東方顔無旅   作:好落

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いまさらですが、タイトルは「とうほうかおなしのたび」と読みます。


第6話

 

 結果的に館の主に会うことを許された万。

 旨すぎる話に、若干騙されたのではないかと勘繰りつつも進んだ先には他の部屋とは明らかに異なる扉があった。

 扉を開けようと手にかけた万は、久しぶりに感じる興奮と未知への恐怖に気づき、ニヤリと不敵な笑みを浮かべるのであった。

 

 

 

  第陸話 紅霧の発端

 

 

 

 さて、ようやくここまで辿り着くことができた。

 思えば道のりこそ長かったものの時間的にはそんなに経っていないのに、随分と疲れてしまった。

 自然とふぅ、と息が漏れてしまう。

 そろそろ行こうかと、扉にかけた手に力を込め、開ける。

「お邪魔しますよ」

 部屋の中で私を待ち受けていたのは、広い部屋の中央に置かれた大きな長机。

 絢爛な明かり―シャンデリアといったか―、思わず使い切れるのかと言ってしまいそうな量の椅子。

 そして……。

「入っていいと言った覚えはないわよ」

 ちょうど部屋に入った私に対して対面の席に座り、不適に笑う少女がいた。

 この館に入って、妖精を除けば最も幼い外見をしている。

 少女の背中からは蝙蝠のような翼が生えており、西洋のご令嬢のような白いドレスを着ている。

 見て取れる主な特徴はこんなものだが……。

「おや、これは失礼しました。すいません」

「……律儀ねぇ、どこでもいいから座りなさい」

 言われるがままに一番近くの席、少女の対面の席に腰を掛ける。

 改めて部屋を見渡して見ると、客間にしては何かおかしな造りのように感じる。

 少女は私の方を見てはいるが何も話さない。

 いや、視線はこちらに向けたままで何か考え込んでいるような、そんな印象を受ける。

「遅れましたが、私は無郷万と申します」

 とりあえず何も進まないのは困るので、自己紹介を兼ねて探りを入れる。

 少女は短く息は吐き、組んでいた足を入れ替えて口を開いた。

「私はレミリア・スカーレットよ。得体も知れない妖怪風情が、私の紅魔館に何しに来たのかしら」

 

 個体名『レミリア・スカーレット』種族名『吸血鬼』能力『運命を操る程度の能力』

 なるほど、吸血鬼か。

 弱点が多く、対処も簡単のように伝えられている西洋の妖怪。

 その反面、不死、怪力、吸血、再生能力などその他にも多くの力を持った強力な種族である。

 弱点が多いと言っても、この場所には何も用意できていないし、時間は夜。

 即ち吸血鬼の活動時間そのものである。

 満月ではないことがせめてもの救いだろうか。

 まぁ、闘うとすれば、の話であるから余計な心配だとは思うが。

「そうですねぇ。私は、この館の主と話がしてみたいと思いまして……」

「ふぅん、まぁ貴方の目的なんて、どうでもいいんだけどね。それよりも聞きたいことがあるのよ」

  見事なまでに一蹴されてしまった。

 どちらにしても話は出来るので構わないが、若干虚しい。

「聞きたいこと、と申しますと?」

「ええ、一つアイディアをもらいたくてね、一つじゃなくてもいいけど。咲夜ーお茶ー」

 言い終わった次の瞬間に、彼女の横に件のメイド長が立ち、茶を淹れてまた消えてしまった。

 ふと手元を見ると私の分も置かれており、中身は紅茶らしい。

「で、内容なんだけど、考えて欲しいのは『どうやってここの連中に私たちの存在を見せ付けるのか』よ」

「……はぁ」

 その辺をここの住人全員で飛び回れば出来そうだが、吸血鬼は基本的に誇り高い妖怪とされている。

 あまり滅多なことは言わないほうがいいだろう。

「この紅魔館も含めて、私たちはここに来てそんなに時間は経っていないわ。でも、それを差し引いても、この辺には人間が来ないのよ。聞いた話によるとここには強い妖怪やそれよりも強い人間がいるらしいの。それで……」

 意外なほどに饒舌に語りだしたかと思うと、少女の言葉は中々止まらなかった。

 彼女の話をまとめるとこうだ。

 まず、彼女の言う『ここ』とは『幻想郷』のことらしい。

 彼女たちは幻想郷に来たものの、湖に立ち込めた霧のせいか認知度がとても低いようで、彼女はそれが気に食わないらしい。

 そして、力を誇示させつつ幻想郷の住人に存在を認知させるたいという。

 つまり、

「つまり、その見せ付ける方法を私に考えろ、と」

「そういうこと」

 自分で考えればいいではないか、と思うが出来ないからわざわざ私に尋ねたのだろう。

 それとなく聞いてみると、どうやら他の住人は門番やら読書やら掃除やらで忙しいらしく、計画には乗るが計画自体は考える暇がないと口を揃えて言われたそうだ。

 そして、計画を幾つか考えて提案してみても、なぜか却下されるようでそのまま頓挫して現状にいたるらしい。

 主に、最も動く気のない友人にことごとく拒否されるそうだ。

 その計画の一部が以下のものである。

その1、『灼熱地獄計画』。

 友人の魔法を使って、幻想郷の温度を上げて、人間が死ぬ一歩手前で止めてまた上げて……を繰り返す計画。

その2、『石化計画』

 メイド長の能力で何人かの時間を止め、軽い浦島効果を用いて人間を困惑させる計画。

その3、『爆弾シャボン計画』

 友人の魔法を使って、触ると破裂するシャボン玉を幻想郷にばら撒く計画。

 ……他にも多数あったが、友人の魔法という言葉を聞き飽きてしまった。

というよりも、この館の主従関係はどうなっているのだろうか。

「貴女自身では何もしないのですか?」

 少し冷めてしまった紅茶を飲み干し、序盤で湧いた疑問を投げかける。

 流石にその友人とらやが却下する理由も理解した。

 今頃地下に引きこもって本を読んでいるだろう。

「最初に思いついたのは、私が夜になったら人を攫うっていうのだったけど、ここじゃそういうことやったらいけないみたいだからね。他にも槍を降らせたり、蝙蝠を使って幻想郷を覆ったりするのも考えたけど、勢い余って殺しちゃいそうだからって却下されたわ」

 発想が逐一恐ろしくてたまったものではない。

 人を死の淵まで追い込まないと気が済まないのだろうか。

 幻想郷ではむやみやたらに殺生を行ってはいけないらしいので、人間を殺さずに、尚且つ力を見せ付ける方法を考えなければいけないらしい。

 ……そういえば、あの魔法使いが流行っている言っていたが、この少女は活用しないのだろうか。

「すぺる、とやらは使わないのですか? あれなら条件にピッタリ合ってると思うのですが」

 少女は、はぁ、と呆れたように溜め息をついてジロリとこちらをねめつけながら、口を開いた。

「だから、ソレを使うための『異変』を、今考えているんじゃない。異変が大きければ、それだけ解決に来る人間とやらも早く来るんだから、私は万々歳だと思うんだけどなぁ」

 ……ふむ、話を聞いている限り、どうやら彼女は少し、いや、随分手間というもの嫌う性格のようだ。

 これが無意識だというのだから、尚恐ろしいものがある。

 吸血鬼の性質上、日中は外で活動できないから、短期間で一気に済ませたいのだろうか。

「なにも大きな異変を起こせばいいというものではないと思いますよ。貴女自身で、もっと他に出来ることはないのですか?」

 私の吸血鬼に関する知識は所詮人間の記した書物による情報にしか過ぎないので、何か知らない性質があるかもしれない。

 そう思って言ってみたのだが、何やら考え込んでいる彼女の様子を見ると、何かしらありそうである。

「そうねぇ、……あ、霧なら出せるわよ。でも、だからってねぇ。地味でしょう?」

 やはり、あったようだ。

 言えはしないが、地味で何が悪いことでもあるのだろうか。

 とはいうものの、霧でなにが出来るのかと言われてもすぐには思いつかない。

「見なければ何とも言えませんね。どんなものなんですか?」

 こんなもんよと言いながら彼女は両腕を伸ばし、その指先からうっすらと霧が出ている。

 その霧はなんと赤く、まるで血のような色をしている。

 赤いというよりは、まさしく紅いという表現が合う色合いをしている。

「これだけ紅い霧であれば、十分異変となると思いますよ。これでは駄目なんですか?」

 霧は日光を遮る性質があるので、吸血鬼が日中も外で活動するためだとか言えば人間もより危機感を増すだろう。

「駄目ではないけどねぇ、そうねぇ、貴方が協力してくれるなら出来なくもないと思うわ」

 またもや不敵に笑う彼女の口からは、大きな犬歯がのぞき見え、目も怪しく光っている。

 これは、二つ返事で答えてはいけない気がする。

「協力と言っても私はすぺるを使えないので何も出来ませんよ」

「あんなの使おうと思えばすぐにでも使えるわよ。でも、その必要はないわ。貴方の血を使わせてさえくれればいいのよ」

「なぜ?」

 すぺるとやらが簡単であるというのは気になる情報だが、今はそのことを聞けるような空気ではないので後で聞けたら聞くこととしよう。

「さっきの見たでしょう? 紅い霧を出すには血が必要なのよ。いくら紅茶で代用できてもここを覆うくらいまでになると少し大変なのよ」

 そんなことを言われても、私の知ったことではないのだが……。

 とは言っても面白そうなので別段断る理由もない。

 だが、吸血鬼に噛まれたものは吸血鬼になるというが、どうなのだろうか。

 あくまであの話は人間に対するものだから、その辺りは気にしなくてもいいとは思うが、多少心配である。

「でも、妖怪の血でも大丈夫なのですか?」

 人間と妖怪では血も異なる。

 人間の場合は大きく四種類に分けているらしいが、妖怪はそもそもそのような分類はしていないからだ。

 個人的には赤くない血を持った妖怪を分類するとすれば、どこに区分されのは興味がある。

「構わないわよ。ああ、吸血鬼になるなんて心配はしなくて結構よ。抜き取って飲むだけだから。で、協力してくれるの? しないの?」

 どうでもいいことを考えてる内に、いつの間にか手に持っていたすぺるをチラつかせている。

 死にはしないと言っても、当たれば痛いのはもう経験済みだ。

 ここで断るのと受け入れるのと、どちらが正しい選択かは明白だろう。

「……分かりました。少々血を提供することぐらい、別にどうということはないでしょうからね」

 どうやら血の種類よりも、血であるということが重要なようだ。

 あまり健康的でない生活を送っているので、味に自信はないが今は黙っておこう。

「そう、協力的で助かるわ。まだ調整が終わってないから手加減できないかもしれないから不安だったのよ」

 ……どうやら命拾いできたようだ。

 不安と言いつつ素敵な笑顔を向けてくる少女に若干の恐怖を感じてしまう。

 ふと彼女の能力を思い出し、これまでの流れが全て彼女の筋書き通りだったら恐ろしいで済む話ではないなと身震いする。

 『鬼の面』が発動していないので、そんなことはないと思うが分かったものではない。

「じゃ、行きましょうか」

「はぁ、どこへでしょうか」

「そんなのパチェの所に決まってるじゃない。あと咲夜とかにも説明しないいといけないわ」

 そう言って立ち上がり、こちらへ向かって歩いて来てそのまま扉へ向かって行く。

 この部屋に置いていかれてもどうしようもないので、私も立ち上がって後ろに付いて行く。

 メイド長はともかく、あの魔法使いのことまで私が知っているという体で話をするところに、先ほどの疑問が再び頭を掠める。

 ……幻想郷にやってきて、ほんのわずかしか経っていないが、これは何とも面白いことになってきたものである。

 

 

 

 

 

 図書館へ向かう2人は、部屋を出てからも話を続けていた。

 スペルカードのことやお互いの能力のことなど、特に笑いのない会話が繰り広げられていた。

「ふぅん、面白い能力ねぇ」

「いえいえ、貴方たちほどではないですよ」

 万はその場にいない住人も含めて発言する。

 そこで小休止が入り、レミリアが再び咲夜を呼びつけ、先程の『異変』についての説明をざっくばらんに済ませた。

 咲夜は微笑み、うまくいくといいですね、と言ってあまり多くは語らない。

 それに対して、レミリアもそうね、と外見には合わない大人びた笑顔で答える。

 万は、その二人のやりとりに何か先程の話とは別の目的があるのではないかと思いつつ、考え過ぎかと黙っていた。

「あ、そういえば台詞も考えないといけないわね」

 そんな雰囲気の中、レミリアが何か思いついたというように発言する。

 急に変わった空気に戸惑いつつ、他の二人は疑問符を浮かべる。

「咲夜も異変を起こす側として、人間が来たときの台詞とか負けたときの台詞とか考えときなさいよ。私は負けないから、迎えの台詞で十分ね」

 露骨に困ったことを言い出したというような顔をする咲夜。

 その咲夜の表情を流し見ながら、万は裏方でよかったと内心胸を撫で下ろすのであった。

 

 

 

 

 




いつまでたっても(改)が取れることはなさそうです。
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