人は時として、ふとした事でその内にある狂気を覗かせることがある。
その手に持った傘をなんとなく喉に突き立てたならどうなるだろうかとか、高い場所から人を突き落としたらどうなるだろうかとか。
別に全くそんなことをしたいとも思わないのに、ふと魔が差したことが誰にでもあるだろう。
まるでじとりと滲み出すような心の奥底に潜んでいた人間の獣性がそうさせるのか。
しかしながら、今この時ばかりはそれに委ねるのもいいかもしれない。
目の前にいるのは、伝説の吸血鬼である。闇の福音、600年を戦い、生きぬいた化け物。
私など遭遇しただけで確実に生きて帰れない相手だ。
けれど、だからこそ頭を上げることが出来ない。必死に地面を睨み付けたまま何も話すことが出来ない。
体はぶるぶると震え、涙が出てきそうになる。
どうしようもない状況だ。私にはこれを耐えるしかない。
しかし、一矢報いたい。このまま嬲り殺しにされるくらいならいっそ反逆してやりたい。
その先に待っているのは悲惨な未来だとしても。
どうしようもなく、今よりもひどい未来になると分かっていてもその破滅した未来を選んでしまいたい。
「クククク・・・・・・。
お前この2週間どうやらほとんど毎日能力が向上しているようだが?
いやぁ、どうやら随分凄まじい特訓をしているようだな?」
・・・・・・・・・くそがぁあああああああ!!!!
てめぇ、毎日毎日弄り回して来やがって!!
もう許さねぇぞ!覚悟しろよ!このロリっ子吸血鬼があああああ!!!
お前もこいつの餌食にしてやらぁあああああああ!!!!!
「おい、ちょ、待て!!
そいつは駄目だろうが!そいつだけは駄目だろうが!!!!
千雨!お前はこんなことするキャラじゃあないだろう!?」
「うるせぇ!いい加減私だって堪忍袋の緒が切れるんだよ!!!!
てめぇも同じ目に合わせてやる!!
やれ、バイブ!!」
「いや~、吸血鬼の中は久しぶりなので心躍りますね~」
その瞬間、周囲の風景が切り替わる。恐らくここは魔法球の中なのだろう。
同時に右手にバイブが現れる。
しかしながらエヴァに取り乱した様子は見られなかった。
お前最後の最後で私が許すとでも?
実はこのバイブには色々詳しく聞き出した結果自動で動いてくれる機能があるんだぜ?
確かに私が突っ込めと言われたら、間違いなく諦めてエヴァを許しただろう。さすがにそこまではまだ堕ちてないというか。
けど勝手にやってくれるのなら話は別だ!いい加減私もブチ切れてんだよぉ!!
「ちっ、こうなれば仕方ないか。
全くまだこれは使わないでおきたかったのだが・・・・。
おい、千雨。この私がバイブに何の対策もしてないと思ったのか?そんなはずなかろう!
この私を舐めるなよ!こう見えて案外私は頭脳派だ!!
食らえ、凍りゆく世界!!」
エヴァの魔法が発動すると同時に、エヴァを中心に莫大な量の氷が辺りを埋め尽くしていく。
まるで塗り絵のように魔法球の中が氷で埋め尽くされていく。
「あちゃ~、これは厄介ですね」
バイブが珍しく弱音を吐いた。
あの万能のバイブがそんなことを言うとは思ってもいなかった。
ちらりと目線を魔法に向けると真正面からこちらに向かってくる氷は止まっていた。あれは以前にも見たことがある。
恐らくは時間凍結による物だ。どんな魔法障壁があろうとも時間対策が出来なければ止められない最強のデバフ魔法。
しかしながら、エヴァの魔法そのものは止まっていない。横方向からの氷が迂回するようにせり出してくる。
どうやらその都度氷を止めている様だが、またその奥からどんどんと氷が現れる。
徐々に、氷はこちらへと向かってきていた。
「ふははは、バイブ!お前の弱点は分かり切っている!
大規模魔法になると制御の甘さ、発動速度の遅さが目立つようになるからな!
ならばこうして圧倒的物量で攻め続ければいい!この魔法は凍らせた辺りの氷を触媒にしてさらに魔法を発動する自動増殖型魔法だ!
確かにお前は対処しづらい厄介な能力ばかり備えているが故、ごり押しするだけで強いのだろう。
確実に拘束できる時間凍結、防御不可の空間切断、どんな相手の弱点もつける概念付与。これ程シンプルで対処しづらく万能な上に強力な魔法なんてそうそうないからな。正しく一撃必殺を名乗るに相応しい魔法だ。
しかしそれを操るお前そのものは大して強くはない!現にこの魔法を全て凍結することも破壊することも出来ていないのだから!
そもそもお前の魔法技術は杜撰すぎる!魔法技術で、戦闘技術で一流には遠く及ばん!」
エヴァの笑い声が魔法球の中に響き渡る。
おい、これやばいんじゃねーの?
やっぱ、伝説の吸血鬼ってぱないのな。無敵だと思ってたバイブでもこうして封殺できるとか。
まあそりゃバイブが世界最強ってのも変な話か。造物主にはこいつも勝てないらしいし。
こりゃ負けたっぽいな。しゃーねぇ。
今までこいつに頼りすぎたのもダメだよなぁ~。私も四の五の言わずに後でみんなと一緒にエヴァに特訓つけてもらうか?
「う~ん、困りましたね~。仕方ないですか。
他人の能力を使うのは気が引けるのですが・・・。
【
☆
「ごめんなさい、許してください」
恐らく世にも珍しいエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルの土下座が炸裂していた。
魔法使いが見れば驚愕して腰を抜かしそうな光景がそこにはあった。
どうやらこの吸血鬼の中で土下座とバイブ刑を天秤にかけた結果、バイブの方が嫌であったようだ。
まあそうだろうな。私も土下座するだろうし。
まだ少し怒りは残っているがまあ土下座までされれば許すしかないだろう。
「というか何だあの反則技は!?攻撃が当たらないなんてチートだろ!チート!
本当にふざけるなよ、お前!」
ガバッと起き上がりながらエヴァがぷりぷりと怒り出す。
正直ゲーマーの私から見てもあれは酷かった。当たり判定が無い癖に自分の攻撃判定は残ったままとかひどすぎる・・・。
正しくチートじゃねえか。一方的に防御不可の空間切断を次々打ち込まれるとか怖すぎるわ。
ごめんな、バイブ。やっぱお前強いわ。
てかそんなお前でも2,3割しか勝てない造物主って何もんなんだよ。
それネギで勝てるのか?
「まあぶっちゃけ相性ですね。正直私が戦うとなると魔法の打ち合いになるので厳しいです。
彼女、いえ今は彼ですか。彼には私の魔法に対処できるだけの実力がありますからね。
逆にネギ君ならば明日菜さんに防御を任せて、本人が莫大な魔力量をもとに固定砲台になれますから。
純粋な魔法技能だけならぶっちゃけ私雑魚ですので、ていうかバイブですので」
まあ私が聞いてもよく分からないがそういう事なのだろう。
てかつまり、あれか?お前厨性能のキャラ使ってるだけのクソPS野郎ってこと?
うわ、だっさ。はっず。バイブ野郎が更に恥ずかしくなってるぞ。
「まあつまりなんとかなるんだな?じゃあいいや。
それでさ、エヴァにお願いしたいことがあるんだけど」
「ん?どうした?」
「いや、私にも特訓付けてくれないか?簡単なのでいいから」
魔法世界にいくのなら仕方ない事だろう。どうせ向こうでもゴタゴタに巻き込まれることは確定しているんだ。
なら諦めて少しでも力を付けておいた方がいいだろう。
「それくらい別に構わんが、お前ならバイブに教えて・・・・。
いや、うん。分かった。私が教えてやろう」
「ありがとうな・・・・」
最近バイブへの精神障壁が薄くなった自覚はあっても、まだバイブを師匠にはしたくないのだ・・・。
何も言わないエヴァの優しさが心に沁みる。
「そういやほかの皆もここで特訓してるんだよな?」
「まあな。といっても大半はお前と同じく初歩的な魔法を使わせたり、アーティファクトの特訓といったレベルだがな。
桜咲だとか神楽坂辺りには一応特訓を付けてやったりはしているが、まああいつらも基礎が出来ているとは言いづらい。
半分程度はまだ基礎を固めている段階だ」
・・・こいつ結構トレーナー向いてるんじゃないか?
まあ600年あればだれかを育てた経験くらいはあるのだろう。
「それで、ネギ坊だが・・・。
くくっ、千雨。礼を言っておくぞ。あいつは面白かったぞ。まさに天才という奴だ。
一を聞いて十を知る、な。この3か月で一級に仕上げねばならなかったからな。強引に基礎を叩きこんでからはひたすら実戦形式で戦わせた。
本当にズタボロになるまでいじめぬいたら、魔法で回復してもう一度。なんて半ば拷問じみた特訓を付けてやったんだが・・・・。
ククク・・・。まさか本当に一線級にまで上り詰めるとは思わなかったぞ。
最近闇の魔法も習得したし、恐らく魔法世界でも10本の指、下手すれば5本の指に入るだろう実力者だ」
「随分と嬉しそうだな」
「まあな。なんてったってそれ程の抜きんでた才能を持ちながら、しかしあいつの最大の武器には遠く及ばないのが堪らなくてな。
クハハハハ、バイブに聞いて半信半疑で試してみたが本物だったよ!あいつの武器は開発力だ!
人類最強のナギから戦闘への才能を十分に譲り受けておきながら、それを容易く凌駕したあいつ個人の才能。全くほんとにあいつは化け物さ」
「そんなすごいのか?いやまああいつの頭はめっちゃすごいけどさ。
なんてったって世界を救うくらいなんだし」
エヴァは本当に嬉しそうにネギのことを語っている。
ネギの父親について語る時とは違って、どこか狂気というか歓喜に近いのだろうか?とにかく少し違った様子ではあるが、それでも全身からご機嫌オーラを放っている。
んー、あれか。漫画とかでよくある強キャラが主人公に見事!っていうあの感じが近いのか。
600年を生きた吸血鬼が、たった10歳の少年を化け物とまで絶賛する程に、これほどまでの歓喜を見せる程にネギは凄まじいのだろうか?
「人類史において前にも後にもあいつを超える奴なんていないレベルだぞ、間違いなく。
こう見えてさっきもいったが私は結構頭脳派なんだ。元々そういう性格なのもあるが暇をつぶすのによく魔法開発をしていたからな。
600年の経験と技術をこの私は持ってるんだ。
その私が技術的問題によって諦めていた14の魔法を試しにあいつに資料ごと渡してやったんだ。そしたらどうなったと思う?
2週間で4つの魔法を実用化しやがったよ!
他の6つの魔法についても何かしらの解決法を編み出しやがったぞ!問題点も無くなった訳じゃあないから実用化はまだだが、時間さえかければその内実用化できるだろうな。
この私が!世界でも最高峰の魔法開発者のこの私が諦めた問題だぞ!?
それをこの短期間でここまで出来るなんて常識外だ!余りにも出鱈目が過ぎる!」
エヴァはそう言って抑えきれなくなったかの様に笑い始める。
おかしくて、おかしくて堪らないといった風に。
その様子をみて、私は初めてエヴァが吸血鬼なのだと実感した。
物語のそれとは違って小さくて迫力がなく、またなんだかんだ根は優しいエヴァに今まで私は人外であることでの差を感じなかった。
あまりにもこいつがぽんこつすぎるから、というのも恐らくは大きな原因の一つではあるだろう。
けれど今のエヴァは、まさしく化け物だった。
まるで童女の様に笑っているけれど、そこに少しの遊び心なんてなかった。
600年を生きる化け物が10歳の少年に負けた事への、自身の長き生命への、そしてこの世界の運命への圧倒的な皮肉だった。年老いた老人が最後になって、自身とそれを取り巻く全てを馬鹿にしながら笑う皮肉であった。
それはとても愉快気な嘲笑で、聞いている私の背筋を嫌な悪寒がびりびりと走り抜ける。
「全く、全くもってこれは堪らない。
それに聞くところによればあいつ闇の魔法に完全に適合できるらしいからな。あいつはその内私と同じところに来る。
ふふふ・・・・。くははははは・・・。いいぞ、ネギ。魅せてみろ。この私にもっとだ。
なあ千雨。多分お前が生きている間ネギの奴はお前に懐くだろうよ。それはいい。
あいつを導いたのはお前だ。真っ黒な闇に染まったあいつを綺麗な黒に磨き上げたのはお前だ。だからそれくらいは許してやる。
けれど、お前が死んだらならば
どろりとした目が向けられる。
15年前闇に溺れた化け物が、光に憧れた。光は彼女を救い出そうとした。
けれどもし仮に光に救われたとして、光はその内消えてしまうだろう。そこから先はまた真っ暗闇だ。彼女は一人取り残されてしまう。
でもそこで彼女は輝く黒を見つけてしまった。傍にいて、目を潰すことなく輝くそれに魅せられてしまった。
太陽の様に輝けずとも、その輝きを反射して夜を照らす月に吸血鬼は抗えなかった。
なぜなら月は彼女の傍から消えないだろうから。彼女をずっと暖かな月の光で照らしてくれるだろうから。
闇の福音、誰もが恐れる夜の女王は、月を求めてしまった。
「・・・・・色々と訳は分からんが、ネギの道はネギだけのもんだ。
私がどうこう言ったりしねーよ。適当に自分で口説け」
吸血鬼はその言葉を聞いてただ笑うだけだった。
「全く私に言ってくだされば何百年でもお供しますよ?キティさん」
「黙れ、私が憧れたのは輝く黒色なんだ!ピンク色なんぞいらん!」
最近なろうでおっさんの農業スローライフが流行っているからここは幼女の血みどろ殲滅ライフを書こうかと思ったけどただの幼女戦記じゃんってなって辞めたぞ。
他にもゲームが上手くなるチートだけもらってゲームの中で俺TUEEするだけのほのぼの日常物とか書きたいけど話の内容が思い浮かばない。
あ、ちなみに幻想郷での持ち主は未確定です。シュレディンガーのバイブなのです。魔理沙が一番面白うではあるけども。
また今回エヴァにゃんの高好感度の理由についてですが。
エヴャにゃん攻略フラグは2つあります。600年生きたが故のプライドと孤独です。原作ネギ君は前者を超えれなかったわけですが、ここのネギ君は開発力をじかに見せつけた結果突破出来ました。後者は言わずもがなですね。後はちうたんの影響でちょっとエヴァ好みの正確になった感じです。