東方顔無旅   作:好落

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東方のssなのにオリキャラしかでてこない0話で放置は個人的に嫌なので連投です。



第1話

 

 時は経ち、今はノストラダムスの予言も杞憂で終わって迎えた二十一世紀である。

 ある町の夜道を、一人の青年が歩いていた。

 黒い着物で身を包む時代錯誤な青年は、三体の妖に拾われ、万(よろず)と名づけられたのっぺらぼうである。

 妖気の欠片も匂わせず、道を歩く彼はまるで本物の人間のように見える。

 しかし、外見よりも遥かに長く生きた万の行き先は、今宵、大きく変わっていくこととなるのであった。

 

 

 

  第壱話 巡り巡ってその場所は

 

 

 

 生れ落ちて数千年。

 家を捨て、旅に出てから数百年。

 何度も何度も、時には歩き、時には飛んでこの国を旅してきた。

 同じ場所でも時が経てば変化し、そこに愉快さを覚えて旅を続けて目に付くのは、妖怪、つまりは同胞の減少。

 代わりに人は増え、いつしか異国のモノを吸収し、この国は随分な発展を遂げたようだ。

 あくまで、人にとっては、だが。

 もう、何年同胞を見ぬことか。

 山は削がれ、川や海があった場所の上にも家が建ち、その家すらも、もはや我等の住処には到底できないものへと変容してしまった。

 だが、人間は不思議なもので、自ら減らしたものを増やそうとする。

 今宵は新月、星が瞬くはずの夜空は薄汚く、昔に比べて星の数が少なくなったと思いながら、人が再生した森へと興味本位で足を踏み入れた。

 それがいけなかったのだろうか、私は今、道に迷ってしまっている。

 示された道順どおりに歩を進めていたはずなのだが、だんだんと道は荒れ、人口の森とは思えぬ程の瘴気が漂い始めていた。

「ふむ、あまり心地のよい雰囲気とは言えませんねぇ……」

 思わず独り言が漏れてしまう。

 柄にもなく、動揺してしまっているのだろうか。

 来た道を戻ろうにも後ろを振り向けば先ほどあった筈の街灯は消え去り、久しく感じていない、かつての夜が感じ取れる。

 空を見上げると、鬱蒼とした木々の葉の隙間から見える空は、ほんの数分前よりも星が増え、空気がより澄んだように思えた。

 これはどういうことであろうか、不思議に思いながらも立ち止まっても仕様がないと、前方に向けて歩みを再開する。

 すると、これまた長く嗅いでいない匂いがし、先へ進むほどに匂いは強くなっていく。

「これは人の、血の匂い……ですか」

 口に出して確認をしながら、匂いの先へと歩くと、そこには少女がいた。

 幼く、金色の髪で黒い服を着た少女が、人間、おそらく男性の体を喰らっている。

 妖怪。

 目に入るとともに感じ取ることのできた妖気ですぐに分かった。

 見た目からは何の妖怪かまったく判別できないが、間違いなく少女が妖怪であると確信した。

 特に何も考えぬまま、思わず人を喰らう少女に声をかけた。

「もし、そこの方」

 のそりと立ち上がり、こちらを振り向く少女の口と手は、まだ乾いていない血で染まっていた。

「あら、二人目なんてついてるわ。もう少し待ってね、食べ終わるから」

 一方的に言い放ち、食事に戻る少女。

 二人目という発言から、まだ人に化けていることを思い出す。

 これはまずいと感じ、急いで人化を解く、といっても妖気を隠すのを止めただけであり、外見上変化はない。

「……あら? あんた、人間じゃなかったの」

 ちょうど食事を終えて口を拭いながら、少女は若干残念そうにこちらを向く。

 本当に、もう少しだったようだ。

「ええ、これでも妖怪ですよ。私の名は無郷万と申します。失礼ですが、あなたのお名前は?」

「私? 私はルーミアよ。こんなところでフラフラしてると食べちゃうわよ?」

 ルーミア、と少女が名乗った瞬間、条件が満たされる。

 両の耳が大きく尖り、いくつかの情報が頭に浮かび上がる。

 

 個体名『ルーミア』種族名『不明』能力『闇を操る程度の能力』

 

 これは私の『面を被る程度の能力』のうちの1つだ。

 『天狗の面』と名付けたこの状態の能力は『名を知って殻を知る程度の能力』である。

 この能力は、相手に名を尋ね、答えてもらうことが条件で使うことができ、使用時は耳が大きく尖る。

 殻とは即ちその者を表す『名』の他の、存在の根本を表す『種族』、そして、その者が有する力の具現である『能力』のことだ。

 このルーミアと名乗った少女の種族名が不明、と出たということは、人が種として定めていない妖怪ということなのだろう。

 妖怪や神とは人によって生み出され、人によって定義が定められ、そして力を得て人に影響を与え、そこから出る様々な想いによって成長し、より強く、恐ろしい姿や強力な能力を得る。

 彼女の能力から推測すると、おそらく彼女は『闇に対する恐怖心』の化身、といったところであろうか。

 人間の闇に対する恐怖心はとても強く、そして根深い。

 何も見えず、どこから何が来てもおかしくない状況を作り出す闇という恐怖。

 そんな中、彼女のような人形のように整った顔立ちの幼い子供が現れ、なおかつ襲われ喰われると思えば、かなりの恐怖だろう。

 人は醜くおぞましい姿の妖怪も恐れるが、あまりに完璧なものを見たときも本能的に恐れるという。

 それは、完璧なものを作り出すことのできない人間だからこそ感じられる恐怖なのだろうか、どうだとしても推測の域を出ないが……。

「私を食べてもおいしくありませんよ。そこいらの人間でも捕まえて食べてください」

「えー、面倒くさいよ。アレだって、たまたま飛んでたら出くわしただけだもの」

 無残に食い荒らされた死体を指差しながら少女は言う。

「まぁ、確かに待ち伏せや狩りというのは面倒極まりますが……。ところで、いくつか質問をしてもよろしいですか?」

 今現在分かっているのはこの少女に関するほん少しの情報だけだ。

 あまりに分からないことが多すぎる。

「今日は素敵な夜よねぇ。太陽が出ていないから明るいわ」

 ……太陽はどの夜も出ていないと思うのだが、私の勘違いだったのだろうか。

 それにしても、これは質問していいと受け取っていいのだろうか。

 立ち去ることなく、プカプカと浮かびながら両腕を真横に広げている彼女の機嫌がいいのは確かなようなので、私は口を開いた。

「それでは、まず、ここが何処なのかを教えてください」

「ここは『魔法の森』よ。ここは昼間でもあまり眩しくなくていい場所よね。茸くさいけど」

 知りません、とは言えず、辺りを見るとたしかにおびただしい数の茸が生えており、夜中というのに胞子を撒いている。

 どうやらこの森の瘴気はこの茸たちが原因のようだ、耐えられないほどではないので特に問題はないが。

 それにしても、『魔法の森』とは聞かない地名である。

 不思議が深まるばかりだ。

「もっと広い範囲で、ここが何処だか分かりますか?」

「あんたは何を言っているの? ここは『魔法の森』。『魔法の森』は『幻想郷』よ。当たり前じゃない」

 『幻想郷』。

 聞いたことは、ある。

 旅の途中に妖怪たちの話では、曰く、忘れられたモノ達の楽園、そして終着点であると。

 なるほど、ここがその『幻想郷』なるものだとしたら合点がいく。

 私は、『のっぺらぼう』は、忘れられたのだろう……人間たちから。

 私のような能力を持った者の話は聞かないが、のっぺらぼうの話が載った書物はよく見かけていた。

 と、いうことはここでいう『忘れられた』とはそんな存在は『いない』、『いるわけがない』と大多数の人間が思うようになった、ということだろうか。

 とりわけ悲しいわけではないが、変わったものだと思う。

 もうそんなにも、人間がそう思ってしまうような長い時間を、生きてきたのだなと実感すると、不思議と笑えてきた。

「フフ……。ありがとうございます、ルーミアさん。そういえば、そのように両手を広げるのは何か理由があるのですか?」

 これからは人に化ける必要もないかなと思いつつ、ふと思ったことをそのまま口にする。

「おかしなことを聞くのね。理由なんてないわよ」

「そうですか、まるで十字架に磔られた聖者のように見えたので、それを表現しているのかと思いましたよ」

 十字架といえば、異国の聖者というのが私の持つ印象だ。

 日本の者とは思えない外見の少女と、その印象が混ざってしまったのだ。

 妖怪が聖者を表現するなど、聞いたことはないが。

 さきほどは『恐怖心』の化身かと推測した彼女の種族名も、単に人々に忘れられたから消滅したのかもしれない。

 そんなことが有り得るのかどうか分からないが、なにせここは噂に聞く『幻想郷』。

 もはや、何があろうとも不思議ではない世界だろう……昔の、懐かしき時代の日本のように。

 だからこそ、忘れられた妖怪たちがここで生きていられるのであろう。

「アハハ、聖者のわけないじゃない。そんな風に見るのはあんただけよ」

「そうですか? 案外他の人たちにはそう見られているかもしれませんよ?」

「へーそーなのかー」

「おや、信じてませんね。今度私以外の人に尋ねてみるといいですよ。あなたがどのように見えるか」

「面倒くさいなー。覚えてたら聞いてみるわ」

 面倒くさいが口癖なのだろうか、それともただの性分なのか。

 判別はつかないが、彼女の態度を見ていると、ゴチャゴチャと考えるのが馬鹿馬鹿しく思えてしまう。

 不思議な雰囲気を醸し出す少女である。

「あ、そういえば、あなたの能力は闇を操るものだと聞きましたが、どんなものなのですか?」

 とても興味深いことなので、単刀直入に尋ねてみることにした。

「聞いたって誰に?」

「風の噂で」

 もちろん、嘘だが。

「ふーん、まいっか。私の能力は便利よー。涼しいし、眩しくないし、髪や肌は荒れないし、眠くならないし……」

 指折り数えながら言葉を紡ぐ姿とは裏腹に、思ったよりも思考は女性っぽいようだ。

 まぁ少女であるから女性であるには違いないが、肌や髪のことまで気にするとは、いよいよ実年齢が分からない少女である。

「それは便利ですね。見せて貰えますか?」

「いいよー、減るもんじゃないし」

 と、彼女が言ったとたんに視界が黒で覆われた。

 なるほど、星明りも一切通さず、まだ若干ではあるが熱も冷えてきている。

 確かに、これは『闇』だ、それも普通ではない特殊な『闇』。

 見事なものだと感心しそうになったが……。

「何も見えないのですが、あなたには見えているのですか?」

「え?見えるわけがないわー、だって闇だもの」

 ……………ふむ。

「あなたは太陽が嫌いなようですが、昼間はどうしてるのですか?」

 余計なお世話だろうが、興味本位で聞いてみる。

「別に何もしないわ。フワフワ飛んで、たまにぶつかって、それが人間だったら食べる。これぞ闇の風物詩よ、素敵でしょ?」

「素敵ですね、本能の赴くままに生きるその姿勢は」

「だってその方が楽だもん。疲れないし。……お腹は空くけど」

 ……本当に、ただの子供のようだ。

 見た目など、人でない者にとっては不確か過ぎる判断材料であるが……俗にいう、考えたら負け、ということなのだろうか。

 このような考え方の者と長く話すのは初めてかもしれないと思い、再度質問をする。

「急ですみませんが、あなたは人を食べることをどう思っていますか?」

「あんたは変なことばかり言うね。食べることはいいこと、お腹が膨れれば幸せだもの」

「人は襲われれば抵抗するでしょう。嫌だ、助けて、死にたくない、と。それを聞いたとき、なにか思うことはありませんか?」

「ないよ。さっきの人間もそんなこと言ってたような気がするけど、私はお腹減ってたし、食べた今は少しだけお腹が膨れて少しだけ幸せ。それだけよ」

 ふぅ、と一息つく声が聞こえたかと思うと、視界が急に開ける。

 どうやら能力を解除したようだ。

 自分の幸せのために他はどうでもいい、という考え方のようだ。

 人間は食材の命に対して感謝しながら食べるそうだが、こうして比べてみると結局はどちらも食べていることは変わりないわけだ。

 そう考えると、食に対して礼儀を重んじる人間が、そうでない人間を責めるというのは些か滑稽な話だ。

 ここまで考えたところで、この思考も何度目だろうか、自分もつまらなくなったものであるとつい笑ってしまう。

「とことん食べることが好きなんですね」

「なんで笑ってるの? 気持ち悪いわ」

「ああ、すみません。ルーミアさんは因果応報という言葉を知っていますか?」

「いんがおうほう? 知らないわ、興味ないもん」

「人間が作った、よいことをすればよい報いを受け、悪いことをすれば悪い報いを受けるという意味の言葉です」

「へーやっぱり興味ないわー」

 この娘は、話半分で聞いている時にへーと頭につけるのが癖なのだろうか。

 誰がどう見ても、上の空という言葉を彼女に向けて放つだろう。

「命を喰らい生きている人間が、いざ喰われる立場になるとそれを悪というのは、おかしな話だと思いませんか?」

「ふーん。でも、分からないでもないわ。私も食べるのは好きだけど食べられたいとは思わないもん」

「……なるほど、それは……そうですね」

 家を出て、捕食する側の妖怪と話すのは何十年ぶりだが、初めて聞く意見である。

 そして、捕食する側にも、される側にもなったことのない私には到底でてこないものだ。

 確かに、他人のこととなるとどうとでも言えるが、自分のこととなると嫌なのは当然のことである。

 人間は、自分がもし襲われたときに他の人間に自分がしたように庇って貰うために、無意識的にその行動をとっているのかもしれない。

 それが真実かどうかは分からないが、新たな思考が湧いて出るのは、いつ以来だったか。

 同胞が減り、人間としか話さないような期間が長く続いたこともあって、この感覚は懐かしく、そしてとても心地がよい。

 ここならば、名も知らぬ妖怪がいるようなこの地ならば……。

「うんうん、しばらくは退屈せずに済みそうですねぇ。……ルーミアさん、この近くで寝泊りできる場所はありませんか?」

 明日から、この辺りを散策してみようか。

 少しずつでいいから、この幻想郷の中を見て回りたい。

 外での何十年かの長旅よりも、有意義に暇をつぶせそうだ。

 そうと決まれば明日に備えて早く寝たい。

 そう思い、先の問いをルーミアに投げかけたのだ。

「うーん、知らないなぁ。私の家だったらいいよ。近いし、どうせ私はまだしばらく飛んでるから」

 思わぬ返答であった。

 あった、が、ここは素直に甘えさせてもらおう。

 どうせ一晩限りの宿である。

「ありがとうございます。お願いしてもいいですか?」

「あんたは質問が大好きね。いいってもう言ったじゃん」

 そう言って、フワフワと飛んでいくルーミアに追いて行く。

 長く独りで生きすぎた私にとって、どうやらここは噂どおりの楽園のようだ。

 最初に出会った者がこの少女で幸いだった。

 そんなことを考えながら、たどり着いたルーミアの家、といっていいかどうか分からないが寝床で彼女を見送った後、私はしばしの間眠りについた。

 

 

 

 

 

 次の日の朝のこと。

 目が覚めた万は腹の辺りに奇妙な違和感を感じ、上半身を起こした。

 違和感の正体は言わずもがな、ルーミアであり、あろう事か万の腹をまるで抱き枕のようにして眠っている。

 万にとってその力はあまり強いものではなかったが、自分の質問に答えてくれ、なおかつ宿まで貸してくれた恩人の熟睡を妨げることもできず、しばし行動できないでいた。

 結局、ルーミアが目を覚ましたのは、もう太陽が真上にいくかいかないかという時間であった。

 なぜあのような寝方をしたのか尋ねると、自分の寝床で自分が寝て何が悪いのかと言われ、なにも言い返すことができない。

 礼を述べ、次なる出会いと新たな発見を求めて出発しようと立ち上がる。

「それでは、ありがとうございました。またどこかでお会いしましょう」

「うん、抱き心地も悪くなかったから、また一緒に寝てあげてもいいよ」

 その言葉に苦笑を漏らしつつ、枕か布団程度には好かれたのだなと思いながら、万はその場を去ったのだった。

 




ここまで読んでいただきありがとうございます。
能力について、分かり辛かったらすいません。
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