東方顔無旅   作:好落

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少し短めです。


第3話

 

 背後から大きな笑い声を聞きながら、妖精は不思議なものだと思いながら万は霧の中を行く。

 しかし、歩けど歩けど湖の館への道はない。

 何度か足を滑らせ落ちそうになりながらも、万は遂に館へ続く道を見つけ出す。

 探索前に感じていた冷気を感じた始めた辺りで、万の嫌な予感は当たったようだ。

 新たな道を見つけた彼の行く先には、はたして何が待ち受けているのだろうか。

 

 

 

 

  第参話 大陸の門番少女

 

 

 

 

 憂鬱だ。

 館への道に差し掛かる時に霧の中に幽かに見えたあれは、間違いなくチルノの家だった。

 道まで中々辿り付かないのも当たり前、私はこの湖を約一周してしまったようだ。

 もうチルノはいないようだが、霧の中にはまだ彼女の冷気が残っていたようなのでなんとなくそうだろうとは思っていた。

 空はまだ青く、太陽もまだ輝いているが、この気温の下がり具合からしてもう随分と時間が経っている。

 殆どの妖怪は夜になると力を増す。

 できれば日が高い内に入り込めればと思ったが、引き返すのも勿体ない気がしてならないので先へ進む。

 すると、徐々に見えてくる館の全貌。

 塀に囲まれ、広い敷地の中に建つ館は悪趣味が過ぎる程に赤い。

 完全に西洋の建造物であるようだ。

 と、いうことは館の主もやはり西洋の妖怪なのだろうか。

 いや、古い建物に住み着く妖怪など腐るほどいるのだから決め付けたものでもないか、と考えていた時だった。

「そこの妖怪さん、そんなところで何をしているのかな?」

 急に聞こえた声に驚きつつ、それを気取られないようにそちらを向く。

 いつの間にか声の届く範囲まで近づいて来ていたのは、西の大陸の衣裳を見に纏った少女であった。

「ええ、あまり見ないような建物でしたから近くで見たいと思いまして……」

 とっさに言い繕うが、これはしまったと言い終わった直後に悔いる。

「へぇ~そうなの。じゃあお嬢様のお客様ではないわけね。早く帰った方が身の為よ。お嬢様、最近暇してるみたいだから」

 そう言いながらもこちらへの警戒は解かれない。

 やはり、この少女は館の関係者だったようだ。

 冷静に考えればそれを考慮したうえでどうとでも答えられたものを、驚愕からの動揺でこのような失態を犯すとは私もまだまだである。

「……そうですか、ご忠告ありがとうございます。それでは」

 少女は特に答えることなく元いたであろう場所へと引き返して行く。

 遅々とした速度で歩きながら少女を振り向きながらその場所を見ると、少女が立つ場所には大きな門があり、彼女はその前で仁王立ちをしている。

 もしや、彼女はこの屋敷の門番なのだろうか。

 だとしたら本格的にどうしたものか……。

 先程の身のこなしからして、おそらく並みの妖怪ではないだろう。

 こうなってしまうと、もう残りの手段は限られてしまっている。

 出来れば正面からお邪魔させて頂きたかったが、まぁ仕方がない。

 思い立ったが吉日、などという言葉を信じるわけではないが、何とか今日のうちにこの館の主人と話がしたいのだ。

 決して出直すのが面倒くさいとうわけでもなく、出来れば1部屋お借りして泊めてもらおうなどとは思っていないので、あしからず。

 そんなくだらないことを考えながら、塀に沿って歩きながら館の横手まで辿りつく。

「さて、行かせていただきましょうか」

 と、言い終わると同時に足に力を込め、跳び上がると同じに宙に浮く。

 私の飛行方法は『風纏(かぜまとい)』と呼ばれる木行の天狗の術の1つである。

 この術は宙に浮いている状態ではないと使えないが、その条件さえ満たせば使い勝手のよい便利な術であるから重宝している。

 天狗の術は通常の状態、または『天狗の面』の時にしか使えない。

 なぜ『鬼の面』になると使えなくなるのかは分からないが、『鬼の面』の時は短時間であれば飛ぶことはできるのであまり困りはしない。

 今はどちらかというと飛んでいるのではなく、浮いている体を身に纏った風で操作しているという感覚だ。

 塀を乗り越え、素早く着地する。

 なんとかあの少女にばれないまま入り込むが出来たようだ。

 それにしても……。

「見事な花畑ですねぇ」

 屋敷の庭には、感嘆の声が漏れるほどの花畑が広がっていた。

 どれも綺麗に育てられており、世話する者の気心が伝わってくる。

「どうやったらこの様に育てられるのでしょうか。……おお、先へ急がなければ」

 惜しくはあるが今日此処に来たのは花を見に来る為ではない。

 そう思い、館の方へと、

「いかせないよ~」

 おかしい。

 今の今まで確かに誰もいなかったはずだ。

 それなのに、何故私の背後から数分前に聞いたばかりの声が聞こえるのか。

 おそるおそる振り返ると、やはり彼女がいた。

「そこの妖怪さん、そんなところで何をしているのかな?」

 一言一句違わぬ質問であるにも拘らず、明らかに重みが違う。

 これはまずい、先程までとは比べ物にならないほどに。

 ここは賭けるしかない、か。

「……こんな綺麗な花畑を作ることの出来る、素敵な門番さんのお名前は聞きたくなりまして」

「あら、よく分かったね。教えてあげようか、その人の名前と貴方への伝言」

 背中に汗が伝うのを感じながら、口を開く。

「是非にも、お願いします」

「名前は紅美鈴。伝言は『冥土の土産にお花はいかが』だってさ」

 そう言った直後、彼女の姿が消える。

 とっさに右に避けると、空気を切り裂く音と共に彼女の姿が現れる。

 そこは、私がいた場所より一歩左側であった。

 

 個体名『紅美鈴』種族名『不明』能力『気を使う程度の能力』

 

 二つだけ分かった。

 まず、彼女の気配を感じることが出来なかったのは、彼女が自身の気とやらを消していたからだろう。

 種族も分からない上に能力もあまり具体的にどう使うのか分からない、とても厄介だ。

 そして、もう一つはもっと厄介である。

 私の『鬼の面』の発動条件は能力を行使される、もしくは攻撃を受けた時だ。

 彼女はどうやら近接戦闘が得意らしく、一撃受ければかなりの痛手であろう。

 死ぬほどの衝撃であれば、もっとやりようがあるのだが……。

「運が良いね、あんた。どっちにかわすか勘だったけど外れちゃったわ」

「それはそれは。その運を見込んで見逃してもらえるとありがたいので、す、がっ!」

 言い終わる前に拳と足が飛んできたので何とか避ける。

 今がもし通常状態だったらと思うと、ぞっとするで済む話ではない。

 しかし、どう考えてもこちらが不利。

 どうにかならないかと思っていると、不意に動きが止まる。

「此処に忍び込んでおいてその程度の実力なんて、もしかして自殺志願者なの? まぁ殺さないけどね、色々五月蝿いのがいるし」

 なるほど、私の実力を図った上での余裕か。

 これはこれは、舐められたものである。

 弱いなりにもやれることなど吐いて捨てるほどあることを見せてやろうか。

「自殺なんて無駄なこと、やるわけがないじゃないですか。ところで、今日は熱くありませんか?」

「今日?別に暑くなんて、ってあっつい!」

 彼女は自身が被る帽子に火がついていることに気づき、急いで払いのける。

 帽子についた火は消えることなく燃え続けているが、花のない方向へ飛ばしたのは流石といったところか。

「あんた、女の髪に火をつけるなんて、どういうことか分かってるわよね?」

 怒気が強まり、痛い程の殺気がこちらに向けられる。

 とてもじゃないが、長時間耐え切れるものではない。

「申し訳ありません、こっちも必死なものなの……でっ!」

「なっ!?」

  耐え切れるものではない、ので逸らさせて頂こう。

 先程の炎を花畑に向けて放つ。

 彼女の視線と意識は完全にそちらに向き、炎は瞬く間に広がり花畑を包む。

「あ、あ、水っ、水を!」

「油断は禁物ですよ、門番さん」

「っ!このっ、許さないわよ!」

 背後に近づいた私の腹に、彼女の振り向きざまの拳が抉り込む。

 だが、動揺して力を出しきれていないこの程度の威力であれば、『天狗の面』を被る今なら耐え切れる。

 そしてその瞬間、額から角が伸びて『鬼の面』の発動を告げる。

「『貴女の身体能力は一分間、通常時の私と同等になる』」

「はぁ?っぐぅえ!?」

 理解できないと言った顔をする彼女の鳩尾に、正拳を叩き込む。

 崩れ落ち、膝からうつ伏せに倒れこむ。

 気絶するまではいかないが、かなり体力は磨り減っただろう。

 痛みに耐えつつ立ち上がろうとする彼女の頭と顎を掴み、舵を切るが如く回す。

「色々とすみませんねぇ、本当に」

 声を上げることも出来ずに気絶した彼女に向かって謝罪を述べ、他の住人に会いに行くため先へと急ぐことにする。

「なんて、できませんよねぇ」

 自らの考えに否定を入れながら、その場に座る。

 もう制限の一分も超え、彼女の身体能力も本来のものに戻っている。

 所詮私のような素人の正拳では、彼女のような格闘の達人を長時間意識不明になどできない。

 目覚めた彼女に追いかけられて、同じ手が通じる保障もなく、色々説明もしなくてはならない。

 すると、もう彼女の体がピクピクと動き出し、のそりと四つん這いのになる。

 正直、思っていたよりも物凄く早い。

 随分と打たれ強いようだ。

「あ痛たたた。うぅ、お嬢様になんて言われることかしら。勝負に負けて、花畑も燃やされて……。ってあんたまだいたの?」

 目覚めたとたん、顔も上げずにぼやいていたかと思うとこちらに気付いて質問を投げかけつつ、体勢を変えて足を投げ出す形で座り込む。

 忙しい人だ。

 そして、まるで私が極悪人のような言い方はやめていただきたい。

「とても申し訳ないのですが、しっかりと周りを見てください」

 疑問符を頭上に浮かべている様な顔をして、彼女は辺りを見回して驚愕する。

 それもその筈、花畑は燃えてなどいないのだから。

 あの炎は天狗の術の一つ、『贋炎(がんえん)』という火行の術だ。

 その名のとおり贋物の炎であるが故、熱は感じるが燃えはしない特殊な炎である。

 瞬間最高温度は約八十度くらいまで調節可能であるが、長時間広範囲の使用は無理な話であるため、この術ははっきりいってこけおどし以外の何でもない。

 しかし、今回のようにたまには役に立つのだから面白いものだと心底思いながら地に落ちていた帽子を手渡す。

「門番を倒したということは、中に入ってもよろしいのでしょうかねぇ?」

 わざと嫌味のように言い放つ。

 彼女は一瞬ぽかんとしつつ、自嘲気味に笑いながら口を開いた。

「何を言っているの?門の前でもないのに番人がいるわけないじゃない、門番はきっとあの門の向こうで今日も真面目に勤務中よ。まぁ……そんな門番も今日みたいな日はもしかしたら、昼寝して侵入者に気が付かないかもしれないけど」

 バタンと仰向けに倒れながら、誰にとも言えぬ方向へと呟く。

 此処まで言ってもらえれば十分だ。

 話の分かる妖怪で幸いした。

「では紅美鈴さん、素敵な門番さんにお疲れ様ですとお伝えください。また帰りにでも会いましょう」

「あーもー、嫌な奴だね。精々気をつけなさい、変な人」

「私が変な人? ならば変ではない貴女は普通の人ということですか。遅ればせながら私の名は無郷万です、万とお呼びください」

 寝そべった格好のまま手を上げて気だるそうに振るのを見て、そろそろ行こうと立ち上がって踵を返す。

 さて、もはやこのまま正面から入っても面白くない、か……どうしたものか。

 

 

 

 

 

「あー、負けた負けた」

 正面玄関から入ると思いきや、開いていた窓から館の中へ侵入していく男を見て、美鈴は立ち上がった。

 肩をぐるぐると回し、先程の戦闘を思い出す。

 まさか、あんな手で突破されるとは思わなかったようで、落ち込んでいるのか溜め息を漏らす。

「帽子も燃えてないし、最初にこれに火をつけたのもフェイントだったわけか……」

 鍛錬が足りないなぁ、これでも私は長生きしてる方だと思っていたのに。

 まったく、誰が普通の人か。

 まぁでも、番人なのだから人と言われても間違ってはいないか。

 そんなことを考えている美鈴がぽつりと呟く。

「無事に出てこられるかなぁ、スペルカードルールはまだ試作段階だものねぇ」

 自分を負かした男を次はどう料理してやろうかと思いを巡らせながら、美鈴は門の外へと戻って行く。

 口から零れた物騒な言葉は、果たして万の今後にどう反映されていくのだろうか。

 

 

 




天狗の術は一応オリジナルですが、ネタ被ってたらどうしましょうか……。
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