東方顔無旅   作:好落

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一段落したら主人公についてキャラ紹介的なものを作ろうと考えています。
分かり辛いうえに複雑ですいません。


第4話

 自分が負かした少女の不穏な言葉に気付きもせず、万はわずかながらに開いた窓を発見する。

 その時、同時にその館の大きさに対して窓が少ないことにも気付いたが、そもそも庭の道まで赤で統一されている奇怪な場所なので万はさして気にも留めなかった。

 館の門番が中国風の少女であったことから、館の主が何の妖怪なのか、そのことばかり考えながら手馴れた様子で入って行く。

 暢気な者である。

 

 

 

  第肆話 扉の向こうは

 

 

 

 はてさて、忍び込んだはいいがこの館の構造など知る筈もなく、どちらに進めばよいか分からない。

 少々迷い、立ち往生していると前方から足音が近づいてきていた。

 しかし、そんなどうでもいいことには気を向けている暇などない。

 今、最も重要なのはどちらへ進めばいいのだろうか、ということである。

 そう思っているとおそらくは足音の主であろう、西洋の使用人然としている妖精が私の前を通り過ぎる。

 後ろ姿を見ると、薄くて透明な羽が服をすり抜けている。

 チルノと対峙した時には微塵も気にならなかったが、あれはどういう構造になっているのだろうか……。

「……まぁ、大きいと言っても歩いていれば何かしらあるでしょう……」

 すぐに思考が興味を引かれた方に飛んでしまう悪い癖は、何時まで経っても直らない。

 意識を元に戻すため、周りに誰もいないことを確認しつつ独り言を呟きながら、とりあえず歩き出す。

 歩き続けていると、先程と同じ姿をした妖精を何度か見かけるが、一様に私に気がつくことはない。

 『伏土(ふくど)』という、周りの景色と同化して姿を隠す土行の術の効果である。

 この術は姿を隠せても他は何も隠せないので、犬を初めとした視覚以外の器官が発達した生物にはあまり意味を成さないが、こういう風に他人の御宅に上がりこむ時はとても役に立つ。

 足音を出さないように気をつけながら、何か目新しいものはないかと探索を続ける。

 それにしても、広い。

 明らかに外で見た印象を悠に超える広さだ。

 この館の主の能力か何かだろうか、いや、もしかしたらこの館そのものの力なのかもしれない。

 そうなると、忍び込んだ時点で私の行動は筒抜けになってしまうので少し虚しくなってくるのだが。

 などと考えているうちに、階段を見つけ出す。

 侵入したのは一階だが、階段は下へと続いているところを見ると、この見た目よりも広い館には地下もあるようだ。

 何はともあれ階段を下ると、そこには古ぼけた少し大きめの二枚扉があった。

 静かに、出来るだけ音を立てないように最低限だけ扉を開き、中へと入る。

「これは……」

 思わず声が出てしまったが、二の句が継げなかった。

 そこに広がるのは巨大な本棚と、数えるだけでも日の出から日の入りまで時間が経ってしまうのではないかと思ってしまう程の本の群れだった。

 試しに一冊手に取って開いて見たが、日本語どころか何処の国の言葉か分からない。

 隣にある本棚の物も見てみるが、先程の文字と違う言語で書かれているということしか分からなかった。

 他にもいくつか手に取って見ても多種多様な文字で書かれており、まさかこの場所の主はここにある全てを理解出来るほどの博学者なのだろうか。

 読めるものが一つくらいはある筈だと思い、無意識のうちに奥へ奥へと進んで行く。

 英語も碌に読めない身では無理であるかと半ば諦めかけたその時、ぶつぶつと何か呟く声が聞こえてきた。

 息を潜めて近づくと、そこには少女がこちらに背を向けて椅子に腰掛けていた。

「……基礎はいいけど……符なんかは難しいわね。手加減の具合が……」

 ふむ、要領を得ない。

 もっと近づいて何を言っているのか聞いてみたいが、いかんせん見つかるとまずい。

 本棚の影から出るか出まいか迷っていると、頭上に気配を感じ、思わず見上げると同時に鈍い痛みが私を襲う。

「ッッ~~~~~~~~~」

 声にならない声を上げてしまい、あげく術が解けてしまう。

 痛む顔を押さえながら上を見ると、黒い羽を広げた少女がこちらを見下ろしながら戸惑っているような、悪戯がまんまと成功したときのような、なんともいえない顔をしていた。

 どうやら誤って本を落としてしまったらしい。

 なんと運のないことか。

「む、誰かいるの?」

「……はぁ、すいません。お邪魔させて頂いています」

 もう、どうしようもない。

 何事も潔さが大切である。

「この館の主人と少し話がしたくて来たのですが、何のご縁か此処に辿り着いてしまったもので」

「レミィに? 図書館にはいないから出て行くといいわ」

 取り付く島もない。

 しかし、此処にある本にも若干惹かれ始めている悪い私は出て行きたくないと囁いている。

「あの、もしよろしければ此処の本を少々読ませてもらいたいのですが……」

「…………ふぅん。それより貴方、どうやって此処まで入ってきたの? 門番とメイドがいたでしょう」

 はて、門番は美鈴のことで間違いないと思うがメイドとな。

 まさか先程の妖精たちのことではあるまい。

 と、いうことはこの館にはこの少女と美鈴を除いて最低でも2人は妖精以外の何かがいることになる。

「いえ、姿を隠す術を持っていますので忍び込ませて頂きました。ですからその方たちは知りません」

 いかさまを用いて力任せに押し切ったなどと言っても得をするとは思えないので嘘をつく。

 これは一種の正当防衛である。

「あらそう、職務怠慢ね。本は……そうね、スペルの調節を手伝ってくれるのなら読ませてあげてもいいわ」

「すぺる、と言いますと?」

「くれるのか、くれないのか。聞いているのはそれだけよ」

 どうしたものか。

 ここで安易に了承してはならないと長年の勘が告げているが、面白そうだと思ってしまっている私もいる。

 ここは……。

「……ええ、手伝わせて頂きます。私に出来る範囲なら、ですが」

「助かるわ、火水木金土符はいいのだけれど月符と日符は調節が難しくて探していたのよ」

 微笑む彼女の顔に、言い知れぬ不気味さを感じてしまう。

 早計だっただろうか。

「……探す、とは何を?」

「実験体。……月符『サイレントセレナ』」

「『水体(すいたい)』」

 彼女が途轍もない早口で何かを呟いた後、厚紙のようなものを掲げた瞬間、床に彼女を中心にした青く光る魔方陣が展開する。

 私はとっさに、水行の『水体』という術を発動させた。

 魔方陣の光が増したかと思うと、足元から棒状の光弾がまるで波のように断続的に射出される。

 しかし、それは体に当たりながらもすり抜けて上昇して行く。

 この術の効果は、体の成分が水になることであり、この状態になれば少々の物理攻撃は私に通用しなくなる。

「あら、変わった術ね。次いくわよ、……日符『ロイヤルフレア』」

 魔方陣が消え、今度は本を持ったまま両手を掲げ何かを唱えている。

 それが終わったかと思うと、先程見た魔方陣の光と対を成すような、眩し過ぎるほどの光が図書館を包み込む。

 まずい、水の体が少しずつではあるが散り始めている。

 散るだけなら問題はないが、散ったそばから光の熱に当てられて蒸発している。

 すぐさま術を解くが、痛い程の光が体に突き刺さる。

 それにしても、先程から何やらおかしい。

 なぜ、『鬼の面』が発動しないのだろうか。

 こんなことは初めてだが、今考えてもどうしようもない。

 あまりの痛みに声を荒げてしまう。

「『金傘(きんさん)』!」

 私の周りを特殊な金属で出来た半円状の壁が覆う。

 この壁を張るとその場から動けなくなってしまうが、今の状況ならこれで十分である。

 更に、この術は『水体』と違って長時間維持できず、その上、内側から外の状況を確認できない。

 幻想郷に来て、外では滅多に使うことのなかった天狗の術を1日もせずに全て使ってしまった。

 なぜか勿体ないような気がするのは何故だろうか。

「……スライムかと思ったら今度は亀ね。生意気だわ、初見で全部耐えるなんて」

 外から何か聞こえるが、もう終わったのだろうか。

 そう思い、一安心して術を解こうとした、まさにその時だった。

「『ウィンターエレメント』」

「っぐぇ、が!」

 突如、足元から水が噴出され、体が持ち上げられる。

 まだ術を解いておらず、自ら生成した壁に頭を打ちつけ、そのまま私は意識を失ってしまった。

 

 

 

 目を覚ますと、眼前に顔があった。

 少し驚いてそのまま顔を上げると、すぐに本棚の方へと駆けて行った。

 私の顔面に本を落としたあの少女である。

 何か悪戯でもされたのかと来ていた着物を調べていると、声が飛んできた。

「別に何もしてないわよ」

 あの少女……そういえば名前を聞いていなかった。

 聞く暇がなかった、とも言えるが。

 しかし、今はそれよりも聞きたい事がある。

「あの、最後のは何だったんでしょうか」

「最後? ……ああ、別に意味なんてないわ。なんとなくよ」

 なんとなくで気絶させられたのか、私は……。

 それにしても、今回は他にもいくつか分からないことがあった。

「ところで、まだ自己紹介をしていませんでしたね。私は無郷万と申します」

「私はパチュリー・ノーレッジよ。約束どおり、本は読んでいいわ。持って帰ったら駄目よ」

 

 個体名『パチュリー・ノーレッジ』種族名『魔法使い』能力『魔法を使う程度の能力』

 

 気絶によって解除されてしまった『天狗の面』が再び発動する。

 ……ふむ、能力や種族を知ったところでどうなるわけでもなかったか。

 はるか昔に陰陽師とやらを見たことはあるが、魔法使いをこの目にするのは長く生きてきた中でも初めてである。

 なるほど、先程のものが所謂『魔法』か、多少節々が痛むものの、この体験も損ではなかったか。

「結局、すぺるとは何なのですか? 何か掲げていましたが……」

「……簡単に言えばお遊びよ。私の使う魔法を人間でもある程度避けたりできるように手加減しつつ、その美しさを見せ付ける遊び。最近流行り始めてるらしいわ。知らないの?」

 確かに、足元から上昇する光弾や眩いばかりの光は美しかったが、あれをかわすことの出来る人間がいるのだろうか。

 私からすると避けるような隙間はなかったよう思えたが、見えていなかっただけなのか。

「私はつい先日幻想郷にやってきた者ですから……。あの、度々すみませんが、今は何時でしょう」

「私たちもそんなに長くいるわけじゃないけどね。そうね、今は大体二十時そこらじゃないかしら」

 思ったよりも、かなり長く気絶していたようだ。

 此処で本を読むのは後の楽しみにして、一先ず館の主を探すとしよう。

「また此処に来てもよろしいですか? その時に改めて此処の本を読ませていただきたいのですが」

「…………そうね、いいわよ。いつでも来ていいけど、来たら私かさっきの小悪魔にでも伝えなさい。あと本の持ち出しは厳禁よ」

 なんと気前のいい人か。

 返答までの沈黙が若干不気味ではあったが、許可をもらえたことには変わりないので気にしないことにしよう。

「では、またその内にでもお会いしましょう」

 返答はない。

 元々私が目覚めたときから彼女はこちらを向かず、終始椅子に腰掛け本を読みながら私と話をしていた。

 無駄な会話はあまり好きではないのだろう。

 もと来た道順をたしかに扉まで戻る。

 それにしても、なぜ『鬼の面』は発動しなかったのだろうか。

 今までこんなことはなかったので、要検討である。

 そんなことを考えながら、再び『伏土』をかけ、扉を開けた。

 

 

 

 

 

 万が図書館を後にして少し経った頃、パチュリーは目を休めていた。

「体のいい実験体が手に入ったわ、読書の条件に新しい魔法を試せるだけ試してみようかしら」

 万の感じた不気味さは、気のせいではなかったようだ。

 それにしても、とパチュリーの独り言は止まらない。

「月符はもういいとして、日符はもうちょっと威力を弱めた方がよさそうね。それにしてもこのスペルの長さはどうしようかしらね、体調が悪い時は使えないわ。何とか改良出来るといいのだけれど」

 その後もぶつぶつと考察を口にして、最後に一息ついて呟いた。

「レミィもそろそろ煮詰まってる頃だろうし、いい気分転換になるでしょう」

 そう言うと、打って変わって静かになり、黙々と読書を再開する。

 今の発言の真意とは何なのか。

 万が次に出会う住人は誰なのか。

 そして、パチュリーはスペルの短縮はできるのだろうか。

 今のところ、それは誰にも分からない。

 

 

 




ありがたいことに、お気に入り件数が20を超えました。
更にUAも1000間近になり、とてもうれしいです。
読んでいただいている皆々様、ありがとうございます。
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