「デケェ魔力だと思えばなるほど、俺を楽しませるには十分だな」
「命がけで行かせてもらいますよ。私の背負うものは重いのでね」
『(ふふ、あやつ、成長しておるようだな。私の弟子とは違い、気負わず、ただひたすらに前を向く。ギルドの力の一端かね)』
睨み合いにより緊迫した空気をうち壊して動いたのはドジャーだ。錬成した金の槌で押し潰さんと、真っ直ぐにシリルへ突貫していく。
「つぇあああ!」
「くっ、きゃあっ!」
『お嬢ちゃん!』
「援護しろ!今こそ我ら評議会の力を示す時!」
武器の重さと動きの速さ、無駄の少なさが相まって気を纏った腕の上からでも伝わる一撃に、ほぼ為すすべもなく吹き飛ばされる。勇敢な評議員が時間と体力を奪おうと果敢に挑むが、敵は闇ギルドの長、一発入れられれば御の字だ。
「テメェら雑魚には用はねえ。失せろ!」
地面から大量の金の槍を錬成し、一人も余すところなく貫こうとした。しかし、その槍は何かにぶち当たり、衝撃を伝えて吹き飛ばすことしかできなかった。
「彼らを殺させません……私は『生命の巫女』、勇敢に生きる者の何よりの支えにならねばならぬ者…」
そう、シリルが即席で作り上げた防御壁と戦いに向いていない評議員たちの魔力壁のお陰で誰一人重傷を負わずに済んだのだ。
「ただで転びやしねえか。だがそれで良い、それでこそワシは楽しめよう!ワシの
「貴方のような考えを持つ人間をこれ以上野放しには出来ません。医療班は負傷者を連れて撤退を!防御班は援護を!攻撃班は囲みなさい!」
『やれやれ、私も参加させてもらうよ?』
「クローバーさん?」
『若人たちの意気に当てられてね。手を出すなよ、評議会の者共よ、ここは私とシリルで片付ける』
囚われの身であった彼はここまでの戦いを静観していたが、今が脱出のチャンスと捉え、苦戦するシリルらに手を貸すことにした。
『奴の魔法は見ての通り金の造形魔法を応用したものだし、効果範囲はでかい』
「守りは私、攻めを…」
『良かろう、お嬢ちゃん、背中を頼む』
そう告げるや、流れ星のような滑らかな攻撃を繰り出していき、流石にこれには速攻派のドジャーも鬱陶しそうな顔をする。しかも後ろからくるシリルの気弾も狙いを定めにくい要因になっている。
「くそっ、しゃらくせえ!」
「血縛鎖牢!」
「てめっ、邪魔クセェ!」
『冥府式・暗黒波!』
「ぐぁっ!?」
冥府神ペルスの一番弟子なだけあって、戦い方に慣れており、なぜ捕まったのかの疑問がシリルの中でさらに大きくなっていく。
「ぬぅ…喰らえぃ!」
「きゃっ!」
『くっ、危なっかしいのう』
「まだだ、もっと楽しませろ!アッハハハハハ!」
怒りに飲まれたドジャーの意地の力を前に避け、かすり傷や打撲痕をあちこちに作りながらも、2人は息の合った最後の力をぶつける。
「生命神流奥義!」
『冥府神最終奥義!』
「生命神の…」
『冥府神の…」
黄金の猛攻を切り抜けた両者は苛立ちに顔を歪めるドジャーの目の前に立ち、神の息吹を浴びせかけた。
「『一声!!!』」
「ブルゥアアアーーー!!!」
神々の加護を受けた一撃になすすべも無く力尽きたドジャーは不穏な言葉を口にして気絶した。
「ゼレフ卿…貴方の世界へと辿りつけなんだ…無念…」
「ゼレフ…!?」
『放っておけい。お嬢ちゃん、私の後について来てくだされ』
疑問やら恐怖やらを胸中にしまい込み、クローバーの後を追うように遺跡の地下に当たる隠し部屋にたどり着いた。そこにはまだ10にも満たない子供が囚われていた。
『弟子や弟子、無事だったかね?』
「し、師匠!!」
「そういうことでしたか、クローバーさん。貴方ほどの方が捕まるのが謎だったんですよ」
『まぁ、そういうことじゃ』
クローバーの一番弟子、ユリア。今回の件は彼女を捕らえることでクローバーの捕獲、利用をすんなり達成していたのだ。元はと言えば彼女がかのギルドに喧嘩をふっかけたのが原因らしい。
「ご、ごめんなさい」
『過ぎたることはもう良い。シリルのお嬢ちゃん、今回この子に会わせたのは他でもない。ギルドに預けたいが故じゃ』
「いまいち話が見えないのですが…」
『何、そちらの活躍があったのはギルドで人と交わって信念を持ったからだろう?この子にも何かをつかんでほしくてな。勝手な我儘なのは承知の上』
子の事が心配な親心とでも言うべきか、と愚痴っていた。シリルは別に構わなかったが、ギルドに入れるのはマスターやそれに代わる人間の許可が必要となる。
『ならば私も頼みに行こう。親として、師匠として最低限の礼儀と、厄介ごとを頼みに行くことへの説得はさせて貰わねばな』
「分かりました。そこまで言われては断れません」
====
評議会からの依頼は多くの怪我人を出しながらも、死者を出さなかった事が幸いし、なんとか終える事ができた。シリルは頼み事を抱えたクローバーと今回の頼み事の関係者たるユリアを連れてギルドに戻ってきていた。しかし、肝心のギルドが壊され、全員が地下で過ごす羽目になっているとは思いもよらなかった。途中から案内をしてくれたミラ曰く、仲の悪い『
「マスター、こんな事態に申し訳ないですが、頼み事が…」
「なんじゃね?」
『ここからは私が。突然の来訪、失礼します。冥府の使い、クローバーと申す。今ギルドを見させてもらい、非常事態の中ですが、私の弟子を預かっていただきたい。ギルドの中で多くの人と触れ合ってもらいたいのです。ご迷惑なお願いなのは重々…』
「ふうむ……」
フィオーレの巨大ギルド同士の争いに発展しかねない中で、子供を預かることは危険なことは明白である。ギルドの長で、子供たちを預かる身としては責任が重い。
「今すぐに、というのは難しいという事はもうさせてもらいます。ただ、この一件が済み次第、ということでよろしいですかな?」
『有難い。それまでは微力ながらお力添え致しましょう』
ここに1つ、新たな風がギルドに吹き込まれる。だが、争乱の火種は燃え広がろうとしていたのだ。
ようやくファントム編突入でござる。次いつ投稿できることやら…