて怒っていた。まぁ私は一々叩くのがめんどくさかったから逃げるスティックを敏捷と器用度の数値に物を言わせて無理矢理絡めとってたんだけど。

 

 野菜スティックの入ったコップを叩き割ろうとするカズマ君をなんとか宥めて話をすることにした。今日はカズマ君が新しく覚える予定のスキルについての相談だった。スキルを聞くのと同時にスキルの構成を聞きたかったらしい。

 

 ダクネスは物理、魔法、状態異常に対する耐性が強固で、肉盾と言うに相応しい防御特化だった。剣とかの扱いが上手くなるスキルを取らない理由は、必死になって剣を振っても当たらず、全力で戦っても力及ばず倒されるというシチュエーションが最も好ましいからだそうだ。聞いていて頭が痛くなる。

 

 めぐみんは爆裂魔法、魔法威力の上昇、詠唱時間の短縮などのスキルを持っていた。というかそれしか持っていなかった。ナチス・ドイツの80cm列車砲か何かだろうか。あれと違って1日1回しか使えないけど。他の魔法スキルを習得しないのは依然聞いた通り、爆裂魔法をこよなく愛しているからこそ他の魔法は使いたくないとかいうこれまた何を言っているのか分からない状態。ロマン砲にもほどがあると思う。

 

 アクアはカズマ君によってパスされた。多分アクアの長所である強力な回復魔法は存在価値を奪うなと言って教えて貰えないだろうし、カズマ君が欲しいスキルはパーティーの穴を埋める役らしいので、浄化魔法なども対象外。宴会芸はもってのほか。ということでパスされるのはある意味当然だと思う。

 

 私は槍、両手剣、攻撃力上昇、敏捷上昇、ルーン魔術と、遠距離以外は何でもできるしゲイ・ボルグを使えば遠距離でも対応できるオールラウンダー的な存在になっている。攻撃力に関しては一撃熊の毛皮を両断、腱を断絶するぐらい、敏捷は初心者殺しと鬼ごっこするぐらいだから結構高めだと思う。

 

 この結果から、カズマ君に取ってもらいたいスキルは狙撃とかの遠距離攻撃のスキルかな。この世界の弓を使うスキルって幸運値が関係するらしいし。カズマ君、確か幸運のステータス3桁無かったかな?

 

 このあと、カズマ君と一緒に一撃熊の討伐に行ってきた。カズマ君は途中まで嫌がっていたけど、私がデコイのスキル持ちだから気を引くと伝えたら少しマシになったような気がした。一撃熊は楽に倒せるようにはなったけど、まだ攻撃を食らったらどうなるか分からないので、今回はカズマ君を守りながらの戦闘ということになった。護衛というかなり新鮮な戦い方ができたのでいい経験になったと思う。いつも通り腱を斬って動きを止めるだけだったけど、カズマ君の戦闘練習ということもあって少し苦戦した気もする。クリエイト・アースとウィンドブレスの組み合わせはいろんな敵に通用することが分かった。

 

 そういえば、私が日本人だということはやっぱりカズマ君も分かっていたらしい。カズマ君より10日ほど早く来たのに一撃熊の討伐が簡単になっているのはやっぱりヒャッハー師匠の影響なのだろうか。嫌がらせも兼ねて、ギルドの酒場でカード勝負をして金を稼がせてもらった。ささやかな復讐ということで見逃してほしい。

 

 ヒャッハー師匠って見た感じかなり強いのに、なんでこの街に住んでいるんだろう。この前遠出するって聞いてはいたけど、王都とかの方が稼ぎはいいんじゃないかな?もしかしてこの街に相当な思い出があるとか?

 

 

二十四日目

 

 今日はこの世界に来て一番稼げた日だと思う。例の忌々しきキャベツ収穫の報酬が支払われ、懐がかなり潤った。やっぱり1個で1万エリスはかなり高かったらしく、私の報酬は90万エリスほどだった。パーティー内でのトップはカズマ君だったけど、キャベツに含まれた経験値が豊富で報酬が上乗せさせられたらしい。これが幸運値の差というやつなのかな?ただカズマ君の報酬に張り合うくらいにキャベツを討伐した私はどういうことなんだろう。剣の腕?

 

 資金が溜まったので、武具屋さんに行って切れ味のいい長剣と1ランク上の革鎧を購入した。金属鎧は重そうだから買いたくない。今回の革鎧は前まで使っていた物よりは重いらしいけど、全く違いが無いような気がした。これが筋力値の上昇の恩恵かな…。

 

 ダクネスは鎧の強化、めぐみんは魔法に使う杖の新調、アクアは借金の返済に使ったそうだ。

 

 アクアは、自分の幸運値の低さのせいなのか、捕まえた野菜がすべてレタスだったせいで報酬が激減。キャベツが大量に取れると踏んでいたためにギルドにかなりの借金を負っていた。その返済でカズマ君にお金を借りるという駄女神行為。これ、日本とかでは速攻で破産する感じの人なんじゃないかな?

 

 この後、新しく手に入れた装備、スキルを試すために依頼を請けようと掲示板に向かったが、近頃魔王軍の幹部らしき者がこの近くに来たらしく、その影響で弱いモンスターが隠れてしまったようで、高難度の依頼しか残っていなかった。

 

 カズマ君たちに難易度の高い依頼でスキルの試し撃ちをさせるわけにもいかないので、ダクネスと一緒にブラックファングというモンスターの討伐に行ってきた。文なしのアクアは悲鳴を上げていたが、命には代えられないらしくアルバイトの雑誌を涙目でめくっていた。一応一緒に来るかと誘ってみたけど、冗談じゃないと断られてしまった。

 

 ブラックファングはその名の通り黒い毛皮を持つ巨大熊で、かなり強化された一撃熊のような印象を持たせるモンスターだった。一撃熊は攻撃を避けた時の風圧の感じでは当たったら一撃で重症を負うくらいの威力だと想定できたが、ブラックファングは一撃でミンチになるくらいの威力だと想定できた。メイン盾のダクネスがスキルで気を引いてくれていなかったらかなり危なかったと思う。ダクネスの異常な硬さにブラックファングが引いていたような気がするが、多分気のせいだと思う。

 

 ブラックファングの攻撃方法、攻略方法は骨格の関係なのか、一撃熊とほとんど同じなので割愛。ぶっちゃけ、防御力と攻撃力、あと速度が倍近くになった一撃熊ってだけなので、基本ステータスを上げて武器の性能を上げて物理で討伐すればいいね。今回ばかりは私も本気で挑むためにゲイ・ボルグを持ち出して討伐しましたよ。一回攻撃を受け止めたけど、腕の骨が折れるかと思った。ゲイ・ボルグも折れるかと思った。そこは流石怪物の骨ということで、鉄パイプみたいな音を立てて受けとめた。拍子抜けした気がしないでもない。

 

 ブラックファングは爪、牙、毛皮、骨、肉と、鯨のように使えない部位は無いという自然に優しい?モンスターなので、討伐後にブラックファングの死体を馬車に積み込んで街にそのまま運んだ。運んでいる途中でダクネスに槍も使えたのか、みたいなことを言われた。私は槍がメイン武器ですぅ。

 

 何度か苦戦はしたけど、ゲイ・ボルグの能力と注意を引いてくれたダクネスのおかげで勝てた感じが強いので、いつかはブラックファングも長剣でのソロ討伐に挑んでみたいと思う。絶対何年か後になるけど。


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