東方顔無旅   作:好落

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この話はオリキャラしか出てきません。
すいません。


プロローグ

 それは、よく晴れた満月の夜のことだった。

 野鳥の声と風の音だけが響く森の中、ソレはポツンとそこにいた。

「……おお、本当に居やがったか」

 額に二本の角を生やした大男が、その場に似つかわしくないソレを拾い上げる。

 小汚い布に包まれ、『面』を抱えているソレ……赤ん坊は、男に抱えられても声をあげることなく、ただスヤスヤと眠っていた。

 

 

 

  第零話 其の者の名は

 

 

 

 とある山奥にある一軒家。

 その家の中で、三人の者が机を囲んで話をしていた。

「で、親父よ。こいつはどうするんだ? 食っちまうのか?」

 開始早々物騒な言葉を放つのは、先ほど赤ん坊を拾った角を生やした男である。

 名を『無郷 戒(ムゴウ カイ)』といい、大柄で角が生えた『鬼』である。

「おや、食べるのですか。親父さん、私は素焼きがいいですねぇ」

 まるで、夕飯の献立を希望するかのように発言するのは、『無郷 推(スイ)』という男である。

 背は高いが体が細く、一見すると人間のようだが大きく尖った耳が人ならざる者であることを如実に表しており、彼は『天狗』である。

「阿呆共、食うわけがなかろう。人間ならともかく、こやつは物の怪ぞ。同胞は食わん」

 二人を咎める声の主は、この中で最も幼く見える少年であった。

 大の大人から親父と呼ばれる少年の名は、『無郷 絶(ゼツ)』という。

 見かけに似合わぬ言葉使いだが、年齢には相応といえるもので、この中で最も年長者である。

 即頭部から戒とは違う形状の角を生やしており、その正体は『龍』である。

「阿呆はねぇだろ、言ってみただけだよ」

「食べないのならどうするのです? 育てて肥やせて食べるのですか?」

 不穏な言葉を繰り返す推は、見た目に反して食欲が強い。

 他二人は呆れたような視線を推に向けるが、当の本人はいたって本気なので、不思議そうなまなざしを二人に向けている。

 絶が溜め息を吐きながら口を開く。

「食わんと言うとろうド阿呆天狗が。しかし、正解は正解じゃ」

「なんだよ、本気で育てるのかよ。子育ての方法なんざ知らねぇぞ」

「なに、なんということはない。赤子と言えど物の怪は物の怪。あっという間に育つじゃろうて」

 少しずつではあるが会話に熱がこもる。

 それもそのはず、三人が住む山には他に人間や妖怪は住んでおらず、まして子供の世話などやったことがないのだ。

 多少なりにでも躊躇してしまうだろう。

「お腹が空きましたねぇ……」

 しかし、まだ種火ほどもこもっていない熱もすぐさま消沈してしまう。

「……別に反対する理由なんてねぇしいいんだけどよ。……こいつの名前はどうすんだ? ていうかそもそもなんて妖怪なんだ?」

 ちなみに今の戒の発言中の沈黙部分は深い溜め息である。

「ふむ、そうじゃの……。推、お前の能力で赤子の種族と能力を見てくれんか」

「赤ん坊は可愛らしいですねぇ、肉も柔らかそうで……」

「……推、『ふざけるの禁止』」

 戒がそう言うと推の口がとたんに閉じてしまう。

「冗談ですよ、冗談。もうふざけませんから能力を解いてください。」

 戒の能力、それは『あらゆるものを禁止する程度の能力』である。

 その名のとおり、『禁止』の言葉が指す内容を悉く禁止する能力である。

 本人としては、戦闘を単純、簡略化させるこの能力をあまり便利とは思っておらず、あまり積極的には使おうとしない。

「ふざける気がねぇなら解く必要もねぇだろ」

「いえいえ、やはり誰かに縛られているのは気持ちが悪くてですね。あ、ちなみにこの子についてですが、私の能力は見た瞬間発動しますから、とうに分かっていますよ」

「なおさら質が悪いわ!」

「もうええからはよう教えんか。夜が明けてしまうぞ」

 若干語気の強い絶の言葉に、推の目もほんの少しだけ真面目になる。

「はいはい。……この赤ん坊、いえ、妖怪には個体としての名はありません。種としては『のっぺらぼう』。能力の名は『面を被る程度の能力』だ、そうです」

「……やっぱり便利だよなぁ、お前の能力」

 推の能力は『一を見て全を知る程度の能力』である。

 対象を見ることで相手の名や種族、能力名や能力の効力、弱点など殆どの情報を読み取る能力である。

 それに反して、心や感情は読むことは出来ず、あくまで対象の情報を知ることしかできない。

「まぁ私の能力はいいとして、やはり口に出してみても違和感しかありませんねぇ、この赤ん坊は」

「……そうじゃのう。『のっぺらぼう』は確か顔がないはずじゃし、能力も何やら珍妙じゃ」

 三人が不思議そうに眺める赤ん坊の顔には当然のように表情、つまりは顔があり、とても気持ちよさそうに寝息をたてている。

 すると、推が赤ん坊の脇にある例の『面』を手に取った。

「やっぱそれ、なんか関係あんのか? お前が面って言った時に思ったけどよ。ていうか面なのか?」

 赤ん坊の傍らにある面には本来あるはずの動物や人の顔といったものはなく、赤ん坊の顔にちょうど収まる程の大きさであることも手伝って、傍目には木で出来た器のように見える。

「面ですよ。種族名……と言っていいかどうか分かりませんが、『面』とでています。そして、関係があるかないかといえば、あるんでしょうねぇ」

「んだよ、もったいぶらずに早く言えよ。気になるじゃねぇか」

「……この面にも能力があるんですよ。『面(ツラ)を喰らう程度の能力』とでました」

「ツラ、か。……なるほどのぉ」

 絶は面白そうに頬を歪ませ静かに笑い出し、それを見て推は苦笑していた。

 戒はまったくついていけず、首をかしげていた。

「おい、俺にもわかるように教えてくれよ」

「そうですねぇ、まず、この赤ん坊と面は二つで一つの妖怪であることが言えます。次に能力に関していえば、この面をこの子以外が被るとその者の面(ツラ)を喰らいます。喰らった面(ツラ)はそのまま面に吸収されてしまうのですが、ここで出てくるのがこの子自身の能力です。この子がこの面を被ると面が喰らった面(ツラ)をそのまま被ることが出来るのです。ここまでは分かりますか?」

「お、おう。分かるぞ。つまり顔を盗んでなりすますことができるわけだな」

「ま、簡単にいえばそういうことじゃろうのぉ」

「盗むといっても喰らった相手が生きているなら、顔を複写するだけですけどね。被ってしまっても顔が無くなる、なんてことはありません。声と、あと体も服さえ着ていれば視覚的に誤魔化すことが可能なようです」

「フム……。生きているなら、か。もし喰らわれた者が死んだらどうなるんじゃ」

「分かってて聞いてますね? ……もし死んだら、その者の能力を使えるようになります。代わりに顔の複写は出来なくなるようですが」

「なんだそりゃ! 最強じゃねぇかそんなのよぉ」

「いえ、そうでもないですよ。この能力には欠点があります。それは、「能力を完全に使うことは出来ないのじゃろう」……まぁ、そういうことです」

「どういうことだ?」

「そもそも能力というのは、先天的なものであろうと後天的なものであろうと、その者だからこそ使いこなせるものです。それを他人の能力、特に自分よりも強い者の能力を使うとなると、どうしても弱体化してしまうのですよ。劣化というやつです」

「よくわかんねぇぞ。どういうことだ?」

「そうじゃのぉ、たとえばワシやお前らのような『鬼』や『天狗』、ましてや『龍』といった他の妖怪と比べて力のある妖怪の能力を力の弱い妖怪……『のっぺらぼう』のような非力な妖怪に使いこなせると思うか?」

「そりゃあ無理だろ。ああ、そういうことか」

「そういうことです。能力はある程度弱体化、または変化し、おそらく使うときのにも幾つかの条件を満たさなければならなくなるでしょう。まぁそもそも強力な能力の持ち主であれば、まず死ぬことがないですしねぇ」

「ふーん、確かになぁ。ってそんなら親父の能力なんか絶対無理だろ。まがいなりにも元『神』なんだからよ」

 この世界における『龍』とは万物の象徴とされており、八百万の神の中でも『最高神』に位置づけられている。

 そして、かつては絶もそのうちの一つ、いや、一柱として猛威を振るっていた。

 その能力は『無に帰す程度の能力』であり、生や死さえも操る強大な能力である。

「ふん、それももう大昔の話じゃ。ワシの代わりは既におるし、今のワシはさながら『邪龍』とでもいうべきか。位でいうならお前らと代わりはせんよ」

「『神』ってやつも大変だよなぁ、そんなに落ちぶれちまうんだからよぉ」

 戒がそう言った時だった。

「……おぎゃぁ、おぎゃぁっ!」

「お、おい。目ぇ覚ましちまったぞ。どうすりゃいいんだ?」

 とっさに赤ん坊を抱きかかえ、泣き止まそうと四苦八苦する戒を尻目に、二人は話を進めていた。

「なるほどのぉ。あの面を顔のないまま被って初めて『のっぺらぼう』となるのか」

「ですねぇ、私たちとは少々気色が違う種です。……そういえば、名前はどうするんです?」

「ふむ、そうじゃのぉ。こやつの名は……万。うむ、『無郷 万(ヨロズ)』じゃ」

「いい名前ですねぇ。由来は……ま、なんとなく想像つきますが。戒、その子の名前は万ですよ。教えてあげてくださいね」

「お、おう。よかったな、お前の名前決まったぞ。万だってよ。ほら、泣き止めよ万。おお笑った、笑ったぞこいつ!」

「気に入ったみたいですね。それにしても案外世話好きなんですねぇ、顔に似合わず」

「そうじゃのぉ。これから騒がしくなりそうで何よりじゃ。ハッハッハッ」

「おい聞こえてんぞ、推! あ、またぐずり出したじゃねぇか!あんまり泣くと禁止するぞ? ほら、笑えー、笑えー」

 

 

 

 

 

 ……時は昔々の大昔。

 人ならざる者たちが生まれ、地上を闊歩していた時代。

 人がまだ、神を尊び、物の怪たちを恐れていた時代。

 そして、人と人外の者たちが、共に暮らしていた時代のある日の晩。

 こうして『無郷 万』という名の風変わりな『のっぺらぼう』が誕生したのだった。

 




ここまで読んでいただいてありがとうございます。
更新ペースはまちまちですが最悪でも月1はあげていこうと思います。
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