この話と次の話は2話で1つの話です。
なお、縦読み機能を使ってみたら思いのほか具合が良かったので文章を縦書き仕様に変更しました。
同時に、文章そのものの変更も多々行っております。
読みにくかったらすいません。
大して時間をかけることもなく、パチュリーに『異変』の概要を説明し終え、彼女も渋々ではあるが、それを了承した。
しかしその後、嬉しげに台詞のことを話す友人の姿に困惑の色を見せる。
咲夜はそんな彼女を見て苦笑を漏らし、万は思わず失笑してしまう。
笑われて機嫌を損ねたパチュリーに、万はまたもスペルカード及び試作段階である魔法を放たれ、それを見ていた他の住人にまで実験体として扱われるようになる。
レミリアに血を提供し、スペカ実験に使われつつも日がな図書館で読書にふけること数日。
それは、幻想郷の住人たちがヒソヒソと紅い霧について話し出すようになった、ある日の出来事であった。
第質話 閉ざされた扉
慣れとは恐ろしいものである。
特に寿命という概念の無い妖怪や他の人外にとって、慣れは退屈につながり、退屈はそれらを死に至らしめる。
今現在、私に向かって赤黒い大玉をばら撒いてくる吸血鬼のような、不死という特性を持っている者にとっても例外ではないだろう。
属性魔法とやらを使用する魔法使いと違い、『水体』を使っていればどうということはないのだが、数日にわたるこのやり取りを経て、一つの疑問が解け、いくつかの問題が生じてしまった。
「おーうまいうまい。避けるのはうまくなったねぇ、今日はあの妙な技は使わないのかなぁ?」
門を守っていなければならないであろう中華な少女が、私に向かって嫌味のこもった声をかけてくる。
そう、私は今、視界を埋める気が狂いそうな赤色の弾幕の隙間を、駆け抜けているのである。
この館に来て、初めてあの魔法使い―パチュリーのスペルの調節に協力した時、なぜか『鬼の面』が発動しなかった。
その答えが、分かったのである。
それは、スペルカードルールそのものが原因だったらしいのだ。
スペルカードでの決闘とは、互いが了承して行う決闘という名の『遊び』なので、私が勝負を受け入れた以上、相手の放つスペルを攻撃だと判断しないようなのである。
この判断というのは、私の面が行うものであり、私の意志は関係ないものであるから、こればかりはどうしようもないのだ。
そうでなければ自動で発動などということにはならないのだから、当然といえば当然であるが。
昔、初めて面が発動したときは大層驚き、訳もわからなかったので随分苦労したものである。
「っ、おっととっとっ」
こうして少し懐古してるだけで、余裕がなくなり大玉が足を掠めてくる。
生じた問題というのは、『天狗の面』の発動条件がかなり早い段階でばれてしまい、何の特徴もない状態で相手をさせられることが多いことだ。
しかし、体の記憶とは便利なもので、数をこなしたおかげで避けることができるようになった。
この遊びは例外こそあるものの、ある程度の型が決まっているので、相手方や弾の動きの規則性を見つけてしまいさえすれば何とかなるのである。
「甘い、甘いねぇ。咲夜の紅茶の一万倍くらい甘いなぁ」
そう思っていると、吸血鬼―レミリアのよく通る声が聞こえ、ぞくりと悪寒が背筋を駆け抜ける。
「なっ!」
以前見つけた隙間に向かって移動すると、そこを狙ったかのように小さい弾が飛んできていた。
弾が体に直撃したかと思うと、ピチュンという軽妙な音を最後に聞きながら、私の意識は途切れてしまったのだった。
目を開けると、先程とは打って変わって静かになった部屋の中、満足気に微笑むレミリアが空中で器用に足を組んでいた。
あの感覚は、何度経験しても慣れないものだ。
私がまだ呆けて何も言えない様子を見て、出来の悪い子に諭すような目をしながら口を開いた。
「馬鹿だねぇ、物事には程度というものがあるでしょうに。同じ弾幕張ってるばかりじゃ面白くないんだから、少しは難易度上げるに決まっているじゃない」
……この台詞を聞くのは二度目である。
一番最初の最も単純な型を、まだ面があったものの簡単に突破してしまい、もっと難しくすると言って出来た型もすぐに攻略してしまったのが間違いだったのだろうか。
何も言わぬままいつのまにか作ったであろう、更に難易度の上がった型を使い出したのである。
その頃にちょうど面の発動条件が割れてしまったのも重なって、しばらく先程のような気絶が連日と続いていたのだ。
つい先日やっと抜け道を見つけ、完全に突破できるようになった矢先に、またもいつの間にか難易度を上げていたらしい。
「もう練習はいいのではないですか? 十分でしょう、ここまで種類があるならば」
「ええ、これだけ細分化すれば、まぁ大丈夫でしょうね」
良かった、これで今日の所はもう休めるだろう。
レミリアが夜中に霧を撒き始めて、日が経つに連れて練習に付き合わされる時間が増えているような気がする。
やはり、彼女たちもハレの日が近づいてきているので気が昂っているのだろうか。
と言っても、計画を練るのに忙しかったレミリアと今も尚、続々と新たな魔法を開発し続けているパチュリーの二人以外とはあまりこういったことはしていない。
門番とメイド長は、仕事の合間に二人で調節し合っていたそうだ。
「そういえば、結局あんたは弾幕ごっこしないの?」
門番―美鈴が言う弾幕ごっことは、スペルカードを用いた遊びの名称らしい。
強力な能力を持っているとはいえ、人間と妖怪の力の差を埋めるこの遊びは確かに面白い。
面白いのだが……。
「いえいえ、私はこの手のものは、自分でやるよりも見ているほうが楽しいので遠慮させていただきますよ」
まぁ、これは嘘だが。
「やっぱりやらないのね。積年の恨みを弾幕に込めて殴ろうと思ってたのに」
年が積もるほどの年月をここで過ごした覚えはないが、大真面目に返しても面白くないので、軽く笑って流す。
そう、私がこの遊びをやりたくない理由の大部分は、この美鈴にある。
今の発言にあった弾幕に込めて殴るという言葉の通り、彼女は通常の弾幕の他に、気を拳や足に込めて普通に殴るというスペルをいくつか作っているようなのだ。
どうやら、まだ試作という段階にも達していないようで、屋敷に正面から入り込もうとする妖精相手に使っているところをたまたま見かけたのである。
殴られて爆ぜる妖精たちは、何というか可哀想で、見ていて同情してしまった。
あまりそういった間違いは起こらないと思うが、もしも勝負が盛り上がってつい本気で殴ってしまった、という事がないようするために、最初からスペルカードを使わないことにしたのだ。
「さて、それでは私は図書館に行くので、お暇させていただきますよ」
「まぁ、待ちなさいよ」
自分より体の小さな少女に肩を掴まれるというのは、中々ない状況だろう。
なぜ、門番である彼女が屋敷の中にいるのか、少し考えれば分かることなので、あまり驚かない。
「私はもういいわ。また明日、調整するから付き合いなさいよ」
言い捨てて、レミリアはどこかへ行ってしまう。
おそらく、また霧を広げる作業を行うのだろう。
次の満月の晩に、幻想郷中を覆い尽くすようにするために配分しているらしいが、その計算を行っているのはパチュリーだという。
まだ幻想郷に来て長くないと言っていたのにも関わらず、魔法使いとは聡明なものである。
「さ、始めようか」
肩から手が離れるのを合図に、思考を中断させられる。
ああ、何度あの感覚を味わうのだろうか……。
その後、何度か被弾し、終わるのにはそんなに時間はかからなかったが、少し疲れてしまった。
やっと図書館に行けると、休みたがっている体を引きずりながら歩く。
血を提供する代わりに、しばらく紅魔館での宿泊を許されたのは大きな収穫だと思ったが、少し代償が大きい過ぎるのではないだろうか。
もうすぐ地下への階段に差し掛かるというところで、誰かが話し合う声が聞こえてくる。
「……様にはまだ……のですか」
「ええ、……も……から」
ふむ、どうやらメイド長―咲夜と、パチュリーのようだ。
珍しくパチュリーが図書館から出てきているようであり、入り口の扉の前で話をしているらしい。
話の内容は聞き取れないし、特に興味もないので、そのまま図書館で読書がてら休ませていただこう。
「すみませんが、通らせていただきますよ」
二人に歩み寄りつつ、通り過ぎようと声をかける。
「あら、お疲れ様。パチュリー様がナイフを大量に作ってもらったから、その内私も色々試させてもらうわよ」
会って早々、物騒なことは言わないでもらいたい。
そういう時は何か嫌なことが起こってしまいそうな、所謂ジンクスとやらが発動してしまいそうな気がするのだ。
「あ、私もうまくいけばまた新しいのが、…………」
咲夜に続いて不穏な言葉を放とうとして、急に俯いて黙ってしまう。
嫌な予感が、もはや確信に変わってしまいそうだと思ったと同時に、パチュリーが顔を上げる。
「そうね、やっぱりきっかけが必要なのかも知れないわね。このタイミングで貴方がここに来るということは、そういうことなんでしょう。『サマーフレイム』」
突如パチュリーの手から炎が出て、顔面を掠める。
突然のことで反応できなかったが、どうやら炎は低温だったらしく、火傷もしていないが、『鬼の面』が発動する。
「……何のおつもりで?」
「貴方、この奥の部屋に行ったことがないでしょう。興味はない?」
……攻撃に関してはもう流すのか。
しかし、今の質問で少しは察する。
この奥の部屋に『鬼の面』が必要な何かがいて、私に行ってもらいたい理由があるのだろう。
実は、この奥の部屋には何度か行こうとしたが、何故か結界のようなものが張られており、行けなかったのだ。
正直願っても見ない提案だが、わざわざ道を塞ぐとは、手癖の悪い獣でも飼っているのだろうか。
「ええ、とても興味があります。行ってもよろしいのですか?」
何がいるのか、とは聞かない。
もう分かっていることをわざわざ聞いて、楽しみを自ら無くす様なことはしたくないからだ。
「ええ、もう普通に行けるようになっているわ。貴方が行った後で念の為にまた塞ぐけど、せいぜい死なないよう気をつけなさい」
そのままパチュリーは図書館の中へと戻って行く。
死ぬ、か。
この幻想郷で、誰かに殺されるようなことがあるのだろうか。
「それでは、私は掃除に戻るので」
そう言って咲夜は消えてしまった。
まったく、可愛気のない少女たちである。
……さて、この先で何が待っているのやら。
とんと見当もつかないが、危険であることには変わらないだろう。
しかし、危険であるということは、そのまま何か大きな刺激を得ることが出来るかもしれないということだ。
疲れているが、明日になったらパチュリーの気が変わってしまうと厄介なので、このまま行くとしよう。
不意に、いつの間にか飽きてしまっていた外での長旅を思い出しながら、奥へと進む。
「……フフフ……」
忙しいのは生きてる証、とはよく言ったものである。
1日に、1つでもUAが増えてたら喜んで、お気に入りが1人増えてると声を上げてしまう私は、とても幸せものだと思います。